第060話 絶望と希望の解決策
「懐かしいな……ニケ。」
「……貴方はまさか!?……マルス……ですか?」
ニケは目の前に現れたアポロンに対してマルス……と聞いた。
マルスはヴィクトリアの兄……と言っていた。ならエルフなはずだ。
「……どう言うことだ、ニケ!」
「私にも分かりません……真似しているだけ……ですか。」
「そう。我はマルスを模しているだけのアポロン……」
マルスに憧れただけの……ただのアポロンって言うことか。
「……いや、覚えています……お前は……マルスを殺したアポロンですよね……?」
ニケはその光の姿で模倣されているヴィクトリアの兄……マルスに話しかける。
よく見るとヴィクトリアの面影を感じる気がする。気のせいか??
「覚えていたか。あの時はお前の首を取り損ねた。今回は頂こう。」
マルスを殺してマルスになった……そんな精霊族はニケに対して司教が出していたような光の矢……いや、槍を持ちながら突撃してくる。
「……無駄です。」
ニケはそっと笑いそういい放つ。ニケの体は光の様になってそのアポロンはすり抜ける。
「なんだ?」
「……因果力!!」
「……え?」
「多分きっと、またニケさん消えるんだよ……」
エマがその様子を見て俺に言う。
そうか。ニケは俺たちの前に現れる事自体歴史としてはイレギュラー……
そして丁度消える時間が来たって訳か……?
それか、タイミング良く消える時間に合わせて俺たちを案内した……とでも言うのだろうか。いやきっとそうに違いない。
「一体何なんだ?ニケ!!」
「私は神器のハシラビト。顕在したとはいえ、タイムリミットの様です。お疲れ様です。」
ニケはニヤリと笑い、また俺たちの前から光となって消える。
俺とエマはその様子を呆然と眺める。
「……最初から最後まであの人はわからない人だったな。」
「そうだね……」
因果力なのか、神器に戻っただけなのか……そもそも顕在って何なのか。全部よく分からない。
アポロンはどこか悔しそうな表情を見せる。心がないのでは無かったのだろうか。それとも、かつて殺したマルスの表情をコピーしているのだろうか。
「……また逃げられたか。まあ良い。逃げられようが、関係ない。次会った時に殺せばいい話。」
そのアポロンは立ち上がりながら、光の槍を構えて俺たちの方を向く。
「しかし……一体何の用だ。貴様ら。」
「アレスを救いに……お前を滅ぼしに来た!!」
俺はレイカにもらった、あの剣を抜きながらそう言い放つ。
エマも完全にクレオールの姿になり戦闘態勢に入る。
「ほう。神である我を滅ぼす……と。」
「ああ!!絶対に倒してやる。」
「威勢がいいな。その意気込みだけは認めてやろう……だが。」
そのアポロンは急に加速し俺めがけて突進しそのまま俺を吹っ飛ばす。
「弱いな。このくらいでは我は倒せん。」
「樹!!」
コア環天体によって照らされる超巨大なその地下施設の壁に俺は激突する……
「……これが……光の精霊族の力か……」
俺はまた立ち上がる。咄嗟に自分を浮かせなければ確実に壁に激突した衝撃を全て受けて死んでいた。
……すなわち不死の呪いによる超回復の間動けなくなっていただろう。けど、若干軌道を空し、勢いを和らげたことでダメージを落とせた。
「ほう、まだ息があったか。」
「……舐めてもらっちゃ……困るぜ。アポロンさんよ。」
俺は口元に垂れる血を手で拭いながら立ち上がる。
「そうか……それほどタフなら場所を移すとしよう。ここは狭い。一対一で戦おう。貴様の全力を受けてやろう。」
「……え?どう言うこと!?」
エマはそのアポロンに対して困惑したまま問いかける。
「……コア環天体はもう用済みだ。そこの女、好きにするがいい。」
「……!?」
アポロンはエマに対して言い放つ。それに対してエマは言葉にできない様な表情を見せる。
用済み……そりゃあそうか。アレスを住めなくする様にするなら全て用済みじゃないとおかしいか。
奴はやる気だ。一対一で戦えるなら、乗ってやる。
「いいだろう。一対一で、タイマンしようじゃねえか!!」
「決まりだな。」
「待って樹!!」
「ごめんエマ。コア環天体と、杖を頼む……」
俺はそう言い残す。
