第021話 擬似超新星
「……ゴメン……エ……」
その落下して来た何者かは、衝撃波で煙が舞うその中で何かを言う。
「まさか!確かに安全だったはず……!!」
リリーはそう言い放つ。
「……きゃあ、離して!!!誰!!!」
そんな悲鳴と共に、その煙は晴れる。
煙が晴れたそこには、エマの姿が無い。
「エマあああああああ!!!」
俺の声は虚しく中庭に響く。
「安全性はしっかり確認取れていたはずだよ……まずいよ!」
空は雲が渦を巻いている。そこを浮遊する誰かと、連れ去られたエマ。その誰かの左手には何か神器のようなものを持っているように思えた。
「何が起きているんだ?」
起きたばかりのシャガが状況が飲めずにレイカに聞く。
「……私も知らないわよ。そこの人なら……」
レイカはリリーの方に視線を送る。
「ええ。あれは私の相棒にしてもう一人のトラッカー……でも、暴走を始めちゃったみたい。」
* * *
「……ここはどこ?」
私は衝撃波を喰らい視界がぼやけて何も見えない状況で、何者かに捕まれ、上空へと連れてこられている。それはわかる。
「……ゴメン………マ……俺を……止めてくれ。」
……その男と思われる人物は確かに、私の名前を。エマと呼んだように思えた……ノイズが混じるが、どこか聞き覚えのあるような声な気がする。
「……貴方は一体?」
その瞬間、私の目の前にいる神器のような輝きを放つその人は衝撃波のようなものを放つ。
しかし私は何かに当たり、地上に落下せずに済んだ。
「……きゃあああ!!って……これは……」
その地面の触り心地には覚えがあった。どこかで触ったことがあるような、そんな。視界が戻れば思い出すかもしれない。
「……守護の…………だ。この空間なら……被害は出ない……自我が……ある内に……」
巨大な黒いバリアのようなもので覆われたその空間が私とその存在のみを包み込んだみたい。
「……自我って!!私をどうする気なの!!」
「エマ……頼む…………救ってほしい…………ごめん……」
その人物が何を言っているのか、私にはわからないし、視界がぼやけてその人物を認識する事はできない。だけどその人を救えるのは今私しかいない、目的はわからないし、何もわからない……でも、私じゃなきゃ、できない事なんだと。そう言い聞かせる。
そう言い聞かせながら私はその場に立ち上がり、浮遊するその人物の方を向く。
「……頼む。俺を……倒してくれ……」
それが、その人の願いだった。
魔王城の上空、いや、グレートドーンの上空には、太陽の光を遮るような巨大な球体が、現れた。まるで、日食のように。
* * *
「太陽の光が遮られるなんて、まるで日食の……」
……日食のその日、クレオール・ディザスターが起こる。
そうカイトは言っていた。
「まさかこれがクレオール・ディザスター!?」
俺はそうやってみんなの方を向いて言う。
「……あの伝説のクレオール・ディザスターのこと!?」
レイカも驚きながらその球体を見上げる。
「……いや、クレオール・ディザスターなんかじゃない。このままじゃ、もっと悲惨な事態になるよ!!」
……リリーは悲惨な事態と言う。いったい何が起きるのか。
「一体何が起きているんだ。」
……俺はリリーの方を向いて、真剣な表情で聞く。
「……クレオール・ディザスター。それは二つの魔石による共鳴から発生するんだよ。」
リリーの声はさっきまでのゆるい感じとは異なり、真剣な表情で解説する。
「……共鳴反応?魔石って、魔物や魔族の心臓部のことだろ?みんなひとつだし、二つなんてあるわけないだろ。」
シャガがそうリリーの発言に対して反応する。
「そう。基本はそう。だけど偶にハーフが産まれる。」
「……つまりハーフなら魔石を二つ持つ事がある……と。」
「うん。それがこの世界をよく襲う、クレオール・ディザスターの正体。二つの魔石が共鳴して、暴走を起こす。そう言うこと……」
……リリーは虚な表情でそう言った。
「……もう一人のトラッカーが、お前の相棒がハーフなのか??」
「……違う。ハーフなんかじゃない。彼は神器なの!」
……人が、神器?
