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【完結】神の器の追跡者  作者: Ryha
第七章 スべてのコトワり
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第七章特別編 フェルマータ

 私の秘密……ここに記す。誰かが見つけたら、それはラッキーかも。


 私は物心ついた頃から、自分に違和感を感じていた。

 それはミラーマーズという国の中でも少数民族で、自然と儀式、伝統を重んじるようなそんな環境で育ってきたからかもしれない。


 私の民族では男を産む事こそ、その一族の地位向上へと繋がる……そんな偏った伝統がある。

 私のような女はやるべき事はまた別にある。



 でも、家族以外で一緒に過ごす同年代は大体が男だった。

 生物学的なことは分からないし、女が生まれたら隠す……など他にも悪意のある要因があるのかもしれないけれど、その一族は圧倒的に男女比が偏っていて、私はそういう風に育っていた。


 人間だって別の動物の中で育ったら自分がその動物だって勘違いするように、男に紛れて育ってきた私は幼い頃から自分は男だと錯覚し、男……に憧れていたんだと、今では思う。



「別に自分が女だという自覚がない訳じゃないわ……もちろん好きになるのは男性……そこは変わらない。」


 けど、親からは当然のように『女』としてのフェリスタ……を求められていた。けど、ここに来た今なら自分を出せる。


「なら、何が問題?」


 そりゃあ、ヴィクトリアにそれがわかるわけがない。私は私。この秘密は人に分かってもらえるようなものじゃないって、初めから知っている。


 でも、そんな憧れ……拗らせが生み出したのが私の中にあったもう一つの、男としての人格。ルースタだった。それは間違いない。

 彼は私から分離した人格。人格分離実験によって、私から分離した姿。


 私はそんなルースタに視線を送る。


「……ん?何か用?」


 ルースタはだるそうに答える。


 * * * * *


 私は、自分のことが分からない。

 彼は、一体私の何でどういう存在なのかと考えたら、わけがわからなくなる。


 私は男が好き。でも、私は男だって暗示して、思い込んだ上でそう考えている。つまり私の中では同性愛。変なことだって……私が異常な事は理解してる。

 ルースタっていう人格はあくまでも人格だから、そんな思考が人格分離によって無くなった訳じゃない。思考自体は変わらないから。


 けど……たまに思う。ならルースタはどっちなんだろう……って。

 気にする必要も無いかな。




 ……もう一つ、悩みがある。


 それは私が何が好きかって、分からないこと。

 私は女として過ごす事を求められてきた。だからこそ私の中では理性が働いているって思う事。


 私に違和感があったからって、本当に男になりたいわけではないし、男装したい訳じゃない。一人称だって、俺や僕……と言いたい訳じゃない。側から見たらどうかは知らないけど、それは似合わないって思い込んでるし、そこまで行ってしまうと私の中で何かが恥ずかしくなってしまう……きっとそう。この感情は、他の人には理解し難いものなのかもしれない。


 そこから、私は男性を見てしまう時に憧れと好きが混在してしまっている気がしている。


 短い髪にして、一人称は俺……化粧なんてせず服は楽に、堂々とズボンを履く……それがなりたい自分でも、昔から出来ないこととして押さえつけている。親からは望まれていないし、自分の中で恥ずかしさがあるから。そんな呪縛が私の中にあるからこそ、そういう人を見つけると……良いな。羨ましいなって思う私がいる。けどそれってきっとなりたい自分を投影してるだけの、ただの憧れなんじゃないか。って気づく時がある。



 私はフェイドとは友達の様に接する。それは私自身自分を男だって暗示しているかのようにして、接しているんだって思う。身なりも言動も、全て女なのは間違いない。でも自分の中では、自分の事を男のように考えながら、話をしたりする。だから、彼と男ノリで話す時の私は、最高に楽しい。そういう関わり方をし続けたい。

