第065話 ある救援の追跡者
「……そうか。じゃあ、こういうのはどうだ?」
トライドと言うらしいその小型飛行機の中で、私はジャックにフィーネを止める為に未来に戻る選択肢はないと、伝えた。そのはずだった。
「どういうの?」
「未来から来たのなら、テトラビアに帰るように未来に帰還申請が出せるわけだろ?そうじゃなきゃ帰れないだろうし。ならば未来に対して連絡を取ることはできるんじゃないか?」
「……なるほど。扉をわざわざここに開いてもらうんじゃなくて、直接……通話すればいいんだ!!天才じゃん!!」
私は興奮しながら前の座席に座って運転するジャックの肩を叩く。
「……おいおい危ないぞ!!」
「ああ、ごめんごめん。」
「で、テトラビアからインガニウムを持って来れそうな……フィーネを消せそうな人はいるか……?」
「……うーん。ヴィクトリアはハシラビトだし……メルトは……仕事あるし……。」
「……まあ、そんな都合良くいるわけはないか。」
「うん。」
テトラビアからの救援を求めたところで、役に立てそうな知り合いは見つからない……
オーランを呼んだところで……きっともうインガニウムは持ってない。
「なら別に、テトラビアの人だけっていう事はないんじゃないか?連絡取るだけなら、受信できるものがあればいいんだろ?多分。」
「……そっか。」
なら……ウプシロンっていう手もある……けど流石にそれは無理かな。
そんな時、私は手に持っていたそのテトラピアへのペンダント……山南リンドウが残したそのペンダントを見て閃く。
……リリー達。別世界の私達!!?それなら、インガニウムを持ってる可能性もある!!
「居た!!頼めそうな人!!」
「お、オッケー!!」
私は早速そのペンダントを使ってリリーに連絡を取る。
「インガニウムから出来たフィーネっていう物質を、解毒できる方法ってないかな……!!」
「……あるよ。勿論。」
「お!!最高だね!!私!!」
私のその通話に対してジャックはなんだコイツ……と言った哀れみの目を見せる。
私たちの乗るトライドはエランズの空港へと着陸した。
着陸する直前……雨が何やら氷のような粒になっている気がしたが……気にせず着陸した。
エランズの街を覆うドーム状の物は飛行機を乗せる瞬間だけ開くようにして、内部には嵐の影響は一切無かった。
「で、来たけど……。どう言う状況?」
「来てくれてありがとう、リリー!今、樹はアポロンと戦ってる!私達は、発動した兵器……フィーネを止めたいの!!」
「……なるほどね。その歴史は私達も通ったから、分かる!フィーネは私たちも止めた。エネルギー照射……太陽風は止めることができなかったけど……。」
私達が空港に来た頃に、リリーもそこに到着していた。
「で、具体的にどうやってフィーネを止めるんだ?」
ジャックはそのヘルメットを外しながらリリーに問う。
「方法は一つだけ。でも多分私じゃないと出来ない。死ぬから。」
「……リリーもしかして、不死になったの?」
私はそうリリーに問いかける。確かに、リリーの姿からは前会った時とは明らかに時間の経過を感じる。
「うんちょっと色々あってね。でフィーネを止める方法は一つ。超高周波数の波によって自然とフィーネは崩壊するっていう特徴がある。アレス全土にそんな波を起こせるものがあれば、解毒出来るわけ。つまり……」
「荒びの鐘……かな。」
私はそう答える。ニケが星全体を聞くことができたならば、逆もできるんじゃないのという話。
「正解!!」
「鐘?」
「そう、『荒びの鐘』の力があれば、フィーネは崩壊する。ただもうフィーネは五割くらいこの星を蝕んでいる時間だと……思う。私の世界の時と変わらなければの話ならね。」
もう、五割も……
「私の世界って……どう言う意味だ?」
ジャックは当然の質問を投げかける。
「ああ説明してなかったね。リリーは別の世界の、未来の私なの!!」
「えええ!!?同一人物!!?そんな風には見えないけど。」
「本当だよ。私は猫と魔族のハーフ。こっちの私……エマはドラゴンと魔族のハーフだった、今は人間になってるけどね。」
私はリリーの側に行ってジャックにそう説明する。
「……そう、だったのか。にしても世界変わるだけで猫かドラゴンかが変わるって……相当違うけど……」
それはそう。その通り。
「まあね……別世界と言っても、だいぶ違う歴史を歩んでるからね!」
「うんうん。」
私は頷く。
「で、この世界の『荒びの鐘』はどこにあるの??私の世界なら、ティールタワーっていうところにあるはずなんだけど……」
「ティールタワーって、ミラーマーズ南方の山脈にある国、ルートレーラーにある、世界一のタワーか。」
ジャックが答える……また知らない国だ。
「うん。そこに私たちの世界だとあった。」
「……そんな鐘の話は聞いたことがないな。行ってみるか。そこしかあて無さ……」
「いや、鐘ならあそこにあるよ。オリンパス。」
私はジャックの言葉を遮って遠くに霞むオリンパスを指差しながら答える。
「オリンパスの、どこにあるの?」
「えっと、5年後の話ではあるんだけど……火口内部に……。」
タワーの上とは訳が違う。相当行きにくい場所にその鐘はある……からこそ若干言い出しにくさを感じた。
「じゃあ……そこに行こうか!」
