第077話 別次元の追跡者
「……本当、貴方って嫌な性格していますね。」
彼は私の方へ歩いてくる。
「……貴方と同じだろう?ヴィクトリア。」
「……」
私はその言葉に黙ります。
「……早くこちらへ来い。私はずっと待つ。」
「……ええ、そうですね。私もそろそろ終わりです……」
「見ものだな。貴方の選んだ彼らは何を選ぶのか。」
「……ですね。」
……千歳樹、月城エマ……ごめんなさい。
* * * * *
この国には、ある扉があった。
その扉は壊れていたらしい。
「ここは……?」
「ここはロストリア。貴方には使命があります。千歳樹。」
それが俺と、ソニア博士との出会いだった。
ここは、研究所の中。扉がある研究所だ。
俺はソニア博士が直したこの扉の力で、この世界に召喚された。
元々はスラム街出身だ。
地球……というところの、日本という国だがその国の実態は植民地だ。
10億年くらい前に来たらしい、精霊族と言う宇宙人によって侵略され、銀河同盟という名の植民地化をされており、俺たちの惑星には希望なんてなかった。
俺には従姉妹なんていないし、家族だっていない。幼い頃から労働に労働、寝て起きても労働……
そんな日々を過ごしていた。
そんな時に、俺はこのロストリアに転移された。
……けど、このロストリアもまた、同じだった。
「私はソニア・ラキ・クロノシィード。ご先祖さまはタイタンっていう国に住んでいたらしい……今では少なくなってしまった魚人の末裔が、この私です。」
ソニア博士は、天才だった。
その頭の良さからか、代々このロストリアという国の上の方の地位につき、研究してきたらしい。
「これからよろしくお願いします、樹」
そう言ってソニア博士は俺に手を差し伸べた。
「……こんなところに呼び出しておいて、具体的にはその使命ってなんなんだ?」
「……嘗てこの世界に存在したとされる、神器、その中の守護神器というものを集めて下さい。」
「……守護神器……。」
なんだそれ。
「守護神器があれば、銀河同盟の親玉……昔からこの世界を治めている最悪の精霊、アルマードを討てます。」
「……銀河同盟の、親玉ね……」
本当に倒せるのならば、それはつまり地球すらも救えると言うことか。
なら、乗る価値は……ありそう。
「……はい、ですが一応この件は内密に進めて下さい。」
「どうして?」
「どうして……と言われましても、やろうとしている事は国家に対する転覆罪。ここはアルマードが生み出した国家です。」
「……なるほどな。下手をしたら簡単に消されてしまうと……」
「はい。そうです。」
銀河同盟……ねぇ。憎いな。
「……ソニア博士はどうしてそこまでして、アルマードを倒そうとしているんだ?」
「……それは。」
「それは?」
「クロノシィード家の代々言い伝えです……」
「ほう。」
「『いつか、この世界を正す使命を……託します。』と、ご先祖さまは言いました。」
「ご先祖さま……ねぇ。」
魚人のご先祖さま、か。
「はい。この『聖剣の王』という書物に出てくる王様こそが、私のご先祖さまだと思います。」
ソニア博士はその本を机から持ち上げる。
「それが聖剣の王っていう本か。」
「はい。禁書です。」
「……えぇ!?」
サラッと言うじゃん。
禁書ってことはロストリア自体が禁止している本か。
「それを頼りに、俺を導く……ってことか。」
「そうですね。私はこう見えても政府の管轄下です。下手な動きはできないので、こうして秘密裏に貴方達に任せよう、と言うわけです。」
「……なるほど。守護神器を集めればいいって分かってても、自分じゃどうしようもできないから、か。」
「そう言う事です。」
元々日本にいても労働だらけ、ここに来れただけで俺にデメリットはないし、協力するか。
「……わかった。協力しよう。」
「ありがとうございます。」
「じゃあ、どうすればいいんだ?」
「……少し待っていて下さい。」
俺はソニア博士がそう言うから待つことにした。
その間に、研究所でも……見ておこう。
「……にしてもすごい研究所だ。金かかってるなこれ。」