その瞬間俺とアポロンの姿は消える。気がついた時には嵐の中のオリンパス山の山頂にいた。
「……おっと。」
俺は重力の証で自分を浮かす。
「やはり貴様浮遊能力を持っていたか。そのくらいでないと楽しめないな。」
「そうか……」
浮いて衝撃を軽減したことがバレてたか。
「それでは……始めるとするか。」
「いいぜ。お前を倒して、アレスを救ってやる。」
俺とそのアポロンの戦いは、始まった。
* * *
「……行っちゃった……」
私は一人になったその巨大な使用済みのコア環天体がある、空間に取り残された。
とりあえず、やることは決まってる。
杖は明後日抜きに行く。それまでは放置が歴史的に正しそう。
他にやることはコア環天体の破壊と、戦争を止めようとしているリエさん達への協力……かな。
「樹はきっとアポロンを倒すし、私もできることをやろう!!」
とりあえず、その巨大施設を調査することにした。
私はエレベーターで他にも降りられる階がいくつかあることに気がついた。
色々な階に降りてみても特に変わった物は見つけられなかった。
工場の様なもの、インガニウムのマークが書かれた機械がある部屋などあったが、特にめぼしいものは見つけられなかった。
残す階はあと一つ。
「……最後にここに行ってみよう。」
そのエレベーターは「ピンポーン」と到着の音を鳴らす。
「ここは?」
見た感じ誰かの部屋……多分司教の部屋か。
あの教会は見かけの翠教の施設で、本命はここ、と言うことかな。
私はその教会の様に椅子が並べられた部屋を歩く。
一冊の本が落ちていることに気がついた。
何の本だろう。私は拾ってそのまま開く。
「19日……新型薬品兵器……フィーネ、インガニウムより作られし大量絶滅兵器を投下。それに、20日アルテミスからのエネルギー照射……」
何これ。終末のシナリオ??
しかも、コア環天体の本当の目的はフィーネ……では?そんな気がする。
私はその本をスッと閉じる。
この本が本当ならば、嵐を起こしたところで、フィーネによって滅亡する。エネルギー照射……太陽風の人為的照射は最高指導者が全てならあのマルスという人を模していたアポロンを樹が何とかすれば話は変わる。でも、フィーネが使われるのは明日。明日で、しかも戦争中の国のエランズとミラーマーズの話……例え樹が勝ったとして、止められる話じゃない気がする……
……なら、まずはヘイルさんに教えることが先。
私はそう思い来た道を帰る。
コア環天体をどうすることもできない以上、いやどうする必要もなさそうな以上、やるべきことはフィーネを止める事。それしかない。
私が教会の地下に着いた時には、ヘイルさんは息をしていなかった。確か使徒長?もヘイルさんの近くで倒れていた。
戦って……相打ちになったんだ。
「ヘイルさん!!!」
「しっかりして!!ヘイルさん!!」
完全に死んでいた。私の声なんて届かない。でも、しっかりと使命は果たせれたみたいだった。
「これ、使えるのかな。」
私はその使徒長が持っていたブローチを手に取る。
多分これが、ミカちゃんを連れて行った時に使っていた瞬間移動するための証……
頭のミトラは破損していた。たぶんヘイルさんがやったんだと思う。
「フィーネを使わせない為にも、リエさんのところに向かわなきゃ……」
そう思い、ブローチを使ってエランズへと向かった。
「すごい雨!!」
ブローチの力でワープした先はエランズ。
地底国家ヴィケールは地底らしく天界の杖の影響をほとんど受けていなかったが、エランズはめちゃくちゃだった。
エランズは海洋国家。複数の島からなる海に海底から海上まで、どころか天に届くまでの立体的な未来都市といった形のコロニーが数千にも及ぶ。勿論、島も未来都市の様になっている。ソアロンと同じくらいには凄まじい。
圧倒的に少ない国土を補っている……っていう事かな。
「……最悪っ。」
出た場所が悪かった。エランズはその形故、島を覆う巨大なドームのような屋根を持つ。そんな屋根の上に出てしまった。
「おーい、大丈夫か〜??」
そんな私の目の前にどこかで見た顔をした男が乗った、その飛行機は現れた。
「……誰だっけ。」
「教祖の……ヘイルの部下のジャックだ。」
「樹がぶっ倒した人ね!!」
