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世界最強の元騎士と  作者: ユタニ


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16話 満月と狐火(1)


「エスカリオットさんは、貴族の護衛騎士になりたいとかはないんですか?」

いつもの朝、バゲットにバターとりんごジャムをたっぷり塗りながら、シャイナは聞いてみた。

もちろん、傍らにはエスカリオットの淹れてくれた、美味しいコーヒーもある。


「俺を売りたいのか?」

エスカリオットはいつもの無表情だ。


「いえ、そういう訳では……」

「なら何故、そんな事を聞く」


「その、、貴族お抱えになれば、引き取り先が変な方でなければ、今よりいい暮らしが出来ると思いますし、何より、護衛騎士として過ごせますよ」


こんな風にのんびり過ごしているとはいえ、エスカリオットはシャイナが買った剣闘士奴隷だ。シャイナの意思1つで売る事も出来る。


そして、最近、いくつかの貴族から是非エスカリオットを専属の護衛騎士として買いたいという申し出がきているのだ。


もし、貴族に仕えるとなれば、護衛騎士としてそれなりの待遇が受けられる筈だ。

屋敷で個室が与えられるだろうし、服だって、剣だってもっときらびやかな物が与えられるだろう。

シャイナの家に来てからはエスカリオットはずっと、ゆったりした黒シャツに生なりの綿のズボンで、もちろんそれでも、この美しい黒豹は十分に様になるけれど、ちゃんと着飾れば絶対、もっと美しく雄々しくなるだろう。


そして何より貴族お抱えとなれば、騎士として主の横で立っていられる。

薬草店の2階で筋トレしたり、市場への買い物に付き合ったり、バールへ料理を修行しに行ったりせずに、騎士として暮らしていける。


今の生活をエスカリオットは機嫌良く過ごしているようだが、これはあくまでも充電期間で、ゆくゆくは騎士として生きていける方がいいのでは、とシャイナは思っている。


「騎士に戻りたくないんですか?」

戻りたい、と言われれば寂しいけれど、良さそうな方にエスカリオットを託そう。

シャイナはそう決意した。


「前に、私の黒炎の蛇とやり合った時、エスカリオットさんは楽しそうでした、騎士に未練があるんじゃないですか?」


畳み掛けて聞くと、エスカリオットはやれやれ、というようにため息をついた。


「シャイナ、俺は騎士に未練はない。戦場に身を置くのはもういい」

「貴族お抱えなら、戦場には行きませんよ」


「それでも、未練はない。そもそも奴隷としての俺を欲しがるなぞ、完全に自己満足の為だろう。着飾られて見せびらかされるのはうんざりだ」


「中には純粋に強さを買ってくださる方も」

「ならシャイナがもう買ってくれている。だからもういい、見せかけの名誉や身分はいらない」


「いい暮らし出来ますよ」

「もうしている。俺が負担なのかシャイナ?」

エスカリオットの声が少し硬くなった。ちょっと怒ってるかもしれない。


「いえ、負担では……」

これ以上、この暮らしに慣れたら、別れるのが寂しいだろうなあ……と思うだけだ。


「なら、このままでいい。俺はお前との生活が気に入っている」

「そ、そうですか」

ちょっと嬉しい。シャイナはにやけてしまいそうなのを隠すために下を向き、コーヒーに砂糖をザバザバ入れて、カチャカチャ混ぜた。


「そういう事なら、仕方ありませんね」

カチャカチャ、と必要以上にコーヒーを混ぜる。


「お前は?」

「えっ」

カチャッ。


「俺との生活はどうだ?」


「あ、えーと、はい……なかなか……素敵です」


「そうか」

エスカリオットは満足そうに頷くと、美味しそうに自分の淹れたコーヒーを飲んだ。


シャイナは顔を赤くしながらとても甘くなったコーヒーをいただいた。




「ところで、シャイナ、今日は満月だが」

「ええっ!」

少しほっこりした時間が流れた後にそう告げられて、シャイナは、がたんと立ち上がる。

すぐに日付を確認する。


「ええっ、もう一月経ってますか?わっ、ほんとだ、満月だ。あれー?今月も実家から獣化を抑える薬が来てない…………がーん、どうしましょう」

「薬は要らないだろう、もう獣化をコントロール出来てる」


「いや、でも、満月はまた別ですよ。強制的なんですよ、前は大丈夫だったけど……」


「不安なのか?」

「ええ、まあ、少し心配ではあります」

前に一日中エスカリオットに抱っこされてしまって以来、狼にはなっていない。

しかも、満月。満月は特別なのだ。前はちゃんと理性のある狼だったけれど、今回もそうだろうか?

前回がたまたまだったりしたら怖い。


「今晩も付いていてやろうか?」

そう提案してくれたエスカリオットの顔は無表情だったが、金色の瞳はいつもより光っている。


「うーん……そうですね、お願い出来るなら……」

でも、それをお願いすると、無事に狼になった時に別の問題が出てくる事くらいは予想がつく。


きっとまた抱っこされて、ベッドで添い寝というか、抱き込まれたまま眠ってしまって、明け方元に戻って……


前回の満月の翌朝を思い出して、ぶわっとシャイナは赤くなった。

あれは、繰り返したくない。


でも、今夜の満月はまだ怖い……。


「今夜は付いていてもらってもいいですか?」

シャイナは添い寝は絶対に断ろう、と固く誓いながらそうお願いした。






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