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【完結】神の器の追跡者  作者: Ryha
第六章 ココ 宿る場所
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第054話 光こそ災厄

「……な。お前は……ミカ……なのか!?」


 その教祖を名乗るミカのお父さん……らしい人はとんでもない驚きの表情を見せる。

 絶望が隠れているような驚き方だった。


「……私はミカ……だ……よ。」


 言いながらミカはそのアサシンのようなフードをとる。


「どういうことですか?まさか……教祖様の、娘だっていうのですか??」

「……ああ。ミカは私の娘……3年前に捨てた……私の愛する娘だ。」


 彼はそう言い放つ。

 それを聞いてミカは泣き出す……


「あんた……実の娘に捨てた……は無いだろ。」


 俺はそいつを斬り殺す意思を固める……クズ過ぎる。



「親としての自覚はないの!?」



「教祖様……捨てていたのですか?」

「勿論……私は愛する妻を失ってから……親としての責任など捨てた。」



 本当にクズだ……


「お前!!!子供のことをなんだと思ってるんだ!!!」


 俺はその部屋の内部に入って剣を抜いて構える。


「やめて!!お兄!!斬っちゃダメ!!」


 俺の剣が敵意がない彼を襲おうとした時、ミカがそういった。


「……え。」

「お父さんを傷つけないで!!」


 俺はミカの声を聞いて冷静になって、剣を戻す。

 相手はどんなにクズでも……ミカの。親だ……攻撃するべきではない……か。

 冷静になろう。


「……ミカがそう言うなら。」


 俺は自分の考えだけでちょっと動きすぎたか……



「勘違いしないでほしい。私は皆を救う為にこの宗教をまた設立したのだ……ミカ……君も救う為なのだ……」



「そんなの……わかる訳ないじゃん!!!宗教だなんて……信じられない!!」


 ミカは泣きながら訴える。


「お父さんなんて……!!お父さんなんて!!!!」


 ミカは泣きながら言葉にできないような表情でそう言い残してその宗教施設から飛び出して行ってしまった。


 お父さんを殺す……という俺の行動に対しては辞めてと否定したが、許しているわけじゃないんだ。彼の事に絶望した事、それは嘘じゃない。



「ミカちゃん!!!!」


 エマもそれを追ってその建物から飛び出していく。


「……追わなくて良いのか?お父さん」

「追う資格など……私にはない。」


「……ない訳ないだろ。」


 お父さんは下を向いて暗い表情を見せる。無気力……と言った感じか。

 俺はそんなお父さんの胸ぐらを掴む。ミカのために、また親になってもらいたい。




「追わなきゃ……本当に終わってしまうだろ!!残り4日の運命なのに、最後までそんな関係性でいいのかよ!!」

「……良いんだ。私は……もう……ミカにどれだけ恨まれても良いような……そんなことをしてしまったんだ。もう……どうしようもないんだ。」


 お父さんは俺から顔をそらす。


「戦争をさせようとした……そういうことか。」

「ああ……でもそれには理由があったんだ……だから……離してくれ!!」


 こいつを問いただしても無駄だと思った俺は掴むのをやめて、その男を椅子に落とす。

 しっかり理由を聞くべきか……。


「なら、尚更理由を教えて仲直りするべきだろ!!」


 俺はそう彼らに言い放つ。


「……私から話をさせて頂きます。私……リエと、ヘイル……教祖様は元々同じ研究所で働いていました。」


 ヘイル……というミカのお父さんの横に居た魚人の女はそう言って立ち上がる。


「研究所??」

「はい。私たちは教祖様の奥さん、ニアさんと共にメーテール西部の山奥にあった天候制御研究所で働いていました……そこで寝ている人……ジャックもそうです。」


 リエと名乗るその女性は俺が気絶させた人のことを指差して言う。あ、すっかり忘れてた居たなそんな人も……


「研究所……ミカとその家族は農家なんじゃないのか!?」

「農家は仮初の姿だ。本当の職業は研究者だった。」


「私たちの研究……それはこの星を救う為に天候を観測し、自然蒸発するはずの海を取り戻し、再びアレスを取り戻すことです。」


「……そんな人たちが……どうして戦争起こさせて滅亡なんてさせようとしてるんだよ。」


絶対におかしい。言っていることが逆じゃないか。


「ヘイルさんは知ったのですよ……絶対的な力と言うものを……」


 そう言ってリエはヘイルに視線を送る。絶対的な……力。


「……ああ。エヴァースの人工衛星アルテミス……そこを根城としている光の精霊族……アポロンの生き残り……奴らはアレスを滅ぼそうとしている。」

「……それって、絶滅したはずじゃ……」


 ミカが言っていた……光の精霊族。滅んだと教わったって。


「学校ではそう教わるとされています。奴らは元々このヘリオス系……その恒星ヘリオスに住む種族。核よりも強い力を持つ……絶対的な力を持つ種族です。」


「絶対的な力……神器か、インガニウムかってところか。」


「そうです。奴らはヘリオスで、インガニウムによって生まれた種族……いや個体。その姿は光の人間であるように見えるが実態は無く、最高指導者と呼ばれる一人を中心として100以上の光の精霊族からなる独自ネットワークを持つ、変わった種族です。」

