第050話 友情へ
「メーテールはオリンパスの巨大火山の麓にある小さな村!……ただ、そこに行くと私がいるから……どうしよう。」
「メーテール、あの火山の麓にあるのか……」
例の火山か。ニケがいたあの火山。
「そうだね……流石に過去の自分に会うのは良くなさそうだね……」
「じゃあ、変装して行こっか!!」
「そうだな。エマの『変化の証』があればメーテールでも問題なさそうだな。」
ミカはフードを被って、まるでアサシンのような姿になる。
「おお!なんかカッコいい!!暗殺とかしてそう!」
「そうだな。かっこいい。」
「いいね~!!私の好みだね。」
ミカはそう言いながら手を広げたりして服を見る。
「私たちは……変装しなくていっか!」
「だな。」
ミカは変装して、俺たちはメーテールへと向かおうとする。
「ところで……本当に過去って改変できるんかな。」
「どういう意味?」
エマが反応する。
「いや、俺たちがここに来ることまで最初から想定済みで、そういう感じに歴史が作られているのかそれとも改変することができて、パラドックスが生まれるのか……そこらへんってどうなんだろうなと思って。」
「パラドックス?」
エマは言葉の意味を知らない様子。
「確かに……よくあるパラドックスだよね、過去改変って!親殺したら自分が生まれなくて消える……みたいなやつだね。」
ミカが居てくれて助かった。ミカなら前世の記憶があるし通じる……
「あ~、要するに過去が変わって起きる矛盾ってことね!」
「そう。矛盾が起こりうるのかどうか……そこがわからないよなと……」
「そうだね~……まあでもそれ込みでヴィクトリアさんは考えて、私たちの事を好きにさせてるんだからいいんじゃない?」
確かに。母神器のハシラビトであるヴィクトリアは全ての時間を見ることができる……らしい。その上で、グレートドーン以降は任せると言った。即ちパラドックスが起きたところで……ということだろうか。
「確かに……それはそうだな。エマの言う通りかもな。」
「ねえ、行こ行こ!お兄達!日が暮れる前にメーテールに着けなくなるよ!」
ミカは俺たちの前をそう言って駆け抜けていく。
「待って~!!ミカちゃん!!」
この都市アルカスもそのメーテールも……もうすぐ滅びる。はしゃぐミカを前に、その荒廃した風景が俺の頭を過って行った。
「燥ぎすぎるなよ~」
俺もミカとエマの後を追ってそのメーテールへと向かう。
俺たちはアルカスを抜け、その先の農村部も抜け、森へと入っていた。
「メーテール、田舎なんだね!」
「そう。巨大火山オリンパスの樹海にあるって感じ!」
「オリンパスって名前……火山の名前か。」
「そうだよ!ここはこの火山の恵みを使ってる国だからね!温泉とか、地熱での発電とか!」
「……まあ日本みたいなもんか。」
「そうかもね。」
まあ、5年後だと完全に噴火していたが……今はまだ噴火してないみたいだな。
「日本って樹の故郷だっけ!」
「そう。」
「私の前世でもあるね!!」
ミカは自分からエマに説明する。
「そっか……そこに似てるんだね。」
「どうかしたのか?」
エマはちょっと考えるような表情を見せていた。
「いや、なんか面白いな~!って!」
何が面白いのか俺にはいまいちピンとこなかった……がそう思ったのなら面白いのだろう。
「あ!あれ!ラヌーじゃない??」
エマが指差す先、そこにはテトラビアでミカが飼っていたペールと同じ、猪のような動物、ラヌーが居た。
「そうだね!!あれはラヌー……とその子供だね!!」
「……可愛いな。」
俺たちはそこら辺に生えていた低木に隠れてラヌーの親子の様子を見守る。
「眠そうにしてるね……お母さん。」
「そうだね……って、子供の方どっか行っちゃいそうだね……」
その子供のラヌーは親が寝た隙に森の奥へと入って行ってしまった。
「追いかけるか!」
「あ~!本当に日が暮れるまでに着かなくなるよ!」
俺が動き出すとミカがそう言って止める。
「まあ、いいんじゃない?ミカちゃん。まだ時間はあるみたいだし……」
「そうだけど……情報収集しないと守護神器見つからないかもよ~??」
ミカは最もなことを言う。本当にその通りだ。
だが、ここの生物を知る事もまた……調査の一環かもしれない。
「まあ、メーテールに着いたらしっかり調査するさ。」
「絶対だよ!!」
