第032話 星空に映る絆
「証の完成は2日後だ。それまで、ソアロンを自由に探索するといい。ここはイータルの製造工場だ、頼めば一つくらい借りれたりもするだろう。それじゃあ。また2日後に。」
アールはそう言って俺たちを残して工場から去る。
……でも、イータルの運転免許的なものって、大丈夫なのかな。
「じゃあ、俺たちもいくか!」
「そうだね!!」
俺達はクロスさんの客人、アールの知り合いとしてイータルを借りれた。
「クロス工場長の客人であれば、勿論!!」
「これ、操作方法は?」
俺は運転席に、エマは助手席に乗り込む。
「このパネルを操作すれば必要な情報がわかりまっせ!!まあ、そもそもこのイータルは事故が絶対に起きないような安心設計。初心者でも使いこなせまっせ!!」
「……不安だ。」
「……まあ、頑張って!!樹!!」
「大丈夫大丈夫!!それでは良き空の旅を!!」
俺とエマはその工場の人に軽くお辞儀をして、イータルを使って2日間のソアロンの旅に出る。
「しっかし、これ……こんなにも簡単に運転出来るんだな。」
「そうだね、セレスチウムの力で飛んでるみたいだよ!だから、安心っぽい?」
……エマが操作するそのパネルの中にはこの車の、イータルの構造らしきものと、セレスチウムを使った動力源の詳細が映し出されていた。
「だからアールはあそこに行けば、あの魔石からインガニウムを取り出せると知っていたのか。」
「多分そうだね。つまりイータルは証を搭載した乗り物、そう言う感じだね!!」
……証をつけた乗り物。そりゃあ、事故らないし簡単に操作できる訳だ。
俺の運転するイータルは高速道路のようになっている羽根部分を駆ける。
「風、気持ちいいね!!」
エマはそうやって助手席から笑みを送る。
「ああ。最高だな!」
浮遊都市ソアロン。最初ウプシロンの姿を見た時は不安に感じたが、案外いい場所のように感じる。
「着いたな。」
「ここはソアロン外周部農村に位置する湖畔の公園!昼間だけ開く花と、太陽光を反射して輝くその鏡面のような湖とが綺麗……だってさ!!」
そこは綺麗な湖だった。
……空中都市に存在するとは思えないほど広大で、美味しそうな水が溢れていた。
「……すげぇ……幻想的だな。」
その湖は俺たちの姿をも反射する。
まるでウユニ塩湖のようだ。
「これ、写真にでも残したかったな……」
「おやおや……見ない顔だねぇ?」
俺たちの近くにその80代くらいのおばあさんは杖をついて歩いてきた。
「よかったら、写真1枚とっていくかい?」
「……写真!?何それ!!」
エマは興味津々な目でおばあさんの持つカメラを見る。
「メモリー魔法だっけ?あれと似たような感じだ。機械を使って、その場の景色を映すんだ。」
テラリス全土に、魔石を通して送った映像。魔法ならそれが一番近いだろう。
「なるほど!!すごいね!」
「……ああ。この世界の、ソアロンの技術力はやっぱりすごいな。」
「それじゃあ、はいチーズ!!」
俺とエマはその湖畔で花と、輝く湖と共に映る写真を撮った。
その場で紙として出力されたその写真を見てエマは密かに笑う。
「ありがとうございます!!」
俺はそのおばあさんに感謝して、その場を去る。
「あのカメラっていうやつ、いいね!!私も欲しいかも!!」
俺達はイータルに乗り込む。
「じゃあ次は、カメラを買いに、買い物でも行くか!」
「そうだね、そうしよう!!」
俺達はカメラを買い、食事をとってまたドライブする。
「今度は滝!!」
「ここの水も凄い綺麗だな……」
エマは興奮してその初めてのカメラでパシャパシャと何度も景色を撮る。
「それー!!」
……小さな二人組の子供が遊んでいたボールがこっちに転がってくる。
「気をつけて遊ばないとダメだぞ~!」
俺は屈んで、そのボールを取りに来た子の目線になってにボールを返す。
「ありがとう!!」
その子供はそう言って笑って、もう一人の元へと帰っていく。
「パシャ」っという音が鳴る。
「おい、そんなところまで取らなくてもいいだろ?」
「いいじゃん、子供に優しい樹!!かっこいいよ!!」
……素直に恥ずかしくなる……
「パシャ」
「恥ずかしがってる樹も、かわいい~」
悪そうな笑みを浮かべながらエマが俺の顔を写真に残す。
……こいつ!!!!
