第078話 研究所の秘密会
……千歳樹に、この部屋が……見られた。
まあ、試作品ではあるし、問題はないか……外部に漏らさなければ。
この世界には数多くの謎が残っています。
それはこの扉然り、そういうものを全て含め、私は解明する使命を国から受けました。
そしてもう一つ、私は使命を受けました。
それはこの島、この大陸ロストリアを守る守護兵器を作れ……というものです。
解明する使命は恐らく……アルマードが指示したもの。
それに対して守護兵器というのは恐らく、政府、というか王家がアルマードに反発して私に命令したもの。
恐らくそうではないかと考えている。
「……先代クロノシィードも……謎の死を遂げている……ですか。」
「そうだ。多分それがアルマードの仕業だ!!」
私は生まれた直後から親元から引き離され、政府の管轄下で優秀な科学者になることを命じられ、生きてきた。
この国の王……ミラー家は、私に対してアルマードという存在を教えてくれた本人であり、育ての親。
そしてまた、先代のクロノシィード家はきっとこういう意味のわからない圧力によって潰され、メンタルをやられて謎の死を遂げたのであろう……と思っている。
多分、アルマードのせいじゃない。
「いいか、お前はこの国の未来なんだ!!もっと頑張れ!!!」
「そうよ!!」
「早く学べ!!!ソニア!!!」
「しっかり成長しなさい!!!!」
「早くやれ!!!!」
「いい加減にしろ!!!」
そうやって……私の頭の中には王族や貴族たち……私を育ててくれた人の圧が、刻まれてる。
「……はぁ……」
私はため息を吐く。
自分でも思う。どうして私はこんなにもまともに育つことができたのだろう……と。
今では国一番の科学者となり、銀河同盟……のいい犬を演じている。
「……仕事は進んだか?ソニア。」
「……え、ええ。もちろんです。」
樹とエマがグレートグローンへと旅立った後、私の元に現れたのはその男だった。
「扉の解析、どのくらいか。」
「あと五年もあれば、きっと完成します。」
この男の名は、アール・カイ……ロストリア解放軍……という名の政府と反発している組織……要するに宝石の精霊族の駒の軍隊だ。
この国には流石に反乱の芽が出始めていた。それは王族が特に顕著だった。
この国の王族は、嘗てこの地にいた民族……ワータノリアという国から派生し、テトラビアという国ができた時の王族。
テトラビアはアルマードによる侵略の直後出来、直後崩壊したそんな国。ロストリアに作り替えられた、歴史にほぼ残らなかった悲しい国。
つまり、今の王族は一応アルマードによって選ばれた王様ではあるが、結局は人。宝石の精霊族のように心がないわけではないから、ワータノリア時代のこともあって、こうして反発される。
そんな王族を直接潰すのではなく、内部から秘密裏に潰し、木偶国家に戻す為の組織がこのロストリア解放軍だ。
そんな解放軍は、私の研究室にも勿論視察に来る。その理由はこの扉の解明は本当は王が望んだものではなく、解放軍から王に命じて私に任されている仕事だからだろう。
それは初めての視察の時に聞いた。
「……五年……か。……もっと早くできないのか!!」
「……申し訳ありません。」
とっくに扉の解析なんて終わっているが、私は嘘をつく。
これで騙せるのだから、容易い。それに、奴らは私を殺す事はまずできない。だってそうすれば扉の解明も何もかも、できなくなるから。
私よりも前の代の人達は扉を頑なに解析しなかったらしいが、そんなのは私には関係ない問題だった。
「……謝れば済む問題じゃないからな。頑張れよ。」
今回はなんとか……やり過ごせたか。
解放軍に政府から依頼された守護兵器の存在がバレれば私の命は絶対にない。
それは確か。
殺せないとはいえ、そこまでバレたら流石に殺されてしまうだろう。
「……はぁ。」
私はため息を吐いた。
