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【完結】神の器の追跡者  作者: Ryha
第七章 スべてのコトワり
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第071話 人格の違い

「私たちは神器を追跡する二人組、トラッカーだよ!!」


 その二人組に、私は救われました。


「……ありがとう、ございます。」

「感謝しなくて良い。俺たちは因果力のままにこの時代にやって来ただけだ。」


 ……因果力。私の仮説が正しければ、時間を飛ぶと生まれる力……ですがその実態は上位存在が操る力のはずです。上位存在が、赴くままに変えられる力……

 つまりこの人達は、未来か過去から来た、人達。


 であるならば、アルマード先生よりは信用出来ます。


「……トラッカーさん。私はこれから、どうすれば?」


 私は彼らを信用します。きっと、悪い人たちでは無い。少なくとも、私を助けてくれましたから。



「……ヴィクトリアの元に、エヴァースへと行け。奴はまだ、滅んでないから。」

「アルマード先生は、まだ死んでいないのですか……?」

「うん。刀が当たる瞬間にギリギリで瞬間移動をされた。だからまだ、生きてるよ!!」


「……そう、ですか……」


 私には見えませんでした。完全に消えたと思っていました。やはりトラッカーと名乗る仮面の彼らは……強い。



 * * *



 私は15年前にヴィクトリアとして、この世に生まれました。

 理由はわかりません。生まれた時からこの童話に登場する様なエルフの姿で、10年たった今もその姿に変化はありません。


 ですがタイタンに王女としていた時の、ニケとしての記憶の一部を、私は持っています。


 そして私にはマルスという義兄がいます。そんな兄さんとも、5年前のエヴァース被験隊派遣により別れてしまいました。


 そして此処は、エヴァースの大陸……


 私はオリンパスとタイタンにより作られた国、シャングリラの女王として日々を過ごしています。


 当時はまだ事の大きさを理解できていませんでしたが、今ならわかります。


 此処はアレスやタイタンの人々に利用された罪なき子供達が、奴隷の様に未知の星を開拓する為に送られた……そんな被害者の国。それこそがエヴァースであり、4つの国なのでしょう。


 此処には私が女王を務めるシャングリラ。

 アレスの国家ヴィケールの息……つまりアポロンの支配下である、最高指導者キーラが治める東の国クトニオス。

 アレスの国家エランズの息がかかる北の魚人の国ワータノリア。

 アレスの国家ミラーマーズの息がかかるフルーブレムという4つの国があります。


 クトニオス以外は、アレスの国家に属さない秘密組織にからの支援を受けた、よる被験隊という特殊な子供達を扱った降下部隊によって、開拓されました。それから普通の人々が移り住み、今があります。


 どれも、実体はただの植民地。私達に国家としての自由な発展は望まれていません。



 そして、10年前から覇権争いは続いています。


 それは私の元にニケが来てからも、変わりません。

 ですが彼女が来てからエヴァースの覇権争いは終わりへと、近づいています。



「……これは?」


 私は彼女の研究室へと赴きました。


「ヴィクトリアですか。これは知能神器一号機です。私が開発したシャングリラを守るための守護神器……の呪いを解明するため開発した新たな神器の形です。」


 そこには、液体の中に入った人……の形を模した機械がいました。

 その姿は正に普通の男……側から見たら機械には見えません。


 彼女の脳内は私には到底理解できません。天才の頭脳はわかりません。

 私は生まれた頃から魔法に興味を持ち、それ故に魔法の様な力を発揮するニケの発明品は私にとっても楽しみな物でした。


「……守護神器はあの4つですね。槍と、杖と、盾と、鉞の……」

「そう。その4つは人が使うと特呪によって死にます……例外としてトラッカーさんの刀は死なないのですが……。」


 ニケは此処に来た時から、トラッカーさんという二人組のことをよく話してくれます。

 その二人とは出会った事はないですが、ニケの研究に大きな影響を与えた人達なのでしょう。


 きっとその、死なない呪いを探すのがニケがやりたい事なのでしょう。


「……いつもありがとうございます。」


 ニケの研究は私たちの国をより強く、より豊かにします。それは他国を陥れるということに違いはありませんが、それでも、この憎き覇権争いの時代において、彼女の力は必要でした。

 私は彼女と友人という立場で、本当に良かったと安心します。


「ヴィクトリアも……お兄さんの件……大丈夫ですか?」


 ニケは私の心を心配してくれます。


 マルスお兄さんは敵になってしまいました。本望ではないことは想像できます。

 お兄さんは3年ほど前からフルーブレムの王族としてこの地へと来ました。元々私と同じ秘密組織の研究所で育ち、その後ミラーマーズに引き取られましたが、結局追放されたのでしょう。彼もまた、被験隊として被害者になってしまったという事です。


