第082話 ヴィクトリアの嘘
「……そう。ごめんなさい。私はカーラ・ミラーの……彼女の生命エネルギーを、ヴィクトリアに与えました。」
「……な……!!」
てっきりそれこそ、ヴィクトリアの神器なんて木なんだしエネルギーなんて光合成のような、そう言うものから手に入る物だと思っていた……。
「どういう、意味!?」
「……千歳樹……月城エマ……それに関しては、私から……お話します。」
「おい、無理するなヴィクトリア!」
ルースタはその起きあがろうとするヴィクトリアを支える。
「……私は、もうすぐ、死にます……」
「死ぬ……のか。その見た目で……ヴィクトリア……」
「……ハシラビトは外見的には老けません。でも、内面はそうではありませんから。」
キーラは答える。
「マーガレットと同じなのよ、ヴィクトリアの中身って……」
フェリスタはそう答える。
「……マーガレット、あの老婆か。」
なら相当歳……ということになるか。
「……私は5000年前、神器になりました。この地を攻めてきた最悪の敵……ニケの先生だったアルマードという宝石の精霊族の男……に対抗する為に。」
「宝石の精霊族?」
エマはハテナを頭の上に浮かべる。
「はい。ここから遥か遠くにある惑星系……このヘリオスよりもだいぶ大きいエネルギーを持つ恒星で生まれた彼らは光の精霊族よりも賢く、強いです……」
「認めたくはありませんが……その通りです。」
キーラはそう付け加える。
確かにキーラからしたら認めたく無い事実だろう。
つまり、太陽よりももっと強く、大きい星からやってきたって言うことか。
そりゃあそうか。太陽系にしか生物が住むわけじゃないし、もちろん太陽で生まれた精霊族がいるなら、同じような他の太陽……恒星で生まれる精霊族も、いるか。
「アルマードは最悪でした。この宇宙を支配する銀河同盟というものを作り、エヴァースを手中に収めようとしたのです。それに対して私達と、トラッカーさん……達で対抗しました。」
ヴィクトリアはその瞬間、俺たちの方を見て何かに気がついた。
「……トラッカー?」
それって、つまり俺たちの事……。どう言う意味だ?俺は頭をフル回転させる。
「……どうして今まで気がつかなかったのでしょう。トラッカーさん達って……貴方達のこと、だったんですね……」
ヴィクトリアは小さくそう呟いた。
それは確かに俺とエマに聞こえていた。
言い方的に……俺たちは、その時代に行く……ということか。最後の神器を手に入れるためか、最悪の敵からヴィクトリア達を守るためか、それはわからないけど。
「まあ、良いです……そこで、私は母神器になりました。私はハシラビト……即ち彼らが死ぬことが、許せなかったからです。」
「……許せなかった……と。」
ハシラビトが死ぬのが許せないって、どう言うことだ?
「はい。キーラは他種族でありながら私のことを戦いで認めてくれました。ルースタとフェリスタは私の仲間ですから当然……ディアボロスは、悲しき被害者です。元は鏡によって狂わされたたった一人の人間……フェイドでしたから。」
ディアボロスはやっぱり盃の悪魔で、鏡ってことは、元々は悪魔じゃなくて他の種族だったけどエマと同じように種族変わって、悪魔に作り替えられた……的なことか。
「……待ってくれ、ハシラビトは長生きできる、っていう話じゃなかったんですか。意味がわかりません。」
メルトは理解しようと、そう聞き返す。
「……ハシラビトは生贄です。ニケが生み出した、神器を完成させるための……神器に心を宿す為の、存在です。」
キーラはそう伝える。
「……ハシラビトが、呪いを肩代わりする……ってニケが言ってた気がするけど……」
俺は記憶を頼りにそう聞く。確かニケはそう言っていた。
「それは嘘なんだよね。」
エマはそう聞き返す。
「はい。ハシラビトは死ぬべき存在。私たちがいるから真神器の呪いは消えないのです。」
ヴィクトリアはそう、言い放つ。
「……じゃあ、じゃあどうして……扉の呪いは今まで無かったんだ……」
俺は素直に疑問に思ったことを聞く。けど俺の声は震えていた。
今まで扉の呪いはなかった。
何度だってカーラは扉を使い続けた、けど呪いらしきものは無かった。その呪いはどう言う事なのか……その意味を少し察してしまう、自分がいたから。
「……それが、貴方達の存在理由です。」
ヴィクトリアは、俺とエマの方を向いてそう、言った。
「……どう言う、意味!!?」
「……察しが悪いわ、貴方達。」
「察しが悪いって言われても……仕方ないだろ!フェリスタ……」
俺はフェリスタに言われ、震えながらも、少し怒る。
「……扉に導かれし者……それは無作為に選ばれた、呪いを肩代わりさせる存在に過ぎません。それもこれも、全て私の願いなのです……」
……ヴィクトリアはそう言って泣き出す。
「……それって……」
「扉に導かれし者として異世界から呼び出して、その記憶を一部もらってエネルギーに変換する。そうすることで、扉の呪いは実質的に無いものにできるわけよ。」
