第057話 過去と未来の因果力
「お母さん……!!!」
ミカはニアに抱きついて泣き崩れる。
その親子3人は互いに抱きしめ合い、消え去っていた愛情をまた、確かめる。
「お久しぶり……!!」
「……こんなに大きくなって……」
ニアはミカを抱きしめながらその小さい体で見上げる。
「よかったね、ミカちゃん。嬉しそう。」
「そうだな……」
俺とエマは側からその様子を見ていた。
「……ミカ。残りの日を……私達と暮らしてくれるか?……そう、頼んでもいいか?」
ヘイルは真剣な表情でミカのことを見つめる。
せっかく再開し、仲直りした親子だ。
残りの日々を、同じ場所で過ごしたいのは当然だろう。
……俺は最悪ミカが選ぶのであれば親子で幸せになって欲しいと思う。
「……ごめん。お父さん。」
「……え?」
「……私、分かったの。この、この守護神器……天界の杖があればエランズとミラーマーズの戦争を止められる……お父さんがやろうとした核戦争を止められる。あの司教が言ってた。」
「……まさか……ミカ……」
「うん。」
ミカはニアに視線を送る。
ミカは立ち上がりそのままその地下室の先、天界の杖がある場所へと歩む。
その杖の根本の形は間違い無く生命の木のところにあった形と一致していた。
間違いない。守護神器だ。
「……今までありがとう。お母さん。お父さん……それにお兄とお姉!楽しかったよ!!」
ミカは振り返って俺たち4人に涙をこぼしながら満面の笑みを見せる。
「……待ってくれ!!その杖を使うとどうなるんだ??」
ヘイルは焦って立ち上がって駆け寄りながら、そう問いかける。
「……死ぬんですよ……アキラさん……『天界の杖』の能力は天候を操ること。願いを込めてその場に挿せば巨大な範囲に効果を与える程の力が、願いを込めて振れば竜巻のような小規模を起用に操作できる……そんな能力ですが、代償で死にます。」
守護神器はやはり使用者を殺してしまう。
「……なら、私が!!私がミカの代わりにその杖を使う!!この戦争は私が引き起こした物だ。私が核の使用を止める責任がある!!それに今、戦争は止めるように動いている。ミカが死ぬ必要なんて、ない!!!」
ヘイルはミカの元へと行き、真剣な目線でミカのことを見つめる。
「……ダメなんだよ。お父さん……」
どういうことだ?何がダメなんだ?
「ミカちゃん、それなら樹がやって貰えばいいじゃん!!」
エマは訴える。
俺は不死だ。俺に頼むのが何もデメリットがない、最善だ。
エマもそれを分かった上で、信用してその話を提案している……だと思う。
「……そうなんだけど。」
ミカはそのまま下を向く。
その時だった。
「……因果力が働きます。」
その声は俺たちの後ろから聞こえてきた。俺たちはそのまま後ろを振り返る。
「誰だ!!?」
ヘイルはその急に現れた魚人の姿を見て困惑する。
「……お前は、ニケ!!!」
「はい。私はニケ。『荒びの鐘』のハシラビトであり、衛生タイタンにかつて住んでいた魚人族。」
ニケは5年後のオリンパス山火口で出会った時と全く同じような自己紹介をする。
「どういうこと??どうしてここに?」
エマはニケに対して問いかける。
「『荒びの鐘』の力で私はこの星で起こっている出来事はなんだってわかります。だからここに顕在しました……それと、懐かしい匂いがしたからです。」
ニケはミカのペンダントを指差す。
「……そのペンダント、私の子供……オーランが細工しましたね。」
そう言いながら彼女は俺の事を見つめる。
「確かに、なんかやってたね……」
エマが思い出す。
「そのペンダントには樹の記憶が……真緒、の心が宿っているみたいです……そんなことができるのは知能神器のオーランだけです。」
オーランの力……それが心を証に宿らせるというところだろうか。
水面の証みたいに実際に使われたら自然と宿っていく心……ではなく人為的に宿すのがオーランの力っぽい。
「さて……話を戻しますが、ミカさん。貴方は思い出したのでしょう?そのペンダントに宿ったもう一つのココロ……貴方自身のココロを。」
「どういう意味だ?ニケという人。」
「簡単な話です。その権利の証はパラドックスしているんです……この証はこの時代に持ってこられ、再び過去の貴方が拾う。だからその記憶を……貴方は杖を使う記憶を思い出しました。ここで杖を使って死ぬということ。それが貴方に蘇った記憶でしょう……」
ニケはミカに対してそう言い放つ。
つまり、ミカがどうして真緒の記憶を持っていたのか。それはオーランの力によるものだった……ということ。
オーランが植え付けた記憶が回って過去のミカに作用し、真緒の記憶が蘇った。
「記憶が……パラドックスしている……と。」
