第066話 ある絶望の解決策
「リエ……なんだ、その腕……」
まるでコンクリートの様に石化し、腐敗したリエの右腕。
「触れちゃダメだ!!」
リリーはその腕に触れようとするジャックを止める。
「で、でも、じゃあ、リリーはこのままリエを見殺しにしろって言うのか!!」
「……うん。このままだとリエは確実に死ぬ……けど、これがあれば、腕一本失うだけで……済む。」
リリーはその背中に背負っていた神器の模様がある刀を取り出す。
「それは、守護神器!?」
「うん。これは私達が新しく作った守護神器『因縁の刀』これなら、フィーネによって死ぬっていう未来を、運命を消し去レル!どうする?リエさん!」
リリーは運命を消し去るって……言った。
「……お願い……します……死ぬよりは……マシです。」
リエ痛みに耐えるように……弱った声でそう懇願する。
……その刹那、リエの右腕は肩あたりからリリーの刀により綺麗に切断された。
「……ううぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。」
リエは言葉にできないようなその苦しい声をあげた。
リリーはそのフィーネが付着した右腕を原型がなくなるほどその刀で粉々に切り裂いた。
多分、それほどやらないと腐敗していくのだろう。
……その後、リエの傷口は私の障壁の証の力で一時的に塞ぎ、今いる都市……ガートの薬局で包帯などを調達してきた。
「……ありがとうございます。リリーさん。あなたは私の恩人です。」
「いやぁ……ごめんね、腕を失わせてしまって……」
「大丈夫です。悪く思わないでください。」
「……ならよかった。」
リリーはリエの腕に包帯を巻きながら、そう話す。
「おい……安心している暇はなさそうだ。ここもそろそろヤバそうだ。」
ジャックはその空港の上、エランズ特有のドーム状の天井が、フィーネでやられ始めている様子を指差す。
最初ここにきた時、若干感じた雨が固まっている様子……もしかしたら、それはフィーネだったのかも。
「……もしかしたら……この嵐って、フィーネを世界中に広げている原因に今、なっているんじゃ……ないかな。」
「……確かに。フィーネは水すらも腐敗させる最悪の兵器だからね……保存にはインガニウムで作られた容器でも使わない行けないし、一度外に出たら周りの物質をどんどん飲み込んでそれ自体もフィーネへと変化させていく……それが現状……多分風にも乗るね。」
「なら今からでも……この嵐の原因の、杖を抜きに行ったほうがいいのかも……!!」
「……辞めたほうがいい。ここはミラーマーズから一番遠いエランズの都市。水をも、空気をも腐敗させるフィーネが、地下にあるヴィケールを侵食していないわけがない……だから、今すぐフィーネを消し去ることの方が重要だ!!」
ジャックは私をそう言って止める。
「……で、でも。」
私は悩む。
「……頭を冷やせ。そのゲートは必要だ。お前が死んだらそれこそフィーネをとめるための鐘の場所へも行けなくなるだろ。」
……その通り。ジャックの言う通りだ。
しかも、この嵐はアレス全土におよぶ超巨大な嵐だ。
つまり、ドーム状のガラス質な物質で覆われているエランズや地下にあるヴィケールは特例として、他の嵐の影響を受ける国々は……もう、既に滅んでいるのかもしれない。
ミカちゃんが命をかけて止めた、核戦争……その為の嵐は、フィーネを全世界へと運ぶ、最悪な、絶望へと繋がってしまったらしい。
「……ごめんね、ミカちゃん……私……貴方を救えなかった……」
「……エマ……」
私は泣きながらその場に崩れて、そう呟く。
その様子を見てリリーは心配する。
「おい、本当にまずいぞ!!」
「……!!」
もう、上空からドームを突き抜けて腐敗した雨が降り注ぎ始める。
「……そう、だよね、うん。今は先にとめることが重要だよね。」
ジャック達は焦る。今はもう、ミカちゃんに対して謝っている場合じゃないんだ……ヘイルさんの為にも、私がフィーネを止めないと!!!
