第048話 知能神器の記憶
「インガニウムを欲しいのなら、フランを殺すしかない……のか。」
そう言うことなんだ。
「そうだ……そして、フランを殺したければ、俺と戦え。このニケに作られし知能神器ソード一号機、コードネーム『オーラン』」
ニケが作った、知能神器ソード一号機……コードネーム……オーラン。
知りたいことは山ほどある。
「知能神器!?なにそれ!」
「俺は神器の力を目指して作られた人造人間。対となる守護神器と同じようにインガニウムとセレスチウムを混ぜて作られたハイブリッドだ。」
「貴方は守護神器について知ってるの??」
エマは質問する。
「守護神器それは大陸防衛の為に作られた兵器。そしてその開発後、改良して作られたのが俺とフラン、知能神器だ。」
「……聖剣の王に出てくるニケの聖剣は……貴方。知能神器だったと言うわけ……ですか。」
メルトはそのオーランを見つめながらそう呟く。
「さあ人よ、その身でインガニウムが欲しければ俺を倒してみろ!」
オーランがそう言い放つと、オーランの右手には黄色く光る聖剣が現れていく。それをそのままオーランは構える。
「どうする……樹?」
「……目的の為に……フランを殺すために……オーランを倒すしか……ないのか!?」
俺は悩んでいた。
セレスチウム生命体。それに扉の祭壇の像で仮初の体を使って復活したフランだ。即ちすでに死んでいたはずの命。それも元を辿れば恐らく機械だと言うことだ。
「……最後に一つ教えてくれ。フランは機械なのか?」
「ああ、機械だ。当然俺も機械だ。人工知能が搭載された、神器の体を持つ機械に過ぎない。」
「……ハシラビトとは……違うんだな……?」
「ハシラビトか……まあ言ってしまえば俺達はハシラビトが顕在している状態と変わりはないだろう。」
ハシラビトの顕在。つまりファレノプシスが地上に現れたのと状況的には似ていると言うことか。
「……ごめん。オーラン、フラン。俺は目的の為に……お前達を倒す!!」
「ミカちゃん……下がっててもいいからね……」
「うん。」
「やるんですね……こいつを破壊したらどんな罰が魔法統括システムから来るのか分からないのに。」
メルトは俺の方を向いてそう告げる。確かにそうかもしれない。
「……確かにそうかもしれない。でもここで扉の像が手に入らなければ……もっと多くの人が死ぬから……誰かがやらなきゃいけないんだ。」
「……お前たちはなぜそこまでインガニウムを欲するんだ。」
オーランはその聖剣を突き出し、俺に問いかける。
「守護神器だ……守護神器を手に入れてテトラビアを救う為に、俺たちは過去に行かないといけない……インガニウムがあれば過去に行ける……そうニケが教えてくれたんだ!!」
「……な!!ニケが教えてくれた……だと。創造主は……生きていたのか??」
「ああ。自らハシラビトになって未だに生きているよ。」
「じゃあ、それが創造主自身の……意思だというのか……」
オーランはその場に倒れ込む……
「それが……どうかしたのか?」
「……ダイジョウブ……?」
俺たち四人とフランは、急に威勢がなくなったオーランを不思議そうに見つめる。
「……すまない。なら俺はフランを差し出す……創造主の……ニケの意思は絶対だ。」
「本当にいいの??」
エマはそうオーランに確認する。
「良いわけがない……でも。俺はその意思に逆らいたくもない……」
彼はそう弱そうな一面を見せる。
* * * * *
「貴方は今日から知能神器ソード1号機、コードネーム『オーラン』です。」
それはファヴァレイ第四層、研究区で産まれた。
「貴方が私の創造主……」
「そう。私はニケ、貴方の創造主です。」
俺の前に佇む水色の体を持つ魚人はそう言った。
ーーー
……俺は初の任務から帰還した。
「……一号機は成功ですね。見事神器の力を操ってディアボロスを封印しました。かなり良い結果ではないでしょうか。」
「そうですね……」
俺は壁に隠れながら、創造主ニケと他の研究員が話す様子を聞く。
「神器の呪いを無にする実験……成功ですね。心がトリガーでしたね。ニケさん。」
「人工知能でもその力は確かですね。守護神器……あれは心がないただの道具ですから。ソードのお陰でだいぶ未知の物質の特性が分かりました。」
「はい……ところで、次の魔神器ですが……扉なんていかがでしょう。」
「それにしましょう。」
所詮俺はただの作り物であり道具なんだ。それに次へのステップの試作である。それだけだと言うのだ。
