第079話 守護者の試作品
「……こちら、アール。応答願います。」
「……こちら、アルマード。どうしましたか。」
「ボス、ヤバい物を入手しました。」
「……ほう?」
「試作品のロボットのようです……ソニアの研究所で発見しました。」
「……興味深いですね。持ち帰って下さい。」
「……わかりました。」
奴らの魔の手は……知らない内に、近寄っていた。
* * *
「ただいま〜。ソニア博士。」
「お帰りなさい樹、エマ。」
「帰りました。博士。」
エマの表情も、最初と比べると見違えるほどだった。
二人は遂に3つ目の守護神器、天界の杖を手に入れていた。
「……樹、それは?」
「ああ、これか。これは因縁の刀……因果力とか色々と断ち切れるらしい。」
「……興味深いですね。」
私はその刀を樹から受け取った。
その刀からは呪いというものを感じなかった。
一体どんな技術だろう。
この扉の呪いに関してはだいぶわかってきていた。
この扉は、かつて光の精霊族がハシラビトとしていたが、その存在は寿命か、何かによって消えた。
その結果この扉、『結びの扉』には生命体がいたという心が残り、呪いはその心に溜まり続け、外部には影響を及ぼさなくなるというある意味生贄の儀式が施されていることがわかった。
この扉を作ったのは……恐らく私のご先祖さま。
ニケ・ラキ・クロノシィードで間違いない。
きっとそれに近い内容がこの刀にもあるのだろう。
「……どうかしたか?博士。」
「……なんでもないです。この刀、大切にして下さいね。」
「勿論だ。」
この刀は、きっとこの世界の運命をも変える力がある。
きっと、そう。
「さて……次なんだけど、別世界の私、リリーは言っただよね。」
「ん?」
エマは私に相談をしてきた。
「最後の守護神器、『寵愛の盾』は過去の世界に行って持ち出される前に、守りに行ってみてはどう?……らしい。」
「……なるほど、確かにこの扉は過去へも、別世界へもいけます。」
私は自分の髪の毛でも触るかのように、軽く扉を触りながら話す。
「ですが因果力という力があります……過去へ行く事は、危険でしょう。」
「わかってる!だけどそれこそ、この刀の力……これがあればきっと大丈夫じゃない?」
「……そうだ。これがあれば俺たちが負ける事はない。そうじゃないか?」
私は、自信満々な二人を止める権利はありません。むしろ協力してもらっているわけですから。
「……そうですね。わかりました。刀があれば貴方達は負けませんね。過去をきっと変えることだって出来ますし、現国王のこの反乱の風は樹たちがアルマードたちをある程度弱体化させたから……っていう可能性もありますね。きっと最後の守護神器を手に入れて、帰ってきて下さい。」
「わかった!もちろんだ!!」
私はそう言って二人を送り出した。
しかし……その二人が、帰ってくることは無かった。
彼らが持っていったその刀、それがあれば能力的にアルマードを滅ぼすことができて、そもそもロストリアという存在や、銀河同盟なんていう存在すら滅ぼせる力があるはずだった。
でも、この世界はこうしてできてしまっている。反乱の芽があるのは自然だったのかもしれない。ロストリアはアルマードの支配下に完全になりきっていない理由が彼らがダメージを与えていたから、と思っていたけど、逆だったんだ。彼らが勝てば、戻って来れれば、そもそもロストリアになることはなかったんだ。
因果力を断ち切れる……とは即ち新たな分岐世界を作ることではない。
そこはイコールじゃない。
この世界は複雑なようで、単純なんだ。
元々この世界は一つの道筋、シャングリラから一瞬テトラビアを挟んで、ロストリアになるという、その世界線は固定されている。
因果力はその世界線を固定させるために使われる。上位存在の力だって言われる。
それに対してあの刀は、その固定を外す力がある。もしあの刀で過去を変えることができれば、その瞬間この世界は変わる。そんな時、きっと今を生きる私たちの記憶すら、描きかわる。
