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【完結】神の器の追跡者  作者: Ryha
第三章 愛の茉莉花
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第025話 世界は闇に包まれる

「だって、あれを見なさい?あんなのがこの国を攻めて来たら、ドラゴン無しで防衛なんて無理よ。むしろ、どうやって今までこの国が耐えて来たのか、知りたいぐらいよ。」


 レイカが指差す先。

 そこに居たのはドラゴンの翼を手に入れたエマが、さまざまな飛行能力を持つ魔物を操り、暴走した別世界の俺を圧倒している様子だった。


「……あれが、クレオール・ディザスター!!!」


 俺たちは空を見上げてエマのその戦いを見る。


「……いったい何が起こっているのだ?クレオールディザスターが、この国を襲わないだと??」


 魔王ケルトとそのほか魔族はその様子を見て困惑する。ざわつく。

 フレアドラゴンがここにいたことに気を取られており、後から来た人は誰一人として上空の異変には気づいていなかった。


「あのクレオール・ディザスターは味方!暴走した神様を抑えてくれてるの!」

「……お主は!!トラッカー!!!神器をどうした!!!!」


 解説するリリー……別世界のエマを見た魔王配下は驚いて剣を抜く。


「……よせ、我々では勝てぬ。奴からは初代魔王、ファレノプシスの匂いを感じる……」


 魔王ケルトはそう言って手で配下を止める。

 初代魔王の匂いが……リリーから。別世界のエマから……?



