第061話 理解......のココロ
「そんなものか。」
そのアポロンは鍔迫り合いの状況から俺を弾き、余裕そうに俺の事を見つめる。
ここは標高100キロはあるだろうか。もはや周りは宇宙だった。
天界の杖の影響がある場所は戦い辛い。それは彼も同じなのだろう。
もう随分と長いこと戦ってきた。丸1日は経っただろうか。ずっと拮抗している。
「まだまだだ。」
俺はレイカからもらったあの剣と証の力でヴィクトリアの兄のマルスという男を模しているらしい最高指導者のアポロンに対抗する。奴は光を自在に変化させながら、槍や剣、弓矢のように光を扱いながら俺と戦う。
俺の剣は何度か奴の身体を斬るが光の身体だからか受け流される。切ったところも、光でまた修復されていく。
まるで殲滅の槍を生命にしたかのような、そんな奴を相手にしているみたいだった。
だが、奴の攻撃もまた俺は通さない。感覚の証を使って攻撃による波を感知して動きを予測する……そんな事をしていた。
地上よりもノイズが少ない宇宙に近い場所だからこそできる事である。
実践経験は少なかったが、カイトから貰ったあの本のお陰で剣の使い方はだいぶ様になってきたと思う。拮抗できている時点で成功だろう。
「少しはやる様だな。」
「……ありがたい言葉だな。」
実際俺はテトラビアに来てから不死と証の力を得たが、実質的な力は日本にいたときと然程変わらない。
「……それか。ようやく分かったぞ。その耳元の物か。」
奴は俺の耳元を見て言う。気づかれたか。
「気づいたところで……だろ。」
「証を使いこなしているな……だがしかし、それは所詮我らの力。」
「どう言う意味だ?」
「知らずに使っているのか。いいだろう、教えてやる。」
奴は俺と間合いを取り、喋り出す。
「証、それは光の精霊族が存在した証である。」
「存在した……証」
「我ら精霊族は恒星より生まれし種族。考えることはできるが感情を持たない。そうアレスの人は言う。」
「インガニウムから生まれるんだろ?それがどうした。」
「そうだ。貴様的にいえばインガニウムから生まれる。その構造によく似たセレスチウム、それはこの宇宙では我らが滅びる時に発生する。」
「……でもこれは初代魔王が落とした魔石から作ったぞ。」
「そう。別宇宙となればセレスチウムができる方法すら異なる。然し、唯一同じなのは生命から生まれると言う点だろう。だからこそ、証と呼ばれる。」
結局常識が通じるのは同じ宇宙内。
グレートドーンでは魔石がセレスチウムの結晶だった。
証と呼ばれる由来……生命の証だった、っていうことか。
「つまり、今の俺はお前の同族の力を借りている様なもの……と。そう言いたいわけか。」
「そうだ。インガニウムより生まれし我らは当然証となってもインガニウムに近しい反応を起こす。そんな力を貴様は扱っているに過ぎない。だからこそ、オリジナルである我には勝てないのだよ。」
証を生む奴らに対して証で敵うわけがないと言う意味か。
「諦めたまえ。アレスは滅びる。我も滅ぼせぬ。」
「そんなのまだわからない!!」
俺はまた『速度の証』で空気を蹴ってアポロンに向かって突進していく。
「諦めないか。では我も本気で行かせてもらおう。」
「……本気か。」
本気じゃ無かったのか。ただでさえ永遠に思える様な時間拮抗し続けている。当然、食事も摂れず疲れが見え始めているのに……
そんな事を思っているとあたりには複数の光が現れる。
その光は次第に人型になっていく。
「……他のアポロン!?」
「そうだ。10体呼んだ。我が支配下のアポロンだ。」
「一対一をするんじゃ無かったのか!?」
話が違うだろ。
「勘違いしている様だが、我らアポロンには感情も、個体も存在しない。全てが一つ。」
「アポロンは個……そう言うことか。」
アポロンは個だ。そうヘイルは言っていた。本当にそう言うことらしい。
一対一と言った以上納得はできないが、仕方ない。この状況を受け入れるしかない。
「我を滅ぼそうと思うのであれば、最高指導者ではないアポロンくらい直ぐに倒せなければ話になるまい。」
「……くそ野郎。」