元からロストリアなんてものは無かったことになる。世界線を分岐させる刀じゃない。
つまり、彼らが過去に行った段階で変わっていないっていうことは、彼らは負けた。むしろ負けたからこそ、ロストリアという存在がある。
「……帰ってきて下さい……って言った……じゃないですか……」
私はその事に気づき、悲しんだ。
ある意味、自分のその仮説を立てれてしまう脳が……憎い。
彼らと出会って、もう1年くらいは経っていた。
ここにいる機会は少なかったとは言え、彼らに対する情は出来上がっていた……
「……ソニャニャン〜!!来たよ〜!!」
……研究所の扉が開いて、私の様子を見てカーラは固まった。
「……大丈夫??」
「……うん……。」
私は涙を拭いながら、そう答えた。
* * *
「我らはロストリア解放軍、この腐れきった国を壊し、自分達の理想郷を作り出す!!」
俺が帰ったところは解放軍のアジト……その実態は皆知っている。
解放軍こそが、政府からすれば敵。だが、政府……つまり王家は生ぬるい。俺ら弱者に対する補償も全然ないような、そんな国に未来はない。だからこそ俺はアルマードというこの神に惚れてこの解放軍へと加入した。
「持ってきました。」
「……お前、これをどこで手に入れた!!」
「政府の研究施設です。ソニアの。」
俺がその日持ち帰ったのは試作品と思われるロボットだった。
廃棄されていたところを偶然見つけ、そしてそのまま盗んだ。
「……ほう、興味深い。これはまるでニケの再来のようだな……」
俺の前で、ボス……アルマードはそう言い放つ。
「ニケ……聖剣の王という本に出てくる、アレですか?」
俺は聖剣の王の話を出す。
「そうだ。奴は天才だった。その禁書に書かれている様にな。だがその性格は最悪だ。人の為ではなく自分の効率のためにのみ、その力を使う。そんなクソ野郎だ。」
「……なるほど。」
ニケはクソ野郎……だったのか。
「ん?よく考えたらどうしてお前はその本の事を知っている。」
「……政府の科学者、ソニア・ラキ・クロノシィード。奴はその本を隠し持っていました。」
「……なるほど。ニケの子孫か……再来というのも頷ける。」
アルマード……その存在はこう見えても結構謎に包まれている。
「アルマード様。ボスはニケについて、どのくらい知っているのですか。」
「……おう、そうだな。この際だから教えてやる。僕は……いや俺は奴の先生をしていた。」
「……先生、ですか。」
「ああ。その頭の良さを評価したんだが、奴には響かなかった。だからクソ野郎だ。」
……なるほど。
そして多分、一瞬見えた僕……という一人称。それこそがかつて演技でもしていた頃の……ものだろうか。
「……さて、どうする。メルト・レイ・エルフォード。貴様に解放軍を動かす権利は渡しているが……」
「……そうですね。この機械、これはどのように作られているのでしょう。それによっては……略奪も視野に入れるべきですね。」
解放軍の指揮を担うメルトはそう言って提案する。
「こいつは神器だ。まだ試作品のようだが、かつて作られた知能神器、オーランという神器に酷似している神器だ。」
「……ありがとうございます、ボス。でしたら決まりです。略奪……しましょう。そして、ソニア、奴は生捕をし、その頭脳だけをこの頭のない試作品に取り込みましょう。」
「面白くなってきたじゃねぇか。アール。」
「……ああ。そうだな、フュー。楽しもうぜ。」
フュー。魚人である俺の先輩だ。俺が解放軍に入るきっかけになった、俺を誘ってくれた人だ。
「……鳥人の諜報部隊は今回、王家の気を引いてもらいます。ガイ・カイライ。」
「ダガランから帰って来たと思えば……すぐこれか。まあいい、任せろ。行くぜお前ら!!」
メルトはガイに指示を出す。
ガイ率いる鳥人部隊は早速、空へと飛び立っていった。
「さあ、戦争だ。ロストリア。貴様らの国はもう一度、僕らがもらいます……」
ボスはアルマード先生としてのスイッチを多分入れた。
切り替えが滑らかだ。
……その目は真っ直ぐで冷徹で、残酷な目をしていた。