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【完結】神の器の追跡者  作者: Ryha
第二章 光が降り注ぐ日
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第006話 神器を携える将軍

「……ようこそ、忘れ去られた者たちの墓場へ。」


 エマと面識があるらしい、ガイという鳥人はそう言った。


「この人はダガランの反乱軍のガイさん。前この世界にきた時にお世話になった人!はいこれ、頼まれてた例の物!」


 エマはガイという鳥人の男にポケットから取り出した箱を渡す。テトラビアのペンダントだ。つまりは、このガイに渡航権を渡したという事だろう。

 しかし、ガイという鳥人はすごい見た目をしている。服は野生的で、身長は2メートルくらいあるだろうか。俺と20cm以上違う。そして顔つきもクチバシっぽい口に、鋭い目。腕の羽に体にはえた毛。まさに鳥人だった。


「ありがとう、それじゃあ前の取引通り、槍に関して手に入れた情報を教えるぜ。」

「お願いします!」


 どんな情報が手に入るのだろうか。

 ガイは俺たち2人を部屋の奥へと案内した。そこでは反乱軍の幹部と思われる人たちが地図を囲む様に座っていた。


「これは……?地図か。」


 俺は地図の前でそう言った。カーラが言っていた海翔と那都しか地名は知らないが、それらが載っているところから地図である事に間違いはない。


「いや、これは紙電晶だ。今はリアルタイムで戦況を映している。この通り今でも、那都では同志たちが戦っている。私はルー、ガイの姉だ。よろしく。」


 座っていた幹部の1人と思われる女性の鳥人、ルーがそう言った。


「よろしく。」

「よろしく~!」


 俺とエマはその紙電晶に映されている地図を覗き込む。

 その紙電晶の上では、小さい駒のような人がリアルタイムに戦っている様子が映し出されていた。

 民族的な見た目に反して、技術力は相当らしい。いや、寧ろ文化を守ると言った観点で、好んでこの姿をしているのかもしれない。


「紙電晶に興味があるか?」

「……はい。」


 俺はルーに聞かれ、答える。


「これは見ての通り画面だ。ここより発展してる国、ウーランで生まれた技術だ。欲しければ全て終わった後に、持ち帰るか?まあテトラビアじゃ電波とかの問題で使えないだろうが……」

「あはは、それは大丈夫です。」


 要するにテトラビアじゃゴミってことじゃねえか。



 しかし、その物体は画面だったのか。……可変に折り畳み・映すことができる、紙レベルに薄い板。地球でいう所のスマホをさらに進化させた様な技術か。

 テトラビアにたどり着いた昨日から自分の想像を超えるような技術を目の当たりにし過ぎて頭がいっぱいになる。


「……とりあえず、槍は今この国の那都にいる将軍が握っているということまで特定出来たぜ。エマが気にしてた時計の模様もバッチリあった。」


 紙電晶でその写真を表示するガイ。


「なら、間違いないね!」


 エマは俺の方を目で見て、ウインクをして合図する。


「そうみたいだな。」

「後は、毎回槍を持つ人が異なるという事、そしてそれは将軍の部下の護衛軍だということもわかった。そして昨夜、北にある北砂という都市が空から降る光によって壊滅した。信じ難いが民間人も含む全ての人が死に、都市自体も跡形もなく消えたらしい……行商人からのリークだが、恐らくそれがあの槍の力なのだろう……」


 初めは陽気なお兄さんの様だったが、後半ガイは涙を堪える様にそう説明していた。


「その光は人を追尾するとか、そんな噂すらある。あれはこの世のものとは思えない……」

ルーも追加で説明する。使われたら相当タチが悪そうだ。

「ありがとう!ガイさん。ルーさん。やっぱり、私の考え通り槍はテトラビアの神器だと思う。」

「……そうだ、エマが帰って来たら聞こうと思っていたんだ。前来た時も言っていたが、神器って何なんだ?」


 ガイがエマに聞く。

 寧ろ、エマは取引したのにその説明は前回していなかったのか。そっちの方が驚きだ。


「あー、えーっと、テトラビアに存在する古代の遺物っていうか……そんな感じの物。詳しくはわかってないんだよ……私と樹はここに調査しに来た訳だし!」

「なるほど……」


 エマはあたふたしながら手を振ってそう伝える。エマは考古学者の助手だとバレないように振る舞っているつもりなのかもしれない。

 それを聞いて考えるガイ。


「ところでエマ、お前が考古学者だって事は調べが付いてる。あの槍をテトラビアに持ち帰るつもりなんだろ?それなら、私たちに協力してくれないか?戦争に協力して、槍の使用を阻止して欲しい。」