「……女王の反発についてはどうしますか?」
「彼女に関しては気にする必要もないでしょう。」
「分かりました。」
俺はそっとその場を離れた。
ーーー
「……これは??」
ある日、ニケから手渡された物。それはフランだった。
「ソードの試作品。名はフランです。貴方の前に作られた物です。」
「この子……でも動かないじゃないか。」
フランは外殻のない、基盤が見えている小さなロボットとして俺に手渡された。
「そうです。この子は失敗作です。セレスチウムがあれば生命活動を再開するようなそんな状態に今なっています。」
「……なるほど。」
「どうです?任務がない時は貴方も暇でしょう?彼女を復活させるという目標を持ってみても、面白いかもしれません。」
ニケはそう俺に告げた。
実際、俺の構造を知る為にも、機械というもの、生命体というものを知る為にもフランを治してあげるという行為は暇を潰す上でかなり良いアイデアだった。
俺はその後、フランを治すことに成功した。
しかしある日……
「どう言うことだ??なにが起きた??」
「ナニガ……?」
「すみません。シャングリラはエヴァースから離脱する事を決めました……女王の決定です。」
急に空が暗くなったかと思えば、創造主のニケはそう告げる。
「シャングリラはもう、アレスともタイタンとも宇宙船を通じた国交を行わなくなります……なので私はアレスに戻ります。」
俺には訳がわからなかった。
エヴァースとアレス、タイタンは同じ惑星系に存在する。宇宙船を使った国交を使わなくなる理由がわからない……
「トビラデスカ……?」
フランがそう弱そうな声で聞く。
「そうです。扉を使った交易に変える。それが彼女の、ヴィクトリアの方針らしいです。友人とは言え、少し悲しいのは事実です……」
ニケは悲しそうな表情を俺に見せる。
「オーラン、フラン。貴方達はここで元気に暮らすのですよ。」
そう言って俺たちの頭を撫でようとする。
「どうして……俺たちも貴方についていきたい!!だめなのか!!」
そう俺が反発するとニケはまた悲しそうな表情を見せる。
「貴方たちにつけられているプログラムは島防衛プログラム……貴方たちはこの地から脱出することは不可能です。もしそのようなことがあれば……二度と修復できない体になってしまうでしょう……」
「……な。どうして……そんなものが。」
「……貴方たちは侵略するために作られたわけではありません。守護神器と同様、私がこの国の為に、最強の防衛戦力として作りました……すみません。」
それはあまりにも残酷だった。俺たちを残して彼は、ニケは行ってしまったのだ。
俺たちは外の世界に出られない……のか。
ディアボロスを封印したのも、この大陸での話に過ぎない。
つまり……そう言うことなのだ。俺は外の世界を聞くことでしか知らなかった。
こうして、俺たちとニケは別れた。
ーーー
「……ソトニ、イキタイ!!」
ある日、フランはそう言ってその未完成な体で走り出した。
「待て!!」
フランは軽々と身をこなして俺は捕まえることができずそのまま逃げられる。
フランはファヴァレイを抜け出して東の地にある『結びの扉』というらしい物の元へと行く。
俺はその後ろを必死に追いかけた。
「アレスに行きたい……ですか?」
扉の神子はフランにそう聞いていたと思う。
「ハイ……ソウゾウシュノモトニ」
扉の神子は困惑しながらもアレスに扉をつなげる。
「これで、いいですかね。」
「アリガトウ……」
フランが扉に入ろうとしたときに、俺はようやく追いついた。
「フラン!!外には出れない、そうだろ!!戻ってこい!!」
「……ゴメンナサイ……オーランサン……ワタシハ、ジブンノコウキシンヲ……トメラレマセン。」
フランはそう言って扉に片足を突っ込んだ。
当然、その瞬間フランは修復不能なまでの……ダメージを受けた。
……人間と、人工知能を隔てる壁とは一体なんだろう。
フランは人間の子供のような無邪気さでここにきて、自分の欲望に負けた結果、約束を破って外に出ようとした結果、死んだ。
人工知能が合理的な考えをする……そう言うものでもない。博士が言っていた心とはなんなんだろう……
フランこそが、心の持ち主だろうか。
俺は修復不能なレベルで壊れてしまった、フランの様子を見てそう立ちすくす。
フランを……復活させたい。そう言う意思が俺の中には芽生えた。
セレスチウムなら……いや、インガニウムを使えば解決できるか……
扉……この祭壇の、上にある像からはインガニウムの成分が見える……