「あはは〜ごめんね。私たちはあの国宝、『殲滅の槍』さえ手に入ればこの国と争う気は無い!ちょっとさっきは手荒だったけど……」


 笑いながら別世界のエマは話す。


「……魔王様、戦わずして、どう国宝を守るおつもりですか!!」



「大丈夫だ……国宝は持って行け……初代魔王は、こう言った。『4000年後、我の復活する時には国宝に頼らないテラリスを作れ……』と。」

「……それは四魔皇家では有名な話ね。」


 レイカが付け加える。


「ああ。よく覚えていたな、月成レイカ……」

「……当然です。」


「そんなわけだ。もうすぐ初代魔王が死亡してから4000年が経つ。初代魔王はこの出来事を恐らく予言していたのだ。だからこの言い伝え通り……持ってゆけば良い。」

「……ありがとう。」


「その『創世の鉞』も、好きにするが良い。」

「……ですが魔王様、あの鉞を抜けば、世界の均衡は壊れます……人間との争いは避けられません……」


 ドラゴンだからか、別世界のエマよりも未来を鮮明に見ることができると思われる、華月リカはそう魔王を止める。


「……ふむ……それは魔王として、ワシが全ての責任を負う。それで良いだろう……」


 俺はその様子を見てあるアイデアが思いつく。


「……それに関して。一つ案がある。」


 俺は魔王に対してそう告げる……


 * * *


 私と、別世界の樹の前には赤色に染まる朝焼けが見えていた。

 私が呼び出した魔物たちは一斉に空に広がって自らの住処に戻ってゆく……


 ……私が嘗て見た景色、夢で見た記憶。そこにいた男天使のような槍を持つ人、それと獣の耳を持つ女性、それは別世界の樹と、リリーだった。

 今ではそれがわかる。

 私を育ててくれた人がリリーさん。そういう名前だったことも思い出した。つまり、リリーさんは別世界での、私の育ての親……かな。

 クレオールとして、覚醒したからだろう。


「ところで、樹はどうしてそんな姿に?」

「……俺は、俺はミカを救えなかった。大切な、俺の従妹だ……」

「従妹……その人を守るために、そんな姿に……」

「ああ。テトラビアは侵略される。俺達は守護神器を集め切れなかったからそれを止めれなかった……エマ。だから必ず鉞は持ち帰ってくれ。テトラビアを……救うためにも。」


 テトラビアに守護神器を持ち帰る理由。それは侵略に対抗する為。


 ……鏡の巨人に頼まれたように学長の月下ハガさんを救うためにも、テトラビアを救うためにも鉞は持ち帰る。そう決めていた。

 私は、この今を生きるんだ。


「勿論!!」


 私と別世界の樹は、フレアドラゴンに乗って魔王城の中庭へと向かった。


 * * *


「……やっほ〜!!!みんな!!!」


 全てが終わったエマと、別世界の樹が俺たちの元へと降りてくる。

 俺たちも同じように手を振って、エマ達を迎える。


「ありがとう。もう帰っていいよ。」


 エマはその乗っていたフレアドラゴンを撫でて、帰す。


 魔王達はもう、帰っていた。魔王城の復旧、超新星爆発による被害を復興するために各自それぞれやることを決め、帰って行った。

 そこにはもう、俺とレイカと鉞を元々管理していたシャガと、別世界のエマくらいしか残っていなかった。


「それが本当のあなたの姿だったのね、エマ。」


 レイカはドラゴンの羽を持つエマのことを見てそう感心する。


「……綺麗だよ。エマ……」


 別世界のエマはそうやってこの世界のエマの頬を撫でる。


「貴方が……私を育ててくれた、リリーさんね?」

「……違うよ。私は貴方!別世界のエマだよ!」


 エマはリリーの事を別世界のエマだって理解していなかったみたいだ。と言うことは、別世界のエマは育ての親……から名前を取ってリリーと名乗ったってことか。言い方的に。


「そうだったの……貴方が、別の世界の私なのね……その世界では、猫なんだ……」

「まさかドラゴンだとは思わなかったけどね……!」


 別世界のエマは笑ってそう言う。


「そうそう!古代魔法を教えてあげるよ!」

「カモフラージュ!!」


 別世界のエマはそう言うと、そこには髪がただ短くなっただけの、普段のエマが現れる。

 ……その姿なら、リリーをエマだとすぐに分かっただろう。



「姿形を変える古代魔法の一つ!カモフラージュと言っておきながら姿が変わると能力も変わる。クレオールの力を持つ今のエマになら、使いこなせるよ!」


 ……古代魔法、それは現代の魔族の魔力量では再現できないほどの魔力が必要という魔法なのだろう。リカが古代魔法を扱えたところからも、そんな感じだと思う。


 ……というか、リカが魔族に変身して、本当にドラゴンを感じさせないほどの姿に変身できていたのはこのカモフラージュという古代魔法のおかげなのだろう。


「カモフラージュ!!!」


 エマはいつも通りの姿に戻った。



「……それじゃあ、私たちはもう行くね!!」


 別世界のエマと別世界の俺は、そう言って俺たちに別れを告げる。


「またどこかで会えるといいな……頑張って、テトラビアを救えよ、俺。」


 その別世界の樹はそうやって俺の方に視線を送る。


「……ああ。きっと守って見せる!」



「結びの力……発現せよ!!」


 神器となった別世界の俺は、自分の力で結びの扉の能力を使って、その場から消える。

 ……きっと彼らは、また違う世界を旅して、今度は消えた鉞を探すのだろう。

 ……俺たちも彼らも、まだまだ、神の器を追いかけ続ける。


「……で、本当に良かったわけ?」

「ああ。」


 レイカが俺に確認してくる。


「ん?どうしたの?」


 エマは何のことだ?と言った視線で俺のことを見つめる。



「この槍を俺が。人間が抜く……それを全世界に放送する。それが俺の提案だ。今のエマの力があれば、それも可能だろ?」


 元々俺はYouTuberだ。配信という事にも慣れてるし、そのくらいのアイデアは湧いてくる。

 ただ、ちょうど都合よくクレオールという最強の使役できる力が身近にあっただけだ……


「まったく……どういう思考をしたら、クレオールの使役の力を使って魔物経由で魔力を送って、擬似的に映像を見せるだなんて方法を思いつくのよ……貴方の相棒、本当に馬鹿ね。」


 * * *


 ……その話は、私の記憶をまた、揺さぶる。

 世界が闇に包まれたのは魔王のせい。それが、私の小さい頃、グレートグレンデの頃に聞いた話だった。

 ……つまり、その提案を受け入れたら、この世界の未来もまた、変わる。

 樹が抜く事を放送するというのは、魔族と人間の溝を広げるわけではなく人間同士の溝を広げることになるかもしれない。

 そこから先はもう私達には分からない……気にすることもできない問題。本当にそれでいいのかな。


「……世界が闇に包まれることを……気にしているのか?」


 考え込む私を樹はそう言って気にする。


「……うん。魔族と人間の溝は良くても……人間同士でどこの国が……とか誰が……ってなりそうだなって。」

「魔族に敵意が向かないって言うことが重要だろ?」

「……エマ。貴方優しすぎるわ……人間同士の問題は人間で解決する。私たちが何かできることじゃないわ。」


「……そっか。」


 魔族と人間の溝が広がった世界は、私が見てきた。そんな世界になるよりかは……だいぶマシ……なのは事実かもしれない。


「分かった!やってみる!!」

「了解!!じゃあ私が記録魔法のメモリーで私の視界を保存してエマにテレパシーで送るから、それをエマの力で魔物に共有して、魔物の魔石にでも刻ませなさい!そうしたら、魔石を拾った人に情報が伝わるわ。」

「うん!!」


 * * * * *


 その日、世界が衝撃波に包まれた災厄の日。その次の日に、世界は闇に包まれた。


「おい!!急に空が暗くなっていくぞ!!」

「本当だわ、まだ夜は来ない時間のはずですわよ……」


 森で狼の魔物を狩る俺たちの辺りは暗くなってきた。


「……暗くちゃ魔物がよく見えないから戦えねぇな……くっそ……こんな時に鍵って魔法の天才だったメルトの野郎がいなくなった事が響くな……」


 数年前にパーティーから抜けた赤髪の野郎。あいつなら魔法ですぐさま照らせれただろう。

 人手不足……俺たちは辺りを照らす暇もなく、魔物を狩っていく。


「過去の仲間を思っている暇なんて無いですわ。」

「分かってるよ!!」


 一旦全ての狼を倒し切り、俺は少ない魔力で小さくライトを使って辺りを照らし、魔石の回収に向かう。魔石はギルドで高値で売れるのだ。さて……今回は大収穫だな。


「ふぅ……ん?何だこれ……記録魔法のメモリーか、魔石に記録魔法が刻まれてるだなんて……」


 その魔石は何かおかしい。魔法陣が刻まれていた。

 いや、そこに落ちている全ての魔石に同様のものがある。


「どうかしたんですの?」

「……これを見てくれ。これって、言い伝えのやつじゃないか?」


 そこに映し出されたのは、一人の人間が輝く斧を、『創世の鉞』を抜く様子が映し出されていた。



……魔王城の国宝が、人間によって抜かれた。それは人間の世界に大きな波を生み出した。

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