第041話 死の星とオリンパス
「オリンパス……5年前に滅んだ惑星、アレスに存在した国ですね。」
カーラはその祭壇を操作しながらそう呟く。
「ああ。そこに行きたい。」
「わかりました。ですが、国交がない土地へのアクセス、それに生命体が存在できないような星への転移は自己責任に当たります。テトラビア公認のアクセスポイントが存在しないため、転移先の保証もできないので、覚悟しておいてくださいね。」
カーラは俺たちにそう告げる。
「まあ、大丈夫でしょ!!このペンダントの力があれば呼吸だってできるし!!」
「あまり過信し過ぎてもいけないですよ。充分注意してください。紛失してしまえば帰れなくなります。」
「ああ。もちろん注意をする。だから、よろしくな。」
俺はそうカーラに視線を送る。
「それでは、行ってらっしゃい。」
「いってきます!!」
ミカは元気よくカーラに挨拶してから、その扉へと入っていく。
「あくまでも調査、だからな。張り切りすぎるなよ。ミカ。」
「わかってるって、早く早く〜!!」
ミカはその渦巻く扉に片足を突っ込みながら俺たちを誘う。
「行ってきます。」
「またね!カーラちゃん!!」
カーラは俺たちを笑って見送る。
……さて、5年前に滅んだとされるオリンパス……一体どんな土地なのだろうか。
ーーー
「着いたな。」
「……うう……寒い」
ミカは凍えた様子でそこに居た。
俺の服は自動的にもこもこの冬服に変化していた。
「あ、そっか。ミカちゃんの服、バリアブル加工になってないのか。」
「バリアブル加工?何そ……れ……」
ミカは今にも死にそうなくらい弱い声を放つ。
「ちょっと待ってて!!試してみる!!」
エマは目を閉じて髪につけている花形の青い髪飾り……『変化の証』にふれる。
……そうするとミカの服が暖かそうなものに変化していく。
「あったかーい!!」
「おお、そんな使い方もできるのか。」
「姿が変えられるくらいなら、服を変えることくらい簡単なんじゃないかな〜と思ってね!!」
……まあ、確かに。姿が変わるってことはつまり原子レベルで構造作り替えてるとかそんな感じだろうし、可能か。
「どれどれ?暖かそうだな。」
「うん。でもちょっとあれかも……重さとかは変わらないから、見かけだけ?かも。」
ミカはそう感想を述べる。
「もしかしたら構造を一時的に変化させるだけで、カモフラージュみたいに人からドラゴンになったり、みたいな質量変化はできないのかもな。」
「そうかも!」
……古代魔法カモフラージュ、尊びの鏡と変化の証の力、そこらへんの区別が明確でなかったが、これで大体わかった。
尊びの鏡は基準となる種族を変える。あくまでも存在する種族に。新しい種族にはなれないといったところだろう。それで基準が変わるから魔法が使えない国だとその姿になる。また変化前の特性はそのまま引き継がれる。
古代魔法カモフラージュは見た目を変える。華月リカのように長時間、数年レベルで変化し続けることはできるが基準となる種族は変わらないから魔法が使えない国だとその変身は解ける。また、魔素による補填が可能な為人からドラゴンといった質量変化、変化後の種の特性を使用できる。
変化の証は原子レベルの構造を変化させる。あくまでも質量などはそのままで、作り替えることで擬似的に姿変化を実現させる。魔法ではない点、魔法が使えない国での使用ができる。
といった感じだろう。
「ていうか、ここ……寒過ぎるね……」
エマは俺の方を向いて言う。
「確かに。息も白くなるな。」
「まあ、それもそのはずだね、だってここ多分北極!!私昔図鑑で見た!一面氷の世界!」
ミカが北極だと言い出す。
「通りで、こんなに寒いわけか。」
「北極の氷の反射を使って、扉でアクセスしたってことね……!寒っ……」
……鏡面のように反射する物か開け閉めできるようなもの。それが『結びの扉』のアクセスに必要な条件だ。
つまり、文明が崩壊したような惑星においてアクセスのポイントになるのは水溜まりや氷、といった自然物が一番使いやすい、といったところだろう。
「とりあえず、ここから離れるか。」
「そうだね……カモフラージュ!」
エマはそう唱える。
「あ。ここオリンパスは魔法が使えない、場所か……」