その壁は白色で清潔感があり、中心部には扉があり辺りには扉のところについているこの時計の針の様な結晶に関する研究……と思われるものが多くある。
俺はその部屋を散策した。
その時だった。
「……なんだ?これ。」
その壁からくる風を頼りにその穴を見つけた。
小さな穴だ。
その奥には他の研究室……と思われる様子が見える。
「……なんだ、あれ。ロボットか??」
俺はその穴の先にロボットを見つけた。
それは人と同じくらいの大きさであり、その数は100体以上だろうか。
「……これもソニア博士の研究……か。」
凄いな。あのロボットこそ絶対にお金がかかってるな……
あれも、ロストリアのって言うかアルマードからの命令かなんかなのか……な。
わからないけど、余計なことを考えるのはやめよう。
使命は一つだから。守護神器を持ち帰ること。それだけだ。
「お待たせしました。樹。」
「いえ、待ってません。」
「……?」
博士が連れてきたのは、一人の少女だった。
「この子は??」
「私がこの扉でこの世界に転移させた初めての……子です。奴隷でした。」
「……なるほど、奴隷、か……」
「この少女と共に、相棒として守護神器を集めて下さい。きっと役に立ちますよ。彼女は魔族と人間のハーフ……らしいですから。」
その少女は白い髪をした普通の人間……の様に俺には見えた。
その白い髪は長く、黒い服装がはっきりと映えるような、奴隷としての首輪がなければ絶対に美人として有名になりそうな、そんな感じの少女だった。
「よろしく……お願いします。」
「よろしくな。俺は千歳樹。」
俺は手を差し伸べる。よく見たら……俺の手は汚かった。土埃が舞う日本で労働に明け暮れた日々のまま……そのままだったからだろう。
でも、それに対してしっかりとした反応は返ってこない。
それだけ警戒されているのか、俺の姿が汚すぎたのか。
奴隷……だったってことは相当大変そうだし。
まあ、いいや。
俺は手を引く。
「……私は月城……エマです。」
エマ……エマっていうらしい。
「頼りにするよ。エマ。」
「まあ……そのうち慣れます。」
ソニア博士は俺のことを励ます。
「……だといいが。」
少女、とは言いつつ俺との年齢は多分5歳も違わない。のに、性格は相当臆病そうだ。
育ってきた環境のせいだろう……。
その後、俺とエマは博士の言う通り着替え、泥を落とし、そしてペンダントを貰い、異世界へ行く準備は完了した。
「それでは、早速任務です。守護神器が二つあるとされる、グレートグローンへと行き創世の鉞と殲滅の槍を回収してきて下さい。」
「早速だな。」
ソニア博士がそういうとその場にホログラムが現れる。
「在処は魔王城。国宝としてロストリアから贈られた歴史があります。」
「……私の、故郷……」
「そう、エマの故郷がこの国です。具体的な場所は外宇宙。そこはスキルという存在がある宇宙。」
……スキル……か。魔法みたいなものかな。
「ほう。」
「スキルは人それぞれ限度があって、放てる回数は疲労に応じて変わる……という特徴があります……その辺は言った先でわかるでしょう。ちなみ国宝が贈られた時はイータルという乗り物を使い直接外宇宙へと送られましたが、今回は私が直したこの扉で行くことができます。」
そのホログラムにはイータル……という車の様な乗り物が浮かぶ。
「……なるほど。」
「……不安です。」
「大丈夫。俺がきっと君を守って見せるから。」
そうして、俺とエマの冒険は、始まった。
* * *
「……頑張って下さい千歳樹、月城エマ……貴方達なら、きっとやれます。」
私はそう祈ってその場を見渡す。
「……私がいない間に、あの人……この部屋を散策しましたね。」
白い壁に、その手足で歩いたであろう泥が跳ねていた。
「まったく……帰ってきたら怒らないといけないですね……」
「……ん?」
私はそこに風の通る穴を見つける。
そこは私が作り上げた神器の兵器……通称ソニアがある部屋を覗ける様になっていた。
……これ……もしかして、見られた?だとしたら。