表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界最強の元騎士と  作者: ユタニ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/85

26話 呪われた公爵令嬢(4)


「そういう訳で、虐められたりはしない筈だ。マルガ王女の事もあるし、大切に扱ってもらえるだろう、打ち解けられるかは、また別だが」

エスカリオットがすっかり元の口調に戻って言う。


「……」

「まだ不安か?」


「異国に嫁ぎますもんね。私もラシーンからこっちに来た時は、ドキドキでした」

「シャイナ様はラシーンの方なんですか?」

シャイナの言葉にイザベラの顔が少し輝く。


「はい、そうです」

「まあ、あの、じゃあ……ウェアウルフの?」

「そうですよ」

「まあ!あの、じゃあ、じゃあ、お、狼になれるんですの?」

今やイザベラの頬は薔薇色に上気していた。

砂ネズミに限らず、動物全般が好きなようだ。


ここは文字通り、一肌脱ぐか、とシャイナは思う。


「なれますよ、えいっ」

ぱあっとシャイナの体が光る。

ぱさり、とローブが落ちて、白いモフモフが床に降り立つ。


「まああああ!」

イザベラは歓喜の悲鳴を上げて、シャイナに寄ってきた。

「可愛い!可愛いですね、何て愛らしい狼なんでしょう!」

「触ってもいいですよ」

愛らしいという形容詞は付いてるけれど、狼、と言ってもらえてシャイナは胸を張った。


「まあ!お喋りまで!すごい、すごいですわ」

イザベラは興奮しながらもそっと撫でてくれる。いかにもご令嬢という感じの細くて華奢な手だ。

ふむふむ、これはこれで気持ちよいな……、と、ついつい目を閉じそうになってシャイナは踏みとどまる。これは、危ないな、撫でられると眠くなってしまうみたいだ。

という事でしばらく撫でられた後、残念そうなイザベラとエスカリオットは無視して人の姿に戻った。



「シャイナ様は14才で1人でこちらに来たなんて、本当にすごいですわね……」

イザベラはシャイナの帝都での3年を聞いてそう言った。

狼になったシャイナを見てすっかり打ち解けたイザベラは、シャイナと2人でソファに座りおしゃべりに興じている。

エスカリオットは砂ネズミの観賞中だ。


「私も分かってはいたんです、公爵家の娘ですし、いずれは家や国の為に嫁ぐのだと……でも、あまりに自分の境遇がマルガ王女と似ていたので、怖くて」

「私がイザベラ嬢の立場でも怖かったと思いますよ」

「そうでしょうか?」

「ええ、私には魔法もあったし、いざという時は狼になれる、という切り札もありました。14才で家を出れたのは、そういう特殊な能力があったからです」

「魔法……いいですね。私にも使えたら良かったなあ」

ぽつり、とイザベラが言う。


「万能という訳ではありませんけどね」

「でも、黙って虐められたりはしないでしょう?」

「もちろん、ぎゃふんと言わせてやりますよ!」

シャイナが、えいっと腕まくりをして見せると、イザベラはくすくすと笑った。

その可憐な様子に、相手は女の子なのにシャイナの心臓がきゅうっとなる。


もし、コーエン大公がひどい男だった場合、もし、タイダル公国がイザベラに不当な扱いをした場合、何とかしてこの子を守ってあげたいと思う。


「エスカリオットさん、今、ジュバクレイの布の魔法陣持ってますか?」

シャイナが静かに聞くと、エスカリオットは砂ネズミから離れてシャイナ達の側まで来てくれた。

ポケットから、きれいに畳まれたジュバクレイの魔法陣を取り出す。


「好きに使え、俺がシャイナから離れる事はない」

「ありがとうございます。あげた物なのにすいません」


「あの?」

イザベラが不安そうだ。

シャイナはジュバクレイの魔法陣をそっとイザベラに渡した。


「イザベラ嬢、これは帰還の魔法陣が描かれた特殊な布です。そしてこれは魔法が使えない人でも定められた言葉を唱えるだけで発動するようにしてあります。これを貴女に差し上げます」

「え?」

「1度きりしか使えませんし、使えるのは1人だけです。発動させると、どこに居ても私の家の2階に戻って来れます。もし、タイダルでひどい目に合ったら使ってください、その後は私がお守りします」


「いいんですの?」

「はい、差し上げます。それがあると心強いでしょう?」

シャイナが微笑むと、イザベラはぽろぽろと泣いた。


「えっ、大丈夫ですか?」

「大丈夫、です。ありがとう、うれしいです、不安だった、から」

イザベラはそう言って、泣きながら家門の為になるこの結婚に何も言えなかった事を途切れ途切れに語った。

幼い頃から公爵家令嬢として厳しく教育され、家の為になるようにと育てられてきたのだ、相手が怖いから嫁ぎたくない、なんて言えなかったし、言ってもどうにもならない事は分かっていた。