私は自分を言い聞かせる。
私は樹の証言……火口の鐘をイメージしながら、荒びの鐘へのゲートを開く。
「ごめんみんな!さあ入って!!」
「ありがとうございます、エマさん。」
リエはそう言って私に対して笑う。
……ついた先は完全にマグマの中だった。
マグマの中に、唯一この鐘の周りだけ避ける様にして空間がある。反魔法結界と似た様なものかな。
「ここがオリンパス山の内部の、荒びの鐘か。」
「とんでもない場所にあるね……この世界だと!」
一歩間違えれば、ゲートの出る先はマグマだっただろう。
「じゃあ、この神器を使う為に命界へ行こう!!みんな、この鐘に手を当てて!!」
リリーは私とリエ、ジャックに対して目の前にある鐘の神器に触れる様に促す。
「わかった。これで、いいんだな?」
「うん!」
その刹那、私達4人は荒びの鐘の命界へと入り込んだ。
「……ここにやってくるとは、あなた達なかなかやりますね。」
「また会ったね、ニケさん。」
「なんのことでしょうか。私は覚えていません。」
私は笑うが、ニケは素っ気無い表情を見せた。
因果力が働くんだっけ……あれ?でもそう言えば私の記憶は消えてない気がする。
どうしてだろう。因果力が働くのは、特にその時間の人に対して、って言うことなのかもしれない。
「あなたはニケさん……って言うのか。」
ジャックが呟く。
「で、急に押し寄せた貴方達はなんの様でしょうか。」
リリーは私たちに手でここから先は任せて、という雰囲気を作る。
「これは超高周波数の波を発生させることができる荒びの鐘で、間違い無いよね!ニケさん。」
「ええ。そうです。その力を使って私はこのアレス全土の情報を入手していますから。」
「じゃあ、フィーネを崩壊させること、できるよね!?勿論!」
若干リリーは圧をかけるようにニケさんに迫っていく。
「……ええ。……ですがそこまで知っているなら、勿論知っていると思いますが神器を使えば呪いにかかることもわかりますよね。」
ニケはリリーに対して何者?と疑いの目を見せる。
「……大丈夫大丈夫。私はもう不死になっているし……それにあなた、呪うなんて言う嘘……つくんだね。私を騙そうだなんて、面白い人だね。」
……どう言うこと?
「呪いが……嘘なの?」
「うん。この空間がどうして火口にあったのか、その理由はすぐわかった。」
樹は、ニケがハシラビトは呪いを肩代わりする様な存在だって、そう言っていた。
「……あなたはハシラビトだけど呪いを必要としない。だって、呪わなくてもこの火口からエネルギーを入手できるから……!」
リリーは私にとって衝撃的な内容を言い放つ。ニケはそれに対して動じない。
「……もしかして呪いは、ハシラビトが……原因なの!?そうなの?リリー!」
そう言うことなのかな?
「うん。神器っていうのは、ハシラビト……つまり此処に宿ったココロが滅んで初めて本来の力を出せる様になる。つまり完成する。そして、ハシラビトがいない神器は特呪っていう特殊な呪いがかかる。その特呪は人を死に追いやる程のもの。」
「……特呪は、守護神器を使うと死ぬ理由……?」
守護神器……それは呪いで死ぬものだって言うことは分かっていたけどそう言うことだったんだ。
「そう。そしてハシラビトが存在している状態の神器……魔神器とも呼ぶんだけど、その状態の神器は特呪ほどの呪いはないけど……ハシラビト自身が、使用者を呪うことで人からエネルギーを奪って、ハシラビト自身は存在し続けれる。永遠に滅ぶことのない存在になれる!本当は呪いなんてかける必要はない。彼らの意思は半分くらいは神器の力に乗っ取られていると言ってもいい。ハシラビトは自分が生きる為に呪いをかけるっていう、そう言う宿命を持ってるから。」
……つまりハシラビトの存在によって、特呪からは解放されている。けど、ハシラビト自身を生かす為に、呪いが存在する……ってことかな。ハシラビトは生を求め続ける……そう言う狂った存在だって言うこと……そう言うふうにプログラムされているかのような、存在っていうことなんだ。
だとしたら、私にかかったこの子供を産めない呪い……それはファレノプシス自身の呪いなんだ。ファレノプシス自身が死ぬ事で呪いのない神器が完成するとはいえ、物理的に破損があったのに彼自身が鏡を持ち堪えさせてて最後の使用を聞いてきたっていうこと。ファレノプシス自身が死ぬと神器が完全に壊れるっていうあの状況だったからこそ、一番軽くて済むファレノプシスが弱めてくれた呪い……ってことだったのかな。
