第040話 終いの歴史と遺跡
「それは……オリンパスは、私の故郷……なの……」
「それは、土竜人の……ルーツってことか??」
俺はミカに聞く。
「そうでもあるけどそうじゃないの……5年前の翠史3842年……私はオリンパスにいたの。」
「……この本に書いてある……その現場にか。」
「うん。私は生き延びてここテトラビアにきた土竜人。だからもう、オリンパスはないの……」
「二人とも〜!いい本はあった〜??」
エマは元気よく俺たちの方によってきた。
そんなミカの感情に気づくこともなく。
俺はエマにもこの件を話した。
「そっか……ミカちゃんはオリンパス出身だったんだ。」
「何か知ってるのか?エマ。」
「いや、そんな知ってるわけではないんだけど……西の遺跡で発掘された5000年前の道具、それはオリンパスの物と良く似てるって、博士が言ってたんだよ!つまり、オリンパスは5000年以上前からこことの交流がある……!!」
「そんな歴史がある国なのか!!」
「うん、オリンパスはテトラビアと昔から交流がある……オリンパスじゃ常識だったよ。」
ミカはどこか虚ろな感じにそう教えてくれる。
「そんな国が……どうして滅んだんだ……」
「……太陽風。全ての水が太陽の力で蒸発したらしい……逃れられない、普遍的な運命で。私はテトラビアに偶然居たから、生き残って……他にも生き残った人がいて、その人からその事実を聞いたの。」
ミカは俺の方を見つめ、悲しそうにそう言った。
「悪い……思い出したくない記憶、だったよな……」
「ううん。いいの。もう私は運命を受け入れている。確かに家族と別れた時は辛かった……けどもうそれを気にしてちゃいられないでしょ?それにもう、私は真緒として生きることを決めたから!お兄!」
……家族。さっき家にいたお母さんの爪はミカと違った。つまり、本当の親ではないのだろう。
「……無理はしないでくれ……よ。」
それは本心だ。ミカを失いたくないと同時に、無理もしてほしくはない。
「大丈夫!私なんだから!お兄さえいてくれれば、私はそれで満足だよ!」
……ミカはもう、真緒の記憶を完全に取り戻しているのだろう。
「そうか……強くなったな。」
「お兄もね!!」
にひひ……という感じにミカは笑顔を見せる。
その様子をどこか羨ましそうにエマは見つめていた。
「ところでこの本、このページに書かれてる様子って、何か変じゃない?」
エマがオリンパスの本の開かれているページを見てそう言った。
「え?どれどれ?」
俺もその本を覗き込む。
「太陽風が直撃する数日前、オリンパス、いやアレス全土に大嵐が起こった。まるで太陽風の前兆のように……だってさ!!」
「大嵐……か。惑星全体に広がるほどの嵐……か。」
俺もその文章をなぞるように目線を送る。
「こんな事ができるのって、神器じゃない?」
エマが閃く……まあ当然か。
「それ、もう一つ不可解な点があるの!」
ミカは俺とエマが本を見ているところに割る形で情報を追加する。当事者だからそのことには詳しいのだろう。
「なんだ?」
「その大嵐……突然始まって、突然終わったらしいの!」
……小さい嵐から成長していったわけではないということだろう。
「なら、なおさら神器の可能性があるな。」
俺は顎に手を当てて考える。
……星全体に起こりうる嵐、という点からしてリリーが、別世界のエマが言っていたように間違いなく突き刺された神器なのは間違いない。
鉞は地軸を変えるほどの力、槍は一瞬で大きな文明一つ消し去るほどの力を地面に突き刺すと発揮する。つまり、何かしらの神器が突き刺されて、そのまま抜かれたと考えるのが妥当だろう。
「そうだね……とは言っても、私たちがあくまでも求めてるのは守護神器だから、お目当てのものがあるとは限らないけど……」
「ソアロンにあったのは魔装置……だったからな。」
「……そう。全ての神器がテトラビアに由来するわけじゃない、っていうことがわかったからね!」
まあ、テトラビアだけにある方が不自然だ。
「……今度お兄とお姉の冒険も聞かせてね!!」
俺たちが神器について考えているとミカが無邪気に目を光らせる。
「そうだな。ミカも調査仲間になる訳だし、これまでの情報も共有しておかないとな……それに、博士の元にも行くべきだし。」
「じゃあ一旦研究所に戻ろうか!とりあえずオリンパスに神器があるかも、っていう事がわかったから次の目的地は決まったし!!次はオリンパス……かな!」
「でも、オリンパスは滅んでるんだろ?そこに行くなんて……」
「いやいや、権利の証があれば空気なんてどうにでもなるし、不毛の土地だって行ってみる価値はあるからね!」
「……そうか。」
まさか、文明がない不毛な大地に、そんな星に赴くことになるとは思ってもいなかった。
