第063話 自分......のココロ
「……こんなところで死んでちゃ駄目だよ。相棒!」
その声は薄い意識の中で鮮明に響く。
「……ん。」
俺はようやく起き上がる。
視界のぼやけがだんだんととれ始める……
「……エマ……か。」
俺は声だけを頼りに、未だぼやける視界の中でエマが駆けつけてくれたのだと思う。
「……うん。エマだよ。こんな所でやられてちゃ駄目だからね!!」
俺の視界が鮮明になった時……『エマ』はそこにいた。
「……リリーじゃん!!!!」
俺は驚く。
服は貴族のような服装になっている。
それでも単発の黒髪、猫耳と尻尾、赤色と……『未来の証』の紫色のオッドアイは健在だった。
「おはよう!!この世界の相棒!!助けに来たよ!!」
リリーは元気よくそう言った。
「……どうして?どうしてリリーが助けに来てくれたんだ。」
「エマがね……この世界の私が呼んでくれたんだよ!」
「……エマが?」
「うん。フィーネを消し去って欲しいってね!」
「……フィーネを消し去るなんて出来たのか?いや、出来たからこそ生きているのか。」
フィーネが5年後になかった理由は、リリーが助けてくれるっていう歴史が、因果力があったのだろう。
「うん。これ……」
リリーは俺に神器と同じ時計のような模様を持つ刀を手渡す。
「これは?」
「これは『因縁の刀』運命の斎……の力を模して作られた、樹の心が宿った私たちの新しい守護神器!!これを君にあげる!!」
因縁の刀……運命の斎の力……。
「運命の斎って……。アイツの……俺の。」
「うん。私の世界の貴方……テトラビアに母神器として、宿ることを選んだ。」
やっぱり、そうなのか。
「……敵は?侵略は阻止できたのか?」
「うん。でも、テトラビアにいた人は……もう、殺されちゃった……」
リリーは悲しそうな目で見つめる。
「……そうか。」
「でも、平気だよ。私が新しく女王になって、テトラビアの地を復興させたから!!」
……だからこそ、そんな豪華な服装を……。
リリーは強がっているんだ……きっとそう。
宿った俺はきっと、ヴィクトリアと同じ。ただのハシラビトと化して……リリーはひとりぼっち。だからこそ人を集めて新しい国を作る。それが……その並行世界なんだ。
「……悲しい顔しないで!私は大丈夫!この世界の樹にそんな顔をされたくないから、ここに来たわけだし!!」
リリーはニコッと笑う。その顔はやっぱりエマそのもの。
「この『因縁の刀』これは因果力に打ち勝つ力がある。斎の能力……運命を断ち切る力をコピーしたような感じ!」
「……つまり、これがあれば、アポロンを倒せる……と。」
「まあ、そんな感じだね。ただ、この『因縁の刀』は歴史を変える力であって、並行世界を作る力じゃない。」
「どういう意味だ??」
「うーんと、世界は必ず1本の道しか生まれない!並行世界って、分離している様で分離している訳じゃないの。世界の始まりから、並行になる数だけ最初から存在している。だからこそ、この世界の行く末を変えないために、因果力っていうものが存在する。因果力がなければ過去が変わって、分岐するからね……」
「なるほど……。」
「で、この刀の力は因果力に勝つとはいえ、分岐させる力じゃない!未来を変える力!」
「……つまり、これを使えば世界は常に同じ世界で並行世界として分岐する事はなくて、未来が完全に変わるっていう……ことか。」
「そういうこと〜!!」
なら、これを使ってアポロンを滅ぼせば、もう、テトラビアを襲う未来は無くなる……そうすれば、今のリリーみたいに、この世界のエマが悲しむ事も、無くなる……。
「じゃあ、これでアポロンを倒せばいいんだな?そうすれば、みんなが救われる……と。」
「まあね、でも、勘違いしちゃ駄目だよ。アポロンは敵でも、テトラビアを襲う敵はまた別だからね!」
「……は?」
「あ、知らなかったか。超文明ロストリア。それこそがテトラビアを襲う侵略者!」
「……ロスト……リア。」