 彼の事は好きなのか、憧れなのかと言われたら、きっと分からなくて気が狂ってしまう。


 けど……彼はそうじゃない。当然のことだった。


 男女の友情は成立しない……って誰かは言うけど、私にとっては彼は同性として友情を考えている。


 けど、彼は私が仲良くすれば気があるんじゃ無いかって……そういうふうに思われてしまうし、当然、私のその個性を話していないし普通に勘違いされてしまう。


「……な、なんでそんなに俺に構うんだ……フェリスタ……」


 そんな彼の一言は、私にとって、物凄く違和感だった。考えてみれば、当然だよね。

 私は彼と、男として。同性として関わりを持ちたい。そんな潜在意識を持って関わっていたからこそ、本来なら男女として超えてはいけない壁を理解できていなかった。


「……そ、そうだよね……ごめん。」


 私は彼の元からそう言って離れた。


 ……私って、側から見たらかなり変わっていると思う。生まれた時から自分は女じゃないってそもそもに違和感があるトランスジェンダーや実際に性別を変えるような性同一性障害……じゃ無いけど、自分を異性に投影する。

 男に投影した上で、男のことが好き。ある意味それは私の中では同性が好き、っていう気分。


 個性って言われたらそうかもしれないし、色々と変に拗らせてる。直せるだろう、と言われたらそうかもしれないし、それで済まされるのかもしれない。



 側から見たら、ただの男が好きな女。でもそれは当然のことに過ぎない。

 けど、私はか弱い女として見られるのは嫌だし、レディーファーストされるのも嫌い。だって見た目とか女だとしても、私の中には数割男がいるんだから。


 私自身を俯瞰してみると、男らしいなっていう部分が多くある。例えば恋愛感情の持ち方、趣味嗜好とか。

 でも、女の部分も多くある。喋り好きなのは多分そっちだし……結局、自分の中で男女どちらも飼い慣らしているような、そんなイメージ……


 こんな私、全てを理解してもらえなければ……当然幸せになれないよね……


 * * * * *


 ルースタのお陰で、私は諦めがついた。


 実験が成功してから、私は死の瀬戸際に立って……霊体になってしまった。証?の力で復活させられたらしいけど、よく分からない。


 よく分からないけど、とりあえず実験は成功してルースタが生まれて、フェイドとルースタは仲良くなった。彼らの絆は物凄く強いと、見ていても思う。ただの男同士の友情っていう気がする。


 ルースタの中には、同性が好きという概念があるのかは分からない。でもきっと、フェイドとは仲良くやって行ける。


 そういう状況になったからこそ、私はもうフェイドとは距離を置くことにした。彼の元には、ちゃんとした友達ができたから。


 それに、同性の友達を作ってみよう。そう思えるようになった。


 私がこの施設に来た時、施設にいたのはマルス、ヴィクトリア、ユアル、それにフェイドだった。

ヴィクトリアやユアル……それにその後来たマーガレットとは、ルースタと分離してから仲良くなれた気がした。


 * * *


 私は、未だに自分のことを、詳しくは知らない。そう捉えたら、私はクエスチョンなんだって思う。LGBTqの、qの部分。


 私は、「女」を演じているただの嘘つきだと思う。でも、その嘘は必要な嘘。

 世間体やみんなから変な視線を送られないようにするための、嘘。


 公表してしまえば、同情されるだろうし、そういう目線で見られる。

 でもそれは嫌。絶対に嫌。

 だから、ヴィクトリアみたいな本当に一部を除いて、私は死ぬまでこの秘密を隠し切る……つもり。



 まあ、一応ここに文章として残してはいるんだけど……



 私はきっと、今世では幸せになれない。そんなことは薄々気づいてる。

 勘違いしてほしくないのは、嘘をついていても私がこの施設のみんなを友達として好きなことには変わりないし、たとえ離れ離れになっても絶対に忘れない。




「みんな、大好きだよ。」



……これって、『ココロ』のバグ……なのかな?

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