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34話 告げられた乳母の本性

 恐怖に怯えた顔をして、カタカタと震えるジェリー。そんな彼に駆け寄ると、ジェリーはマティアス様やイーサン様から顔を隠そうと、私に顔を押し付けるようにして抱き着いてきた。



 そのため、私はジェリーの顔を隠しながら目線を合わせようと床に膝を突き、ジェリーに話しかけた。



「ジェリー大丈夫よ。私がいるからね」

「っうん……」



 何とか返事をするジェリーは、泣きこそしていないものの、悲痛に満ちた表情をしていた。

 だが、この場にはジェリーのこの反応を理解できない人物が二人いる。マティアス様とイーサン様だ。



 よって、この二人は今のジェリーの反応を見て、激しく動揺した。そして、どうしたら良いか分からないと戸惑った様子で、声をかけてきた。



「えっ……。俺らなんか変なこと言った……?」

「ジェラルド……どうしたんだ?」



 心配そうな顔でジェリーを見つめる二人。そんな二人に申し訳ないと思いながらも、私はジェリーに話しかけた。



「今日はもう部屋に戻る?」



 この問いかけに対し、ジェリーは言葉こそ発しないものの、うんと頷いた。

 そのため、私は二人に顔を隠したがるジェリーの背中に手を添え、誘導しながらジェリーの部屋に行くことにした。



 だがその前に、困惑している二人に声をかけた。



「ジェリーと部屋に戻ります。この件については、後で説明いたします。ですので、しばらくの間ジェリーに付き添わせてください」



 そう言うと、二人とも唖然とした様子ながらも「分かった」と返事を返してくれた。こうして、私はジェリーと移動を開始した。



 そしてその移動の途中、私はふと不審に思うことがあった。



――何だか、玄関の方が騒がしいわね……。

 もしかして、ジェロームが居なくなった理由は、玄関のこの喧騒のせいかしら?

 でも、今はジェリーが優先よ。



 妙な胸騒ぎがしながらも、私はそのままジェリーと共にジェリーの部屋へと移動した。そして部屋に到着し次第、私はジェリーに謝った。



「ジェリー、ごめんなさい。あなたのお兄様たちに、ライザのことを話せていなかったの。嫌な思いをさせて本当にごめんなさい」

「謝らないで。リアは二人と話せる状況じゃ無かったの知ってるよ。それに、僕が自分から先に言えば良かったんだ……」



 そう言うと、ジェリーは堪えていた涙を零し始めた。



 六歳の子になんてことを言わせてしまっているのだろう。そんな自責の念を感じながら、私はジェリーに必死で伝えた。



「ライザは絶対に戻ってこないわ。それに、戻らせない。だから、大丈夫よ」



 そう声をかけながら、私はジェリーの涙を拭い、彼の背中をさすっていた。



 すると突然、ジェリーの部屋の扉をノックする音が聞こえた。かと思うと、返事を待たずしてイーサン様が入ってきた。



「――っ! ジェラルド、エミリアさん、大丈夫?」



 私たちの状況を見て驚いた顔をしながらも、大丈夫かと声をかけながら、イーサン様はジェリーの前までやってきた。



「ジェラルド……一体何があったんだ?」

「無理には言わなくていいのよ」



 私がそう言葉添えをすると、イーサン様も「もちろんだ」と言いながら私に同意するように頷き、ジェリーの反応を窺っていた。すると、ジェリーは意を決した様子で口を開いた。



「いや、言うよ」



 その言葉を聞き、私はドクンと胸が跳ねた。それと同時に、イーサン様の目も見開かれた。



「ライザが……僕のことを人殺しって言うから、リアが僕の世話係から外してくれたんだ」



 その言葉を聞いた瞬間、イーサン様が百面相した。



「ほんとう……なのか? あの、ライザが……?」



 信じられないというように、愕然とした様子でそう声を漏らすイーサン様に、私は言葉を返した。



「はい、本当です。私もライザの口から聞きました」



 そう答えると、イーサン様はよろよろと椅子に座り込み、頭を抱えて独り言ち始めた。



「じゃあ、ライザは俺たちがいない間にジェラルドにそんなことを? 俺たちの前ではあんなに良い人なのに。信じられない……。いや、ジェラルドたちを信じていないと言うわけではないんだが……嘘だろ……」



 イーサン様にとっては、あまりにも信じられない話だったのだろう。彼は酷くショックを受けた様子になった。



 そして、そんなイーサン様を見て、ジェリーは泣きながら言葉を重ねた。



「また戻ってきたらやだよ……リアとデイジーがいいよ……」



 そう言うと、ジェリーは私のドレスの裾をギュッと掴んだ。その震える小さい手を見て、私はジェリーを守りたいという本能のまま彼を抱き締めた。



「絶対に戻らせないから。もうこれ以上、無理に喋らなくても大丈夫よ」



 そう声をかけると、ジェリーは私の腕の中で頷きを返してくれた。



 そんな時だった。突然扉の外から、イーサン様を呼ぶ使用人の声が聞こえた。すると、使用人と少し話をしたイーサン様は、再びジェリーの前に来てジェリーに話しかけた。



「すぐに行かないといけないから、これだけ聞いてくれ。ジェラルド、ジェラルドが嫌なことは何もしない。ライザが嫌なら戻さないから安心してほしい」



 その言葉を聞き、ジェリーは驚いたようにガバッと顔を上げてイーサン様の方を見た。すると、イーサン様はジェリーの頬を伝う涙を親指の腹で拭い、そのまま急いで部屋を出て行った。



 その後、私はデイジーと協力してジェリーの寝る支度を済ませ、ジェリーをベッドに寝かせた。こうして安静にしておけば、熱が出ないと思ったのだ。



 そして、私はベッドに横たわるジェリーの手を握り、ずっとジェリーの隣にいた。

 すると、安心してくれたのだろう。ジェリーは落ち着きを取り戻し、ベッドに入って一時間後には眠りについた。



「奥様、お戻りになっても大丈夫ですよ」



 そうデイジーが声をかけてくれた。だが、もし途中で起きて私が居なかったら、不安に思うかもしれない。

 そう考え、私はデイジーに言葉を返した。



「ありがとう、デイジー。でもね、今日は一緒にいてあげたいの」



 そう伝えると、デイジーはジェラルドを一瞥し「その方が良いようですね」と納得した様子を見せた。



 こうして、私はジェリーのベッドの横の椅子に座り、ジェリーの付き添いを続けた。

 だが、ある瞬間から記憶が切断され、気が付くと朝になっていた。

 デイジーはジェラルドと一緒にいることも多いため、ティナに話かける時と同じ口調で話すようになりました。


 そして次話、マティアス視点です。

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