俺はエマからカメラを奪おうと襲う。
「このやろ~!!」
「……!!」
そのまま俺とエマは絡まったまま、芝生へと倒れる。
「ドサッ」と言う音とともに俺が下側になって、芝生に寝そべるような形になる。
……カメラは、何とか取った。
そのまま寝そべる俺の横に、エマは座り直す。
「暖かいね……」
「そうだな。」
「一生こんなのが続けばいいのに……」
「そうだな……この都市も、エネルギー不足だもんな……」
「あの子達は、そんなこと何も知らずに生きてるのかな。」
「まあ、アールが何とかしてくれるだろう。あの子達の未来も、きっと明るいさ。」
「そうだね!!」
俺は寝そべりながら空を見上げて、エマは横に座りながらその白く長い髪の毛を靡かせながら、その暖かな一時を過ごす。
滝の水が流れる音と、小鳥の声、子供の遊ぶ声に風で木々が揺れる音。
そんな自然の音が俺の耳に入ってくる。
……中心の都市部にぽっかりと開くこの公園は、都市の雑音なんて忘れてしまうくらい、幻想的で暖かな空間だった。
「ここ、ここはツェータタワーを見渡せる展望台!!だって!!」
俺の前で、目の前の景色を指差しながらエマははしゃぐ。
俺達は夕焼けに染まり始める浮遊都市ソアロンの中で、中心部のツェータタワーを見渡せる展望台に来ていた。
「赤く染まるツェータタワー。綺麗だな……」
「ね!」
「空を飛び交う車、イータルが夕焼けをそれぞれ反射して赤く染まっているのがまた風情があっていいな。」
「そうだね~!!」
……都市の景色ってこんなにも良く、良いものなんだ。と言うのを思い知らされる。
地球に、日本にいた時。旅するYouTuberとしていたときは都市ではなく大自然をメインに旅する動画をあげていた。
世界各国飛び回った。
でもあまり街の景色、夜景とかには興味が無かった……けどこう見ると、すごく良く見える。
だんだん暗くなってきていた。
「もうすぐ日没だな。」
「……楽しみ!」
赤く染まっていた年はみるみるうちに暗くなっていく。
昼間は白色に、宝石のように輝いていた街は黒く、漆黒に包まれていく。
飛び交うイータルはまるで蛍のように、ビルから飛び出す無数の光はまるで星空のように綺麗に輝く。その様子もまた、エマは写真を撮る。
「……ここ、来てよかったね!!」
俺はエマと目を合わせて頷く。
「凄い料理だね!!」
「……これは凄い。」
ソアロンの中でもかなり豪華なホテルで、俺達は夜ご飯を食べていた。
高級そうな、牛のようなお肉のステーキに、フランス料理のようなものからアジアのどこかで見たことがありそうなスープ……というよりも汁物……?
見るからに豪華な食事を食べ、その日は寝た。
全て博士のお金。
次の日は博物館に、映画館、動物園に、水族館……
ソアロン各地の様々な施設へと俺達は足を運んだ。
「楽しかった!!ありがとう樹!!」
「そうだな。久しぶりにドライブもできたし、懐かしい気分にもなれた……本当、ここはいい都市だな。」
「ね!!」
俺とエマは星空の下、羽のようになっているソアロンの外周部分の最端に。カーラが言っていたデートスポット……に来ていた。
……まさに俺にとっては楽園と思えるような、そんな都市だ。
エマはこんな文明的な都市は初めてみたいだった。
終始まるで子供のようにはしゃいで、写真を撮ったりと楽しそうにしていた。
「ねえ、樹。」
「……どうした?」
俺はエマの言葉を聞いてエマの方を向く。
「樹は……侵略からテトラビアを救えたら……故郷に帰っちゃうんだよね……?」
……そうだ。忘れかけていた……俺は元々帰るために、神器を集めていた。
「……そう、しようと思っている……な。」
「……そっか。大切な……その従妹の子……だっけ。」
「……ああ。そうだ。名前と顔を思い出すことは未だにできないけど、覚えてる。あいつの為に……俺は日本に帰りたい。」
……エマの目から一粒の涙が溢れる。
「ん?どうした?」
「……ごめん……樹。私は……私は樹に一人で帰って欲しくないの……」
……エマのその目と涙は空の光を反射して綺麗に輝く。
それが、エマの本心。
俺は、エマに対して今を生きようと。そう言って鉞を抜く決断をさせた。
……確かに、エマを見捨てて一人日本に帰ることもできない……その通りだった。
「……大丈夫。俺はエマを見捨てたりはしない。」
俺は徐に立ち上がる。
「……え?」
エマは顔をあげる。
「一緒に生きよう。いつまでも、どこまでも……俺はエマと生きたい。」
……それが、俺の本心だ。この楽しい時間を、永遠に続けたい。
「エマさえ良ければ、全て終わったら日本にだって行こう!!」
俺はそうやってエマに手を差し伸べる。
「うん!もちろん!!」
エマは笑って俺の手を取った。
……あたり一面の星空が浮かぶ空には、光のカケラの様に無数の流れ星が見えた。