第043話 水の星とオリンパス
先日投稿した「時の力とオリンパス」と今回の順番を間違えて投稿していました。該当話は一旦削除しました。すみません。こちらが本当の第43話になります。
「どうですか?暇でしょう?どうせなら……チェス……でもやりながら話しましょうか。」
そうニケが言うとそのテーブルの上にチェス盤と駒が現れる。
「チェスを知っているのか……?」
「いえ。あなたの記憶から再現した物です。私が知れるルールもあなたの記憶からしかありません。」
……机や椅子を出せたり俺の記憶を見たり、チェス盤を出せたりと、命界は色々と自由らしい。
「シャングリラは、惑星アレスの国オリンパスと衛生国家タイタンが協力して5000年前、エヴァースの大地に作った国家です。」
俺と反対側の椅子に座ったニケはチェスの駒を進めながらそう説明する。
「エヴァース……」
俺もそのチェスを適当にやりながら話を聞く。
「はい。水の星と言われていました。原生生物の星エヴァースです。私達はエヴァースを植民地として、寿命が近かったこのアレスから新たな大地へと移り住むことを考えました。」
……地球が滅びそうになれば地球人だって他の惑星を住処にしようと考えるだろう。それと同じか。
「実際に5000年後、アレスは滅んだな。」
今、死の星になっているように。
「そうなります。そしてその時のシャングリラの女王がヴィクトリアです……私の、友人です。」
「ヴィクトリアとはそんな仲なのか。」
女王……クイーンが、あのヴィクトリア。俺はクイーンの駒を持ち上げて揺らしながら考える。
やっぱり魔法統括システムが言っていたシャングリラ女王はあのヴィクトリアで間違いなさそうか。
「ええ。神器というものも、女王からの依頼でした。この国をもっともっと豊かにするためにどうしたらいいか。それを当時タイタン一の科学者であった私がインガニウムを使って神器を作った、そんな形です。」
「……なるほど。つまり本当の神器の発祥の地はタイタン……というわけだな。」
「まあ、そうなります。」
俺もニケも駒を進めていく。
「教えてくれ。神器とは、ハシラビトとは一体なんなんだ??」
「……神器。それは……この世が生まれる時に出来る、どんな宇宙でも存在でき非常に強力な力を持つインガニウムというものを実用化した、神の領域に足を踏み入れる為の道具……です。ハシラビトとは使用者の願いを受け取り、インガニウムにアクセスする為に神器の中に入り込んだ人……というのが正しいでしょう。」
「……神器の中に入り込んだ、人……そんなことあっていいのか……?」
俺は不安そうに聞く。だって、道具の中に人が入り込むと言うことだ。正直ハシラビトと初めてあった時からそうだとは思っていたが、意味が分からない。
「ハシラビトにも実際、利点はあります。エネルギーがある限りか、神器が壊れるまで生き続けられるのです。実際今、私はこの火口にいることでマグマの熱エネルギーを利用して5000年もの間私は生き続けているのです。そのエネルギーは太陽光でも、なんでも大丈夫です。そしてハシラビトがいる神器は呪いが和らぎます。」
つまりハシラビトは擬似的に長寿になれる存在……ということか。
それに、加えて、呪いを肩代わりしてくれる存在、だったりするのかもしれない。
ソアロンの魔装置が10倍以上の呪いだったりするのはそこに由来していると考えるのが妥当だろう。
俺はまた駒を進める。
「正に不老不死を目指す人々にとっては好都合っていうわけか。」
「そうですね。私のような天才は自らこのようにこのソーラーシステムで一番巨大な火山のマグマを利用して生き続けます。このチェスも机も、全てそのマグマから得たエネルギーからです。」
「……虚しく無いのか?こんなところで一人で。」
「虚しくなんてありません。私はここにいれば永遠に研究し続けられ、インガニウムどころか宇宙の謎すら解明できる、そんな気がしているのです。」
ある意味、普通そうに見えてニケも狂っていた。研究のためだけに、生きる為に最効率を目指し火口に神器を作って、そこにハシラビトとして生きる決意をした、と言うこと。言っていることはヤバい……常人ならしないだろう。つまりヴィクトリアも扉の精霊も盃の悪魔も狂っているだろう。
呪いが和らぐと言う点からハシラビトは呪いを肩代わりさせられる存在、である可能性がわかるが、ニケは確かに頭が良い。だってこんな場所にあったら絶対に神器は使えない。即ち呪いの悪い効果は無くなる……。
火山の火口という場所はハシラビトにとってめちゃくちゃメリットがある、最強の場所選びかもしれない。
「……私としてはヴィクトリアは普通に生きていて欲しかった……ハシラビトの道は選んで欲しくなかったですね……」
「友としての、優しさっていうことか。」
「そうですね。チェックメイトです。」
ニケに俺はチェスで負けた。
「あー久しぶりのチェス楽しかった。」
「5000年ぶりに人に出会えてよかったです。」
俺は椅子から立ち上がって伸びをする。そのまま欠伸まで。
「シャングリラのことを知ってこれからどうするのですか?」
ニケに聞かれる。
「まあ、俺は神器の謎を追っていた。今回もらった知識はテトラビアの歴史解明からしたら革命だ。勿論、裏付けはできないけどな。ここから先は、調査して順番に確定していけば神器の謎もわかるだろう……」
「それなら、直接過去に行けば良いのでは無いですか?」
……過去??
