第047話 地底世界の住人
「ここが農園区か。」
古代の巨大渓谷型施設『ファヴァレイ』第二層、農園区へと俺たちは踏み込んだ。
そこは嘗て水が流れていたであろう痕跡が残っている。
「流石に農園区じゃ、インガニウムなんてなさそうだね……」
「そうだな。あくまでも食料調達の為の施設っぽいし。」
「あ!これ!!これ私の所で作ってたテトラビアの大根の作り方と一緒な気がする!!」
その施設の、特徴的な土の盛られ方の痕跡はミカの家の横にあった農家で見たものに、少し似ている気がする。
「じゃあ、5000年前から姿変わらず今も栽培し続けてる野菜があるっていうことか……」
メルトが呟く。
「ここはテトラビアの昔の食生活を知る為には重要な施設になりそうだな……」
「だね〜。この層は流石に私達と求めている物が合わなさそうだし、次の層へ行こうか!!あとで博士にここのことは伝えよう!」
エマはそう言って次の層へ向かうことを提案する。
「……おーい。行くぞ。ミカ……」
ミカは目を光らせながらその古代の人工地下農園の植物や土を見つめる。
「……あ、ごめんごめん。つい美味しそうだったからさ!」
なんだコイツ。そこにあるの野菜じゃなくてただの土と数千年レベル放置されてた植物の根とかだぞ……さすがは土竜人か。
「ジョウロで水やって、後から来れば木の実でも育ってるかな〜って。骨粉かけても育つか!」
うん。何言ってるんだこいつ。これはポケモンでもマイクラでもねぇよ……
「はいはい……ゲーム脳はいいからいいから……」
俺はミカの背中部分を掴んで軽々と持ち上げる。
「馬鹿なこと言ってないで、次の層へ行くぞ。」
「……お兄の鬼!!」
ミカは持ち上げた俺のことを軽く叩く。
本当に何がしたいんだ……
その様子をメルトとエマは見つめていた。
「……すまん。」
「いやいや、全然!よくわかんないけど、二人とも微笑ましいな〜って!」
「……そうか。」
「そう〜??」
まあ、ある意味ミカに前世の記憶があった所で、その知識を使える場所なんて今まではなかっただろう。そう考えたら俺はそんなミカに構ってあげるべきなのかもしれない。
「さあ、行きますよ。」
メルトは崖になっている後ろ側に振り返る。
「次の層へは重力の力で行きますよ。」
「そうだな。わかった。」
俺はミカを下ろしてエマとメルトの方へ向かう。
そしてそのまま重力の証に力を込めてみんなをしたの層へと運んだ。
まだ、地底は見えなさそうだった。
そろそろ深さ的にも時間的にも暗くなってきていた。
「サンフレア!」
エマは第三層採掘区に入った途端そう言って魔法を発動した。
「おお。古代魔法のサンフレア……ライトと比べたら100倍は明るいと言われる魔法ですね……」
「そう!これも本に載ってた!!」
ミカはそのエマが出した大きめの光る球体に触れようとする。
「あ!ちなみに触れたらめっちゃ熱いと思うよ!!」
「あちっ!!!」
「あーあー……」
「言うのが遅い!!」
いやまあ、触る物じゃ無いだろう……それに自業自得だ。
そのサンフレアのお陰で採掘区の巨大な全貌がよく見える……
「……ギギ……ギギギ……」
「……カッ……カッ……カカ……」
そんな音が吹き抜け状になっている下の階の坑道のような場所から響いてくる。
「この音……まさか誰かいるのか……?」
「そ、そんなわけないでしょ……」
「幽霊かも……?」
「ゆゆゆ、幽霊なんていないでしょ!!!!」
ミカが幽霊というとエマはわかりやすく動揺する……面白い。
俺たちはその坑道まで降りる。
「この先……ですね。」
「ああ。」
「……行こうか。」
俺たちはその坑道へと入ろうとする……その瞬間だった。
「フゥ……キョウモ……タイリョウ。」
そんな機械音声を発しながら、ツルハシと袋を持って坑道から出てきたのは、1体のロボットだった。
俺たちは驚いて退く。
「……ニンゲン?」
メルトはその鞘に入った剣を抜く。
エマもストレージからナイフを取り出す……
「アンシンシテクダサイ……ワタシニ……テキイハ、アリマセン。」
「……貴方は誰ですか?」
その汚れた、人型というには短足な足を持っている2速歩行のロボットは敵意はないと、そう言った。
その言葉を聞いてエマとメルトはその構えを解く。
「ワタシハ……『ニケ』ニ、ツクラレタ、ソード……シサクヒン。ナハ、フラン……」
ソード試作品……聖剣の王という物語に出てくるらしいニケは聖剣を持った神様。
