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【完結】神の器の追跡者  作者: Ryha
第六章 ココ 宿る場所
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第051話 記憶へ

「……これ、埒が明かないな。」

「そうだね……一本一本木を対処しているだけじゃダメかもね……」


 周りから攻める……べきか。


「エマ!俺が土を操って防壁を作る!その内に、火の手から動物を逃がしてくれ!!」

「わかった!!」


 火はみるみる燃え移っていく。既に20本以上の木は燃えただろうか、かなり広範囲になりつつある。しかし燃えている木から次の木が離れればそれ以上は燃えなくなるだろう。江戸時代のやり方……を参考にしよう。火災現場を円形状に囲う形で木々を取り除いて、そこに防壁を作れば完全に燃え移らないようにできる……だろう。

 重力の証と速度の証があるからこそ実現可能だ。


「みんな!!こっちだよ!!」


 エマはラヌーにラピー……そのほか様々な動物を誘導する。


「ありがとう。その調子で頼む。」

「うん!」


 俺はそのまま蹴りで可燃物を弾き飛ばして火が燃え移らない距離を取らせ、そこに土の防壁を作っていく。防壁を作るだけならば土を軽く持ち上げてすぐ落とす程度でできる為、広範囲にできる。



「お兄!!」

「ミカ!!戻ってきたか!!」


 ミカは俺とエマが消火活動をするところへと帰って来た。


「持ってきたよ!!これ!!」


 ミカの右手には勾玉がついたブレスレットがあり、太陽光を反射して光り輝く。


「……ミカちゃん、それで消せそう??」

「やってみる!!」


 ミカは両手を合わせて祈り始める。

 その手の先からは水が現れ、その水は水鉄砲のように飛んでいく。


「できた!!できたよお兄!!」

「ナイス!!そのまま消火を頼む!!」


 あのブレスレットは間違いない……水を操るための証だろう。

 行ける。水を放つ能力があれば、きっと消せる!!



