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【完結】神の器の追跡者  作者: Ryha
第二章 光が降り注ぐ日
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第005話 想像を超える異界

「……お母さん、お父さん、どこ?」


 灰が降る永遠の地の草原を私は歩く。

 その瞬間、私の目の前には光が発生しそれが収まると3人の人が現れた。

 私はそっと木陰に隠れる。


 一人は髪が黄色と白で羽根を持ちまるで天使のような雰囲気で槍を持つ男、もう一人は黒髪で赤と紫のオッドアイで猫のような耳と尻尾をもつ獣人……もう一人は白髪青目の聖女だった。


「……ここが。」

「ええ。ここが私の、故郷です。」


 その聖女は、そう言った。


 * * * * *


……はっ。


 私はその夢を見て目を覚ます。

 まだ夜中。樹は横で、すやすやと寝ている。


「……またこの夢……でも、やっぱり育ててくれたあの人は思い出せないな……」


 私はどこか悲しみを感じながら、また眠りについた。



 次の日、ようやく待ちに待った異世界への冒険が始まろうとしていた。まあとりあえず守護神器さえ手に入ればいいんだけど……と思いながら俺はエマと共に服屋に入る。


「まずは重力・気温あたりをその人個人に合わせて変化させるのが、この辺のオートエアー加工の服装!これとか樹に似合いそう!」


 エマの持ってきたのはただの服だった。


「……至って普通の服に見えるけど、こんなので効果があるの?」

「そうそう!見た目はこんなに普通でも……」


 エマはそう言って試着室に入る。


「この通り!じゃーん!服を着たら効果が現れるんだよ!」


 試着室から出てきたエマは紋章を見せて、そういった。

 確かに紋章の一覧に、加工:オートエアー・バリアブル・耐熱・防水……色々と追加されている。

 しかし、これから戦争中の国にいくとは到底思えない格好のエマ。試着だしコイツ、自分の着たい服きてるだろ。

 まあ、可愛いけど……


「お〜〜」


 そうは思いつつ、その姿に見惚れる。


 しかしこの紋章、細かく情報載ってるしわかりやすすぎる。まるで番号さえ分かればデータが手に入るマイナンバーとかと似てるな。あっちは不便だけど。エマの紋章を見ながらそう思う。


 「とりあえず樹の今の服装は、ダメだね!このテトラビアは多様性を認めてるからいいとしても、ダガランじゃ異質過ぎてダメダメだよ!」


 ダメダメか。そりゃあまあコンビニ帰りのちょっとした服装じゃダメだろうな。


「じゃあ、ダガランはどんなのがいいんだ?」



 待ってました、と言わんばかりに、エマはこう言った。


「まあダガランは一応戦争中とはいえ、ここと国交があるからオーセントに専門店もある!そこで買っても良いけど……」

「けど?」

「面倒だから、オススメはこのバリアブル加工っていうのが施されてる服だね!これは環境に合わせて服が自動で変形するって感じ!色も変わる!要するに超便利!!!」


 服を手に持ち、そう言うと同時に服を突き出してきた。


「……神器並の便利さじゃん。」

「まあね〜。すごいでしょ〜!」


「ふふふ」と笑う感じで偉そうにエマは言う。

 エマが開発した物でも何でもないのに、なぜそんなに偉そうなんだろう……


「これは魔法でも、神器の分析で作られた物でもなくてただの科学技術だからね!」


 科学技術も相当日本より進んでいるらしい。


「じゃあその、今手に持ってるオートエアー加工とバリアブル加工どっちも施されてるやつで頼む。」

「りょう〜かい!あと私もちょっとだけ選びたいから待っててね!一緒にお会計は済ませとくから、先に外出てていいよ〜!」


 カーラからもらったお金は現状分けてないし、エマに全て任せるか。と思い俺は店の外へと足を運んだ。


 そういえばエマの服装、ダガランから帰ってきた時も今の黒いドレスみたいなやつだったな。確か日本に行った時色とか色々変わってたっけ……あれもバリアブル加工なのかな。


「お待たせ〜!買いすぎちゃった!」


 声に振り返ると、そこには両手に服が入った紙袋を持つエマがいた。


 博士、やっぱりあなたの研究費、浪費されています。


「エマ、その荷物どうするんだよ……。」


 呆れた感じで聞き返す。


「大丈夫大丈夫、扉の近く普段カーラのいる事務室の所に有料貸し出し用のロッカーあるから、そこにしまっていくね!」


 ロッカーも博士の研究費、使われてますけど……それは必要経費、か。



「そうそう、ロッカーに来たのはもう一つ理由があって……」


 エマが取り出したのは小さな箱だった。


「情報と交換条件で、ペンダントを向こうの人にあげる約束しててね!」

「なるほど」


 前行った時に約束をしていたのか。案外エマは用意周到なのかもしれない。


「ペンダント、これがないと言語通じないし、呼吸できないし、戻って来れなくなるからね、落としちゃダメだよ!そのペンダント割と高いからね!!」


 エマは俺のペンダントを人差し指で触りながらそう言う。


「そう言えば言い忘れてた、ありがとう。」


 日本と思われる場所に行った時にもらったペンダント、それからずっと首にかけていたが気にしていなかった。


「助手なんだし当然だよ!まあ樹はカフェで、それが私のだって忘れたままダガラン行こうとしてたけどね……借りパクってやつ?」


「……ニヤリ」と言った感じで笑うエマ。


「……その件は、誠に申し訳ございません。」

「分かればよろしい!今後は感謝の意を気をつけたまえ!!」


 腹立つ。



「因みにこのペンダントの形、これがテトラビアの国旗に載ってるシンボルマーク!扉の所の広場の形にそっくりでしょ!これをつけてれば国交がある国ではそれなりの対応をして貰えるし、一定距離以下なら通信機になる!あとこれがテトラビアとの渡航権でもある!さっきも言ったけどそういう訳で、なくしたら帰れないからね!」

