第五章特別編 彼らの時代
「なあ、ニケ先生よ……精霊族って一体何なんだ?」
俺は胡座をかきながらその研究区で、ニケに聞く。
「いい質問ですね。ルースタ……教えてあげましょう。」
「お願いします。」
そう言って彼女はソードの試作品……フランを横の部屋から持ってきた。当然、動いてないし意思なんてない。
その試作品を雑に彼女は持ち上げていた。
* * * * *
それはある日のことだった。俺達は軍の訓練をその平原で行っていた。
「ちょっと、ごめんフェイド。すぐ戻るわ。」
「おい!!ふざけるな。ルースタ!!」
俺は森に光が見えた様に感じてその訓練を抜け出す。
「困ります!ルースタさん!!」
俺の下に着く兵士達……はそう困る様子を見せるが俺は気にせず走る。
「いつも通りやっといてくれ。」
「……全く……」
「まあ、ルースタの事だ。あいつはいつもあんなんだから変わらないか。」
「……ですね。フェイドさん……」
そんな会話が後ろで聞こえてきた気がした。
俺はその森の中で謎の存在を見つけた。
「貴様は誰だ……?」
俺は倒れていた奴と出会った……人、の様に感じる。でも、どこかその存在は普通の人とは違って神々しさを感じる。
「……僕は……ただの精霊族です。はい。ただの。」
……そいつは人間だった。
俺の声で起きたのか、倒れていた状態から起き上がった彼は完全な人になっていた。起き上がると同時にその神々しさ……は消えていた。
「……精霊族??」
見た目は完全に男……ヴィクトリアのようなエルフではなく、ニケのような魚人でもない。
姿的には黒髪の耳長人……のように感じた。
精霊族というのは実体がない、感情もない、そんな種族だって聞いたことがある。
「……これはこれは、失礼しました。この姿では精霊族とは思えませんよね……」
彼は光り輝くプリズムのような姿へと変化する……気を失っていた時の姿だ。神々しさが元通りになった。でも、実体は無さそう。
「な……」
その姿に俺は驚いた。
「僕は宝石の精霊族……遥か遠くの宇宙から来た精霊族です。」
「そうなのか……何をしに。」
「それは答えられません。では貴方……少し借りますね。」
「どういうことだ!?」
……彼は急にそう言った。
その時、多分俺の体は乗っ取られた。
その記憶は覚えている。
* * * * *
それから数日。俺は自分の意識を取り戻した。
乗っ取られたのは確かだ。しかし、俺の記憶はしっかりとあった。
一部記憶が曖昧になっているが、体の操作権のみをその精霊族に奪われていたような、そんな感覚を数日間感じていた。
一部記憶が無いせいでその数日で何が起こったのかはわからない。でも今こうして何事もなく、過ごせているんだ。
危機感もないし、特に変わったことはなさそうだし報告する迄もないか……とのんびりしている。
……俺のいけない部分ではある。面倒だと動きたくない。
「……ルースタ?大丈夫ですか??」
「ああ、ごめんごめん。大丈夫だ。」
俺はその過去のことを思い出して少しぼーっとしていた。
俺はニケに精霊族について聞いたんだった。
「いいですか?精霊族というのは個体なのです。全てが見えない網のように繋がっていて、全ては最高指導者という存在のみが握っています。」
「……ほう。」
「彼らはインガニウムより生まれた存在で、死ぬ時はセレスチウムを残します。」
……なるほどなぁ。
「……つまりそのセレスチウムを核にしたロボットは実質精霊族ってことか?」
俺はそのニケがそこに置いたフランを指差す。
「まあ、そうですね……フランは私が精霊族を目指して開発した神器……です。」
「ほう。」
彼女はそう言って持ってきたフランを持ち上げる。
あの精霊族と、コイツが似てる存在だなんて、信じられないな。
「精霊族は稀に実体化します。」
「……実体、化?」
なんだそれ。
「はい。実体化です。彼らは心が無い存在。心を知った時、彼らは初めて私たちと同じような実体となるのです。」
「……ほう……よくわからんな。」
俺はだるそうに答える。
原理が曖昧すぎるな。理屈じゃないってことか?知らんけど。あいつも実体化した個体ってことか?