あの状況で、ファレノプシスはほぼ死にかけだったし、延命しようとする理由はないから。
それに対して、樹の不死は多分盃のハシラビトが望んだ呪い……そう言う事かな。きっとあの盃のハシラビトが生きたいという本能で樹を蝕んだっていう、そういう事かな。
「……よく知っていますね……猫の女。」
「勿論!!私はテトラビアの……神器の謎を全て知っているからね。」
「……なるほど。でしたら私の負けです。あなたの言う通り、私に呪いは必要ありません……いいでしょう。フィーネを消し去ります。」
ニケはそう、敗北を認めた。リリーに対して試してたんだ。あわよくばリリーに呪いをかけてエネルギーを取ろうとして、っていう行動かもしれない。
「じゃあお願いね!!ニケさん!!」
私達はニケさんに願う。
ニケは仕方がない……と言った嫌そうな表情を見せながら立ち上がり、命界にある鐘の元へと歩む。
「……それでは。発動します。」
その鐘は大きな音を立てて鳴った。滅んだこの星の、全ての生命を追悼するように。
その刹那、私達はまたマグマの中の荒びの鐘がある場所へと戻った。
「これで……フィーネは消えたのかな。」
「……多分消えたと思う。この鐘は星全土に音を聞かせることもできるくらいの力があるからね!」
リリーは立ち上がって、私のブローチに対して合図する。
「さあ。次は嵐を、止めに行こう!一応、フィーネが残ってる可能性を考えて不死の私が先に行くね!!」
「分かった。」
私はあの教会へとゲートを開く。先にリリーは行ってから、また戻ってきた。
「安全そうだよ!」
「よかった!!」
「フィーネはしっかり消えたみたいですね……。」
「それじゃあ、行こう!」
私とリエさん、ジャック、リリーは教会の地下へと進んだ。
その教会も、フィーネによってボロボロに崩れていた。まるで、5年後に見た景色とまんまだった。
その杖がある地下室には勿論腐敗したヘイルさんの死体らしき物があった。
「フィーネで腐敗した……ヘイルさん……」
「泣くな……リエ。ヘイルはしっかり戦ったんだろう。それはこっちの死体が物語っているだろう……」
「そうですね……私としたことが……。」
リエはその腐敗したヘイルさんを見て、そのイメージでは想像できないように泣く。
「……私達は、ヘイルさんの分も……アレス人の生き残りとして……しっかり生きましょう……ジャック……。」
「……そうだな。」
二人はそう決意した。
「さて、エマ。これを持ち帰るんでしょ?」
「うん!色々とありがとうね、リリー!!」
「それはこちらこそだよ……!!ってあ。そうか……この時間はまだ、あれだったね……。」
リリーは何やらよく分からないことを呟く。
どう言う意味だろう。まあ、いいか。
「んんっ!!それじゃあ、私はここで!!!」
「これからどうするの!?」
「ん?テトラピアに帰るんだよ〜。」
テトラピア……あの男の人……リンドウさんが来たところかな。
って言うことは、リリー……つまり未来の私はテトラピアに、いるんだ。
そんな未来は多分、テトラビアの侵略が終わった後の、平和な未来……そう言うことかな。
なんとなく、未来に対して希望が見えた気がした。
「あ、そうだ。忘れてた!この刀をこの世界の樹にあげてくる!」
「……え?」
「これがあれば、アポロンに勝つことができるからね!!あとは任せて、先テトラビアに帰ってていいからね、エマ!!」
リリーは「ニッ」と笑い私達の元を去る。
「……ありがとう。リリー!!」
私達だけじゃ無くて、樹まで助けてくれるんだ……。
「これからどうするんだ??エマ。」
ジャックとリエは私の方を見つめる。
「……そうだね。今樹が戦っているアポロンに負けたら、強烈な太陽風……エネルギー照射でアレスは確実に滅びる……そうじゃ無くても、植物も動物もいなくなったこの星で……今後は空気も薄くなってくだろうし、二人だけ生き残るなんて多分不可能。だから、おいでよ。テトラビアに。」
テトラビアに行くだけなら、同行で行ける。
「いいのか。」
「うん。」
私達はテトラビアからのアクセスポイントにできるほどの大きさのガラスや扉を探すが……結局見つからず、5年後に来た時と同じように北極に残る氷の反射を使って帰還申請を出し、3人で5年後のテトラビアへと帰還した。リリーと樹を、私は信じている。
……こうして、その赤色に輝く星は文明の跡も生物の跡も殆ど腐敗し、完全に死んだのだった。