 ルーが頼む。


「……バレちゃってたか!」

「はぁ……流石にわかる。それに前来た時に行った交換条件とは言え、ただ情報を与えて帰す訳にはいかない。ここまで戦況を教えたんだ。少なくとも戦争が終わるまでは我々の監視下にいてもらいたい。」


 他国の戦争に、しかもその道具に対して興味を持つ謎の少女。そういう姿にしかダガランの人からは見えないだろう。そして、持ち帰る気ならば協力しろというのは当然ではある。そして、それを相手にリークされたくも無いと言ったところか。


「……わかった。勿論!私は協力するよ!樹もだよね……?」


 エマは俺の顔を見つめる。

 戦争。覚悟はしていた筈なのだ。人が死ぬのはトラウマだが、それでも尚ここに来ることを決意した。その筈なのだ。

 だが俺顔から汗が落ちていく。俺は目の前で大切な人がいなくなるのが怖い。一生その檻に囚われ続けている。


「……大丈夫?」

「……ああ。大丈夫だ。俺も協力する。」


 俺は自分の意思に反して、そう言っていた。


 ただ、協力するも何も、相手の情報も自分の情報も知らないままじゃダメだろう。もしかしたら反乱軍こそが悪かもしれない。


 そう思ったのか、エマはガイに対して質問していた。


「戦争に関しては勿論協力したいけど!協力するんだから、まずはガイさん。この戦争について教えくれない?」

「えっと……」

「それについては俺から話をしよう。」


 話始めようとするガイに対して、1番の年配と思われる鳥人は立ち上がってそう言った。鳥人の中でも一際体格が良く傷も多い気がする。


「俺はオード。よろしく。」


 俺とエマは静かに頷く。



「昔の話だ。100年以上前、俺たちガラ族と今政権を握っているダン族はこのダガランっていう国を作った。」

「……それが、国名の由来か」


 俺は反応する。


「ああ、この国は二つの種族が協力し合って作ったんだ。当時この世界覇権国家だったウーランがこの地をせめてきた時、防衛するために協力し合ったのが起源だ。その結果今の覇権国家はここになった。だが、そんな平和は続かなかった。ダン族とガラ族は目元に赤い線があるかどうかが見た目の違いでありとても似ているが、交配出来ない。また勿論宗教もそれぞれ違う。本来交われる存在ではなかったんだ。」


 オードが言うとともに、地図が映っていた紙電晶にその様子のストーリーが浮かび上がる。何だろう。この国の人が作った歴史の解説動画か何かだろうか。


「なるほど……結局仲良くなれなかったのか。」


 共通の敵を倒す為、一時的に一致団結する。よくある事例か。


「そうだ。主に表面上、問題となっているのは政権。嘗ては与党がどちらになるか、つまり将軍が誰になるかによってこの国の雰囲気は大きく変わっていたが、もう100年以上ダン族の政権から変わっていない。勿論、テトラビアとの交流を始めたのもダン族だ。だがそれ以上に問題なのは水面下、ダン族によるガラ族へのイジメや人身売買。差別による事件が後を絶たなかった。そうして民族的に弾圧されていったガラ族は、その人数はもう1000人以下だ。今では子供を産めない劣等遺伝子を持つダン族と、世間にはそう言われている。もう俺らは歴史から忘れ去られていて、居場所が無いんだ。」

「……だから、ここは忘れられた者たちの墓場って……」


 エマが反応する……


 地球も元々は様々な猿人がいて、それを滅ぼしたのがホモ・サピエンスだと考える学者もいる。現在は一部の人種でのみネアンデルタール人などの遺伝子が残っている、などの話も聞く。種族の違いという壁は中々に重く争いは避けられないような、複雑な問題なのだろう。


「ガラ族反乱軍の博士の最新の研究によると、ダン族は元々平原で狩りをしていた肉食種からの進化、ガラ族は森で生活し、草食種だったと言われてる。憶測に過ぎないが、闘争本能というものが彼らは強かった。のかもしれない。」


 ルーは部屋に置かれた木彫りの駒の様な物を触りながらそう言った。

 この世界のチェスみたいなゲームかな。


「表向きには忘れ去られたがそれでも水面下で珍しいダン族、として差別を受け続けたガラ族だが、1ヶ月前それは大きく動き出した。」


「……ダン族があの槍を手に入れた。その瞬間、政策の方向性は異質な珍しいダン族、つまりはガラ族の撲滅に大きく動き出した……名目上彼らは不正な人身売買の撲滅とその被害者の保護というスローガンを使い、その現場を取り押さえる。しかし政府の目的は明らかにガラ族の滅亡だ。不正な人身売買の現場を襲って、ガラ族を保護する名目で殺すか幽閉している。今まで政府に捕まったガラ族とは1人も連絡を取れていない。理由は分からないがそうやって絶滅させられそうになっている。恐らく彼ら政府だけはガラ族を忘れていない。」


