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【完結】神の器の追跡者  作者: Ryha
第四章 願いのカケラ
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第036話 安寧の形

 ウプシロンのそのインガニウムは祭壇の様な物に変化する……


「だめだ!!そんなことさせない!!」


 アールはウプシロンの背後に蹴りを入れる。

 ウプシロンはその衝撃で倒れる……


「……そんなの、そんなの酷すぎる!!人はしっかりと、しっかりと人生を歩むべきだ!!」


 アールはそう、ウプシロンに言い放つ。


 * * * * *


 ……俺には、ユー・カイという大切な姉がいる。


「お姉ちゃん!!また賞を取ったの?すごいね!!」


 ……ユーは、俺の自慢の姉。

 この国の。浮遊都市ソアロンの若き漫画家……


「今回のは賞を取れると思っていなかったけど……とれちゃったわ」


 あはは……と嬉しそうにユーは笑う。

 俺からするとおかしいくらいに絵がうまくて……物語を作る才能もあって、本当の天才でそれでいて美人で面倒見も良い。そんな人だ。

 ……自慢だけど……



「貴方、アールはまたテストで最下位ですってよ。」

「うむ……これは一発喝を入れてやる必要がありそうだな……」

「ユーは満点しか取ったことがないのに……なぜでしょうね……」

「そうだな……あいつは一家の恥だ。」



 俺の両親は俺が寝た後毎日そうやって俺に対して恥だとか、うちの子じゃない……と陰で俺の事を馬鹿にしていた。


「……結局、お母さんもお父さんも、俺の味方なんかじゃないのか……」


 自慢だけど、俺と比べるという点では、なんとも言えない感情になる。

 でも、ユーは違った。


「ここは、これを使って、この公式で解くことが出来るわ!!」

「ありがとう!!お姉ちゃん!!」


 俺が勉強がわかんないと言えば真剣に教えてくれるし、どんな相談にも乗ってくれる。

 自慢でありながら、比べられる原因でもある。でも、俺には優しい。そんな複雑な感情が俺の中にはあった。



「……今日、ちょっと友達と喧嘩しちゃってね……それで……」

「……大丈夫よ。アールは悪くない。そういう時は……」


 真摯にどんなことでも受け止めてくれて、更にアイデアまでくれる。そんな完璧すぎる姉だった。


 ……でも。



「漫画家になりたい……だと?」

「はい。お父さん。私ならきっとなれます!!」

「ダメだ!お前は頭がいいんだ。漫画家なんて、だめに決まっている。」

「そうね。漫画家なんてそんな職業、職業じゃないわよ。お遊びね。貴方はツェータタワーで公務員として働くのよ、絶対に。」


 ……両親の偏見は度が過ぎていた。

 いや、絶対的すぎる信頼故か、俺という下がいた為か、ユーには絶対に安定的な生活を送ってほしいと、そういう願いがあった。


「本気で漫画家になりたいのなら……家から出て行くことね。」

「まあ、貴方にそんなお金出せる訳ないし、誰のおかげで今まで生きてこられたと思っているの?貴方は、大人しく私たちの言いなりになって、そのままレール上を歩けば良いのよ。」


 ……それから、俺とユーはより親に反発する様になっていった。


「……ねえ、アール……私、この家を出ようと、思う……」


 その日、突然ユーはそう俺に告げた。


「な……本当なのか……」

「うん。本当……私はこの家を出るわ……」


 俺はその事を聞いて、黙っていられるはずがなかった。


「なら、俺も一緒に行く。ユーと、ユーと一緒に暮らしたい!!……俺だって、この家を出る!!」


 ユーはしばらくの間考える。


「……本当についてくるのね……?」

「本気だ。この家を出る。一緒に暮らす為なら、バイトだって、何だってする!!だから!!」

「……そう、なら明日。明日の夜、逃げるわよ。」


 俺とユーは家出を決行した。



「神様……俺たちの、家が欲しい。」


 俺とユーは神様に家を貰おうと、願いを伝えた。


 その天使のような少女は頷く。


「わかりました。新しい家の場所とその契約書など……それはこちらです。貴方達に、神の御加護があらんことを……」


 そう言って、神様ウプシロンは俺たちに家をくれた。


「やったね……!!やっぱりすごいや、神様は……」

「そうね、これでようやく、親と言う障害を無くして生活できるわ。本当……アール、いてくれてありがとう。」


 ……ユーからそんな感謝をされるなんて、初めてだった。


「……貴方がいるからこそ、私は漫画を描き続けられるわ。」


 俺はユーの事が大好きだ。頭が悪い俺はそんなユーの事を支えたい。

 だからその日から、俺はバイトをしてお金を稼ぐ事にした。ユーを、ユー・カイをお父さんやお母さんが認めてくれるような、そんな漫画家にしてみせる!!