「大丈夫です。思うところはありますが……。」

「無理はしないでください。貴方は私であり、私は貴方です……。苦しみは共有してくださいね。」


 ニケはそう言って私の頬に手を添えます。

 ……彼女は天才でありながら、優しいです。それは私が羨ましいと思うほどに。

 その青い手は色と反対に暖かく、私の心にその温もりは記憶されていく様な感覚を感じます。


「……貴方は……私。」


 私はそう小さく呟くのでした。


 * * * *


 それは10年前のことでした。


「今日から俺がお前の兄さんな。よろしく。ヴィクトリア。」


 マルスというその童話で出てくるエルフのような耳を持つ、私と同じ種族の青年……はそう言いました。


「よろしくお願いします。お兄さん。」


 記憶にある限りそれこそが私が生まれて二度目くらいの出来事……私とお兄さんの出会いでした。勿論最初はニケとの出会いです。



「良いですか?貴方達は選ばれし子供達です。童話に出てくるエルフの様に、数千年生きることができる、選ばれし人達なのです。」


 私達はこの箱庭で……小さな施設で育てられました。

 一面、逃げ出すことができないような白い壁。そして注射や薬を飲ませられる日々……それが私たちでした。


 被験隊としてエヴァースに行くまでの間……それは続きました。


「私はイブ。よろしくね!」


 私たちの前に現れたそのエルフの少女は、イブと言いました。3人目の、施設の仲間でした。


「よろしくお願いします、イブさん。」


 イブは明るい子でした。


 最初はお兄さんと私……その後50人以上になるまで膨れ上がったその施設の子供達は、いつしか別の施設へと移されて行きました。


「行きましょうか。イブ。」


「イブさん……。」

「バイバイ、ヴィクちゃん!」


 一年くらいの仲でした。その時は突然、来てしまいました。

 イブさんは泣きながら、私たちの元を離れて行きました。


「……お兄さん。」

「遂に二人になってしまったな……」


 私たちは、また、初めと同じように二人になってしまいました。次は、おそらく私の番。何かしらの実験をさせられる。そんな覚悟をしていました。


 そんなある日でした。


「……被験体マルスとヴィクトリア……彼らはやはり特殊……」


 私はいつも通りトイレと私たちの生活する部屋……を行き来している時に、その話を聞いてしまいました。


「そうだな。エルフ族の人為的な作成は成功しているが……彼らほど完璧なのは未だ……できていないな。」

「ですね。被験体イブも中々よかったんですが……やはり出産の負荷には耐えられず崩壊してしまいましたね。」



「……やはり、本来存在するはずのない種族に心を分け与えるのは、コピーでは難しい……ですね。」

「そうだな。彼ら二人は人格分離実験による産物……マルスの片割れは死んでしまったが、ニケは未だ生存しているという噂も聞く。」


 ……人格分離実験ですか。

 そうですよね。


 その言葉を聞いた時、私の記憶は繋がりました。


 タイタンにいるときのニケの記憶があること、此処に来た時からしか私としての記憶がないこと……即ち私はニケの第二の人格ということでしょう。


 ニケから分離した私は、このエルフの身体へと入れられた……ということでしょうか。



「……そこにいるのは誰だ。」


「……え。」


 その瞬間、その部屋の扉は開きました。

 多分、私がいることに気がついたのでしょう。


「はぁ……ヴィクトリアか。」


 その研究者の男性は、私のことを見て安心します。


「……イブさんは、いったいどうしたんですか!?」

「……やはり聞かれていたか。」


 その男性は屈み、暗い顔を見せます。


「イブは、もうこの世にいない。君とマルスの細胞から心を取り出そうとした結果できた、君達の子供……であるイブは、その歪さ故……生殖することができず、負荷に耐えられず死んでしまったよ。」


 ……はい?

 私には意味が分かりませんでした。


「どういう……意味ですか。」

「此処は宝石の精霊族に対抗する為、エヴァースを開拓する被験隊を制作する為……耳長族から悠久に近しいほどの長い時を生きる童話の生物……エルフを作り出すための施設。」


 耳長族から……エルフを作り出す……施設……?

 よく見れば、その男性は耳長族です。私たちとは似て非なる存在……でした。


「それは……。」

「ごめん……マルスにも、ニケにも、ヴィクトリアにも悪かった……でも、これしかなかったんだ。」


 その男性は私の服を掴みながら、泣き始めました。


「……教えてください。全ての事を……」


 私はその研究員の男性を真剣に見つめました。



……私とニケは同じ存在、だったのです。

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