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【完結】神の器の追跡者  作者: Ryha
第三章 愛の茉莉花
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第三章特別編 愛の為

 俺とリカが初めて出会った場所は魔王城の中庭だった。茉莉花と鉞がある、あの場所。


「あなた、誰?」

「俺か?俺は月城ユウ……よろしく。」

「私はリカ!よろしく!」


 14年前、俺とリカは出会った。

 その茉莉花の花畑……を覗き込んでいたのが、リカだった。そんな可憐な彼女に、俺は一目惚れした。

 当時、俺は10歳ほど……幼い出会いだった。


 * * * * *


「……そっかリカって本当は華月家じゃないんだ……。」

「うん。私は拾われたんだ……。奴隷になりそうだったところを、お父様が救ってくれたの。」


 リカはそう言って下を向く。やはり、本当の事を思うと今の自分の地位を後ろめたくなる……と言ったところだろう。奴隷になりそうだった状態から、貴族になったんだ。その環境の差、本当の親とか、そういう面は彼女自身に本当に幸せになっていいのか。といった懸念を生む、と思う。


 リカは訳ありだ……そんなことは知っている。

 それでも、俺はリカのことが気になる。この気持ちは、止められない。


「拾われたことを気にしているのか?」

「……まあ。」


 リカは小さく呟く。


「じゃあ、俺が魔王になる!そうしたら、水面下で起こってる奴隷制も廃止して、リカが胸を張って生きれるようにする!!」

「え?」


 リカはその顔を上げる。俺のリカへの想いは、そのレベルだ。


「俺が魔王になったら、リカは魔王妃になるんだ!それでどうだ?そうすれば、血筋なんて関係ない!!」

「……うん!」


 どこか暗さを感じさせながらリカはそう笑って頷く。


 これが、俺とリカの幼い日の約束。


 * * * * *


 そんな約束は10年前、突如として失われた。


「侵入者です!!!」

「何があった!!」


 その日、グレートドーンは壊滅した。

 第二次勇者侵攻……とグレートドーンで後に呼ばれることになる。


「おいおい、魔族が国なんか作ってるんじゃねぇよ!!」

「魔族がいるから、この世界はよくならないんですよ。」


 勇者パーティーというらしい、その数人の冒険者はそう言いながら俺たちの街を……グレートドーンを蹂躙する。

 街は燃えてあたりは火の海、そしてさまざまな魔族の悲鳴が聞こえてくる。


「なんてことを……!!どうする……レツさん!!」


 俺と華月レツは偶然その場に居合わせた。

 俺たちの後ろには魔王城へと続く道がある。勇者たちを阻むように、俺たち2人は立ちはだかった。


「……やるしかないな。テトラビアへの道は閉ざされているみたいだし……。すぐには魔王軍も動けない……少しでも足止めをするんだ!!」


 しかし、俺とレツさんはあっさりと負けてしまった。

 聖なる力を持つ勇者……奴は最強だった。

 3年前の第一次勇者侵攻の反省点を生かし、より強い装備を持ってこの地へとやってきたのだ。


 そして、グレートドーンは一時的に壊滅し、当時の女魔王であった、月城エイリ……俺の母親は殺れそうになる。


「……こんなことをしても、魔族は滅びませんし、この戦争は……終わりません。」

「そうかもしれない。でも、これが俺たちのやり方だ。一時的にでも魔王がいなくなれば、人間界は平和が訪れる……。俺たちは裕福に暮らせる。だからその為に、死んでくれ。」

