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【完結】神の器の追跡者  作者: Ryha
第三章 愛の茉莉花
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第020話 終わる絆、エマと樹

この話では視点移動が数回行われています。

「* * *」前後でエマ視点なら樹視点にと、変化しています。(勿論逆もあります。)

今回に限った事ではないですが、基本視点移動は同様の三点の表記で示しています。ご了承ください。

「だめ。この鉞は抜かせない。」


 私は樹の手を鉞から引き離す。


「おいおい、らしくないぞ。エマ。」

「もし本当に抜きたいのなら、私をここで倒して……」


 私は樹に対して腕を突き出し、魔法陣を出す。


「……私はこの世界の未来、グレートグレンデで産まれて、扉に導かれて過去のテトラビアに来た。多分そう。だからこそこの後の世界を知ってる!!!リリーの言っていることは本当……もう、誰も悲しませたくないの……」


 私は泣きながらそう言って炎の魔法を放とうとする。

 ……この気持ちを分かってくれるなら。樹は避けて、答えてくれるはず。


「エマ……本気……なんだな。」


 樹は剣を抜く。


「……私は、幼くして親を無くした!記憶は鮮明じゃないけどそれは多分人間に襲われたから!!世界が変わり果てて、心が壊れた皆んなに……だから、私の家族を……!!私が私である為に!!!この鉞は、抜かせない!!!」


 ……私の顔は今、どんな風にぐちゃぐちゃになっているのだろう。

 もし樹が抜かなくても、今度はリリーが抜きにくる。それは分かっている。

 リリーは樹なんかよりも、レイカさんよりも強い。私には止められない。そんなことは分かっているけど、私は、私である為に。樹にはその決断をしてほしくない。


「……だってよ?樹。エマから無理矢理でも鉞を奪うか?」


 リリーは樹を煽る。


「……鉞は抜かせてもらう。家族との過去よりも、今を。未来を選んで欲しい。」


 樹は決心したように頷き、そう言い放つ。

 ……樹のその言葉は、私の心を抉った。


 * * *


 どうすることが正しかったのだろうか。俺にはわからない。

 でも俺にとっての家族は、ゴミ同然だった。これは事実だ。


 あの事件があって以来、俺は家族の元を離れた。

 でもそれは家族から逃げた訳じゃない。離れざるを得なかったからだ。

 親は必要以上に俺を責め立て、体罰なんていくらでもされ、家には居場所がない。

 家族の絆なんて、一瞬で崩壊する。だからこそ、俺にとって家族はいらない存在だ。日本で、俺にとって大切だった存在は、あの従妹だけだった。


 でも……今は違う。


「……エマにとっての家族はかけがえの無い存在だってこと。そんなことは分かっている。でも、そんな家族だって、たった一度のことで敵になる!!俺はそんな家族を見てきたんだ!!もう居ない家族に夢を見ていても、先へは進めない。」


 その言葉はエマを突き放すことになる。分かっている……


「うるさい!!私の気持ちなんてわからないでしょ!!」


 ……その言葉は俺に突き刺さる。

 俺は自分の経験からしか家族を語っていない。そんな事は分かりきっているしエマもそう思って聞いているだろう。


 エマの手から火球が飛んでくる。

 本で見た。あれは火属性の初級の魔法、ファイアボールだろう。

 ……でも。避けるわけにはいかない。

 俺はその火を受ける。受けながら、ジリジリと、エマの方へと近寄る。

 そんな事をお構いなしに、エマは何度もファイアボールを俺に向けて放ち、何度も何度も火球は俺の体に当たる。俺の体は燃えていた。しかし服は燃えても焦げるがオートエア加工の為か破損する事はなかった。


「……どうして避けないの!!!!そうやって、不死なのをいいように私を煽りたいわけ!!!!?」


 エマは泣いて、ぐちゃぐちゃになった顔を見せる。



「不死だからなんかじゃない!!いくらでも攻撃したければすればいい。その思いを全部背負ってみせる!!」

「……なんで。」

「エマの受けた辛い過去。そんなことは俺だって考えれば分かる。小さい頃に一人で過ごすことを強いられる事、家族の愛を受けられないこと。それを経験した事は無いけど……その辛さは痛いほど分かる……」


 実際、従妹のあいつの涙を何度も何度も見て来た。

 ……でも。



「じゃあなんで!!どうして家族なんて!!っていうの!!わかんないよ!!!」

「過去に囚われすぎてても、人は前に進めない。それは君が教えてくれたことだ。」


 ……エマは過去を捨てたつもりでいただけだ。全ては神様の導きのままに。と自分の運命を受け入れてきた。わけではない。エマは自分を極限まで押し殺していたんだ。


「俺は、従妹のあいつを救いたかった。前の俺が過去に戻れるなら助けに行くと思う。けど……そうしたら、今の俺はない。それはエマだって同じだ。でもエマにそれを教えてもらった今は過去を変えようとは思わない。それよりも前を向いて生きたいんだ……その思いを背負いながら。」


