調子に乗りました
※ バッドエンドです。 ソレが苦手な方はブラウザバックをお願いします。
それは、いきなり現れた。
とあるナーロッパ世界のとある王国の、とある王都に。
王都の、それも平民が暮らす区画の中の、様々な店が建ち並ぶ商業区と呼ばれる地域で火事によって燃えてしまってガレキばかりになった大きな空き地に。
最初、その姿はただの大きな平屋だった。
そしてその平屋の中には少数の商店が入っているだけで、他には何もなくガランとした空間が。
店は日用品を扱う雑貨屋とパン屋。 パンを買いに来たついでに、家で足りない雑貨を思い出してちょっと寄る。 そんな使い方として便利であろう。
店の店員が見たことのない人なのは少し気になるが、他所から来た商店であると見れば、それは警戒する程ではないだろう。
そしてその平屋に入った地元住民は、建物の中で店を構える方式のバザーみたいなモノだな。 と理解したらしい。
なぜなら、その2つの店の面積が同じだったから。
さらに空いているスペースも同じ面積で区切る線がひいてあり、床には文字を勉強していない平民には分からないが、読める者に訊けば[店子募集]と書かれていると教えてくれた所からも推測できる。
数日経つと平屋の中に新しい商店がひとつ、出来ていた。
これには大工をしている利用客が凄い顔になって吼えていた。
「昨日は影も形もなかった店が、こんな短時間で建つはずがない!」と。
そらを聞いた平民は連日で来てて常連客かよ。 とツッコみたい気持ちを抑えて、続きを聞く。
「魔法か!? いや、建築に関する魔法なんて聞いたことがない!!」とも吼えていた。
それを僕は聞きながら、商業ギルドは、凄い人材を抱えたのか〜凄いな〜。
なんて、暢気に思っていた。
「ふっふっふ。 現地民が常識外の出来事に直面して吼える様子は、異世界転生あるあるだよなぁ」
そう。 この俺は異世界転生者。
圧倒的な武力は得られなかったけど、1つの拠点で経済無双出来そうなチカラは得た。
俺のチカラは【デパート経営】だ。
デパートで得た金銭等を使い、新しい店やデパートの設備を瞬時に建てられる。
店を建てると、勝手に店員が生えてきて勝手に運営してくれる不思議。
金があればデパートの建て増しも自由自在。
しかもチカラが由来のモノだから、建物や設備のメンテは不要。
……その割には売れた物の補充は月を跨ぐ時に1度だけだし、納品業者も来ないで補充完了しているのとか、業者が来てないのに有料ってのが訳わからないが。
補充したモノは食べ物でも腐らない恐怖仕様とか、雑貨なんかの在庫は共通でハサミばかり売れて売り切れたらセロハンテープも売り切れる謎仕様。
来店した客の要望が手紙となって表れて、その要望に応えると常連客になってくれる変なチカラもある。
このなんとも言えない謎のチカラだが、これがあればこの世界で生きるのに不自由はしないだろう。
その為にも、この街に再利用出来なさそうな、大きな土地が有って助かった。
その土地に俺のチカラを使って、こうしてデパートを始められたんだからな。
「ふふふ。 このままこの街1番のデパートを建ててやるぜ! まあ、この街に俺以外のデパートなんて無いがな!!」
この街で1番の建物と言っても、デパート換算で5階前後。 こんなん1年もしない内に追い抜いちゃうかもな。
調子に乗ってどこまでも行ってやる!
がっはっはっはっは!!