最初からテトラビアを襲うのは、アポロンじゃなかったっていうのか……。
「そう。ロストリア……。テトラビアってそもそもエヴァースに存在する文明なんだけど、エヴァースは超強力な結界で守られて、外敵は直接入り込めない……それはアポロンでも、フィーネでも然り。つまり?ロストリアは?」
「……内部から……扉からやってくる敵……ってことか。」
「正解!」
扉からやってくる侵略者に対抗する為に……俺たちは守護神器を集めていた。ということか。
「エヴァース……の結界って、一体なんなんだ?そんな強力な……ものが?」
「……私は知ってるけど……それについては自分の目で確かめた方がいいよ。」
リリーは徐に立ち上がり、そのまま星空に浮かぶエヴァースを指差しながら言う。
「……自分でって……どうやって。」
「過去に行く扉の力と、因縁の刀があれば、もうどうにだってなるよ!勿論悪い未来になる可能性もゼロではないけど……。」
「つまり、5000年前の過去に行ってみろ。っていうことか。」
「そう。そこに行けば、全てがわかる……。全てが、繋がる……。」
「でも、最後の守護神器残っているだろ……。」
「そんなもの、因縁の刀でテトラビアに残し続ける歴史に変えてしまえばいいんじゃない?まあ、その神器が持ち出されることで起こる未来と、持ち出されない未来どちらが大切かをしっかり吟味する必要はあるけど……。」
そもそも、守護神器を持ち出さない……か。
ダリの様な扉の神子の私欲や、グレートドーンとの友好の証。そんな感じで守護神器は持ち出された……。
杖はきっとその時代にアポロンが盗んだって所……
残り一つも、きっとそうか。
「なるほどな……ありがとうリリー。」
「頑張ってね……!応援してるよ!!相棒!!」
「ああ。きっと救ってみせる。」
俺は決心する。
「そういえば、この世界のエマは大丈夫??」
「あ、大丈夫だよ!杖を回収して、先にテトラビアに帰ったと思う!」
「……そうか。わかった。ありがとう。」
「……それじゃあ、私は帰ろうかな!!」
「最後に一ついいか??」
「なんでもどうぞ。」
「俺を、アポロンの所へ連れて行ってくれ。」
「あ、忘れてた。そうだよね、もうアポロンはきっとアルテミスにいるし……いいよ。完全体になった……扉の力で連れて行ってあげる!じゃあ、一旦行こうか!!私の新たな国、テトラピアに!!」
テトラピア……!?
「今……なんて?」
「ん?テトラピア!私が新しくテトラビアの地で復興させた、新しい国だよ。まだ人は少ないけどね……」
リリーは照れを隠すように言う。
……そう言う事だったのか。
テトラピア……それは侵略の後の未来で俺がきっと居ないところで……エマが新しく作る、国の名前なんだ。
リンドウさん……あの剣士はきっとそこから来たんだ。
全てが繋がった。
……未来を襲う敵も、その後にできる国も、俺の役目も……。
「行くよ!!」
「……ああ。ごめん。」
リリーは何もない所に扉を開いていた。それこそがきっと全ての祭壇が埋まった扉の力……
俺は急ぐ様にして……その扉の中へと入った。
「着いたよ、ここがテトラピア!!」
リリーと共に来た場所はテトラビアそのもの……いや。違う。
街は復興途中……で、人々は働いている様子がわかる。
「いい街でしょ??」
リリーは振り向きながら、その黒い髪の毛を風で靡かせながらそう俺に問う。
「ああ。これが、並行世界なんだな。」
「うん!私たちの世界!」
……俺は辺りを見渡す。
もし本当にここがテトラピアならば……あの男が、いるかもしれないから。
「いた!」
俺は彼、を見つけて興奮気味になる。
「……いたって、誰が?」
「いや、なんでもない……え?」
次の瞬間、俺はその彼の……リンドウの横にいた子を見て思考が停止した……。
「……どうして……いや、この世界だから……生きているのか。」
「どうしたの?樹??」
リリーは心配そうな目で俺を見る。
……だって、そこに居たのは間違いなく、ミカだったから。