「エマ、障壁の証を使ってミカの補助をしてくれ!出せる水の量が少ないから、バケツみたいにすれば……行ける気がする!」

「わかった!!ミカちゃん。その水をここに貯めて、それを一気にかけるよ!!」

「うん!!」


 エマは大きめのバケツ型に障壁を作り替える。

 障壁の証に対して変化の証を使うことで更に細かな調整も可能としていた……


「流石すぎるな……」


 俺はその様子を見てそっと呟く。

 感覚でそのアイデアを思いついているあたりやっぱり想像以上にエマの頭の回転は早いんだな……と思い知らされる。


 火を燃え移らないようにする為とはいえ土の壁を作っておいてよかった。どれだけ水が流れてもダムのようになって外部への影響がないように出来る。



「行けるよ、樹!!」


 エマのその声を聞いて振り返ると巨大なバケツが……まるで土壁の内部を水で埋め尽くせるほどの大量の水が空に浮かんでいた。


「オッケー。みんなを非難させればいいか??」

「そうだね、証で土壁の上まで浮かせて!!」


 俺はその重力の証……グローブをつけた右手を握ってラヌーとミカ、エマを浮かせようとする。


「待って!!!あそこ!!」


 ミカのその声で俺は握るのを止める。ミカの横にいた子供のラヌーが逃げ遅れを見つけたらしい。嗅覚が優れているからだろうか。


「……逃げ遅れがいたのか。」


 ミカと子供のラヌーはその逃げ遅れたラピーの元へと駆け寄る……


「……大丈夫、怖くないよ。私と一緒にここから逃げよう!」

「キピィィィ……」


 その兎のような動物、ラピーは手を広げるミカの元に飛び込む。そこにラヌーも飛び込む。

 その二匹はミカに懐いているかのように安心した表情を見せる。


「お兄、お願い!!」

「わかった!!」


 俺はミカ達を浮かせて土壁の上へと移動させる。


「じゃあいくよ!!」


 その声と共に大量の水は燃えている木々の上からかけられて、そのクレーターのようになっている即席ダムの内部に注がれていく。


「……なんとか火を消すことができたな。」

「よかった!!」



「さあ……お帰り。」


 ミカはそう言ってそのラヌーとラピーをその場に降ろして野生に帰す。


「もう、火事に巻き込まれるんじゃないよ~!」

「あのラヌー……凄かったな。」

「そうだね。何か特別な力でも持ってそうな……そんな雰囲気があったね!」


「グヌグラヌ!!」


 親のラヌーが来ていた……子供のラヌーはその親の元へと向かう。

 その様子をまた俺たちは木の影に隠れながら見つめる。


 そのラヌーは小さく鳴いてミカの方を見つめて、そのまま振り向いて親と共に森の中へと消えて行った。


 * * *


「……親子……か。」


 私はその様子を見ながら小さく呟く。


 私は今も昔も……片親……いやメーテールの親は実際にはいない様なものだ。

 テトラビアで育てて貰った親は……あの農家……ミラー家にはお父さんもお母さんもいる。けど、実の両親と長年過ごすという経験はしてこなかった。


 日本の頃も、オリンパスで過ごした時も、あまり親の愛を受けずに育ってきた。


「……ミカ。ごめんな……お母さんはもう……戻らない。」


 私が5歳の時……9年前、私のお母さんは他界した。事故だったらしい。

 研究員と農家の兼業だったらしい。私は小さすぎて今ではあまり覚えていない。


 勿論、その時に日本の記憶は無い。


「……学校へはしっかり通ってくれ。頼む。お父さんはいっぱい稼いでくるからな……いつか幸せに出来るようにするから。」

「うん……」


 お父さんはそう言って私が6歳の頃……学校入学と同時にメーテールから居なくなってしまった。


「お前の家、貧乏なんだな!!」

「しかもコイツ土竜人だ!!クッセェ!!土の匂いがするぜ!!」

「……土竜人で貧乏とか終わってるな。」


 私はそうやって学校では虐められていた。

 メーテールは土竜人と耳長人が混じり合う農村。そこにある小さな学校は勿論一学年の人数も少数。私は一人、逃げることのできない中で、ずっと生活していた。

 それは学校に限らず、休みの日でも同様に同じ子からいじめられ続けた。

 石を家に投げたり、勝手に畑を荒らしたり……と。



 そんなある日だった。


「土竜ブス~!!死んじまえ!!お前なんか!!!」


 私に対していつものようにその耳長人の男の子は石を投げつける。


「……もう……死のうかな……」


 私は泣きながら……そっと呟く。


「こらこら。女の子を虐めちゃダメだぞ~。」

「異端者だ、キモッ!!逃げろ~!!!!」

「キモって……はぁ……」



 そこにある一人の剣を持った……青いメッシュの入った黒髪でオッドアイを持った男の人が私の目の前に現れた。

 その男はため息をついてから私の方へと近寄って、屈んで地面に座る私の目線に合わせる。


「大丈夫?」

「貴方……は……?」

「私は通りすがりの名無しの剣士……いや侍……お嬢さんは??」

「私はミカ……って言います。」

「ミカちゃんか……いつも虐められてるの?」


 私はその剣士の顔を避ける。


「……やっぱりそうか……ミカちゃん。親はいるのか?」

「いない……お父さんはもう1年以上……帰ってきてない。」


 その旅人する剣士は私の発言の顔色を伺う……


「うーん……そうか……なら、もし良かったら私と友達になってくれないか……?私、このメーテール?っていう土地は初めてだし、教えて欲しいんだ。この場所のことを。」


 そう言ってその侍は私に手を差し伸べる。

 その男の姿はまるで誰かに似ているような……そんな気がした。


「……え?友達……?」

「私は記憶がないんだ……親の記憶も、自分の名前も友人の記憶も……何もかも。全ての記憶がなくて、自分探しでここに来た。だからこの場所で人と関わりたいんだ。」


「そういう事……ね……でもごめん……私、もう死のうと思うんだ……」


 私はまたその侍から目線を逸らす。私じゃその侍の話は……受け入れ難い。


「え……それは本当か??」

「……うん。」



「通りすがりの人が言うのも何だが……今どんなに辛いことがあっても……どんなに悲しいことがあっても、未来にはいい事がある……私はそう思う。だから、少なくとも死ぬのはだめだ。それに、ミカちゃんにだって家族がいるだろ?」


 そう言って、侍は私の手を掴んで訴えかける。


「……貴方に何がわかるって……いうの。」


 私はその大きな手を剥がす。


「ごめん……虐めは辛いよね……特に子供だから感じる辛さも勿論ある。わかるよ。私はもいじめは受けてきた。記憶を無くして、旅をしてる身だから、異端者だって街では石を投げつけられることは多いし、理不尽な接客や対応、取調べなんかも多々あった……私だってそういう時は死にたいと思う……」


 さっき、キモって言われてたのも……そうか。その見た目が……


「記憶が無いとはいえ多分20年近く生きているし、ミカちゃんとは全然違う事だって分かっている……でも、こんな私だからこそ……虐められて死のうとしている子供は見捨てれない。人生は長い。まだまだ可能性は無限大。たった一度のことで命を投げ捨てようとするのは……勿体無い、だから……ね?友達になろう。」


 その剣士は確かに異端者だ。この土地では見ない格好、それに種族だ。耳長人や土竜人でもない。そんな人だった。


「でも……まだ2年もあの子と関わらなきゃいけない……学校がある限りは……」

「そんなの……守ってあげるよ。友達として2年間、ミカちゃんを守り続ける。」


「……え。」

「私はミカちゃんを守るし、仕事もする。その代わりミカちゃんは私に情報をくれる。それでどうかな……?」


 この人なら……私の心に空いた思いも……埋めてくれるかもしれない。

 そんな藁にもすがる様な、希望を思って、私はその手を取る。


「……友達、じゃない……2年間だけでいい……家族になってほしい……」


 私はそっとその侍の元で呟く。



「……分かった。なら今日から私とミカちゃんは家族だ。」



……そうして、私と旅する侍の『家族』という関係が始まった。

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