第030話 神様に頼る国
「……おい、千歳 樹!月城エマ!!緊急事態なんだ……その魔石をくれないか?」
……聞き覚えがある声が、俺たちの足を引き留める。
俺とエマは同時にその声を聞いて振り返る。
そこには見覚えがあるあの人が、アールがいた。
「アール!!」
……魔法統括システムによって使命を任せられている、このテトラビアの警察的存在、統括者。
「……盃ぶりだな。樹。エマ。にしても月城エマ……随分と変わったな。見ていたぞ、巨人の討伐。」
「……見てたの?それで、何のつもり?また、私たちが犯罪者になったってわけ?」
エマはアールに対してキツく当たる。
……まあ、理不尽に最初は連行されたし、仕方ないか。
「いや、今は統括者の仕事中じゃない。捕まえることはしない。……それより、その魔石。そのセレスチウム結晶。それが欲しい。」
「……これは魔王ファレノプシスの魔石だ。俺たちが討伐した。アールにあげる義理は無い。」
……この魔石があれば強い装備が作れるかもしれないし、神器の謎が何か解明できるかもしれない。
討伐に一切関与していない人に譲渡、は流石にできない。
「……頼む。そこを何とか……」
「何か理由があるのか?」
深々とお願いをしてくるアールの顔を上げさせる。
「……俺の故郷が、浮遊都市ソアロンがその魔石で、救われるかも知れないんだ。」
……浮遊都市。
「……浮遊都市ソアロン、それがアールの故郷……」
「ああ。神器でできた宇宙を移動し続ける浮遊都市。それが、俺の故郷だ。」
「……でもこんな魔石で、どう救われるの?」
エマはアールに対して赤色に輝く魔石を見せながら聞く。
「……浮遊都市ソアロンは、エネルギー不足に陥り始めているんだ。俺がテトラビアで統括者をやっている理由は神器のエネルギー源を探る為……その為なんだ。」
「……エネルギー不足……ね。」
「そこでだ。俺はお前達がその魔石を割ったところまでは見た。統括者としてあの現場付近に派遣されていたから。だがこうしてその魔石は復活している……だからこそ、そのエネルギーが知りたい。」
……なるほど。アールはそこまで見ていたのか。まあ、統括者として派遣されるのは当たり前か。
それに確かに割れたはずの魔石がしっかりと復活しているというのは俺たちにとっても謎だった。
「わかった。いいだろう。ただし、俺とエマもともに浮遊都市ソアロンへと行く。あと解決したら魔石を返す。それでいいか?」
俺はエマの方を向いて確認をする。
エマは軽く頷く。
「私も全然いいよ!全て終わって返してもらえるなら!」
「勿論、エネルギー問題が解決すれば返す。ありがとう。」
……エネルギー問題の解決なんて、そうそう簡単に解決できる問題ではない。
俺は最悪魔石を捨てる気持ちで、そのアールの頼みを受けた。
「……ごめんな、エマ。もしかしたらその魔石いつ帰ってくるかわからないな。」
俺は軽くエマに謝る。
「全然気にしてないよ〜!まあ、魔石と神器は近くても別物だから……寧ろいいじゃん!浮遊都市、楽しみ!!」
……魔石と神器はあくまでも別物。それは確かにそうだ。
できている素材から違う。だからこそ、神器に興味があるエマは少し魔石に対する興味は薄いと言ったところだろうか。
まあ、何はともあれ何をしようか迷っていた俺たちの、次の目的地が決まった。これだけで収穫は大きい。
「じゃあ行こうか!!浮遊都市ソアロン!!」
俺とエマ、それにアールは共に、アールの故郷でエネルギー不足だというソアロンに向かうことにした。
「……待ってろよ、ユー……きっと幸せにしてみせるから!!」
何かアールが小さく呟いた……そんな気がした。
「お待たせしました樹さん。エマさん。それに……貴方は統括者のアールさんですね。」
「ああ。よろしく頼む。カーラ・ミラー。」
アールいつも通りどこか上から目線な感じでカーラに視線を送る。
「浮遊都市ソアロン……ですね。通称神様の国、都市の外周部、その美しい羽はまるでドローンのような見た目をしており、そこから見える星々の景色は最高!デートスポットとしても有名な、そんな場所がある都市です。」
「……デートスポット……ロマンチックだね!」
エマは俺のことを見つめながらそう言う。
