第062話 綺麗......のココロ
「一体、何が起こった。俺たちが戦っているこの下で、いったい何が起こった!!」
緑色と青色、豊かな自然に溢れていた惑星、アレスは赤い土に覆われる惑星へと変貌していた。
まるで火星のよう。そんな色に染まっている。
あれがオリンパス山で……あそこがエランズか。といった情報は少し分かるくらい。
「フィーネだ。全てを無に返す最強の兵器。全てが死に、全ての水がなくなり、住む事も何もできなくなる最強の兵器。それを各国を利用しばら撒いた。その結果だ。」
「……これこそ、人の言葉で言えば、美しいであろう?」
奴は手を広げながらそう言い放つ。
狂っている。美しい訳がない。美しいと思う感情すら、きっと奴は理解することができないんだ。
「そんな物……聞いてないぞ。」
「翠教のトップクラスの機密事項だ。知っている人間など数少ない。」
終わった。太陽風のエネルギー照射それこそが核爆発に継ぐただ一つの最悪な事態だと思っていた。しかも、この状況ですらまだエネルギー照射は行われると。もはや何がしたいのか、意味がわからない。
俺たちが戦っている間に、嵐は過ぎ去り、戦争は終わり、フィーネという兵器によって全てが滅んでしまったらしい。ヘイルも手にすることができなかった情報だ。それに、5年後のアルトポリスの図書館にはただの太陽風と伝わる、存在すら隠されるようなそんな機密事項。
ただ、5年後に来た時、エマやミカが過ごすことが出来たと言う事はきっと何かしらの解除方法、解毒方法がある……と言う事だろうか。そうでなければおかしい。
じゃあ俺のやるべきことは二つか。
こいつを止めることと、フィーネを消し去ること。それこそが役目か。
「エマ……。」
嵐が過ぎたということは、エマがきっと杖を抜いて持ち帰ったって言う事。エマ側から連絡が来ないのはそもそも俺がいる場所と離れ過ぎて通信もできないし、居場所がわからないからに違いない。
つまり、エマはやれるだけのことをやってくれた……んだと思われる。
じゃあ、俺もコイツを倒して、テトラビア侵略をなくせるほどの未来に変える。
そしてフィーネもついでに消し去る。因果力なんて、超えてやる!!
「絶対に、許さない!!!」
俺は本気でアポロンに襲いかかる。
「無駄だ。力が入り過ぎた剣には、我は滅せん。」
「それは囮だ。」
俺はニヤッと笑い後ろに視線を送る。
「何っ!?」
俺は剣で斬りかかると見せかけて『重力の証』で高速に加速させたセレスチウムの結晶を奴にぶつける。
勿論10個。こんな使いやすい道具を使わない手はない。
奴を大小様々な結晶の礫が襲う。
「……そんな手を使うとは意外だな。だが、我は滅びぬ。」
結晶が通り過ぎ穴だらけになったやつの体はまた、光によって再生していく。
「……因果力か。本当に厄介だな。」
「そう。貴様は未来から来たのであろう?我に負けるというそう決まった未来から。だからこそ、我は絶対に負けない。貴様も分かっている筈だ。こんな争い、何も産まぬ。」
「……そんな事は分かってる。それでも、これが俺の戦いだ!」
俺は叫ぶ。運命なんて、信じたくない。
「運命に抗おうとするその考え、そのココロ。やはり我には理解できぬ。貴様に残された道は、死のみ。この死の大地に落ち、フィーネで死ぬが良い!!」
「……お前をここで止めて、エヴァースヘは行かせない!!!」
もはや俺の目的は個人的なものへと化していた。
ヘイルと約束した通り、アポロンに打撃を与えられたらいい。それが目的だった。けど、状況がもはや違う。このアポロンを倒さないと、確実に今度はテトラビアが滅ぶ。そんな運命はいやだ。守護神器なしで倒せるなら倒せるに越した事はない。
あと、きっと最後の敵である奴と戦って……再び交えるはずの最終決戦に備えて今の内に予行練習しておきたい。という気分もある。
「……エヴァースか。やはり貴様からはエヴァースの匂いがする。」
「……どう言うことだ?」
「5000年もの間、嗅ぐ事がなかった匂いだ。127回ものヴィケール軍の降下作戦や、衛生アルテミスからの侵略作戦を経てしても感じることが無かった匂い。そんなエヴァースからの、匂いだ。」
「……え?」
どう言うことだ?5000年もの間、エヴァース、いやテトラビアをコイツは侵略しようとして失敗しているとでも言うのか?だとしたら、テトラビアを襲う本当の敵は……アポロンじゃない……?いや、そんな事はないか。
俺は呆然とした表情になっているだろうか。
「エヴァースの匂いを発しておきながら、何も知らないのか?」
「何のことだ。」
「エヴァースは原生生物の楽園。知的な生命体など基本存在しなかった、アレスとタイタン、ヘリオスが植民地にした、そんな惑星だ。」
「ニケが言っていたな……」
「ああ。キーラが最高指導者の頃だ。ある日、エヴァースは結界により閉ざされ、キーラはエヴァース内部に幽閉され、我が最高指導者になった。それ以来エヴァースとの接触はできていない。そんな感じる事のなかった内部の匂いが、5000年ぶりに、今こうして感じられる。」
そんな結界が……エヴァースを守っているのか。
「つまり、その言い方だとお前のこの惑星系の全ての生命を滅ぼすって言うのは、5000年かけても出来なかったって事か。」
俺は煽るように笑いながら言い返す。
相手は感情を持たない奴。煽ったところで変わりはないが、少しでも強気で居るべきか。
つまり、3000年以上エヴァースを狙っていたが、結局滅ぼせなかったと言うところか。で、多分その結界がなくなる日が近い……ってことか。そういう事なんだろ、ヴィクトリア。
「……少しお喋りが過ぎたか。」
アポロンは考えるような表情を見せる。
「……因みに、フィーネが出来た以上、アレスは用済みだ。フィーネがあればエヴァースの結界は破壊できる。そうすれば、我の目的は達成可能だ。貴様のような匂いを堪能できるな。」
違った。フィーネでぶっ壊せるのか……
「……だから、フィーネができるまでの数千年間、アレスを利用していた……と。」
「そうだ。ヴィケールなんて、役割が過ぎ去れば滅んでしまえば良い。」
利用していたものすら、そうやって滅ぼす。
なら、やっぱり次に来る脅威はこいつ……なのか?