「めちゃくちゃ重要なペンダントだな……」


 ある意味、こんなただの人でも向こうの国では立派な外国人。国交がなくなるような真似もしたくないだろうし、向こうの人がそれなりの対応をするのもわかる。逆に付けてなかったらテトラビアという盾が使えなくなるし帰れなくなる、大変だ。


「それじゃあ、扉の予約の時間にもうすぐなるから、行こっか!」

「予約取ってくれてたんだ、ありがとう。」


 いつの間に取っていたのだろうか。朝起きてからは基本一緒にいたし、ここまでで取れるとしたら……ああ。買い物の時か。そんなことを考えながら、扉へと足を運んだ。



「ダガランは国交があるものの現在は戦争中の国。首都の那都(ナト)のアクセスポイントの鏡は戦地のため現在運用停止中です。少し離れますが海の街、海翔(カイショウ)へ扉をつなげておきました。くれぐれも無理なさらないように。」


 扉に着いた先でカーラがそう言った。

 ここに来てから西洋な雰囲気を感じていたが、ダガランという国は都市名からして東洋よりなのかもしれない。

 アクセスポイントの鏡、これはフルーブに行った時の鏡と同じなのだろう。

 日本の着いた先では水溜りから、フルーブの時と今回は鏡から……この扉は反射するようなところなら繋がるのかもしれない。扉だから扉も繋がる可能性はあるけど……


「いつもありがとう、カーラちゃん!それじゃあ、行ってくるね!」

「行ってきます。」


 俺はそうして初めての異界へと足を踏み入れた。

 着いた先は俺が予想していた東洋とは遠く離れた街並みだった。


 街、と表現するよりかはジャングルだ。しかも木々は緑ではなく紫色でそれぞれの木は橋で繋がっており集合住宅のように見える。ゲームとかアニメで見るようなツリーハウスか。

 地上にも同じように店や塔はあるが住居と思われる物の多くは木の上にある。まるで鳥の巣のようだ。太陽光は赤に近く、不思議な雰囲気を醸し出している。


「樹、驚いた?『ダガラン』は大空を翔る鳥、通称鳥人が住む国!」

「……ああ。」


 エマは空を指差してそう言った。

 想像以上に異世界だった。異世界イコール中世ヨーロッパで剣と魔法がある、みたいな固定観念とはかけ離れているが、まさに異世界だ。地球とはまったく違う文化を育んでいる。正に、予想なんか軽く超えていく、神秘的な世界だ。


「ここの人々はテトラビア的にいえば亜人!!翼を腕に持ってて!進化の過程で知性と脚力を手に入れて、空中と地上どちらの生態系でも頂点に立った、そんな人達!」


 彼らのコロニーは空中。高い木を利用してそこに建材で家を建てる。もし高い木がなければ高い塔を建設し、それの代わりにする。だから地上にも高い塔があって、そこに同じような住居がある。正に、人類の文明を客観視している気分だ。


 地球に居た鳥が人間のような文明力を手に入れたら……きっとこんな風に地上と空、どちらの性質も持つのではないだろうか。そんな想像を具現化したかのようだった。


「思い返してみれば確かに彼らはテトラビアに居たな。」


 初めてエマと出会った時にそんな人たちを見た気がする。


「国交あるから、そうかもね。さあ樹、いくよ!早く!」

「行くって、槍のところ?あてはあるのか?」


 急に手を引っ張り、自信満々に行くと言い出したエマに聞き返す。


「勿論!ここ、海翔には反乱軍の一つのアジトがあるからね!戦争って言っても、他国とじゃなくて内戦中。私は前海翔での戦いの場で槍を見かけたし、既に連絡済み!」


 そう手を引かれ、着いた先は高い木の上、ではなく。この国に来たテトラビア人の為と思われるレストランだった。


「いらっしゃいませ。」


 鳥人の店員は言う。


「……私、月城エマ。『ガラの栄光』」


 俺には聞こえなかったが、エマは店員に耳打ちで何かを言っていた。


「……関係者ですね。奥の部屋へどうぞ。」


 いわゆる秘密の言葉といったところか。前回の訪問で知ってたのかは分からないが、さっきの情報との取引といい、その用意周到さには関心する。意外と真面目だな。


「おお、約束通りきてくれたのかエマ。助かるぜ。そっちのお兄さんは?」


 扉を開けると陽気な鳥人がそう言ってきた。

 鳥人はエマの方をポンポンと叩く。


「ガイさん!また戻ってきたよ!彼は私の助手の樹!」

「よろしく。」


 ガイというらしいその鳥人に挨拶する。


「……ようこそ、忘れ去られた者たちの墓場へ。」


 ガイは手で俺たちを奥の部屋へと案内する。


……その羽のついた腕には歴戦の傷が残っていた。

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