「滅んだオリンパスに帰るのはちょっと不安だけど面白そう!!……研究所!!楽しみ〜!!」
ミカにとっては悲しい事だろうが、意外にも楽しそう。
「……ああ、研究所は……そんなにいいものじゃないから……落胆するなよ……汚いし……」
俺は苦笑いしながらミカに伝える。
「でも、よかったのか?オリンパスに行く件に関しては。」
「うん。別に気にしてないし、もう5年も前の話だから寧ろどう変化してるかなって懐かしく思うかな……」
「……そうか。ならよかった。」
「これから死ぬことをわかってる上で人に会うこととか、そっちの方が心にはくるかな……」
……まあ、そうだろうな。もし過去に行けたとしたら、これから死ぬ身内の姿を見たりしなきゃいけない。つまり、助けたくても助けれないという地獄。
あくまでもこれから行くオリンパスはもう滅んだ後。ミカにとってはもう諦めの心がついているのだろう。
「じゃあ、オーセントに戻って博士のところに戻ろっか!!」
俺達は巨大な国立図書館を後にして博士のところへと向かった。
「お帰りなさい、エマちゃん、樹くん!……それに、その子は……?」
「紹介するよ。彼女はミカ。アルトポリスに住んでた、俺たちの新たな調査仲間だ。」
「ミカです、よろしくお願いします!」
ミカは元気よく頭を下げる。
「私はメアリー・ホール、このテトラビアで考古学者をしているわ〜!よろしくね!ミカちゃん!!」
博士はいつも通り優しい口調でそう自己紹介し、そのままミカを抱きしめる。
……いきなり距離感バグりすぎだろ、と思いながらその様子を見守る。
「ミカちゃんはね、樹の従妹の子の記憶を持っていて、生まれ変わりかもしれないの!!」
「……そうなんですか!じゃあ樹くんのダメなところとか教えて〜?」
「ちょ、博士!!」
「なんて冗談です〜!!樹くん……さては思う部分があるんですね〜?」
「……そりゃあまあ、真緒にしか言ってない秘密だって……多少は……」
「お兄は高校生の頃……好きな子にね……」
「な!!どこまで知ってるんだ!!ミカ!!!!」
「もう全部知ってるよ!だって真緒の記憶思い出したし!!」
……そんなに全てを思い出しているのか……
はぁ……とため息を吐いてからエマの方に視線を向ける。
そこにはなぜか顔を赤らめるエマが居た。
「……どうした?気分でも悪いか?エマ……」
俺は優しく声をかける。
「なんでもない!!ふん!!」
……恥ずかしそうに、起こっているかのようにエマは視線を逸らす。
「……俺、何かしたかな。」
「……お兄、そういうところだよ。」
死んだ目をしながらミカは俺のことを見つめる。
「え?」
……どういうところだよ?
「そういえば魔石の分析終わりましたよ〜!」
博士は徐に立ち上がり奥の部屋に行く。
「持ってきます、待っていてください。」
「待っていてって、何かわかったのかな……」
「そうだな、楽しみだ。」
「魔石?」
ミカは不思議そうに俺の顔を見る。
「ああ、魔石。魔石は神器と似た素材でできてるから博士に分析してもらっていたんだ。」
「そうなんだ!!」
そっと扉が開いて、博士が帰ってくる。
「とりあえず、こっちがエマちゃんが倒したファレノプシスの魔石とその成分分析結果で、こっちが西の遺跡の出土品の成分分析結果です。」
「これは……?」
「魔石の破片に、インガニウムの痕跡が見つかりました。その痕跡が西の遺跡の出土品と一致する箇所がありました。年代も一緒でした。」
「つまり、西の遺跡の近くでインガニウムが採掘されていた……っていうこと?」
エマはその分析結果を覗き込んで聞く。
「それか、インガニウムが道具や建築などの身近に存在したか……という事です。」
博士は改まって言い直す。
「西の遺跡ってどんなところなの?」
ミカが無邪気に聞く。
「西の遺跡はテトラビアの歴史を調査する為の大切な遺跡です。まだまだ謎があると言われていますし、最近地下空間の存在が示唆されている、そんな場所です。まだ見ぬ古代に作られた証の存在も示唆されてます。」
「地下空間……」
「古代に作られた証!!古代魔法みたいで面白そうだね!!」
「はい。まだ見ぬ証の製造法がわかるかもですね〜。」
インガニウムの謎を解くためにも、その西の遺跡にもそのうち赴く必要がありそうだ。
「それじゃあ、まずはオリンパス。それから西の遺跡、行ってみるか……」
「決定だね!!」
「オリンパス……ですか。」
「ああ。5年前に滅んだって言われるオリンパス。そこに神器の痕跡があるように思えるんだ。」
「……そうですか。頑張ってください〜!その間に私はまた他の調査をしておきます。」
「いってくるね!博士!!」
ミカはそう博士に挨拶をする。
俺たちはオリンパスに行く為に研究所を後にする。
……オリンパス、果たしてそこに守護神器はあるのだろうか。