数日後、彼らは帰ってきた。
「ただいま。博士。」
「お帰りなさ……何かありました?」
……なんかエマがすっごく樹に懐いて見える。
そういえばこの扉は時間軸すら越えれるし、次元すら越えられる。
だから多分こっちは数日だけど、彼らは数ヶ月レベルで向こうに居た……のかもしれない。そこら辺の計算しっかりしてなかったからわからないけど。
「……いやぁ。だいぶ相棒になれたかな……って。」
なんだこの樹って野郎。いつ斬ってやろうか……
イケメン面見せるんじゃねぇ。
「……おっと。エマもよかったですね、相棒を見つけられて。」
「はい。博士。ありがとう!」
「……そういえば博士。俺、不死になった。」
突然、樹は意味わからないことを言い出す。
「……は?」
「不死は不死。死ななくなった。グレートグローンにあった、滅びの盃っていう神器の力で。」
「……はぁ??」
私の頭は困惑する。
なんか、この二人想像以上に早く成長してるし、しかもしっかり神器持ち帰ってきてるし……出来すぎた助手……というか協力者を見つけたもんだ。
私って運がいいのかもしれない。
「……まあ、いいや。とりあえずそこの紙にそっちでの出来事を書き写しておいて下さい。」
私は右手で部屋の奥に案内する。
「わかった。さあ、樹!行こっ!」
……なんか、ずるいな。二人とも……
私はそんな変な感情を抱きながら……いつも通り研究に励んだ。
「……博士、この魔石なんだけど……」
次の日、樹が私に見せたのは大量の魔石だった。
「……これ、どこで?激レアでは?」
セレスチウム結晶……っていう貴重な結晶のはず……精霊族の心臓部のような……それのはず。
「いや、グレートグローンだとこの魔石そこら辺に落ちてる。魔物が落とすから!」
「……は、はぁ……」
エマがそう説明する。
「……これをどうしたらいいかなと思ってだな。」
「そういうことですか。でしたらソアロンか、ダガランにでも行ってきたらどうです。あそこなら、魔石の加工技術があります。とはいうものの、あそこは銀河同盟の監視下……下手に動くとバレる可能性が高いので気をつけて下さい。」
「了解。」
……そうして、彼らは次の街へと行った。
さて、私は彼らの報告書でも読むか。
「……クレオール・ディザスターに、別世界の……エマ……ですか。」
私はその文面を読んで飲んでいたコーヒーを吹いた。
「……別世界の……エマ!?」
聖女な姿のエマが、リリーが私たちを止めた……か。
パラレルワールドは、ある程度同じ未来を歩むらしい。
つまり、この世界で別世界のエマが現れたのであれば、この世界のエマもいつか違う世界に飛ぶのだろう……か。
まあ、必然的に考えればそうかもしれない。
「……別世界、ですか。一体どんな世界なんですかね……」
その世界は、平和ですか?豊かですか……?
全て終わったら、私はその世界へ旅をしてみたいもの……です。
ーーー
「やっほ〜!!遊びにきたよ!」
私の研究室の扉を叩く音が、また聞こえてきた。
「……誰かと思えば、カーラ……か。」
「うん!元気にしてた?ソニャニャン!!」
「……なんなんですか。その呼び方。」
「……あはは〜。」
カーラ・ミラー。彼女はこの国の王家、ミラー家の王女。
ワータノリア時代から続くこの地に最初に来た人々の末裔。
別世界なら一体どんな地位にいるのかは……わからないけど。
「……王女様。はしたないですよ。」
……そう言いながら現れたのは、彼女の侍女。
「……お久しぶりです。メアリー。」
「お久しぶりです。ソニア……」
彼女たちはこうやって偶に私の元へ遊びにくる。
勿論、王城で私が育てられていた時代の知り合いだから。
「……それで、例の件は進んでるの?」
「……はい。今守護神器を集めています。」
私はカーラに近況を報告する。
「反乱の時は、近いかもですね。」
「ですね……」
……私たちは、密かにその計画を進めています。