「ハシラビトとなってしまった私はもうどうすることもできませんが、あなたなら過去に行くことができるでしょう?私が作った『結びの扉』なら。」
結びの扉なら、過去に行ける???ニケは何を言っているんだ???
「あの扉は場所だけしか移動できないだろ……何を言ってるんだよ。」
「私が作った『結びの扉』は周りに4つの祭壇、がある筈です。その祭壇は時間・空間・次元・心をそれぞれ示します。それによって、別次元や過去未来のどこにでも行ける筈です……」
「別次元や過去未来へ、だと……?」
「はい。」
ニケは自信満々に言う。
そういえばカーラは4つの祭壇のうち、1つしかいつも触っていなかったように思う。というか、4つの祭壇のうち2つは台座のみになっていた……筈だ。
「残念だがその祭壇は今ではもう、2つはなくなっている……と思う。次元も時間も移動できない。」
「そうですか……ですがそれに関してはインガニウムがあれば解決出来ます。私が作った扉の核は水路の方にあるので、祭壇はインガニウムを乗せるだけでも機能する筈です。」
「……なるほど。」
ソアロンの魔装置、簡びの鋏はインガニウムを持っていったことでより強い効果を表すようになった。
その理論と同じ、と言ったところだろう。
つまり、インガニウムで強化すれば扉で次元移動と時間移動ができるようになる……のか。まるでゲームの強化、みたいだな。
「じゃあ、インガニウムを探せば良い訳だな。インガニウムさえあれば過去に行けると……」
過去に戻れるようになるのであれば、リスクはあるがそもそも5年前のアレスに……オリンパスに来たほうがなんなら守護神器も見つけやすいのではないか?
そんな気もしてくる。
「はい。シャングリラの地はインガニウムの採掘場がある筈なので……5000年後でも残っている、と思います。」
「ありがとうな。ニケ。」
「……私はただ、久しぶりに人の気配を感じたから貴方を呼んだ。それだけですよ。」
だとしてもこんなところに神器の開発者がいたと言うのが意外だ。
「それでも俺にとっては有益な情報だ。ありがとう。」
「それじゃあ、戻るよ。また来るかもしれないな……その時は頼む。」
俺はニケに対して握手を求めようとする。
「……防火結界の内部にアクセスポイントになりそうな鏡でも設置しておきます。」
「……そんなことができるのか!?」
ニケはその俺の手を取る。
「はい。ハシラビトとはいえ、エネルギーさえあれば少しの間は現実に顕在できるので。可能です。」
「でも、そんなことをしたら此処に俺以外も来るんじゃないか?」
「荒れ果てたアレスにくる物好きなんて、5年間で初めてなんで大丈夫ですよ、きっと。」
……まあ確かに。よく考えればこの惑星人が住める環境じゃなかった。
俺たちはあくまでもオートエア加工や権利の証の力で生きれているだけ、だったか。
「またな。」
「ええ。」
そうして、俺は命界から脱出した。
「……次にやるべきことが決まったな……過去か。」
……俺は右拳を強く握って決意する。