「……そいつらがこの星で何かしているのか?」


 俺はじっくり話を聞くために椅子に座る。


「ああ。まず3800年前くらいのタイタンは彼らの侵略によって滅んだ。そして今度はアレスを滅ぼす為、土竜人と魚人の共同国家……地底国家ヴィケールを裏から操り、オリンパスにも100年以上に渡る侵略を行なって来ている。」


「……でも一体何の為にタイタンは滅ぼされて、アレスもまた滅ぼされるんだ?」

「彼らの目的は謎です。それはアルテミスの機密事項であり、我々でも知りません。」


 アレスとタイタンを攻撃するまでの3700年くらいのラグも気になるが、きっと彼らでも知らないのだろう。

 アポロンと呼ばれる光の精霊族……アポロンって言うのは別名っていう事だろう。光の精霊族っていうのも長いしその言い方、使わせて貰おう。



「我々はアポロンにアレスを殺させない為……それに対抗する為海洋国家エランズと砂漠国家のミラーマーズ。ここ2つを緊迫状態にし……ぶつけさせた。彼らは核保有国であり、地下には地底国家ヴィケールの領土が存在する。即ち核戦争になれば……ヴィケールはただでは済まない悲劇が起こる筈だ。」


 ヘイルはそう言いながら机に触れる……その机は画面がついていた。

 そこにはその国の関係性がわかりやすく表示される。さっきのメガネっぽいやつと言い意外と技術力が高い。


「でも、ヴィケールとかエランズ、ミラーマーズに住む一般人はどうするんだよ!!幾ら何でも彼らにだって、家はあるだろ。戦争がいい訳が無い。」

「必要な犠牲だ。割り切ることも必要だ。」


 俺はその机を強く叩き訴える。それに対してヘイルは冷徹に言葉を飛ばす。


「……アポロンに打撃を与える……たったその為だけに!!核戦争を!!それは星を潰してもやるべきことなのか!!そんなことをすれば、それだけで星が滅びるぞ。いますぐにでも辞めて、他の方法を考えることはできないのか!!!」


 核戦争による悲劇は人を幸福にするはずがない……

 俺はヘイルにそう訴えかける。



「勿論核の冬が起こり、生命体は消える。だがそれは自然。アポロンによる人工的な太陽風による海の蒸発と惑星の滅亡とは違い、核の死……その死こそ神なる山に還元される命になるのだ。」

「……は?」


 意味が分からない……。同じじゃん。は?

 ヘイルはやはりどこか狂っていた。リエは俺に対して呆れたような表情を見せる。


「何を言っているんだ……お前……人為的な死が自然なわけないだろ!!」

「……辞めなさい。無駄なのです……彼らに打撃を与えるには戦争しか、方法が無いんです。」


 リエはそう言って立ち上がって、興奮気味の俺の手を抑える。俺はいろんな感情が混ざり合った興奮で自我が迷走していた。


「……全て話します……だから、最後まで聞いてください……」


「5年前、連中はヴィケールを操ってコア環天体を作ったのです。今尚、アレスの核部分ではインガニウム抽出が行われており、それこそが原因……惑星が壊れ始めたのです。」

「壊れ……始めた。」



「はい。元々アレスは質量が小さく、重力も小さく大気を維持するのが困難な星。いつか太陽風によって死ぬ運命なのです。それ故にこの地の人々は嘗てエヴァースへと赴き、4つの国家を作り植民地にした。その一つが今尚オリンパスと交流のあるテトラビア……しかし長い年月と共に星間移動する技術は失われテトラビアは独立して我々アレスが介入できる状態ではなくなり、3842年前の魚人の移住を最後に我らの宇宙交流は消え去りました。また……現代では有力な宇宙開発現場はヴィケールの力で消されています。ただでさえ滅びるのが容易い惑星を星内部から壊され……恐らくインガニウム抽出が終わり用済みになった今、外部に逃げることを阻止しそこに追い討ちをかけるように強烈な太陽風をアルテミスから掃射しアレスを完全に滅ぼす……それが彼らのやり方なのです。」


「……は、はぁ、はっ?……今……なんて。」


 アポロンと言われるその種族……それ程までに……やばい奴らだっていうのか……

 俺はその話を聞いて、頭の中を頑張って整理しようとする。

 やばすぎる……ヘイルも狂っているが……それよりも狂っている……


 聞いただけだと意味わからないが、要するにアレスを貪り尽くして用済みになったから滅ぼしてやる。っていうのがアポロンの思考か?