「また、将軍率いる政府は宗教を使って支持をさらに集めた。槍を聖書に登場する羽が折れた勇者の持つ槍として思わせている。そんなものは存在しないはずなのに。そんな状況を見かねて、槍を奪還する為、人権を得るために立ち上がったのが我らガラ族で構成されている反乱軍だ。」


 いい事をしていると言う名目で行われる民衆の洗脳。それに宗教との繋がりを強めた政府。そうなれば、元々数を減らしていたガラ族の政権はもう戻らないし、滅びへと歩むだけだろう。

 この戦争は起こるべくしてというか、誘導されて起こったようにも思える。


「これが、この国で起きた民族差別と戦争の原因だ。政策が急に変わった所から、恐らく槍は持つ人の人格を変える様な能力がある様にも思える。」


 オードはそう考察した。全ての映像を写し終えたのか、紙電晶は暗くなる。


「エマ、樹、お前達はこれを聞いてどうするべきだと考える……?攻め方でも、槍の能力についての考察でも良い。何でもいい。何か思いつく奇抜なアイデア、可能性とかはないか?」


 その質問に対し、俺は頭をフル回転させ考える。



「……うーん……槍についての考察は分からないが……攻め方ならダン族に変装して懐に入り込んで槍を押さえたりするとかがいいんじゃないか?」


 俺はそれしか言えなかった。下手に政府を守るような発言しても、彼らから批判を浴びるだけだ。俺は責められたくなかった。だから逃げたのだ。


「昨日北砂が落とされたのなら、北砂から槍が戻ってくるまでの間に那都を落とすとか?」


 エマはそう言った。確かに、それも手かも知れない。


「……それらは既に行われている。残念だ。テトラビア人なら何かしらの転機になるものを思いつくかと思ったが、やはり思い付かないか……」


 オードは少し期待外れといった目をして、その感情を見せる。


「まあ良い。取り敢えず俺たちは北砂の件を受け、足りなくなった人員を確保する為本部から那都への移動が求められている。今夜出る。戦闘、期待しているぞエマ、樹。」


 根はいい人なのだろう。だが、オードは少し怖く感じる。

 何というか、テトラビアに対して過度に期待しているといった感じか。テトラビアの事をよく知らないからこそ、という考えだろうか。

 俺なんか、絶対にオードよりも戦闘力は低い。


「まあオードはああ言う人だから、あんまり気にするなよ。」


 ガイは調子を戻せ、と言う感じに俺とエマの肩を叩く。


「ところで、エマも樹も何も武器を持っていないじゃないか。これから那都に反乱をしにいくのに、そんな装備じゃ死ぬぞ。」


 ルーが言う。昨日、エマから聞いた「死ぬよ」というその声が頭を過ぎる。

 一瞬デジャヴかと思った。いや事実だけど。


「……あっ。樹に服は教えたけど、武器防具の話するの忘れてた!」


 それ、めちゃくちゃ重要じゃないのか?エマさん……しっかりしてくれい。


「まあでも防具に関しては大丈夫、君のその服も私の服もある程度防弾だし、ある程度刃物も通らないような加工がされてるのを選んでる!一応全体重乗せるレベルで強く刃物通されたりでもしたら流石に無理ではあるんだけど……多分大丈夫。だから武器だけ!」


 すげー。何でもありじゃんこの服。エマさんありがとうー。あれ、これもう服が神器じゃね?とかそう言うツッコミが頭を過ぎる。


「武器がいるなら、あげるぜ。」


 ガイがこっちに来いと、親指で案内する。エマと俺は彼らの武器庫の部屋へと足を運ぶ。


「武器なら、この反乱軍の倉庫から好きに選んでいいぞ。勿論、対価はいらない。協力してくれるしな。」

「ありがとう!」


「ーーこれが多分樹には合ってる!」


 少し考え、エマが出した結論はナイフだった。


「私たちは直接槍を奪いにいくつもりだから、敵に悟られる様な装備は持てないからね~」

「ありがとう、エマ。」


 俺は短いナイフを懐にしまう。


 地図のあった大部屋に戻ると、そこには準備万端な反乱軍が揃っていた。


「ーー準備はいいか!!今夜那都へと向かう!まずは同志に合流し今後の活動から確認する。お前ら、死ぬなよ!生きてこの戦争を終えよう!!」


 オードはそう皆を奮い立たせた。それに呼応するように皆は掛け声を出した。


……その奮い立つ作戦会議の部屋の中で、ある人物は密かに笑っていた。

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