受け入れなければいけないが、受け入れるしかない。卑怯だ。
俺も奴も多分疲れ切っている。だからこそ逃げたのだろう。
俺は剣を振り回してあらゆる向きから飛んでくる光の攻撃を剣と脚を使って弾き返す。
「くそ……数が多すぎる。」
ここは魔法が使えない世界。できることならば魔法で一掃したい……なんて思ったりもした。
エマはきっとアレスを救えなくとも、みんなを救う方法を考えて実行してくれている……と思う。
だからこそ俺もこいつを止める……。
これがアポロンにとっての打撃になっているのかはわからない。
どれだけやっても結局は因果力がある……。アレスは滅びちゃうし……。
そう思いながら俺は剣を振るい、遂に10対全てのアポロンを倒した。
その10体のアポロンは剣で斬るとそこから復活することはなかった。
つまり、斬っても斬っても復活するのはこの最高指導者のアポロンの能力といったところか。俺に似てるな。
「おめでとう。その10個のセレスチウムは貴様のものだ。好きにするが良い。」
俺はそのセレスチウムの結晶……つまり魔石を重力の証で浮かす。そのままにしていると重力で徐々に落ちていくから。
「教えてくれ。どうしてあんたはアレスを滅ぼすんだ?それに、どうしてタイタンを滅ぼしたんだ?」
タイタンもまた、光の精霊族によって滅ぼされた……。こいつの目的はなんなんだ??
「我はココロが欲しいのだ。光の精霊族は、ココロを手に入れて初めて人になる……」
「ココロを手に入れる為に……殺戮すると。」
「ああ。先代の最高指導者キーラはココロを宿した唯一のアポロンだ。それを手に入れて初めて光では無く、実体を手にする事ができるのだ。」
「……感情を知ることこそがお前たちの生きる目的だと。そう言うことか。」
ココロを宿す。それこそがアポロンの宿命なのかもしれない。
だからこそ、証にはココロが宿るのだろうか。そう考えると全てが繋がる。
「マルスの姿をしているのも、そう言うことか。」
「勿論。我は5000年前、キーラから最高指導者を譲り受けてからずっと、ココロを求め続けた。タイタンを滅ぼし、アレスの国々に干渉し、特にヴィケールを操った。」
……そうだ。そういえばずっと疑問だった。タイタンを滅ぼしてから3000年以上、こいつはいったい何をやっていたんだ?そんなことが頭を過ぎる。
「滅ぼせばココロを知れるとでも思った……と?本当の目的はそれか?」
「その通りだ。我はココロを知る為にならこの惑星系に存在する生きる物全てを滅ぼす。そう決めたのだ。」
狂ってるな……いや、感情を知らないからこそそう言う結論に至るのか……?
……だとすれば、間違いなく次の標的はエヴァース。つまりはテトラビアか。
テトラビアを襲う……守護神器が必要になる出来事って……こいつのことか!?
「……テトラビアは絶対に渡さないからな。」
「テトラビア……か。」
……俺はここで、負ける。負けて、守護神器を集め切って……奴に対抗するという訳か?そんな気がする。
「……全てわかったぞ。ヴィクトリア……」
俺はそう呟く。
「何か言ったか?」
「気にするな。」
つまり、きっと俺はコイツと戦う、そして負けるところまでが歴史なんだ。
もしかして……コイツに俺の剣が通らないのって、全てが因果力なのか……?
光の身体だから、最高指導者だからと思っていたが、もしかして剣で斬っても復活するのは、因果力による強制力で、その光だった可能性はあるかもしれない。奴の身体が光だから、混同していた。
だとしたら本当に勝ち目は無い。
「もう終わりか?まあ、そもそも勝つ事は不可能だが。」
「どうしてそう、言い切れる。」
「我に勝てたところで、無意味だからだ。」
「無意味じゃ無いだろ。ヘイルの、みんなの大切な思いは無駄にならないはずだ。」
「……我にはそれは理解できん。まあ満足するまで相手はしてやる。どちらにせよ歴史は変わらないが。それに既に、アレスは滅んでいるしな。」
「……は?」
奴は俺の下に向けて指を差す。勿論、下にあるのは惑星アレスだ。
……そのアレスは木々や水の色では無く、赤い色に染まって滅んでいた。