「……やはり、人の考えることは……わかりません。」


 勇者に負け、気絶した俺とレツはできるだけ早く起き上がり、勇者の後を追って魔王城に行くと、そんな現場だった。魔王城前では、魔王軍がやられていた。

 だから、ギリギリ母が殺されそうになる寸前に到着できた。

 母は胸元を刺され、蹴られ、地面に落ちる。

 その内部にある魔石を勇者は取り出そうとしていた。


「やめろ!!」

「ユウ!!!来ちゃだめ!!」


 俺はそんな母を襲う勇者に対して飛びかかる。母はその様子を見て心配の目で見てくる。


「なんだ?こいつ……さっきの魔族か!!懲りないようなら本当に殺してやるよ!!」


 俺はまだ剣が下手だ。剣で戦うよりも殴った方が早い。そう思っている。

 だから俺は勇者に絡みついて、そのまま蹴りや殴りを入れる。


「ちょこまかと地味に痛い攻撃してくるじゃねぇか。テメェ……決めた。魔王よりも先に、あんたを殺してやる。」


 俺は簡単に捕まってしまった。

 レツもまた、勇者パーティーの他のメンバーによって取り押さえられていた。


「最低限、魔王の魔石を取り終わるまで取り押さえておけ。それと、数人はいかさないと次の魔王が生まれないから、そこだけは注意しておけ。」

「了解~。」


 奴らの目的……それは魔王を滅ぼすこと、そして、次なる魔王を誕生させる事、なんだ。

 魔王がいる限り、奴の地位は保証される。だからこそ、魔族を全滅はさせない。

 それが勇者パーティーのやり方なんだ。寒気がしてくる。


「汚ねぇぞ!!お前ら!!!」


 俺はそう叫びながらその最低最悪な勇者に襲いかかる。


「おうおう、10歳くらいのガキの癖によく吠えるな……お前。いいんだよ、人間なんて所詮そんなものだ。」

「……!!」


 反論する俺は首を絞められる。


「どうだ?辛いだろ?首を絞められる……そんなことを人間も魔族にやられてるんだぞ?お前もそれを経験できているんだ。光栄に思え。」

「……思うわけ……ない……だろ。」

「もういい、やめてくれ!!ユウの代わりに俺を殺せ!!勇者!!」


「おっと、そこのジジイは黙っとけ。口しっかり塞いどけ!!お前ら。」

「了解!!」


 レツもまた……絶体絶命だった。手足は結ばれて、口も塞がれた。


「ユウ!!!」


 そんな時、どこからか俺を呼ぶ声が聞こえてきた。

 ……魔王城のガラスを突き破って、リカはその現場に入り込んだ。


「ユウを離しなさい!!」

「リカ!!何をやっている!!お前まで……!!」


 リカが助けに来た。でも、助けれるはずがない……俺なんかよりもずっと……弱いんだから。


「ほう、威勢がいいガキ二人目だな。しかも女だ。こいつの方が殺し甲斐がありそうだな。」


 リカもまた簡単に捕まってしまった。

 その代わり、俺は離される……

 ……リカ。無理に決まってる……対抗なんてできるはずがない。


「……ゲホッ……」


 首を絞められていたのが離されてから響く。


「おお……そうだ、魔族のツノと目って……確かギルドで高値で取引されるよな……」

「そうっすね、勇者サマ。」


 レツを取り押さえるパーティーの一員は反応する。


「やっちゃいましょう。勇者サマ!!」


 狂っている。こいつら、リカの目を奪う気なんだ!!


「やめて……やめて!!」


 リカはそんな勇者に反発する。


「やめてくれ!!!!!リカ!!!!!」


 俺は掠れる声で叫ぶ。


「頂き!!」

「……!!!!……ヴアァ……!!」


 目玉を取られそうになりリカは言葉にできないほどの激痛を感じ、発狂する。


 勇者がリカの右目を抉るように思いっきり握ると同時に、リカは暴れて勇者に蹴りを入れて反発する……その結果、勇者手はブレて……右手に残ったのは目玉じゃない……目玉の残骸になった。


「あーあー。やってくれたな……テメェ。これじゃあギルドで全然売れないな……なら、もう片方もいただくか。」


 リカの右目は潰されてしまったのだ。目玉がなくなった右目があった場所からはオレンジ色の血が流れる……

 ……オレンジ色!?

 魔族の血は赤い。リカの血の色は明るすぎる……どうしてだ!?



 その非道な勇者がリカの左目に手をかけようとしたその瞬間だった。


「……ヴォォォォォ!!!!」


 その鳴き声は魔王城に轟き、リカの姿がドラゴンへと変化していく。


「……グハァ!!!」


 急に手に持っていた少女がフレアドラゴンへと変身し、そのまま勇者は踏み潰され、死亡する。


「……な……勇者さ……ま。」


 そのペシャンコに潰された勇者の姿を見てパーティーメンバーは怯える。

 勇者の目玉は、彼らの元へと転がっていく……


「……こうなりたくなければ……今すぐ、降参しなさい!!!」


 そのリカの声はその場の全員の脳内に伝わっていく。


「わかった……降参する。どうにでもしてくれ!!」


 残った勇者パーティーのメンバーは圧倒的なドラゴンを前に、降参した。




「……リカ。フレアドラゴンだった……のか。」


 レツはそのリカを見て困惑する。


「ごめんなさい。お父様……私はもう、ここを出ますね。」

「……!!」


 言葉にならないような表情をレツは見せる。

 困惑と、絶望、そして愛情が絡まったような、そんな心境を感じ取れる。


「……でていけ。もう、華月家に、リカという少女は……いない。」


 レツは下を向きながら、扉の方を指差して、リカから目を逸らす。

 そうレツが言い放ったのち、リカは走り出す。


「……待ってくれ。リカ。」


 俺はドアの方へ向かうリカを止める。


「……約束は……」

「そうだね……もう、終わり。私たちの関係はもう、終わり。」


 そう言い残して、リカは俺たちの前から姿を消した。

 ……結果として、戦意喪失した他の勇者パーティーは投獄され、リカはその場から姿を消し、俺の母は、死んだ。


 正確には姿を消さなかった。数度だけその右目に紫色の義眼を入れて俺たちの前に現れ、最後の言葉を残していった。


 ……それでも、俺はリカのことを、リカの正体を知っても、また会いたい。そう思った。


 * * * * *


 ……リカのことが忘れられなかった俺は新たな魔王、月橋ケルトに頼んだ。


「テトラビアの知識は、技術は我らに貢献する可能性があります……私を、どうかテトラビアに行くことを許してください。」


 本当の理由は、フレアドラゴンの住む灼熱地帯に行くため……

 テトラビアにあるらしい、どんな環境でも過ごせるような……そんな力を手に入れる為!!


