第044話 時の力とオリンパス
第43話と順番を間違えて投稿していた為、再投稿になります。
「おーい!!エマ、ミカ!!」
俺は火口からエマ達の待つ場所へと戻った。
俺は重力の証を使いこなして安全に着地する。
「どうだった?神器はあった?」
エマは目を光らせて俺の方を見つめる。
「ああ。神器はあった。けどお目当ての守護神器ではなかった。」
「……違ったんだね、お兄。」
ミカは悲しそうな声でそう言う。
「違いはしたが、大きすぎる収穫があった。火口内部にあったその神器は『荒びの鐘』で、そのハシラビトは神器の製作者だった。」
俺はエマとミカにその場でニケから聞いた全てを話した。
ーーー
「そっか。ハシラビトはやっぱり人だったんだ……」
「へー面白いね!!」
ミカも興味津々で聞いてくれた。
「それでだ、テトラビアの遺跡からインガニウムを探して過去に行こうと思う。二人はどう思う?」
「私は全然。樹が行くとこになら勿論ついていくよ!」
「私も!」
勿論、二人とも賛成してくれる。それは予想通りだ。
「……だけど、ミカ……過去に戻って、オリンパスの守護神器と思われるものを調査しに行こうと思うんだ。それでも、ついて来るか……?」
オリンパスの過去に戻ると言うことは、ミカにとっては辛い事になりかねない。
ミカが辛いと言っていた、目の前に死んだはずの人が生きている、という状況が生まれるからだ。
正直、ミカの気持ちを考えるなら過去のオリンパスへは俺とエマだけで行くべきだ。
だけど本当に尊重するならミカに話をしない訳にはいかない。
「辛い……けど私も調査仲間だから!私もオリンパスに行く!!」
建前……だろうか。
「本当にいいの?ミカちゃん。」
「うん……辛いけど、私だってあの大嵐がなんだったのか気になるし……ついていかない理由はないよ!!」
……ミカは自分の意思を押し殺している……頑張って強がっているんだ……
「本当に、強くなったんだな。真緒……いやミカ。」
俺はミカの頭を優しく撫でる。
「もう、お兄に守られるだけの私じゃないんだよ!!」
「じゃあ、一緒に過去のオリンパスにも行こう……!」
「うん!!!」
俺の中にはまだ、どこかでミカは守るべき存在……いくら土竜人としての能力があったとしても、ミカ自身が過去のしがらみを断ち切っていたとしても、俺の中にはまだその気持ちが拭えなかった。
だからこそ、ミカには無理してついてきて欲しくはなかった。
……でも、信じるべきなのだろう。信じてあげる事もまた仲間……いや家族としての務め……か。
そう思い俺はどうしようも無く弱く、迷っている自分を言い聞かせる。
「でも、どうやってインガニウムを手に入れるつもりなの?」
エマはミカの頭を撫でる俺に話しかける。
「……西の遺跡かレトーンあたり……しかないだろ。」
「まあ、そうなるよね……」
「昔の扉の祭壇の失われた部分、その行方を見つけるためにも遺跡に行くのがいい気がするな。」
「確かに!!」
「そうだね……遺跡に祭壇に使われてたインガニウムがある可能性もあるもんね!逆にテトラビア外に持ち出された可能性もあるけどね!」
「そうなったら、採掘方法を調査するしか無くなるな……」
「採掘だったら私に任せてね〜」
ミカはその爪を光らせながら俺とエマの方を見る。
「そっか!ナイスすぎる。ミカ!」
「えへへ〜」
ミカは土竜人だ。その爪の形は採掘に適しすぎている。ラッキーだ。
俺たちは今後の方針を決めて、テトラビアへと帰還した。
ーーー
「お帰りなさい、エマさん、樹さん、ミカさん。」
カーラはいつも通り俺たちを迎える。
俺は今のうちに祭壇を確認しておく……実際に、2つは壊れている。壊れていると言うより、やっぱり上部分……動物の像?のような物がなくなっている。間違いない。
「樹さん、どうかしましたか?」
「いや、この壊れてる祭壇が、どう壊れているのかなと思ってな。」
「壊れてる2つの祭壇……ですか。」
「この2つがあればこの扉で時間も超えられるようになる、らしいんだよね!」
「……やっぱり、時間移動できるようになるんですか……」
カーラはそう小さく呟く。
「やっぱり……なの?カーラさん。」
ミカは純粋な表情で聞く。
「ええ。前から思っていたんです。『扉に導かれし者』は多分時間移動をしている、と。」
「私は確かに未来の世界で生まれて、テトラビアのこの時間に成長してからやってきた……それは確実!!」
「でしょうね……私の転移先が間違っているとは思えません。今までだって一度も間違えたことはなかったので。」
