第042話 鐘の神とオリンパス
「……でも、どうしてここで爆発?」
ミカは悲しそうに言う。
「まだ爆発とか戦争が起こったとは確定していない。ただ、何かしら太陽風以外で風化した可能性がある。いや、なかったら不自然だって言うだけだ。」
「……そっか。」
やっぱりここにミカを連れてくるべきではなかったか?本人が気にしないと言った以上仕方がないか……。
「ただ……あれだな、アレス全土を調査しなきゃ神器は流石に見つからなさそうだな……」
「そうだね。ここまで風化してると神器があっても埋もれてる、壊れてるって可能性もあるかも……」
「確かに。」
風によって運ばれた砂は街を覆い尽くし、完全な廃墟だ。崩れている建物も多くある。
こんな中から、いやこんな惑星全体からたった一つの神器を探すことなんて……できるのか?
それこそ数年経ってしまう気がする……
「どうしよっか……ミカちゃん、何か記憶あったりしない?」
エマは腕の中に抱えているミカに質問する。
「うーん……オリンパスは巨大な山を中心とした国なんだよね……神器みたいな何かがあるとしたら……」
ミカは俺の方を向いてそう言う。
「その山にある可能性、か。」
「うん。みんなその山のことを神の山って崇めてた。神山教っていう宗教が古代からあるくらいに……」
神と言えばやっぱり神器が思い浮かぶ。
「じゃあ、その山に行こう!!」
「でも注意してね、その山、噴火してると思うから。」
「じゃあ、もしかしたらこの街が壊れたのは噴火の可能性も……あるか。」
「そうだね、その可能性もありそう!」
俺、エマとミカはそのまま証の力とクレオールの力を使ってその火山を飛んで登っていく。
……その光景は側から見たらもはや人間には見えないだろう。エマは元々は人間じゃないけど。
「ついたね!ここがオリンパスの巨大な火山ね!!」
「しかし……ミカが言う通り噴火してるな。」
俺たちは山頂付近に着く。火口からはもくもくと煙が上がっている。
時々轟音と共に赤いマグマがその姿を見せる。
「……熱そう。」
ミカが小さく呟く。
「でもやっぱり、こんな所に神器があるとしたら山頂か火口内部……?」
「火口内部はあり得ないだろ……」
火口内部にあったらやばすぎる……と思いながら冗談としてそのエマの発言を笑って流す。
「あはは〜流石に冗談だよ!」
エマも冗談だったようだ。
山頂付近、それすらも数キロあるように感じるが、空から見ても建物の痕跡とかは見えなかった。
山頂に神社のような宗教施設がある、訳ではないのかもしれない。
「火口内部はあり得ないとして、山頂にも何も痕跡なさそうだね……」
「忘れてた!!この山って2キロ以上標高があるの。だから普通の人じゃ空気が薄過ぎるかも……提案しておいて……ごめんね。」
飛んできたから標高なんて気にしていなかった。それにペンダントのおかげで空気が薄くなるなんて感じることはなかった。
「それなら5年以上前この星に文明があった時でもここに建物を作る、神器を置いておくなんてことはできないな……まあ、気にするな。さあ、他を当たるか……」
その瞬間、俺の頭にキーーンという音が鳴り響く。
その音は火山の火口方向から聞こえて来た気がした。
「……どうしたの?樹!!」
俺がその音を聞いて固まっているとエマが話しかけてくる。
「冗談抜きで本当に火口の中に神器があるかもしれない……いや、そんな感覚がする。行ってくる。」
「ちょっと待って!!それってどういう?」
「多分これのおかげ……」
俺は左耳のピアスを指差す。
その音は左耳から聞こえて来た。多分、感覚の証をつけているから聴覚が強化されて微かな音を聞き取ったのだろう。
「二人はここで待ってな。俺が体を張って調査してくる。」
俺はエマとミカの頭に手を置く。
「ちょっと、樹!!!」
俺はエマの声を無視してそのまま飛び立つ。
* * *
「全く、樹は……」
私はため息を吐く。
不死だからって、今まで自分が何もできてなかったからって、体を張ったのかな……
無理はして欲しくないんだけどな……はあ……
「お兄、死なないよね?」
ミカちゃんは心配そうな目で私を見つめる。
「うん……問題ないよ、だって樹には不死の呪いがかかってる。だから……どんなに致命傷を受けても生きれる!」
「不死……」
ミカはそっと呟く。
「そう。私としては本当はあんな危険は冒して欲しくないけど……不死だから自分が行かなきゃって、そうやって行動したんだと思う。だから私たちは信じてここで待ってよう!」
「……信じてるんだね、お兄のこと。」
ミカは笑顔で私のことを見つめる。
「当たり前でしょ?私たちは相棒だもん!」
今まで、短い付き合いではあるけど困難を乗り越えてきた。だからこそ急な思い立った行動でも、樹を信じてあげるのが一番。そう思う。
「……頑張ってね!樹!!」
* * *
多分あの音は、マグマの音じゃない。だからこの火口内部には何かが、ある!!