「無理だろ……あの火山、もういつ噴火するかわからないって言われているし、そもそも今からじゃ間に合うわけ……」
リリーに対してジャックはそう諦めさせる……そんなジャックの口を、私は指で抑える。
「大丈夫。このブローチがあれば、一瞬で移動できるから!」
私は拾ったブローチを見せつけながらそう言う。
「そっかそれ、『場所の証』ね。手に入れてたんだ!」
「うん。」
リリーはこのことも知っていた。これ、場所の証って言ったんだ。
私はそのブローチを持ち上げて見つめる。
「なら、話は早いね。なんならその鐘のところに直接行けるかもね。」
私は樹が言っていた話を思い出す……
確か、鐘の周りは安全な場所があるとか……ないとか。
「確か……火口とはいえ、安全な場所があったって樹が言ってた……はずだから、多分いける!」
「あー。反魔法結界みたいな感じね。じゃあ、早速行こうか!」
「……待ってくれ、その前に、リエに話をしておかないといけない。」
……忘れてた。
「そっか、エランズに来たって言うのもリエさんに連絡するためだった……ね。」
「そうだ。だから、先にその証でリエのところに連れてってくれ。」
「わかった!場所は??」
「多分、ここだ。」
ジャックは携帯電話のようなもので地図を示す。そこは大陸付近……即ちミラーマーズとの国境線沿いの海基地だった。
私は提示されたところをイメージしながら、リエさんのところへ行けるゲートを開く。
無事、開くことができた。
「……リエ、話がある。」
「なんですか?連絡はあの眼鏡でと言ったではないですか?」
ゲートを潜った先でジャックはすぐにリエに相談する。
この場所は……基地。
水中に漂う、変わった基地だ。魚人の知恵が入ったエランズらしい基地。
その内部は、テトラビアにいたときに創作物で見たことがあるような、大きな画面に対して複数の人が作戦を指示する場所……そんな場所だった。
「状況が変わったんだ。全てを腐敗させる兵器、フィーネがミラーマーズで使われた!!それで機器も壊れた。前線は全滅しているはずだ!!全てを無にする様な、最悪の兵器だぞ!!!」
「……な、そんな物が……。司令!聞きましたか!?」
リエさんと面識があるらしいエランズの軍の司令らしき人に、リエは視線を送る。司令は完全な魚人だった。
「ああ、聞こえた。なるほど……数時間前から急に最前線で戦う人達と取れなくなったとは思っていたが……派遣した調査部隊も応答なし……電波に関する攻撃だと推測していたが……そう言うことか……クソ野郎!!」
その指令は壁を叩きながら悔しがる……
「……な、フィーネが……数時間前に既に使われて……いただと!?」
その基地の中である男は小さくそう漏らした……
「おい、そこのお前、聞こえているぞ。フィーネのことを……知っているのか!?」
「え?ひぃ……お、お許しを。私は何も知りません。」
その男はわかりやすすぎる嘘をつく。
「……本当のことを言えさもないと撃つぞ。」
「……ひぃっ。分かりましたすみません……私は翠教のスパイ……でも、こんなに早くフィーネを使うなんて、知らなかった。私も被害者だ!!」
その男は逃げる様にしながらそう言い放つ。
「貴様か……前々から怪しいとは思っていたが……まさか貴様が、リエの言っていた邪教のスパイだったとは……。他にも奴らの関係者がいるはずだ。探し出せ。」
まあ……そのリエも神山教のスパイ……なんなら戦争をふっかけた本人……なんだけどね。
と言うよりかは、神山教はエランズとミラーマーズの実権を握っているって言っていた気もする……つまりは元からこの人たちは神山教の味方?なのかもしれない。だとしたらこの組織、相当腐敗しているわけではあるけど……私達が何者か聞かれない時点で……察しっていう感じかな。
多分、ジャックが前電話していたのはこの司令……かな。
「……お許しを、お許しを……私はただ、神に選ばれた人間。アルテミスへ行く存在なんだ。救われるべき、存在なんだ……!!」
その男は逃走しようと、その基地の入り口へとしれっと移動していた。
その瞬間だった。
「……うわぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
基地の入り口の方向で男の悲鳴が聞こえてきた。
「何事だ……!!」
司令がその方向を見ると同時に、その基地の壁やガラスのような透明な板は爆発の様な轟音と共に、膨らみ、コンクリートの様になって崩壊していき、水が入り込み始める。
「フィーネこれがフィーネだよ!!!まずい!!どこでもいいから、さっきの場所でいいから、今すぐゲートを開いて!!エマ!!!!」
リリーは迫真の表情で私を見つめる。
私はすぐさまゲートを開き、私とリリーはすぐ入る。
「早くここを通るんだ!!リエ!!」
ジャックは入りながら叫び、リエに対してゲートの中から右手を伸ばす。
「……司令!!」
リエは瓦礫に付着したフィーネから感染した司令の無残な姿を見て、その顔に右手でふれ……深刻な表情を見せていた。彼女にとっては思い入れのある、大切な人だったのかもしれない。
「早く!!!!」
リエは左手でジャックの手を握り……そのままゲートの中へと入っていった。
しかし、リエのその右手は既に、フィーネによって腐敗が始まっていた。
……フィーネの地獄は、想像以上だった。