第033話 始祖の石
「おう、二日ぶりだな!エマちゃん、樹くん!」
その陽気な感じの工場長のおじさん、クロスは戻ってきた俺たちを見てそう手を振る。
「頼まれてた例の証、完成したぜ!」
「……遅かったな。」
アールは先についていたみたいだ。
中には時計の針のようなもの……のうち一つだけのような、そんなものが中で浮いているガラスの球体のような物を持っていた。
「それがインガニウム結晶……」
「ああ。これがインガニウムだ。それにどうやら、これが原因で魔石がバラバラになっても復活していたみたいだ。」
「そうだったんだ!」
エマはそのアールが持つ球体をまじまじと見つめる。
「にしてもよ、普通魔石はセレスチウムだけで固まるはずなのに。どうしてこれはインガニウムが入ってたんだ?」
「あーそれ、私のところの初代魔王がインガニウムを食べたの。だから心臓部の魔石に蓄積されたんだと思う。」
エマが軽いノリで答える。
「……インガニウムを食っただと……?飛んだバカがこの世にはいるもんだな……」
エマは無言でこっちの方を見て軽く笑う。
……神器としてチートなアイテムになったり、人を暴走させたり、超新星爆発を起こさせたり、なんならビッグバンですら起こしてしまいそうなそんな力を秘めていそうな物質。それを取り込むだなんて、考えられないよな。
まあ別世界の俺は、それを取り込んだから人のことは言えないんだが……
「で、証はどうなったんだ?」
「そうそう。こっちに来な。」
そう言ってクロスは俺たちを工場の奥の部屋に案内する。
「まずこれ、これはエマちゃんが欲しがっていた姿を変化させる髪飾り『変化の証』その横が、簡易的なバリアを作ることができる指輪の『障壁の証』それでこれが『感覚の証』、その横が『重力の証』だ。」
……それ以外にも俺の足についている速度の証と同じものもある。
「じゃあ、『変化の証』と『速度の証』はエマが付けてもらうとして……その他はどうする?」
「ん〜……じゃあ私はファストガードみたいな防御が欲しいから『障壁の証』にしよっかな!!後は樹が付けよう。それで個数も同じだし!!」
「そうだな。」
俺はピアスの『感覚の証』とグローブ型の『重力の証』を身につける。
……『感覚の証』を取付けるために左耳に穴を開けた。
「そっちは付け終わったか?」
俺はエマに聞く。
エマは右足にアンクレットを、左手に指輪を、頭には髪飾りがついていた。
「その髪飾り、よく似合ってるな。」
「そうでしょ〜ありがと!!」
「証は結晶の濃度と形によって基本的に力が決まる。つける場所も適切なところにつけないと効果が薄れる。だからこそこっちで適切な装飾にさせてもらったぜ。」
一旦席を外していたクロスが帰って来ながらそう説明する。
「ありがとうございました!!」
俺はクロスに対して深々と頭を下げる。
「いやいや、全然このくらい大したことはねぇ、むしろ初めてインガニウムに触れたからな、いい経験になったぜ。こちらこそ感謝してる。」
「……それでだ。これだけのセレスチウムが余った。これ、どうする?いらなければ処分するかイータルの素材の一部にするが……」
クロスが指差す先、そこには少量の魔石のかけらが残っていた。
「……これは証にはできないんですか?」
「ああ。そうなんだ。ちょっと結晶の形が悪かったり、濃度が低い部分だ。主に魔石の外部分になるな。」
「なるほど……一応、少しもらえますか?研究の為に。」
エマはクロスから半分くらい魔石のかけらを貰った。
「はいよ。それじゃあ、ありがたく残りの分は素材にさせて貰う。」
「ありがとうございました!!」
そうして俺とエマ、アールは工場を後にして、ツェータタワーへと向かった。
「さあ。神様、このインガニウムでソアロンのエネルギー問題を解決してくれ!」
俺たちはまた、神様ウプシロンの元へと来た。
「お待ちしておりました。さあ、そのインガニウムをおいてください。」
ガラス張りのその先から、羽が生えた少女はそう話しかけてくる。
「そういえば、エネルギー問題って、いったいなんなんだ?」
「……話していなかったな。このソアロンはもう直ぐエネルギーが切れて、浮遊できなくなるんだ……」
「燃料不足っていうこと?」
「ああ。ウプシロンがこの浮遊都市全土に訴えかけた。都市が埋まる程の大量のセレスチウムか、それ以上のエネルギーを持つ力があれば、ソアロンは救われるって、な。」
「だからこうやって俺はインガニウムを持ってきたわけだ」
「……ありがとうございます。それではそちらに行きます。」
そうその天使のような羽が生えた少女そう言い、隔離していたガラスが上から下に向かって開いて行く。
「貴方、出てきても大丈夫なの?」
エマはその神様に向かって聞く。