「だいぶ重力の証の扱いにも慣れてきたな。」
速度の証の力で空気を蹴って、空中で細かな方向転換が出来ることを理解してきた。
今ならもう、飛んでくる火山弾だって軽やかに避けれる。
俺は様々な速度で飛んでくるマグマや火山弾などを避けながら、重力の証の力で当たりそうなものは弾きながら、噴火する火口内部へと進んでいく。
俺の服もまた自動で半袖になっていた。
それに、火の粉が当たっても燃えることが無い。耐熱性能もあった。エマが選んでくれたこの服のおかげだ。そんな過酷な場所でも、体感温度は普段と変わらない。
「……バリアブル加工にオートエアー加工、凄いな……暑さすらも和らげる。これもまたセレスチウムの力かもしれないな。」
俺はどんどん火口内部に進む。
「……なんだ?」
急に不自然に火や煙が無い部分に到達した。
それはまるで球体状で、火口のマグマの上に浮かんでいるかのようにその場所はあった。
……そこにはマグマよりも一際眩しい光が見える。
「やっぱり、あった!!」
そのマグマが侵入してこない火口内部に浮かぶ空間。そこには時計の針のようなインガニウム結晶を持つ、金色に輝く鐘がただ一つあった。
「……これは……反魔法結界のようなものか。」
俺はマグマなどが絶対に入ってくることがなさそうな、不思議なその空間に降りて辺りを見渡す。
「とりあえず、やっぱり神器があったな……」
神器を見つけたらやること、それは一つだろう。可能であれば命界に行ってハシラビトと接触する。
それだけだ。
俺は目を閉じてハシラビトに会いたいという願いを込めてその鐘に触れる。
そうすると無事命界に入ることができた。
「……お前が、俺を呼んだのか?」
俺は命界に入ると共にそう言い放つ。
「急にアレスに生命反応が現れたので、つい……ですがまさか火口を進んでくるとは思いませんでした。」
鐘の後ろから魚人が現れる。その体は青く鱗があり、頭は長くしっぽのように下に垂れ下がる。そんな容姿をしている。
火山の内部に、魚人……
「……まあ、不死だからな。俺からしたら行くしかないだろ。」
「なるほど。噂に聞いていた盃の呪い……ですか。」
「な、まさかお前知ってるのか??」
「知っているも何も、私がシャングリラの神器を作ったので。」
「は?」
「はい。私はニケ。この『荒びの鐘』のハシラビトであり、衛生タイタンにかつて住んでいた魚人族。シャングリラにある5つの魔神器。その製作者です。」
魚人というだけでも頭が追いつかないのに、そんなことまで言われたら頭が沸騰しそうだ。
情報量が多すぎる。
それに、すさびのかね……か。
「あなたはシャングリラ、いやエヴァースの住人ですか?『結びの扉』の力でここにきた、という……?」
シャングリラ……それは俺とエマの前に一度現れた魔法統括システムが言った単語だ。
この魚人、ニケの発言によって確定した。
シャングリラはテトラビアの古代の国名か地名。そしてそこにその時生きていたのが、母神器のハシラビトであるヴィクトリア。魔法統括システムの発言からそう思える。あれが別のヴィクトリアの可能性がなくは無いが、おそらくそうなのだろう。
それと、ファレノプシスの件の時からハシラビトの正体は実在した人だと思えていた。これも今の発言で多分確定だろう。
「ああ。扉を使ってこの荒れ果てたアレスに。オリンパスにやってきた。あと、シャングリラじゃない。今の時代はテトラビアだ。」
俺はシャングリラに対して訂正する。
「そうですか。もう外の世界は5000年経った……国の名前も変わる……ということですね。」
「ああ。そうだ。」
「ヴィクトリアは元気にしていますか?あの子はエルフです。今も生きているでしょう?」
ニケはそう俺に聞く。
「ヴィクトリア……あいつはハシラビトだ。お前と同じだろ?」
「まさか……彼女自身ハシラビトになっていた、のですか……」
ニケは頭を抱える。
「私はあれほど、やめておけと忠告したのですが……」
ニケはそう言ってため息を吐く。
「過去のテトラビアで……シャングリラでは一体何があったんだ!?教えてくれ!!」
俺は強めの口調で聞く。
「私の知る限りなら、教えましょう……」
そうニケはいうと、その場にテーブルと椅子を作り出す。魔法のような感じに。
「そんなところに立っていても疲れるでしょう?ここに座ってください。」
「ああ。わかった。」
……俺は、テトラビアの古代の謎を解くために、その椅子に座った。