……エマは……こんな俺とでいいのか?なんて俺は考えてしまう。
別世界のエマが言った事、俺とエマの間に産まれた子供、キサキ……
ということは別世界の俺とエマは無事結ばれたことになるが……
でも、この世界じゃ生殖機能を捨てることを選んだし、本心はわからない。
……そんな話で視線を送られたくらいで、その気になんて、なっちゃいけない。
あくまでも、ここは普通を装うべきだ。下手に刺激をするべきでもない。
「そうだな!……星空か……」
「馬鹿馬鹿しい。俺もそのスポットには何度か足を運んだことはあるが、何がいいのかわからんな……」
……アールはそうやってまたグサッと刺さるような発言を軽く言う。
「まあまあ……またソアロンは願いの都市とも言われます……なんでも叶えてくれる道具が……あるとか……噂です。」
カーラは満面の笑みを浮かべながら、情報をぼかしながら俺たちに話す。
「もしかしたら神器かもね!」
「そうだな……そんな噂、本当なら神器以外にはできなさそうだし……」
神器じゃなければ魔法の類か、証だろうか。
「それじゃあ、行ってくるね!!カーラちゃん!!」
「行ってきます。」
俺とエマとアールはカーラに手を振り、開いた結びの扉の先へと歩んでいく。
……浮遊都市ソアロン。別名願いの都市……いったいどんな都市なのだろう。
「……な。まるで東京!?…………いや、それ以上だ。」
扉から出た先で待ち受けていたのは車が道路を走り、超高層ビルが立ち並ぶ、いかにも地球で見て来たような都市を、さらに高度化させたような雰囲気だ。それこそSF映画で見たことがあるような。
「……ガチの都市だ……この眩しさは俺に刺さる……」
……別に、そんなに引きこもりだったりインキャだったわけではない……と自分では思い込んではいるが、日本にいた最後数年間は編集とかで家や旅先のホテルに篭りっぱなしの日も多かった……だからこそ、眩しい。
「大丈夫?樹?」
エマは固まる俺の視界に入るように手を振る。
見えてますかーと言った感じに。
「ああ。大丈夫。ただまあ、何となく俺の故郷にも似てたから……」
「そうなんだ!!」
エマはどこか興奮している。
「私、こんな世界初めて!!!機械すごーい!!!!」
エマは興奮してあたりを駆け回る。
……そりゃあ、初めてこんな都市を見たらそんな反応をするか……
「この都市は機械と人が共に暮らす都市。その名の通り、端の方には例の羽がある。下手すると落ちるから、行くならそこだけは気をつけろよ。」
……勿論、超高層ビルが立ち並ぶココ、テトラビアからのアクセスポイント鏡前からでは一切浮遊都市感は感じられない。
強いて言えば、車が全て浮いていること、東京なんかよりもビルの高さも高く、一部その形でよく倒れないな……と言った不思議な構造が見える程度。
「で、どこに私たちはどうすればいいの?」
興奮してはしゃいでるエマは急に顔をこっちに向けて、そうアールに聞く。
「ついて来い。この国の神様の所へ行く。」
「……神様。」
俺とエマは、それぞれ魔石を手に持ちながらアールについて行く。
「この国の住民は俺、含め一人の神様を信仰している。この都市を作り出した存在、唯一神ウプシロンを。」
「ウプシロン……」
「神様って、その願いを叶えるのに、何か関係あるのかな!」
……まあ、行けばわかるさ。
俺たちは、アールに連れられ、都市を歩く。
「ここだ。この建物が、この都市の中心部のツェータタワー。」
「……ここに、神様が?」
そのタワーの内部に待ち受けていた物は、神様なんかではなかった。
「……おや。アール・カイ。また貴方ですか。」
「ああ。待たせたな、ウプシロン。この魔石。これならこの国を救えるか?俺の願いを、叶えてくれ。」
「おい、待て待て……それが?それが神様なのか?」
「そんなの……酷すぎるよ……」
俺とエマはそのいんたを見て、絶句する。
でも……アールは何のことだ?と言うように俺たちの方を向く。
……その唯一神ウプシロンは、神様なんかじゃない。
……呪いを受けて、異形の存在になった……まるで被爆したかのように皮膚が爛れて……立つことができないようにまでなっている……ただの人間だった。