「じゃあ、何かあった時そのフランも人間みたいな姿になるってことか……」
「……可能性は否定できませんがまず無いでしょう。」
「そうなのか……」
「そうです。」
……よく分からんな。自分で教えて欲しいと聞いておいて何だが……
「精霊族はインガニウムのその力の波が生命のように形作られ、偶然生まれる種族……つまり彼らの根源はインガニウムにあります。インガニウムの力によって実体化できる可能性が生じている、に過ぎないでしょう。」
「なら、フランにインガニウムが作用すれば……って事か。」
「ですね。そんなケースはあるはずがないと思いますが……」
……なんか、すっごい特殊な種族だな。精霊族って。
じゃあ、あの人間にしか見えなかった宝石の精霊族ってやつはやっぱり実体化してた存在ってところか……
「外の宇宙だと、また話は変わってきますね。」
ニケはそう、追加で話し始めた。
この人案外語りたがりなところあるんだっけ……
俺はそう考えながらその話も聞こうかなと思って胡座を維持する。
「ほう。」
「そもそもこの宇宙は元素ですが、魔素宇宙の存在も有り得ます。所謂魔法です。」
「魔法……ってあのヴィクトリアが大好きなやつか……」
「はい。それです。」
「……懐かしいな。」
この国の女王のヴィクトリアって魔法大好きなんだよな……幼い頃に絵本で見たとか言ってたっけ。
それでいうと俺もフェリスタとかもその影響受けてるし……周りに影響与えるほど好きだったな。
「私は彼女が思う魔法の世界の実現の為に神器で擬似的な魔法のような物を再現しようとしている……といった感じですね。」
「そうだったんだ。」
「はい。」
まあ、そんな気はした。
「この次元を作り出していると思われるインガニウムの性質上、魔法がある宇宙がないと科学的におかしいという結論が出ます……そして私が思うにその世界はきっと魔物のような動物が精霊族のように生まれ、セレスチウムを死ぬ時に残すのでは無いか……と思っています。」
「……面白い仮説だな。全部仮説だけど。」
「ですね。証明できるものは今のところ何一つありません。なので異世界に行けるようにする神器という構想を今練っているところです……」
異世界に行ける神器……か。
ニケならどうせ直ぐに作れるか。
「……頑張れ。」
「言われなくても頑張ります。そしてその魔物は稀に実体化……のように暴走するのではないか。とも考えています。」
……暴走か。
「宇宙は違う原理で出来ていても辻褄が合うような代わりが存在してるって言うことか……で、つまり実体化した精霊族は危険、と?」
「そう言うことでしょう。……ですが必ずしもそういうわけではありません。全てが危険な存在でしたら、この世界はすでに滅んでいるでしょう。私が知る限り、二人は実体化の事例を知っていますし……」
「……そうか。」
……まあ、ならいっか。あの精霊族の事を報告しなくても……
俺はそう思いながら、怠惰に日々を過ごす……
* * * * *
……でも今、非常に申し訳ない。
俺はアイツ……ディアボロスの事を考えながらそう思う。アイツは俺のせいで……封印されたからな。
あの時俺が奴の事を報告してたら……何か変わったのかもしれん。
……まあ、くよくよしてても仕方がないか。
……とは言うものの、めちゃくちゃ暇なことには変わりない。
「ルースタ!!遊びに来たわ。」
……そういって俺の前には幽霊のようになったそのエルフの少女。フェリスタが現れる。
彼女は俺の前で円を描く様に飛び回る。
「……相変わらずだな。お前……俺がそんなんだったなんて信じれねぇよ。」
「……あはは。まあね〜。」
こいつは俺と違って元気な性格してるからな。
「さて……お客さんが来たみたいよ。ルースタ。」
「お……珍しい。」
俺は重い腰をあげる。
「……だらしない姿見せちゃダメだからね?」
「分かってる……」
俺はフェリスタに手を振って歩いて行く。
……さて。今回は魔法統括システムからの依頼……宿屋の娘リナ・パーセルの記憶を改竄……か。