 そう思って、俺は日々を過ごした……



「ねえ、アール……?私のこの新作漫画、面白い?」


 ユーは俺にそう言って、定期的に描いた漫画を見せてくれる。


「……主人公が、過去にタイムスリップして、未来の世界を変えるお話か……」


 普通の漫画よりは面白い。そう感じた。

 もう一つ、後ろにも漫画があった。そっちも読む。


「……いいと思う!俺はめちゃくちゃ面白いと思う!!特にこっちの、虚構の国!!これ……俺はめちゃくちゃ好き!!意外な展開が良い!!」

「本当?ありがとう、アール。貴方がいるから、私は描き続けられるわ。」


 俺はその笑顔が、生きる糧だった。



「ところでアール、テトラビアって、知ってる?」


 ……テトラビア。聞いたことはあった。


「テトラビアが、どうかしたのか?」

「……テトラビアの方がお金を稼げるっていう、噂があるわ……離れ離れになってしまうかもだけど、考えてみても良いかもしれないわ。」


 ……確かに。俺たちは最低限の生活をしていた。正直にいうと、もっとお金が欲しい。


「……まあ、考えておくよ。」

「頑張ってね!期待しているわ。」


 ……人から期待される。そんなのは久しぶりだった。

 ありがとう、ユー。本当に俺は君と二人で生活ができて、幸せ者だ。



 そんな時、ソアロンに一件のニュースが来た。


「私はウプシロン。神様です。現在このソアロンはエネルギー不足に陥りかけています……膨大な量のセレスチウム……それか神の結晶、インガニウムを私は探しています。勿論、このソアロンを救った英雄として、持ってきた人には永久に安定の、幸せな生活を約束します。」


 ……神様、ウプシロン直々の依頼。

 そんなの、探しに行くしかない。


「ユー姉さん。俺、インガニウム……を探しに行くよ!!」

「そう……ならテトラビアに言ってみては?テトラビアは様々な国の経由地点としての国。あそこに行けば、きっとインガニウムも、見つかると思うわ。」


 その言葉を信じて、俺はテトラビアにやってきた。

 でも、本音は二つだ。

 ユーを幸せにする為。そしてエネルギー問題を解決する為。

 ……だって、エネルギー問題が解決しなければソアロンが崩壊してしまう。

 エネルギー問題を解決するのもまた、俺がやらなきゃ行けないことだ。

 エネルギー問題がある限り、ユーは幸せにできないから。



「……統括者」


 テトラビアには、ソアロンの公務員のような統括者という職業があるのか……しかも、賃金も高いし……

 ただ、ちょっと条件が難しい……何せ、魔法統括システムからの使命……


「……良い行いをすれば、いつかなれるか……それまで、他のバイトでもして、ユー姉さんに仕送りをしよう!そうしよう!」


 俺はテトラビアの宿でそう決意する。



 その努力は、実を結んだ。


「……よし。統括者になれた。」


 テトラビアに来て、4年近く。俺はようやく統括者になれた。


 そして、今に至る。


 * * * * *


 俺、アールはウプシロンに蹴りを入れる。もう、神様なんかじゃない。ただの狂人だ!!

 そう俺は思っていた……


「冗談です。アールさん。どいてください……」


 俺が上に乗った状態でウプシロンは天使の姿に戻る。


「今更冗談だなんて、信じるわけがないだろ!!!」


 俺はウプシロンを殺すつもりだ。そのくらい、狂っている。こいつは……


「……やめて!!アール!!何をしているの!!!」


 そんな時だった。

 ……そこに来たのは、ユーだった。


「え?姉さん……どうしてここに……」


「貴方が帰ってきたって、クロスから聞いたのよ。」


 俺は姉さんの姿を見て、呆然としてその神様の元から離れる。


「……久しぶり、姉さん。」

「アールはよく頑張りました……エネルギー問題はもう解決されたのですよ、貴方のおかげで。」


 ユーはそう言って俺の事を優しく包み込む。


 その温もりは懐かしかった。



 俺は、安心した。そっか。ユーはここにいるんだ。




「そうだぞ。アールがやったんだ。お前が、ソアロンを救った。そうだろ?英雄だよ。」


 樹……


「うんうん!」


 エマ……

 そうか。俺は願い通り……ソアロンを救った英雄になったんだ。


 何か、悪い夢を見ていたのかも知れない。



「そうそう、あまりのインガニウムは貴方にあげます。アール。」


 ……ありがとうございます。神様。

 俺はその半分くらいになった、インガニウムをウプシロンから受け取る。



「さあ、家に帰りましょう?私たちの、家へ。」

「ああ。帰ろうか。我が家へ。」



 俺とユーは共に帰宅する。

 俺は家の机に、インガニウムが入ったその球体を置く。


「……これが、インガニウム……これがあれば……」


 ユーはそれを見て何か言った気がする。

 けど、どうでもいい。

 俺がいなくなった4年間の間に、ユーは大きく成長していた。今では国民的な漫画家になっていた。


「やっぱり、姉さんの漫画は面白いね!」

「……ありがとう。アール。」


 * * *


「……おい!アール!!どうしちゃったんだ!!急に!!!」


 アールはウプシロンを襲ったまま、眠った状態で動き出す。

 まるでゾンビのように。


「……アールは、アール自身の、並行世界を見ているだけです。私の研究は完成したんです。貴方達も邪魔をするのなら、こうしますよ。私は、この国のみんなを救う為に……私のような不幸な子を生み出さない為に、夢を見せるのです。」


 個人に、幻覚を……並行世界を見せる力……アールはそこに囚われてしまった、というのか。


 ……俺とエマはもう、とてつも無いほどの恐怖を感じていた。

 俺とエマは走るようにその場から離れ、帰還申請を出して、俺達はテトラビアへと帰った。




「ねえ、アール。貴方は一生私の夢の中で、一緒に暮らしましょう?」


 その空間で、ウプシロンは天使の姿でアールの事を、ただ抱きしめる。



……その願いのカケラは、歪な形をしていた。

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