「そうです。」
俺の微かな呟きにニケは反応する。
「でも、それでも私か……そこの旅人、樹が杖を使って、ミカはペンダントを残してテトラビアへと帰れば良いではないか!!」
「そうだ。それなら何も矛盾は生まない。杖は使われ、嵐は起きてミカはテトラビアへと渡る。何も問題ないんじゃないか?ニケ。」
「……そうではないのです。」
ニケは歩き出して杖の元へと行き、刺さっている杖を抜こうとする。
「……例えば、私が抜こうとすると。」
杖は抜けそうになった瞬間光の粒子になって消え、また刺さった状態で現れる。
「は?」
「これが因果力。歴史は変わらないのです。多少ラグなどはありますが……この世界は同じ道しか歩みません。この杖はミカさんが抜く事になっており、ミカさんが使う事になっている。だから、私や貴方達が使う事は、不可能なのです。」
「どうして?なら、私たちがここに、過去にくること自体が、不可能じゃない!!」
エマはニケに訴える。
「それ自体が、因果なのです。貴方達は自由意志によって未来を決めることが出来ます。しかし、過去にそれは通用しません。」
「……というと?」
「貴方たちがこの過去にくること、貴方たちが火事を消化し、リンドウさんと、ヘイルさんと出会い、その後ミカさんと共にここにくる事それ自体が決まっていることなのです。」
「歴史は……過去にくること自体が決まっている……というのか!!」
「はい。未来人が介入する時のみこの現象は起こります。この世界は、並行世界として違う道を通ることは、基本不可能なのです。全ては、そういうふうに出来ているのです。」
ニケの魚人の体は光の粒子になって足元から消えつつあった。
「私がここに顕在することすらイレギュラーみたい……ですね。」
これが因果力の多少のラグ……
ニケがなんでも神器の力で知ることができるとはいえ5年後にあった時は俺のことを知らないような雰囲気だった。つまりここで出会ったことは、ニケの中では忘れ去られる。しばらくしたら俺たちの記憶からも無くなってしまう可能性がある。
「……ここまでみたいです。後は、頑張ってください。」
ニケは光の粒子になって消えていく。
「……ニケさんのいう通り。私はこの杖を使うこと。それ自体が運命なの。ごめんね……本当はまだまだ一緒に過ごしたかったよ……お父さん。お母さん。」
ミカは泣きながら、その涙を腕で拭いながら、そう笑う。
「ばか……ミカはお人好しだな……」
ヘイルは泣きながらそう見つめる。
「……これが、私たちの娘の決断……ですね。私たちはその決断を応援しましょう。ヘイルさん……」
ニアはヘイルの肩を優しく撫でる。
俺はそんなヘイルとニアの前を横切りミカの元へと歩いていた。
「……今までありがとう……ミカ。いや、真緒。」
俺はミカのことを抱きしめる。
「近いよ〜お兄。」
「最後くらい、近くにいても良いだろ。」
「……うん。」
ミカは冗談っぽく俺に言う。
「私、楽しかった。少しだったけどお兄と、お姉との冒険。」
エマもそこに来た。
「……ありがとう、ミカちゃん。またいつか……会えたら良いな。来世でも、良いから……!!」
「……そう……だね。お姉。」
ミカはエマに対してどこか申し訳なさそうに言う。
「……お兄、私思うんだ……私は多分、真緒の生まれ変わりなんかじゃないって……いや、寧ろ私が生まれ変わった先が、真緒なんじゃないかって……そう思うんだ。」
ミカはそう俺に伝える。……ミカの生まれ変わりが、真緒だという可能性を。
そうだ。そもそも俺はこの世界に扉に導かれし者として来た。
そしてエマやダリがタイムスリップしていることを踏まえると間違い無く俺もタイムスリップしており、且つ日本という国がないほどの未来か、過去に来ているんだ。
つまり、ミカは真緒の魂を持っていたとしても、それは真緒の前か後かはわからない。
「だからね……私を。どんな私を、どんな時代でも、どんな姿でも愛してくれて……ありがとう。私の運命がどれだけ過酷でも……お兄がいてくれて良かった。」
「……そんなの……辛すぎる……」
「樹……」
俺はミカと、エマを抱きしめながら泣いていた。
「泣かないで……お兄。きっと私は未来で生きる。未来で、真緒として過去のお兄と出会う……!真緒として死んでしまうことが確定していても……運命でも、私はお兄を一生忘れないし、愛してる。大好きだよ。」
「……ミカ!!」
その瞬間、ミカの体は光になって俺たちの元から消え、更に奥……杖に触れた状態で再度出現した。
「……またね!!」
ミカは抜いた槍をまた、再度願いを込めながら同じ場所へと突き刺す。
……その瞬間、ミカは光になって消え去り、アレスには巨大な嵐が巻き起こった。