でも5年たっても来ていない、猶予がある理由もまた分からない。
「……我には理解不能だが、人々の言葉で言えば、綺麗と言うのだろう?」
奴は自分の頭上、星空の中に浮かぶ一際大きい光……ある惑星をその槍のような光で示す。
上を見ろ……と言っているのだろうか。俺はそれに合わせて上を見る。
「……もしかしてあれが、エヴァースなのか。」
「そうだ。」
流石に距離があってとても小さい。地球から見る月よりも小さい。そのくらい遠い。
「そんなエヴァースの匂いから獣臭さをとったもの……が貴様からしている。まるでエヴァース出身の様な。一体どう言うことだ?教えて欲しい。」
そんなものは俺だって知りたいさ。
「さあな。エヴァースの国、テトラビアにいたからだろうな。」
「……うむ。そうか。その程度だろうな。」
どこか納得できないような声を響かせる。感情なんてないはずなのに。
「すまない、我らは争いの最中であったな。話が逸れたな。まだ戦うか?」
「勿論だ。」
「なら、再開といこう。」
俺とそのアポロンは再び剣と光を交える。
ーーー
またそれから何時間が経っただろうか。既に滅んだアレスは気がついた段階で恐らくもう保つことが不可能だった。だから今やるべきことはエネルギー照射を遅らせる事。そっちが優先な気がしたから俺はずっと奴に対抗する。最早意地……そんな感じだ。
俺は奴に対して突進し、そのまま剣と脚を使って奴を翻弄していく……
……しかし
「残念だ。後5分でタイムリミットだ。我はもう、貴様の相手などしている暇などない。」
「な?」
「5分後にはアルテミスへと帰還する……最速でアルテミスに帰還する為数時間後にはなるが、照射を開始する。だから遊びは終わりだ。」
時間稼ぎにもならなかったか……
ああ。つまり俺は負けたんだ。
運命に、因果力に抗うことなんてできず、歴史の定めるまま奴の言う通り負けたんだ。
そして、次はエヴァースに。テトラビアにやってくる……のだろう。
もう、俺は駄目か……。死ぬ事はないにしろ、ヘイルの望みを俺は全うすることが出来なかった……
本当にごめん……ミカ……ヘイル……
俺は泣きたい気持ちをグッと我慢する。
「さて。これで終わりとする。」
奴は今まで以上に強力な光の剣を作り出し、そのまま俺めがけて振りおろす。
その様子はまさに殲滅の槍を使っているかの様。
インガニウムから生まれた生命体だからこそ、それに近しい力を得ていると言ったところか。
「まだだ!!」
俺はその光に対して重力の証を使おうと試みる。
大き過ぎて、剣や蹴りでは当然弾けそうにない。直撃を避けれる方法があるとすれば、重力の証しかなかった。
普通に当たったら間違いなく気絶……いや、不死の俺じゃなければ死ぬ。
……だが、重力の証の力は届かなかった。
「重力操作なんて……無駄だ。この力の前では意味を為さない。質量を持たない物に効く訳がなかろう。」
「……やっぱりそうか。」
俺は、完全に敗北した。
その強大な光のエネルギーは俺を貫き、そのまま俺は気絶……そして高度100キロくらいの高所から、俺は惑星アレスへと、落下した。
ーーー
負けてから何時間経っただろうか。俺にはわからない。
ほとんど見えない、ぼやける視界の中で……紫色と赤色の何かが……見える気がする。
「……こんなところで死んでちゃ駄目だよ。相棒!」
……そのいつも聴いている声と似た……聞き覚えのある声のは俺の薄い意識の中で、鮮明に響いた。