「……それはハシラビトみたいな……そういう?」
「違う。彼は宿る場所を決めていない、母神器そのもの……人呼んで、『運命の斎』」
……宿る場所が決まっていない、母神器。
「宿る場所って……。」
「神器、それは大地に宿ることで最大限の力を発揮する!この鉞は、ここに宿ることでこの世界の地軸に影響を与えるほどの力を出している。持つだけじゃ、そこまでの力は出ない……」
リリーはそうやって、その鉞を指差す。
……ダガランで聞いた話、北砂という都市を槍で壊滅させたという話。
でも、俺たちの前に現れた槍はそんな力には見えなかった。そんな違和感。
「……殲滅の槍も、振りと突き刺すことで効果が違った……そう言うことか。」
「うん。多分そう言うこと。」
リリーは知っているかの様に言う。
「で、その神器さんがどうしたって言うんだ。魔石と何の関係があるんだ?」
シャガはちょっと話がずれて来ていたリリーを正す。
「ごめん、そうだったね……魔石も神器も、よく似た素材でできているんだ。魔石のセレスチウムと……時計の針みたいな形をして輝く、インガニウム結晶!」
「つまり、神器である彼自身が、神器であるこの国の国宝を持ったことで、擬似的な双極超新星が。擬似クレオール・ディザスターが起ころうとしている……と。」
「そう。でも神器同士の反応はクレオール・ディザスターどころじゃない。起こるのは超新星爆発……恒星がその一生を終えるときに起こす大爆発。その規模に匹敵するほどのエネルギーの災害が……起こる!!!多分あれはそのエネルギーを漏らさないための結界……」
……そんな危険な所に、エマが一人連れ去られた……のか。
「……エマを助けに行かなきゃ……」
「無理よ。あんな高いところ、行ける方法なんてないでしょ?」
レイカは動こうとする俺の服を掴み、足を止める。
「でも……このままじゃこの星が……」
「大丈夫。私はエマの未来を見た。あの子を信じよう。」
……未来を見た……それを信じていいのだろうか。
「見たって……いつ見たんだ?」
「そりゃあ、さっきエマの肩に触れた時にね。」
……またリリーはそうやって、全て知ってた上で……意地悪をする。
「じゃあ、信じるぞ。」
「うん。任せていいよ。それにあの結界、あれは宿った『寵愛の盾』の能力とか、母神器の結界とかと同じ。物理的な侵入は基本その母神器自体に働きかけるかそれこそ超新星爆発並みのエネルギーが無いと不可能!それと、超新星爆発が起きても、多分あの空間の内部で全て終わる。だからこの星に影響する事はないよ〜!安心して。」
……超新星爆発すらを外部に漏らさない、その結界。
リリーの言い方的には、母神器の力だと。つまり、エマが言っていたテトラビアの端にあるとされる壁、それと同じ原理という事だろう。
「……死ぬなよ……エマ……」
* * *
私は、何が起こったのか分からなかった。
「……これ、テトラビアの端みたい……貴方は一体?」
「……我は『運命の斎』母神器である。」
その人の喋り方は変わり、まるで人格が変わったかのような雰囲気。
自我がある内に……と言っていたはず。つまり、この母神器はもう、人格が変わっ担だと思う。
私の視界はだんだんぼやけが消えて鮮明になって来ていた。
……衝撃波と埃の影響。
だんだん、外径からその人の姿が見え始める。
その人は、髪が黄色と白で、美しい白い羽根を持ち、まるで男天使のような雰囲気を醸し出していた。
その背中には神器特有の時計の針のようなものが輝いていた。
……その右手には……え?
その右手には、すらっと長く、時計の針のようなものを持つ……金色に輝くあの道具。
ダガランで見た、あの道具。
「……え?どうして、どうしてそれを持っているの!?」
……私の目線の先、その母神器と名乗る男天使の右手には、ダガランからテトラビアの母神器に私たちが返したはずの守護神器『殲滅の槍』。それが確かに、存在した……