「……つまり逃げ場がない宇宙の中で、アポロンによって絶望的に滅ぼされるのに対抗するために、自分達で死ぬ……それを行うのが神山教の正体って訳か。」


 俺は情報をなんとか整理してそう呟く。

 絶望的すぎる話だ。星の内部は蝕まれ、圧倒的な力を持つ種族によって滅ぼされる寸前。どうせ滅びるなら滅ぼしてしまおう……って言うわけか。みんな狂っている。




 一旦整理する。


 この惑星アレスは数百年、数千年レベルで滅ぶことが確定していて、それを分かったからエヴァースに移住した。それは今回どうでもいいか。


 どう手に入れたのかはわからないが、この神山教はアポロンが人工的な太陽風を発生させて、その自然に滅ぶことよりも前に滅ぼす計画を立てている事を知った……それがもう数日後っていう事。

 で、そんな事をするくらいならば戦争で俺らが先に滅ぼしてやるぜ、っていうヤケクソと。


 まあ、遠くの人工衛星から照射されるのであろうその人工太陽風は宇宙に出られなければ止めようが無い。でも、案の定ヴィケールからの圧力で宇宙開発は消されるっていう事だろ?そういう事か。





「そうだ。少なくとも核戦争が起これば奴らの傘下のヴィケールは滅ぼせる。つまり、アポロンにも少なからず影響はあるはず。ただでは済まないはずだ。」


 そう言うことか……。その計画を実行する為だけに家族を、娘を捨てた。それがこのヘイルという父親なんだ。


「我々は異常気象が最近多くなっているところから、天候研究によってコア環天体の可能性に辿り着いた。それを学会で発表した結果、あの場所は消された。巨大な竜巻によってピンポイントで研究所を壊された。そこで私は……ニアを失ってしまった。」


 ヘイルは悲しんで泣く様子を見せる。その様子は父親らしくなくまるで子供のようだ。


「それでも……それでもミカを捨てるのは間違っている!!親がいない子供がどれだけ悲しいか……それをわかっているのか!!!」


 俺はヘイルを許せなかった……この世界に来てまで、真緒は……ミカはまた悲しむ……そんな運命必要だったのか……。



「……分かっている。分かっているんだ……でも、私には無理だった……だからこそ宗教に走った。」


 ヘイルは泣きながらそう話す。



「私には彼女を育てられるほどの能力は無かった……それに、幸せにはできないんだ……アポロンのことを知った時点で……私はもう彼女を育てることを諦めてしまったんだ……この星が滅びるまでの数年くらい……私は行動したかった!!!全ては神の為……偽物の神アポロンを潰す為!!!!!……すべての命を、オリンパスに帰す為!!!!」


 彼のその狂った信仰心……いや教祖としての姿は愛する妻の死が原因……。


「……たった数年間……それがどれだけ子供に与える影響があるか。それくらい、分かるだろ!!大人だろ!!」


 妻を失い、世界の闇を知り……どうしようもない運命に抗うためにこの父親は自らを狂わせた。


 それはわかる……それでも、その数年間、ミカを捨てた数年間は彼にとっては短くても、ミカにとって与えた影響は計り知れない……そう思える。




「お前がいなくなってからの数年間……ミカがどれだけ悲しんだか……辛かったか、それを考えたことはあるのか!!!!最後の数年間くらい……世界よりも、家族を選べよ!!」



 俺はもう思ったままにヘイルに対してぶつけていた。

 エマの時もそう。世界の責任なんて、大き過ぎることを背負う必要なんて無いんだ。そんなもの一人の個人が抱えられるわけがない。



「……ごめん……ごめんなさい……」


 ヘイルは泣きながらそう言った。


「……その通りだ……私は父親失格だ……」


 それは確かに悪い事。人を洗脳したりエランズとミラーマーズの戦争を引き起こさせた事、それはどうしようもない事だ。だけれども……辛さも分かる。

 自分の娘を捨ててまで……運命に抗おうとするその覚悟。それは分からなくは無かった。

 でもコイツは……絶対的な間違いをしていた。それは分かった。



「……忘れていた……自分の事ばかり……世界の事ばかりに囚われ続けて……一番大切なことを……忘れていた。」


 リエは泣くヘイルのことを見つめる……


「……私も……すみません。長年の付き合いがあり……お子様がいらっしゃることだけを知っていても……その実態は把握していませんでした……。もう少し……私にもやれることがあったかも……知れませんね。」



 リエもまた……ヘイルのことを信じていた。



「ごめんなさい……貴方のお陰で目が覚めた……どうしたらいいんだ……旅人さん。私はどうしたら罪を……償えるんだ。」


 ヘイルはまた泣きながらそう俺に聞く。


「謝る相手が違うんじゃないか……?」


 ヘイルはハッとした表情を見せる。


「……最後の4日くらい一緒に過ごす。それこそが、償いじゃないか?」

「……そう……だな。分かった。」


「じゃあ、追いかけるぞ……」


 俺は右手を握る。

 そのままヘイルを浮かせた。


「……これは?」

「浮いていくぞ。これなら多分、ミカにも追いつける。」


「……ありがとう。旅人さん。」



 * * *



「……お父さんなんか!!!いなくなっちゃえばいいのに!!!」


 私は走る。親だったなんて、しかも神山教が悪い人たちだったなんて知らなかった。

 最悪だ。未来で爆発が感じさせられる街だったのも……全てが私のお父さんのせいだったなんて……信じられないけど、信じるしかない。


 私はもう、どうしたらいいんだろう。


「……君、ちょっと良いかな。」



……フードを被った神山教の教徒……いや、違う。また違う宗教団体の人が私の前にいた。

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