「ええ。これは私自ら入っていただけなので……愚民共と、同じ空気を吸わない為に。」
ウプシロンはそのインガニウム結晶が浮くその球体を開き、中から結晶を取り出す。
「……どういう意味だ!?」
俺は警戒し、剣を抜こうとしながらウプシロンに聞く。
……やっぱり、こいつは危険だ。多分。
「まあまあ、そう敵意を向けなくても良いです。私は皆さんの為を思って行動しているだけです……おやおや、貴方……その記憶、どうしたんですか?」
ウプシロンは俺の方を向いてそう言い放つ。
「え?俺?」
「……ええ。ぽっかりと記憶が無くなってますね……まるで何者かに食べられたかのように。」
俺はそのウプシロンの反応に困惑する。
「どういう意味だ。」
「……まあ、インガニウムはこんなにいらないので、せっかくなので貴方の記憶、直してあげます。『簡びの鋏』の力で。」
……その羽が生えた少女、ウプシロンがそういうと……俺の視界は暗くなり、意識は遠のいて行った。
* * *
……俺は目が覚める。俺のベットの上で。
「……さて。今日は……201……年3月……か。」
俺は起きて日付と時刻を確認し、中学の制服に……着替えずに一階へ行く。
「あ、また来てたんですか。」
リビングへ行くと、そこには父の妹の愛香さんとその夫の圭さんが来ていた。
愛香さんはよく来るけど、圭さんはあまり来ない。何せ単身赴任しているし。
今日は偶然仕事が無くて、来たのだろう。
「また、って言われるほどではないんじゃな〜い?樹くん!」
「……樹くん、久しぶり。今日は学校じゃないのか?」
圭さんはそうやって俺に言ってくる。
「学校めんどくさいし。」
俺はそう言いながら冷蔵庫を開ける。
「……お兄今日はずっと家にいるの……??」
真緒はその小さな体で目を光らせて俺のことを見てくる。
「ああ。今日も明日も明後日も、ずっと一緒だぞ。」
5歳になった真緒の頭を俺はそっと撫でる。
「やった〜!!」
「困ったものだわ……なんて兄さんには言えばいいのかしら。」
愛香さんはため息を吐きながらそう嘆く。
「ははは。もう13歳で中学生だもんな。そのくらいの年頃は誰だって親に反抗するさ。気持ちも分かるぞ。」
「まあ……そうですけど。」
……だって今日は父も母も帰らないし、行きたくない学校にも行く必要なんてないだろう。
受験だって、まだまだ先だ。別にいいだろう。
「樹くん、偶には昼から学校行ってみたらどうだ?」
圭さんは俺にそうやって提案する。
「……昼から……確か金曜日だから体育と家庭科……まあ、考えとくか。」
別に学校が嫌いなわけではなかった。
友達もいたし、勿論好きな人も……けど、それよりも面倒臭さが勝っていた。
だからこそ楽しめる体育と家庭科は行ってもいいか……とそう思っていた。
「お兄、今日は何して遊ぶの??」
「……そうだな。今日はじゃあ、これでもやるか!」
俺は自分の部屋にあったパズルを持ってきて真緒に見せる。
「……それじゃあ、行ってくるよ。2時間だけ。」
「行ってらっしゃい!」
圭さんは俺に向かってそう手を振る。
「いつも真緒をありがとう。これからもずっとよろしく。」
「勿論……圭さんこそ、仕事にのめり込みすぎないこと。じゃないですか?」
「そうだな。」
……圭さんは逆に真緒に対して関わらなさすぎてる……こうやって休みで、家族でどこか行く時以外。そうやって真緒はいつも愚痴をこぼす。まあ、単身赴任というものはそういうものだ。なかなか会えるものじゃない。
だからこそ、俺がいない間に、圭さんが真緒の相手をすれば良い。
そう思って俺は圭さんの意見をのんだ。
普通なら俺は一日休むが、そう言う理由で今日は行くことにしたのだ。
……俺は体操服が入った鞄をサッカーボールのように蹴りながら学校へと歩く。
今日の体育の授業は複数チームに分かれて軽いサッカーだった。
他のチームがグラウンドを使用している時、空いている時間にベンチに座って水分を補給する。
「……そうだ。忘れてた、次の家庭科……教科書持って来てないや。」
「ん?急にどうしたんだ?」
友達の信介はペットボトルの水を飲みながら唐突に独り言を呟いた俺に反応する。
「いや、家庭科の教科書持ってくるの忘れたなーと。」
「まあ、そのくらい良いんじゃね?樹が遅刻で来る方が珍しいし。」
「……まあ、そうだな。」
俺は来ない時は遅刻すらしない。そういう印象を周りにはされている。
「……まあでも、親とは仲直りしろよな……いつまでも子供じゃないんだし。」
……俺が学校に来ないのは親との関係のせい。みんなそれは知っていた。
「……そうだな。いつかな。いつか仲直りしなきゃな……」
……その時、大地は酷く揺れた。そう、地震が発生したのだ。