「ひどい言われ方だな……」
扉のところで気絶させたあの人だった。
私はジャックが運転する2人乗りの小型飛行機に乗り込む。
「どうしてここに??」
「ミラーマーズからエランズに。リエに情報を共有しにきたところだ。」
「通信機?みたいなのがあるはずじゃないの?」
「壊れてしまってな。だからこうして来た。」
「なるほど……」
「フィーネ。それを伝えに来たんだ。」
フィーネ……その情報がミラーマーズにも……。
「それ、私も知ってる!!」
「お、そうか。もう、やばそうなんだ……」
「というと?」
「フィーネはその名の通り、終わりを示す。全てを無に帰す力がある。地上は死の大地になり、水は枯れ、都市……コンクリートもガラスも全て腐敗するそんな最悪の兵器だ。それがもう、今から使われるらしい。」
「……そんなものがどうして!?」
想像以上の悲惨になりそう。むしろ5年後で見たあの景色は、フィーネがつくりだしたものだったり。
ただの風化とは違う悲惨さ。強烈なエネルギーの照射や核爆発では多分壊れすぎる。……けど爆発とかが起こってないと、って言う感じの5年後の街並みの違和感を埋める正体……それこそがフィーネだったんだ思い知らされる。
「わからない。とりあえずこの嵐の中フィーネがもう投下されるらしい。いや、もうすでにミラーマーズは壊滅状態だ。」
「……通信機が壊れたのも……それで?」
「ああ。使い物にならなくなった。コンクリートのように固まった後、もろく柔らかくなって灰と化した。」
だからジャックはあの電話してたメガネの様な機械を持っていなかった……って事かな。
「そんな……明日、フィーネが使われるって書いてあったのに!!」
そうあの本には書いてあった。
それが終末のシナリオ。
「どう言うことだ?」
「この計画を指導している翠教……アポロンの計画書。そこに明日って書かれてた。」
「……なるほど。じゃあ、早まったのか。」
「うん。」
「……とりあえず、ミラーマーズはもう戻らないにしろ他の土地は救える。希望はあるんだ。」
ジャックは絶望的な状況下でも希望を見出そうとしていた。
私は言うべきか迷いながらその話を聞いた。いや、言おう。
「……希望なんてないよ。実は私は5年後から来たの。その町並みはまさにフィーネを使った、そんな街だったの。」
私は、悲しそうに……そう言い放つ。
「え?……未来人……だったのか。」
「うん。未来はフィーネに侵されて全てがなくなった最悪の未来……」
ジャックは当然驚く。
「でも、変え……られるん、だよな?」
ニケが言うには変えられない。それは因果力のせい。きっとこれも、変わらない。
「……多分、変わらない。」
「どうしてだ。」
「因果力……っていう力が働いて、私たちは過去を変えることはできないの。私たちが今こうして話すことも、貴方と出会うことも歴史の一部っていう……。」
「……なるほどな。」
案外、ジャックは私の言葉を軽く受け止める。
「手に入れた情報だと、フィーネはインガニウムからできているってわかってる。……っていうことはインガニウムを使えば、解毒というか……無くせるだろ。多分。」
「確かにインガニウムはなんでも出来るほど強力、でも馬鹿言わないで!インガニウムなんて手に入る訳ないじゃん!フィーネの製造場所らしきものもあったけど、全く痕跡もインガニウムも残って無かったし。それにコア環天体を今から動かすのもキツイし……第一コア環天体を使うと異常気象が出るってヘイルさん言ってたし……!!」
私は答える。
「そうなのか?なら未来に一旦戻って、インガニウムを手に入れて来てもいいだろ。過去に来れるのならばこの時間に来れるだろ?」
呆れた。何も分かっていない。まあ、分かってたらそれはそれで怖いけど。
「……未来に戻るにしても鏡とか扉とかそういうもの必要だし、第一こんな嵐の中、それに飛行機の中からじゃ多分向こうに正確に扉を開いてもらえない。未来に戻るのはできない。」
「……そうか。じゃあ、こういうのはどうだ……?」
ジャックは私が思いつかなかったアイデアをくれた。
私は、そのテトラピアのペンダントを握りしめる。
……決まっている未来に……既に始まっている絶望に、希望の光が見えたかもしれない。