異性との交遊も皆無だったイザベラは、そもそも男性が苦手で、ましてや相手は一部では苛烈な性格だと不気味な噂のある大公だ、マルガ王女の悲劇は有名だったし、怖くて怖くて堪らなかった。



「この魔法陣、肌身離さず持ち歩きますね」

ぐすぐすと、涙を拭きながらイザベラは魔法陣をそっとしまう。


「はい、遠慮なく使ってくださいね、もちろん、使わずに済むのが一番ですけどね」

「そうですね、大公様は思っていた方とは違うようですし、仲良くなれるよう努力します」


「前向きになれて良かった、では、そろそろ私達はお暇します、すっかり話し込んでそろそろ侍女さん達も心配でしょうしね」

シャイナは立ち上がり、防音の魔法を解いた。


イザベラは名残惜しそうだが、シャイナ達を見送るべく侍女を呼ぶ。

その時にエスカリオットが口を開いた。


「イザベラ嬢は楽器は弾けるか?」

「えっ、私ですか……ピアノでしたら嗜んでますが」

「大公に、望む物を聞かれたらピアノを所望しろ、あの方は音楽がお好きだ。好印象だろう」

「まあ、はい!」

「砂ネズミも連れて行くといい、動物もお好きだ。特に小さい生き物に目がない」

「ええっ、まああ、はい!」

「以上だ、後は自分で何とかしろ」

「はい!」


シャイナはびっくりしてエスカリオットを見た。他人の恋路(まだどっちも恋には落ちてないけど)にアドバイスするなんてすごく意外だ。

そして、小動物好きなのって大公の影響だったんだろうか。

じろじろ見てると、眉をひそめられたのでさっと目を反らす。

侍女が迎えに来て、シャイナ達はすっかり元気になったイザベラ嬢に見送られながらグラリオーサ邸を後にした。



「今回の依頼、グラリオーサ公爵はひょっとして、エスカリオットさんが目当てだったんですかね?」

帰りの馬車でシャイナが聞く。


「どうだろうな、騎士の時の俺の主がコーエン大公だった事は知っていたかもな」

「ゼントさんにコーエン大公の事も聞きましたが、秘密主義の方みたいで人柄とか性格は全く謎だと言ってました。おそらく公爵も大公の事は調べたけど、どんな人が分からず、でも、娘の結婚は覆せないし、何とかエスカリオットさんから大公の事を聞きたかったんじゃないですかね」


「聞かれなかったが」

「イザベラ嬢に教えてあげたでしょ、公爵としてはイザベラ嬢が元気になってるから大丈夫、ってなるんじゃないですか。そもそも公爵に大公の事を聞かれてもエスカリオットさんが教えたとは思えません」

「まあな」

「睡眠薬と媚薬は最後の手段だった、使うつもりはなかった……と信じたいなあ」

「娘に託すつもりだったかもしれないしな」

「ああ、あり得ますね、媚薬はともかく睡眠薬盛れば逃げれますもんね」



「ところで、エスカリオットさんはタイダルに戻りたいとか無いんですか?大公に忠誠を誓ってたんでしょう?」

シャイナはちょっとソワソワしながら聞いた。


「それは過去だ」

「そ、そうですか」

「俺が遠くに行けば、シャイナが追ってくるしな」

そう言ってエスカリオットがニヤリとする。

「えっ?何を」

「奴隷の首輪でおおよその位置は分かるだろう?」

「まっ、まあ、その気になれば分かりますけど……」

「それに、この義手」

エスカリオットが、黒龍の左手をひらりと翳す。


「魔石を作る時にお前の髪の毛を加えていたな、これ、シャイナと繋がっているんだろう?」


「はうっ……いやっ……」

ぼぼぼぼっとシャイナの顔が赤くなる。


「図星だな、つまり俺はお前から逃げられないという事だ」

「いや、でも、ほら……あの」

逃がさないとかじゃない、そういうんじゃなくて、ほら、あの、状態を把握しておく的な?そういうやつ。

自分の作った義手には責任を持ちたい的な?

そ、そういうやつだ!


「やはり俺はかなり束縛されていると思うが」

エスカリオットはシャイナを見ながら、義手の手の甲に埋め込まれた、シャイナが作った魔石に口付けをした。


シャイナは真っ赤になった。



お読みいただきありがとうございます。

時々更新です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 心温まるお話を有難うございます。癒やされました。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