俺の目には、その像は輝いていないのに、輝いているように見える……
「悪い。神子さん。この像もらっていくぞ。」
「……待ってください!!」
そう言って俺は神子を無視してフランと像を抱え扉を後にした。神子には悪かった。
けどその時は特に罪に問われることもなく済んだ。
その結果フランをインガニウムで復活させて……今に至る。
* * * * *
俺たちの頭の中に、オーランの記憶が流れ込む。
……神器の力だろうか。
「つまり……一度ニケの意思に逆らったフランがいたからこそ……ニケの意思には逆らいたくないって……」
エマはそう呟く。オーランはきっと怖いんだ。また、ニケの意思に逆らって不幸を受ける事が。
「そうだ……ニケの作った扉の像を勝手に使ってフランを復活させた。その時点で創造主の、ニケの意思を踏み躙っているのはわかる……だからこそ、償いだ……俺の罪を償う為にも……フランのインガニウムを持っていけ……」
「……オーランさん……ワタシはそんなことを……」
フランもオーランから記憶を受け取ったらしい。
一度壊れたフランは次に治された時までの記憶を失ってしまっていた、という事だろう。
つまり初めてフランは自分の過去を知る事ができた......という事だろう。
「ごめん……フラン。」
「……泣かないで……オーランさん。ワタシはいつまでも貴方の中で生き続けます。貴方の為にならこの命、この心。捧げるつもりです……それに。」
フランの言葉はいつの間にか機械的ではなくなっていた。
「……フラン……ちゃん……?」
エマたちはそのフランの様子を見て驚く。
「ワタシはもう、この体は要りません。」
フランはその仮面のように被さっていたインガニウムの像を自ら取り外す……つまり、内部の基盤が見えるはず……だった。
でもそこにいたのは一人の少女だ。
ロボットな感じなんて一切無い、天使の羽を生やしたそんなフランの姿だ。
「……その姿……どうして??」
「オーランさんのその記憶が……心が……インガニウムに作用した……のかも……」
「ワタシはもう、インガニウムの仮初の体なんて……要りません。これからも……一緒に過ごしましょう。」
「……ああ……」
オーランはその場に泣き崩れた。
人工知能とは、機械に人の体を分け与えた奇跡を起こしたインガニウムとは……いったい何なのだろうか。ますますその謎は深まった気がした。
フランが落としたその像を俺は持ち上げる。
「……ありがとう……人たち……」
オーランは立ち上がる。
「……いや……」
俺たちは何もしてない気がするが……俺たちが来た事でフランが覚醒できた……と言う事だろうか。
「何かお礼できること……そうだな、それ。そのペンダント……懐かしい匂いがするな。」
オーランはミカのつけている権利の証……ペンダントを見つめてそう言った。
「え?私??」
「……一部データが破損しているように見える……俺の力で修復しておこう……」
「そうなの??ならお願い!!ロボットさん!!」
ミカはそう言ってオーランに持っていたペンダントを渡して、治してもらった。
* * *
「メルト……お前はここからどうするんだ??」
俺たちは像を受け取って、オーセントへの帰路を歩く。
「……まだ依頼はきてませんね……」
「そうか。」
「貴方も調査員になる??」
エマはそう言ってメルトの顔を覗き込んで聞く。
「……今回の件で少しは神器に興味を持てました……考えておきます。」
「まあ、ゆっくり考えてくれればいいよ!研究所で博士が待ってるから!」
「メルトお兄か!順番的に……つまり私の下につくわけか!よろしくね!!お兄の助手!!」
ミカはそうメルトをからかう。
「……まだ決まった訳じゃない!!」
「ははは……。」
俺は素直に笑う。
「なにがおかしい……」
「いや、二人とも面白いなって……」
「そうだね!!微笑ましいよ。」
エマも笑う。
「……前はごめん。神器研究を時代遅れの人種……なんて言ってしまって。」
「なんだ……それ気にしてたんだ。大丈夫!気にしてないから!!」
「お兄……頑張んないとメルトお兄に取られちゃうかもね!!」
ミカはニヤッと笑って俺を見る。
「な!!俺とエマは相棒だ!!メルトなんかには……負けない。」
「そう!私と樹は一生一緒だよ!絶対!!」
エマはそう言って俺に抱きついて来た。
「……やるじゃん……お兄。」
ミカは笑いながらそう小さく呟いた……
……楽園に住む人々は、今日もそれぞれの『心』を持って、生きている。