「……ダメだ。」

「どうしてですか!!」

「テトラビアに行くというのは脱皇家するということ……その例外は無いのだぞ。」

「……では、勇者を……滅ぼしてきます。それなら、どうですか??」


「……本気で、いっているのか?」

「本気です。それほどまでに、俺はテトラビアに行きたい。」


「……そうか。それができたら、許してやろう……それと。もしそれができるのであれば、テトラビアの魔法の技術、それもこの地に伝える。それも頼む。」


 月橋ケルトは考えたのち、そう言った。


「どういう意味ですか?」

「……初代魔王が残した言葉……それを元に皇家は魔王になる権利を持ったまま、テトラビアに行ってはいけないという伝統ができた……それはテトラビアに何か秘密があると見ている……それを調査してほしい。」

「勇者を倒した後……それは調査しましょう。」


 それから、俺は剣を本気で勉強した。

 その結果5年前にはグレートドーン最強の剣士と言われるようになり、勇者の討伐に成功した。

 だからだ。10年前を境にグレートドーンには勇者の侵攻が無い理由。

 全ては俺がリカを探す為、テトラビアに渡航する事を、許可して貰うために人知れず、新たに生まれる勇者の芽を摘んできた。


「よくやった……では、許可しよう。テトラビアに行くが良い。そして……あの件も忘れるな。」

「……ありがたきお言葉。」


 俺は魔王に頭を下げる。


 俺はテトラビアへと渡航し、テトラビアにはオートエアー加工という加工、それに渡航に必要なペンダントがあることを知った。


「……これがあれば、リカを……どこへでも探しに行くことができる!!」


 そう知った俺はグレートドーンに帰った。



 フレアドラゴンの住む灼熱地帯、そこは当然暑すぎて死ぬような場所だ。魔族ですら魔法を使っても耐えられないような、異常な暑さの地帯。


 きっとそこにリカはいる。


 その一心で俺は灼熱地帯を歩いた。



 その火山が噴火する場所で、俺たちは再会した。


「……リカ!!!」


 その緋色の体と、紫色の右目を見てわかった。間違いない。リカだ。


「……ユウ……さん!?」


 驚いた表情を見せる。


「どうやって、ここまで!?」

「会いたかったから!!また一緒に、生涯を共にしたいから!!リカに会うために勇者を倒して、この灼熱に耐える力を手に入れた!!」


「……そう、だったんですね。」


 それでも、リカは暗い表情を見せる。

 やっぱり、ドラゴンだからという後ろめたさが……。

 そんな様子を俺は見かねる。


「グレートドーンに戻りたく無いのなら、戻らなくてもいい。だけど、俺とは一緒にいてほしいんだ!!君のためならば、魔王にだってなるし、国だって出る!!ここにだって通い続ける。いつか、リカが振り向いてくれるまで!!だから!!」


 俺はリカに対して感情をぶつける。長年思っていた、その感情を。


「……それほどまでに、愛している!!また一緒に、生きよう。」


 俺はそのドラゴンの体を撫でる。

 そのドラゴンの姿からリカは魔族の姿へと変化する。


「……こんな私で、よければ……是非!!」


 リカは泣きながら、俺に対して笑って答えた。



 ……こうして、異種族間の愛情は育てられた。


 * * * * *


 今、俺の横には聖女の姿のエマがいる。ドラゴンと魔族のクレオールだった、千歳エマと名乗る少女だ。


 あたりには花びらが舞う、そんな屋根の上。地上では鏡が壊れ、レイカ達がいる……



 今なら、わかる。

 多分、ファレノプシスは魔王家を残す為にこの地へ来ないことを推奨した。


 だって、月下 風蛾という、クレオール・ディザスターを起こした最悪の魔王……その過ちを多分知られたくなかったんだ。


 四魔皇家がどうして魔王になる権利があるのか……

 ……それは4本以上の角を必ず持って生まれる家だったから。

 4本以上の角を持つ魔族がまた、クレオールになることがあれば、次こそ何が起こるかわからない。

 今度はグレートドーンを滅ぼすかもしれない。


 民衆ならまだしも、魔王の家で生まれて欲しくないという感情もあったのかもしれない。


 ……そんな過ちの歴史を、きっと皇族の中から捨てたかったんだ。



 ディザスターが起こった理由、それは聞くに強さを過剰に求めていた古代魔族の特性ならではの出来事であったのかもしれない。今ならそう思う。




……だって、その願いは俺が壊したがこうしてクレオールは……私たちの子供は……生まれて成長したのだから。そうだろ?ファレノプシス。

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