 ……もしあの時、あいつが死ななければ、今の俺は未だに日本でYouTuberをやっていただろう。

 それはエマだって同じ。ここが過去ならば、鉞を抜かなければ未だに家族と過ごしていただろう。


「何が言いたいの……?」

「……鉞を抜いたら、家族との幸せな日常が手に入るかもしれない。でもそれは本当に今のエマじゃない。家族と別れてから育ててもらったその人、今の俺との出会い。そんな大切な思い出も……なくなるかも知れない。」


 * * *


 その言葉は、私の胸を傷める。

 ……私を育ててくれた、あの人。大切な事を教えてくれたあの人。そんなあの人との思い出も、全てがなくなってしまう。それはこれから作られる、新しくこの未来で生まれる私が得るはずの、過去を変えたとしても今の私ではその家族が欲しいという心は満たされない。どちらが大切なのだろうか。

 それは私には決めることが出来ない、大きすぎる問題だった。


「……でも、この世界の人を。ここで出会ったみんなを不幸にはさせたく無い……」


 ……それに。過去を変えてしまえば、鉞が抜かない過去になってしまえば、私はここで消えてしまうのかも知れない。

 そんな一抹の不安もあった。


「……大丈夫。全ては神様の導きだって、そうだろ?どんな世界でも人は生き抜く。不幸だけが人生じゃないし、幸せでも全てが失われることもある。それはもう、俺たちが負える責任なんかじゃない。」


「……本当に、それでいいの……かな。」



「過去のしがらみに囚われずに、今を生きよう。エマ。家族から受けられなかった愛なんて、ここから、幾らでも始めればいい。」


 泣き崩れる私を、そう言って樹はそっと抱きしめた。


『創世の鉞』が突き刺さるその中庭には、辺りの茉莉花の花びらが風で舞う。


 ……暖かい、ずっと求め続けて、幼少期を思い出して焦がれていた。あの温もり。

 それがそこにはあった気がした。


 * * *


「……それが樹と、エマの答えだね。」

「ああ。」


「……やっぱり、貴方って人は。」


 リリーは小さく、何か言った気がしたが俺とエマには聞こえなかった。


「うん。私はこの槍を抜いて、テトラビアに持ち帰って、テトラビアを守る。」

「……なるほど。じゃあちょっとエマ、これに触れてみて!」


 エマはリリーの言う通り、鉞に触れる。


「……ふむふむ、その鉞をエマが抜けばテトラビアは救われる。そこに変わりはないね。……頑張れ。」


 リリーはその未来の証を使ったのだろう。鉞に背を向け、エマの横を通りながら肩をポンと叩く。小声で頑張れと、確かにそう言った。


「それじゃあ、私はこの辺で。」


 リリーはそう言って、中庭から帰ろうとする。


「え?この鉞を狙っていたんじゃ無いのか?」


 俺はリリーのその足を止める。


「ああ。それ半分嘘!元々私たちの狙いはもう一つの方だし。まあこれも、君たちがいらないなら貰おうとは思ってたけど……それじゃあ、この世界は救えないからね〜。」

「元からあんたは未来を見ていて、俺たちを試していた。そう言うことか?」

「……さあね。そこはご想像にお任せするよ。」


 リリーは一瞬立ち止まり、右手と尻尾を振りながら、背中でそう語る。


「それじゃあ、あとはこいつらと話し合って、戦って。決めてね。がんばってね〜。」


 リリーはそう言いながら指を鳴らす。


「……あれ?ここは……?私は何をしていたの?」


 月成レイカと、月下シャガが起きた。

 リリーは意地悪はするが、悪いやつではなかったみたいだ。



 次の瞬間、その中庭には急に上空から落下してきた何か、によってものすごい衝撃が起こった。


「……何事です?」


 起きたばかりのレイカはその衝撃波に対して受け身をとれる瞬間もなく飛ばされる。


「……ゴメン……エ……」


 その落下して来た何者かは、衝撃波で土煙が舞うその中で何かを言う。


「まさか!確かに安全だったはず……!!」


 リリーは驚いてそう言い放つ。どう言う意味だ??もう一人の、トラッカーか?


「……きゃあ、離して!!!誰!!!」


 そんな悲鳴と共に、その煙は晴れる。



……煙が晴れたそこには、エマの姿が無かった。

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