俺たちはそのラヌーの行き先を追った。
ラヌーは案外足が速い。猪のような動物だからだろうか。
「……そっちはまさか。」
「何かあるのか?ミカ。」
ミカはラヌーを追いかける俺に対してそう呟く。
「ここ、知ってるかも!確かその先、崖!!」
時、既に遅し……前を走るラヌーと俺はその勢いのまま崖を落ちて行く……
「もう……仕方ないな~」
エマはそう言って俺とその子供ラヌーを捕まえる……
クレオールの姿……ドラゴンの羽がはえたエマは俺とラヌーを空中で掴んだ。
「助かった……やっぱり便利だな……クレオール。」
「いや、樹も重力操れるでしょ?それに空気だって蹴れるでしょ!!」
「……忘れてた!!」
「忘れてた!で済む問題じゃ無いよね……」
俺とラヌーを掴んだエマは俺のことを呆れながら見つめる。
「ありがとうございます……エマさん。」
「じゃあ、この手離すから!」
「お、おい!!」
全く……乱暴だ……。エマはラヌーを掴んだまま、俺だけ手を離す。
俺は自由落下し始めると同時に自分自身を浮かせて崖上まで戻った。
「……よーし。もう崖から落ちたりなんてしちゃダメだぞ~。」
俺はそう言って子供のラヌーを撫でる。
「……ところで、この子どこを目指してたのかな。」
ミカが呟く。
「崖下……何かあるか?」
俺とエマは崖下を覗き込む。
「……もしかして、あれかも!なんか煙上がってる!!」
「そこを目指してたのか?」
「確かに、ラヌーは嗅覚がすごいから分かるかも……」
なるほど……。俺たちは煙の発生源へと向かうことにした。
ーーー
「……山火事!!」
俺たちが辿り着いた先……そこは森が燃えていた。
目の前には天まで届くか?という程に燃えている。
「まずいよ!!このままじゃ、この樹海焼け野原になっちゃう!!」
「ここって確か……ラピーの住処……」
「ラピーって……ミカが飼ってたうさぎみたいな、あの動物か。」
「そう!!もしかしたらネイビーの親とかいるかもしれない!!」
親ってことはミカが飼ってた、兎みたいな動物種ラピーの「ネイビー」は元々野生だったっぽいか。
「それはやばいな……どうにかしないと……」
俺がアタフタしていると……
「どうしたの??ミカちゃん!!」
エマは何かをしているミカを見つめる。
「この子供のラヌー、何かを見つけたみたい。」
「じゃあ、そのラヌーについて行っていいぞ。俺たちはここでどうにか火を消す方法を試すから。」
俺は重力の証で火を持ち上げて、そのまま土に叩き付けたり、土で囲って空気を送らないようにしたり……速度の証で素早く蹴りを入れて火を直接消したりと、様々な方法を試す。
火を消すなら水があるのが一番だけど……所詮重力操るか蹴って風圧で消す……くらいしか出来ないしな……
「わかった!頑張って、お兄!!何か見つけてくる……って、お兄危ない!!!」
俺がミカの返事を聞く為にミカの方に顔を向けていると、目の前の木は燃えて根元から俺の方に向かって倒れてきた。
「……間に合わない!!」
その瞬間俺の目の前には青色に光る板のようなバリアが発生する……
「大丈夫!!私がいるよ!」
エマがその指輪、『障壁の証』を使って俺を咄嗟に守る。
「ありがとう!助かった。」
「頑張ってね!!お兄!!」
「ああ。そっちもきっと何かを見つけるんだぞ!」
俺はそう言ってミカを行かせる。
* * *
私が追う子供のラヌー向かう先、そこには廃墟があった。
かなり新しい。最後に使われたのは……2年か3年くらい前だろうか。
「……何かの施設かな?メーテールの近くだけど……こんなところに家あったなんて……」
「……グルルルッ……」
子供のラヌーはその廃墟の内部に入り、そう鳴き声を発しながら瓦礫を漁る。
「何か見つけたの……?」
「グラッ……!!」
ラヌーが口を使って持ち上げたその物……それは勾玉のブレスレットだった。
ラヌーは私の足元にそのブレスレットを置く。
「これは……?」
「グラグラヌッ!!」
「私の為に……みんなを救う為にこれを見つけたの?」
そのブレスレット……きっと証だ。これがあればきっとみんなを救える……
私はそのブレスレットを身につける。
勾玉……と言う事はもしかしたら水の力なのかもしれない。それにそんな気がしてくる。
「ありがとう……。ラヌー……」
「グラヌッ……!!」
……その子供ラヌーの顔はペールにそっくりに感じた。