「そうみたい。じゃあ仕方ない!クレオールの姿になって、空から移動しよう!!」
「空から??」
ミカはエマの発言に困惑する。
エマはまた髪飾りに触れる。
そうすると背中には赤い翼が生える。魔族特有のツノは生えなかった。
「かっこいい!!お姉!!何それ何それ!!」
変化したエマの姿を見てミカは目を光らせて興奮する。
「これが本当の、私!」
「エマは今は人間だけど、魔族とドラゴンのハーフだったんだ。その名残だよ。」
「かっこいい〜!!!」
「それじゃあ、私はミカちゃんを抱えてとりあえずどこかいくけど……」
「ん?」
ああ。てっきりそのクレオールの力で俺も連れていくのかと思ったけど。まあ負担すぎるか。
「樹はアンクレットと後それ、あるじゃん!!」
エマはそう言って俺の右手につけられたグローブを指差す。
「それ、重力の証なんでしょ?上手く使えば浮遊なんて簡単そうじゃない?」
「……そっか。」
忘れてた。これ重力の証だった。それに足には空気を疑似的に蹴ることができる速度の証、アンクレットもある。ならエマを頼る必要もないか。
「試してみるか……」
俺は呟いて右手に力を込めて拳を握る。
俺の体は浮いて、そのまま地面から離れていく。
「まるでファレノプシスが使ってた鉞の力、みたいだな。」
ファレノプシスは木々や地面を反重力のように扱って、俺たちにぶつけたりして来た。
「案外そうかもしれないね!ペンダントは母神器の下位互換、だったらその証は鉞の下位互換かも!」
証についての本を読んでいたエマ。確かに、そうかもしれない。
証は神器の下位互換……となれば変化の証は勿論尊びの鏡か。
あくまでも推測に過ぎない。
「ミカちゃん、オリンパスはどこなの?」
「ん〜、一応この北極も5年前はオリンパスの国土だったけど……一番大きかった都市に行くならこのまま南に行けばいいと思うよ!」
「じゃあ、先にミカちゃん連れて行ってるね!!」
「ああ。わかった。」
俺は重力の証の操作練習していた。なんとなく、感覚が掴めて来た気がする。
「ここ!ここがオリンパスの大都市アルカス……だった場所!!」
「おーい、お待たせ!!」
俺はエマとミカの後になんとか追いついていった。
「ここは?」
「オリンパス1番の大都市だよ!アルカスっていう。5年前まではここが栄えてたんだ!!」
「そうなんだ。」
その都市は5年経った今でも街の骨組みや木々、生命体の死骸の痕跡がなんとなくわかる。
「流石に5年じゃ、ただの廃墟……くらいか。」
水が消え去った惑星で、植物も消え去り、5年しか経っていない。微生物程度がなんとか生き残っているかどうかの、そのくらいの星なら正直未だに原型が残っていてもおかしくはない。
そのアルカスの様子はどちらかというと、5年にしては風化しすぎな気がする。
「ちょっと変だね。5年でここまで酷くなるとは思えない!たった5年だし、ここに窓ガラスくらい残ってて、そこにアクセスできないとおかしい気がするんだけど!」
エマはそう発言する。
確かに。5年くらいなら、大きな窓ガラスとかが残ってても違和感はないだろう。
「大嵐の影響、なのかな……私は大嵐のすぐ後テトラビアに来ちゃったから、実際に滅んだところは見てないんだよね……」
ミカが呟く。まあ、滅んだところを見ているとしたらそれは即ちミカは死んでいるだろう。見てなくて当然だ。
「大嵐でも、ここまではならない気がするな……まるで戦争でも起こったかのように、核爆発でも起こったんじゃないか?」
その街は焼け跡のような黒い部分や、ボロボロに腐敗しているかの様に崩れているところが多い。大きな爆発とかが起きなければ崩れることも無いのではないか……と思ったから。
「核爆発?」
エマは俺の方を向く。
「核爆発って言っても伝わらないか。イメージは別世界の俺がやったあの爆発。あれが小さくなった物だと思えばいい。」
超新星爆発なんて、俺だって詳しくは原理を知らない。ただまあ、知らない人に説明するためにわかりやすく比喩するならこれが最適解だろう。
「とりあえずやばい爆発ってことね!」
「まあ。そうだな。それがここを襲った、そんな可能性があるかもしれないな。」
……ここが死の国となっている理由、それは太陽風だけではなさそうだ。