「気づいてたんだな。俺たちが時間移動してここにやって来たって。」
扉での時間と時空の移動の可能性が示唆された以上、『扉に導かれし者』が時間移動しているのは間違いない。じゃなきゃ、エマの存在の辻褄が合わないから。
「はい。ですが……知っての通り、時間を示すはずの祭壇は壊れているのに……貴方達は来れているんです。それが不可解なんです。」
俺もエマもそれをカーラの口から聞いてようやくピンと来て、納得する。
「確かに……祭壇無しで、時間移動できていたわけになる……」
俺は腕を組んで考える。
「そうだね……よく気づいてたね……カーラちゃん……」
「長年巫女をやっていますから……」
カーラは笑ってそう答える。
「なので私は『扉に導かれしもの』は何かしらの運命が働いているように感じるんです。」
カーラは改めてそう俺たちに告げる。
確かに。それは思う。
「……よくわからないけど、不思議だね……」
ミカも不思議そうな顔を見せる。
「だから、解明してください。この扉の謎を、解明してください。私はそれまで待っています。」
カーラはいい笑顔を見せる。
……そんな笑顔をされて、その願いに答えない訳にはいかない。
「勿論。俺たちは扉の謎もきっと解明してみせる。カーラのモヤモヤも晴らしてみせる!」
「そうだね!!」
「お願いします。」
俺たちはカーラにそう誓って、『結びの扉』を後にして西の遺跡へと向かう。
ーーー
「ここから西の遺跡ってどのくらいかかるんだ?」
俺は遺跡に行ったことがあるはずのエマに聞く。
「えーっと、オーセントは基本円形だから、扉から研究所くらいまでと変わらないかな〜!」
「なら、ちょっとかかるね〜」
ミカは歩きながら伸びをしてそう言う。
ミカの小さい歩幅からしたら多少俺とかエマよりも大変かもしれない。
「いやか?」
「いやいや、そんな事ないよ?むしろこうやってのんびりお兄とお姉と仲良く歩けるのが楽しいからもっとゆっくり歩きたいくらい!!」
逆か。むしろこの時間を楽しんでいた。
「じゃあ、今からダガランでのお兄の活躍を教えよっか!!」
「聞きた〜い!!」
エマは人差し指を振りながらそうミカに提案する。
「……エマ。ダサいのはなしで頼む……」
「どうしよっかな〜〜!!」
エマは悪そうな顔をして俺の方を見つめる。
「まあ、記憶を改竄しなければいいよ……エマは正直だから何もしないって信じてるし……」
「あら、正直だなんて……」
「お姉は改竄なんてできる頭してないよね〜!!」
「ミカちゃん!??今なんて言ったの???もう一回行ってみな〜???」
エマは鬼のような目でミカに圧をかける。
その様子は普通に魔王だ。魔族の血が見える。
「冗談冗談、冗談だって!!ごめんなさい〜」
ミカはその圧に対して頭を抱えて目を瞑る。そのくらいわかりやすく萎縮する。
「ふっ……面白いな。」
「笑うな!!樹!!!!」
ミカのおかげで、俺たちの間に笑いが今まで以上に増えた気がする。
最近、毎日が楽しみになっている。
ーーー
「ここだよ!!」
エマが指差す先。そこにはまるでオリンパスと同じように、もっと風化した世界が広がる。
「ここが西の遺跡なんだ!!」
「そういえば、ここって勝手に調査していいのか?」
一応気になったからエマに聞く。
またこれで俺たちが犯罪者扱いされたら大変だ。
「あ、それに関しては大丈夫。私が一応資格持ってるから!付き添いの人も私が見てる上でなら大丈夫だよ〜!!」
エマはそう言って権利の証からエマ自身の紋章を見せる。
確かにそこには資格:考古学、と書かれていた。
「頼もしいな。じゃあ任せるよエマ。」
「任せて!!」
「じゃあ、私は掘ってもいい??」
ミカは嬉しそうに言う。
「地面掘る分には問題ないけど、硬いものとかがあったら気をつけて掘ってね……重要なものかもしれないし。」
「わかった、じゃあ行ってくる!!」
ミカはそう言って勢いよく両手を巧みに使って土竜のように地面に潜っていく……
「あれ、流石にあれは監視下にあるとはいえないんじゃ……」
「確かに、だめかも!ミカちゃん!!戻って!!」
エマは声が届くように手を使って、ミカが掘った穴に叫ぶ。
そうするとミカが戻ってきた。
「……ごめん……お兄、お姉……やばいかも……」
「え?どうしたの??」
「……想像以上に、博士が言ってた……地下空間が……あって、今にも崩れ落ちそう……」
ミカがそう言った瞬間、俺たちの目の前に広がるその西の遺跡は陥没し始めた。
……オーセント最西端から1キロくらいの場所にある西の遺跡は崩れ、巨大な峡谷が現れた。