……幽霊の少女、フェリスタが説明する。
「……そういう事だったのか。つまり俺から真緒の記憶を奪ったのも……全部、ヴィクトリアのせいだったのか!!」
……俺はその悲しさと怒りの溢れる感情のままに強くそうヴィクトリアに当たってしまった。
「……その通りです。私は罪なのです……貴方達、ハシラビトに死んでほしく無いから、神子と言う、定期的なエネルギー源となる生贄を用意し、彼らに生きて欲しかったんです。でも、扉は実用化させたかった……そんな意思もあった。だからこそ、扉に導かれし者と称して、さらに神子の代わりを作りました……全ては理想郷の為。テトラビアの為に……」
……そう言う、事か。俺とエマしか導かれし者で来なかったも、多分光の精霊族……キーラの寿命がそもそも長かったから。
「……ファレノプシスが言っていた……願いって。」
……エマは小さく、感情を殺したようにそう言う。
「……はい。きっと私の、生きてほしいと言う願いでしょう。」
ヴィクトリアはそれに対して、そう答える。
「……呪いなんてものは、真神器に存在しません。ハシラビトが入り、その後死んだ神器は呪いがなくなります……でも、私達は自分たちを生かす為のエネルギーを手に入れる為に、使用者を、神子を呪う……と言うことをしてきたのです。それが、お母様の願いでしたから。」
そう言う事なんだなって何となくわかる。いや、何となく察していた。俺の記憶は扉によって奪われただろうってことも分かっていたし……何となく、分かっていた。
「……でも、一体何の為にこいつらを……ハシラビトを延命させ続けたんだ、ヴィクトリア……!!」
俺はその事実に泣きながらその疑問を投げかける。
「……私の、ただの我儘です。ハシラビトは本当は生かす必要もない……むしろこの国に対して神子と言う犠牲すら起こす……そんな存在……でも、私は許せなかった!!私の大切な人が……フェリスタ達が目の前で殺されそうになって……!!私は一人になってまで……自己犠牲したくなんて無かった!!!」
初めて……ヴィクトリアは口調を変えてそう言った。
「……でも……やり方は間違ってる。きっとそうだ。許される行為じゃない。」
俺はヴィクトリアに冷たく……そう言い放つ。
「……そんなこと、私だってわかってる。でも、アルマード達を倒す為には神器になるしか無かった。けど、私はみんながいない世界で一人神器になるなんて、許せなかった!!例え神器になることは私の使命でも、私が自分を犠牲にする事を厭わなくても、それは嫌だった!!!だからこうしてみんなを、生かしてるんだ!!!こここそが、私にとっての楽園なんだ!!!!!!」
ヴィクトリアにとっての、楽園……
「……ヴィクトリア……」
「お母さん……」
ルースタ達はそんな泣くヴィクトリアの肩に触れる。
「……ごめん。みんな……」
彼女は小さくそう、呟く。
「私はニケの効率的な性格も、大っ嫌いだった!!戦争が起これば、神器の中に封印して、発展の為にする……そんな考え方大っ嫌い!!!それに対して私が神器になろうとすれば、止める……都合が……良すぎるんだよ、あの人……!!!」
ヴィクトリアは感情を強く声に表す。
前会った時、ニケはあれほどヴィクトリアにハシラビトになるなと言っていたのに……と言っていた。
「みんなを守る、孤独は嫌だ……そんな思い以外に、ニケに対する私なりの反発でもあった……間違っていた、なんて今更言われてそれに反発する気は無い……」
「……ヴィクトリア。」
俺はその場で泣き叫ぶヴィクトリアを憐れむように……見つめる。
それはまた、エマもメルトも同じだった。
間違っていると分かっていても、犠牲を分かっていても、その心で……彼女自身は間違えた。
「……いくらでも言ってください。何度だって何だって言ってください。私は、罪です。この国を作っておきながら……こんな事をしていました。」
ヴィクトリアは泣きながら崩れた……その声は弱く、脆かった。
「……許してあげてください。皆さん……ヴィクトリアは、お母様はそう言いながらも……自分の神子だけはつくらず、エネルギーを手に入れず、永遠に自己犠牲は厭わなかった……その結果がこれなのです。」
キーラは俺たちにそう説明する。
「……どう言う、意味だ。」
「……ヴィクトリア……彼女達は長寿になる事を目指して作られたエルフ……エヴァースを開拓するために作られた種族なのです。彼女はそれをいい事に、私達だけには延命措置を用意し、自らを殺そうとして……5000年もの間エネルギーを取り込まず、ただただ死の瞬間を待ち続けた……そんな人なのです。」
「……な。」
ヴィクトリアという人を分かろうとするには、俺たちにとっては短すぎた。彼女の考えは理解できそうで、難しすぎた。
「だから、私は彼女に最後の延命措置を施す為に、カーラ・ミラーを殺した……そういう事です。」
……その時、俺はそんなことを言うキーラの事を殴ろうとしていた。