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【完結】神の器の追跡者  作者: Ryha
第六章 ココ 宿る場所
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第052話 家族へ

「剣士さん。もうすぐ2年経つけど……どうするの??」


 その剣士は私の家に居候……という形で私を守ってくれることになった。

 勿論年齢差は明らかだし、変な事は起こるはずがない。


「うーん……オリンパス、いやアレスからはいなくなるつもりだ……」

「そうなんだ!」


 二人で生活する様になった私の家庭は、暗く沈んだものから、明るくなっていた気がした。

 そして私は9歳になり、3年制だったメーテールにあった学校を卒業した。



「おめでとう。ミカちゃん。」

「ありがとう!剣士さん。」


「……話があるんだ。」


 その剣士は卒業式が終わった後、私にそう告げた。


「……2年間、楽しかった。ありがとう。私はまた次の世界に行こうと思う……」


「……へ??」


 お父さんがいなくなってからの3年、その後半の2年をまるで親代わりのように育てて……愛してくれたその侍の人。

 その人にそう別れを告げられた。


「……分かった……それが……約束だもんね。」

「ありがとう。」


 私の頬を涙が垂れていった。


「……わかる……わげないじゃん……」


 2年間一緒に暮らして情が湧いたとはいえ、元々は他人だ。旅する剣士の人が立ち寄った地が偶然ここで、私と一緒に過ごしてくれた……それだけなんだ。


 だからこそ、別れは必然だと思っていた。覚悟していたんだ。


 でも……その現実は受け止めきれない。


「……泣かないで。ミカちゃん。」


 その剣士は私の頭を撫でる。


「いや……行かないで。私と一緒に過ごそう!!もっと!!ずっと!!」


 私はそう言ってその剣士に泣きつく。


「……ごめん。それは出来ないんだ。」

「……そう、だよね……無理言ってごめん。」


「……そうだな。ミカちゃん。いつかテトラピアにおいで。私は君を待ってるから。」


 そう言って私の事をそっと抱きしめる。


「……分かった。待ってて……絶対だよ!」

「ああ。」


 その剣士……侍はそう言って、2年間の生活を終えて私の元を去っていった。


「名前……聞き忘れてたな。ずっと、剣士さん……だった。」


 私はその別れの側で涙を流しながら、そう小さく呟いた。



 その侍と別れてから数日後。


「……すごい風!!」


 5年前のある日、超強力な太陽風によりアレス全土から水が蒸発する……数日前。

 物凄い嵐……惑星を包み込むほどの嵐が起こった。


「……やばい。このままじゃ、野菜が!!」


 私はオリンパスのメーテールでも農家だった。いや、農家だったからこそアルトポリスでも野菜を売っていた……その方が正しい。


 お父さんが教えてくれた栽培方法……お母さんが残してくれた本……それを頼りに私とあの剣士は毎日毎日、野菜を育て、時にはアルカスまで売りに行ったり……と。

 そんな日々を過ごしていた。

 でも、そんな事を繰り返してもアルカスでお父さんと再会することは叶わなかった。

 そして遂に剣士とも別れた。


 そんな日々の後に、急にあの大嵐が襲ったのだった。



 私は嵐の中、急いで作物を見に行き簡易的にネットを張り最低限飛ばされないようにと対処をしようとする。

 そんな時だった。


 私の前には子供のラヌーとラピーが居た。


 嵐に凍え怯えるように、その二匹は木陰で仲良く座っていた。

 咄嗟に放っておくこともできず、私はその二匹に近寄っていく。

 ラヌーは下手に触ると針が出てくるから気をつけないと……と思いながら近寄る。


「キピィ……」


 そのラピーは私に気づいてそう鳴いた。


「大丈夫??」


 私は屈んでその目線になって二匹を見つめる。

 何やら子供のラヌーは何かを持っているようだった。


「……これは?」


 金属で出来たチェーンの紐を付けた、四角形のペンダントだった。

 大切そうにそれを持っていたラヌーだったが、私の足元でクルクルと一周して匂いを嗅ぐ様子を見せ、そのペンダントを私の足元に置いて鼻で「持って行って。」という感じの動作をする。