〜〜〜〜〜〜
半年後
〜〜〜〜〜〜
「どうして…………」
デパート経営は順調に行き、この街で1番高い建物を越えた高さだった自慢のデパートは現在、壊されてしまった。
そして俺自身は、なんか鎧を着た集団に縄で縛られ、地面に膝立ちで壊されていくデパートを見させられていた。
その僕を鼻で笑う人が近くにいた。
「はンッ、当たり前だろうが。 我が商業ギルドに無許可でこんな大きな商店を作るなぞギルドと登録した商人らへの宣戦布告だ。 それだけでなく、我が国の象徴となる王城の高さを抜いた建物を建てた時点で、国への宣戦布告もしたんだぞ? こうなるのは自明の理だろうが」
そいつは、訳が分からない事をヌかす。
「は? 商業ギルドに許可? 俺のチカラから得た知識に、そんなの無かったぞ?」
そう。 俺が使える【デパート経営】には、このチカラを使うための基礎知識もセットになっていた。
その知識には経営のヒントがあって、そのヒント集には商業ギルドへ許可をとる話なんて書かれてなかった。
「は? 商売をはじめようってのに、商業ギルドへ届け出をして許可を得るのは常識だろうが」
「いや、知らないから」
「うわ……マジかよ。 こっちはお前の建物に入っている店へ、責任者に無許可営業はダメだと書いた手紙を渡しとけって伝えたぞ」
「知らない。 入ってた店の店員は、こっちの言うことは聞くけど店の事しかしないし。 俺に取り次ぎとかはしないから」
こう答えると、偉そうな人は呆れ声になる。
「それこそ、こっちは知らん。 常識の無いお前自身を恨め」
両手を広げ、肩をすくめる動作までしている気配がする。
「それとこの土地だって商業ギルドが管理していた土地だ。 ここにあったガレキを取り除いてくれたのは感謝するが、そもそもとして無断での土地利用は犯罪だろうが」
続けてツッコまれた。
これについては転生してきてすぐで武力的なチカラがないから、生き残る土台欲しさに犯罪かどうかを考えず焦ってチカラを行使してしまった自分が悪い。
グゥの音も……。
「ぐぅ…………」
出たわ。
「まあそれでも、ここまでは商業ギルドに関係するトラブルだから、罰金だのなんだのをギルドに払えば何とかなったンだがな――――」
偉そうな人の呆れの色が、今までより強くなっている。
「――――国のプライドたる王城の高さを超えちまったのは、不味かったな。 お前は調子に乗り過ぎた」
「??? どういう意味だ?」
偉そうな人の云っている意味が分からず、つい訊き返す。
すると、偉そうな人はさっきまでの呆れた雰囲気を吹き飛ばし、冷徹な声になった。
「お前は国の威信を傷付けた。 それで下される罰は、死刑以外に無い」
「は…………?」
俺の間抜けな声はスルーされ「兵士さん、もう十分です」と鎧を着た集団の1人に話しかけていた。
少ししてその鎧を着た人がやって来て、俺を街1番の高さの地位を取り戻した建物の方向へ引き摺る。
「え…………?」
そして放り出された場所は、石造りで鉄の格子がはめられた……ぶっちゃけ牢屋。
そこに俺は放り込まれた。
「お前は死刑が確定している。 その刑の執行まで、大人しくしていろよ」
そう言われた。
本当に死刑になったかの想像はお任せします。
まあ命が軽くて一罰百戒な世界なんで、王国のトップである国王の仕事場であり国主としての威厳を発揮する場所である王城より大きな建物を用意してしまったなんて、十中八九死刑なんですが。
それでもデパートで取り扱っている商品に利用価値があって生かしておく……とか、なにかが有れば生きられるかも知れません。
とにかく。
「やり過ぎたんだよ、お前はな」
って奴ですね。
「だまして悪いが、これも仕事なんでね」
とはならずに、直接制圧で来ましたが。
蛇足……というか愚痴
バベルの塔的に調子に乗りすぎて神から罰が降ってきて壊され、バベルの塔なデパートの格言っぽいのにしようとしたんです。 本来の構想では。
でもそうなる前に、こうなるよなぁと。
まあこうならないルートとして、デパートで扱う商品で王族が助かったとかの何らかの恩で、こうやってデパートの打ち壊しにされないレベルの影響力があるなら神からの罰になるかも。