この機械が言っていることとだいぶ食い違う。
「ニケ……やっぱり実在したんですね。」
「貴方、生きているの??」
エマは敵意がないとわかると無邪気に聞く。
「ハイ。ワタシハ、セレスチウム……セイメイタイ。キカイデアリナガラ……イキテイマス。」
セレスチウム生命体……まあ魔石はセレスチウムで、魔物の心臓となる。そう考えたらセレスチウムが生命体という解釈は可能なわけだ。
「私たち、ここにインガニウムを探しにきたんだけど、ある??」
ミカはフランのその頭の部分に触れながらそう聞く。しかし一切触れられても気にする事はない。
そもそも表情がない。顔にあるのは目だけ。完全にロボットだ。
「……ツイテキテクダサイ。」
そのフランと名乗るセレスチウム生命体は俺たちをさらに下の層へと導いた。
「……ツキマシタ。オーランサン……!」
下の層。おそらく研究区まで俺たちはフランに連れられたままやってきた。
その研究区はまるで太陽光があるかのように明るかった。とても5000年前の遺跡とは考えられないような、そんな雰囲気を醸し出していた。
「お?どうした……フラン……って……人だと?」
その研究区には一人の機械と人間が合体したかのようなそんな男が一人、居た。
「誰だ!!」
「それはこっちのセリフだ。人!!何しにきた!!」
俺は剣を抜き、その男もまた攻撃体勢に入る。
「チガウンデス……カレラ……インガニウムヲ、サガシテイルミタイデ……」
「そう、なのか……すまない……。」
その男はフランのその言葉を聞いて攻撃体勢を止める。俺も剣を戻す。
「俺はソード1号機。オーラン。よろしく……」
オーランと名乗るそのサイボーグのような男は俺に手を差し出す。
「……攻撃してくるわけじゃない……のか。俺たちは樹とエマ、ミカとメルトだ。よろしく。」
俺はちょっと不安ではあったが、その手を握ってそう自己紹介した。
「しかし……今このファヴァレイが地上に露出したのはわかるが……ここまで降りてくる奴らがいるとは思わなかったぞ……」
オーランはそう言って俺たちの方を見る。
「マア……ヒミツノ、ツウロヲトオッタノデ……」
「……そっか。フランが案内したからここまで来れたのか。」
「普通ならここまで来れないの?」
エマはオーランに尋ねる。
「ここは地上から100キロ以上下がった先にある。まず普通の人間じゃ来る事は無理だろう。」
「……は?」
100キロも下がってきた記憶はない……つまり。
「古代魔法のワープと同じ……かな!」
「ほう……古代魔法を知っている……か。」
オーランはエマがそう言うのを聞いて驚きを見せる。
「所で、貴方達はここにインガニウムを探しにきたんだよな?」
「ああ。そうだ。」
オーランは後ろを振り向き俺たちに背中を見せる。
「……そうか。残念だが、それはここにはない。あるのは痕跡だけだろう。帰った方がいい。」
オーランはそう言い放つ。
「採掘場は、インガニウムを採掘してるわけじゃ無いのか?」
「違う。古代のセレスチウムを採掘していただけだ。元はと言えばただの炭鉱に過ぎんが。そもそもインガニウムはとんでも無く貴重な結晶だ……何せその結晶は宇宙の始まり……その時にしか作られない。こんな採掘程度で手に入る物じゃない。」
「……じゃあ、どうしてそれを素材にしてる神器があるの?」
エマが最もなことを聞く。確かに、そんなレアなものが使われている神器をいくつも見てきた。俺たちの中じゃもうインガニウムは普通にあるもの、と言う認識にすらなっていた。
「コア環天体だ。星内部にあるコアを制御し、星の重力に集まっている微量なインガニウムを取り出す。それがタイタンで行われたインガニウム抽出の歴史だ。生憎ここじゃあ、女王の命令でそれは禁止されているからな。それに多分、そこまで行くのは不可能だ。俺でも無理だ。」
女王、つまりはヴィクトリアだろうか。
「でも、ニケさんは採掘場があるって……」
エマは俺から聞いた話を元にオーランに伝える。
「たとえ創造主がそう言ってても、女王の命令には逆らえない。諦めてくれ……」
「……他にインガニウムを手に入れる方法はないのか……?」
「……あるにはある。」
オーランはフランの方を見つめる。
「フラン……コイツは扉の祭壇のインガニウムを……その像を改造して俺が作ったものだ。元々試作品だった初号機ソードの意思を……仮初のこの体で再現した。」
……そのロボットは、セレスチウムの心臓に、インガニウムの体を持っていた。