「ありがとう。」


 私はそのペンダントを受け取って、そのラヌーとラピーを保護した。

 そのラヌーとラピーは私のことを知っているかのように懐いていた。


「わ〜、やめてよ!!」


 家に入り、嵐を凌ぐ私たち。その子供のラヌーは私をまるで親だと思っているかのように寄り添ってくる。


「……うーん、そんなに私に助けられたのが嬉しかったのかな……」


「どうせならじゃあ……名前をつけてあげる!!」


「貴方はペールで、貴方はネイビー!!よろしくね!!」


 私の発している言葉の意味がわかったのか、ラヌーのペールとラピーのネイビーは喜んで鳴いた。



「……そういえば、このペンダント……あの剣士さんが付けてた物に似てる気がする……」


 そう思って私はそのペールが持っていたペンダントをつけてみることにした。


 私はそっとペンダントに触れ、そのまま首にかける……


 その瞬間……


 見た事のない、どこか懐かしいような苦しいような、切ないような……そんな記憶が流れ込んできた。



「……お兄。」


 私の口からは自然とそんな言葉が溢れた。


 何の記憶……かな。

 暖かな日差しに緑豊かな自然の中、階段を歩む私と、私よりも大きい男の人。

 名前も顔も思い出せない……でも、お兄という単語は口が覚えている様な気がしてきた。


「……きっと、テトラピア?にいけばわかるかも……」


 そう思った私はその地へと向かうことにした。

 学校を卒業し、お父さんからは連絡がない。そんな日々……もうメーテールにいる必要はないか……


 ーーー


 嵐が過ぎ去ってすぐ、私は早速メーテールの役所に行って情報を集める。


「……テトラピア??テトラビアならアルカスから行く事ができるけど……ペンダントが……おお、持ってるじゃねえか。ならいけるぞ。嬢ちゃん。」


 その役所の役員の対応は最悪だけど……まあ気にしてる暇もない。


「ありがとうございます!!」

「頑張ってね〜。」


「行くよ〜!ペール、ネイビー!!」


 私は嵐が止んだ数時間後直ぐにペールとネイビーを連れてそのテトラビアへと行くことにした。



「ここがテトラビア??」

「そうですよ。」


 アクセスポイントの鏡を使った先、テトラビアというらしいその場所では巫女が私のことを出迎えてくれた。


「……ありがとうございます!!」


 私はそう言ってペールとネイビーを連れて、テトラビアを冒険した。


 しかし、それでもあの剣士と出会うことは無かった。

 手に入れたのは……アレスが滅んだという情報だった。


「……ねぇ!!巫女さん!!オリンパスに帰れないってどう言うことなの!!!」

「……惑星アレスは滅びました……全ての生命は住めない環境になってしまったのです。」


 私が剣士を探して奔走し、帰ろうとした時にその巫女はそう伝えた。


 ーーー


 そうして途方に暮れる私とペール、ネイビーの元に現れたのが、今のお母さんとお父さんだった。



 * * * * *


「実の親子……やっぱりいいよね……」


 ミカはそう俺たちの前で呟く。

 オリンパスでの家庭状況は知らないが、日本での家庭状況からして、羨望の眼差しを見せる理由もわかる。


「大丈夫?ミカちゃん。」

「ん?大丈夫だよ。勿論!!」


 俺たちの目の前にはまだ、ラヌー達のいた場所に温もりがある様な気がした。



「……これは……何があったんだ。ここで……」


 俺たちの前に現れたのは一人の剣を持った、青いメッシュの入った黒髪で、水色と紫色のオッドアイを持つ男の人。


「……!!!」


 ミカは言葉にならない声を若干漏らす……


「知り合いか……?」

「……うん……」


 俺たちは小声で、聞こえない様にしてその侍のような雰囲気を持つ剣士を影から見つめる。


「……この土……木……まるで火で燃えたかの様な跡があるな……」


「……これ、人為的だな。」


 その剣士は俺が盛った、中には水が溢れるダムの様になった土壁に触れて、削ろうとする。



「……それ、壊すと危ないよ!剣士さん!!!」


「ん……?」


 ミカが木の影から出てきてその剣士の行為を止める。


「……君は誰だ?」


 その剣士はミカのことを見てもまだ誰かは気づかないみたいだった……

 今のミカはアサシンの様な雰囲気を醸し出していて、変装している。分からなくて当然か。


「……私だよ。私。貴方の家族の!」


 ミカはその被っていたフードを取って顔を見せる。

 ミカは確かに家族。と言った。


「……!!ミカちゃん!!どうして?農家は……?」

「ううん。私はミカだけど、この世界のミカじゃない……未来から来たの。」


「……未来……から?」

「そう。」


「……未来から、私に会いにきた……って訳か。」

「そうじゃ無いんだけど……見かけて、つい、嬉しくて……」


 ミカは泣いていた。


「……私、あの世界で、テトラビアで貴方を探してたのに……会えなくて……悲しくて……」

「泣くな、ミカちゃん。」


 その男はそっとミカを抱きしめる。


「……そうか。君はテトラビアに行っていたのか……」

「……え?」


「……テトラビアと、テトラピアは別物だ。今度はこれを使って、行くといい。」


 その剣士はテトラビアの権利の証によく似たペンダントをミカに渡す。


「これを渡せば良かったな……今度こそ、君をテトラピアで待っているから……。」

「……わかった。」


「じゃあね……ミカちゃん。」

「ねえ、最後に教えて!!貴方の名前!!」



 その剣士は一瞬止まり、考える様な表情を見せる。



「……山南リンドウ。それが俺の……名前だ。」


 その剣士はそうミカに伝えて俺の作った土壁の上にのぼり、そのままその水の中へと消えていった。

 多分結びの扉と同じように、水面をトリガーにしてテトラピア……というらしいところに行ったのであろう。



「……ありがとう。剣士さん。」




……そのミカの顔は、俺が見た顔の中で一番輝いて見えた。

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