第018話 交わる国、エマと宝
「ああ。この国には、二つの国宝がある。テトラビアとの友好の印として受け取ったとされる、強大な力を持つ道具が……」
「二つあるんだ……」
エマは考え込む。
2つ神器があるのなら、2つの守護神器があると言う事だろうか。守護神器が残り3つとわかっている以上、2つ同時に持ち帰れるのはラッキーではあるが、リスクが高まる。
「ああ。人間の世界には同一視されて伝わっているはずだが、実際には二つある。この世界がこの世界である為に必要な、そんな国宝だ。その力がクレオールに渡れば確実に世界が滅ぶだろう。」
「……そんなものなの……!?」
エマは驚いた表情を見せる。
「そんな国宝があるなら、魔族がこの世界を支配していそうだが、なんでそうはなっていないんだ?」
俺は疑問に思ったことをそのまま口にする。
魔王が本当に悪な存在なら、それを使ってしまえば全て我が物になるだろう。
「そりゃあ、初代魔王の意に反するからな。」
「……初代魔王か。」
「ああ。4000年前にテトラビアとの国交を結んだ偉大なる魔王、魔王ファレノプシス。テトラビアとの友好の印を、そんな形で使いたくないんだろうな。」
「なるほどな……魔王。って言っても結局は言い方の問題か。悪いように見えるだけで、実際はそんな事はないって言う。」
俺は視線を上に上げながら言う。
エマは実際魔族だって聞いた時は一瞬悪いイメージを感じたけど、しっかりとした人に変わりはない。
「まあ、クレオール・ディザスターが恐らくその国宝目指してグレートドーンにもやってくる。だから、魔法とか覚えて早いうちにグレートドーンを離れな。」
そう言ってカイトは噴水前から立ち上がる。
「じゃあ、俺はそろそろ……」
「まて。最後にこれだけ教えてほしい、なんでカイトはクレオール・ディザスターが来るって、わかってるんだ?」
「……華月リカ。あいつは俺に10年後の日食の日に双極超新星が来るという予言を残して、姿を消した。」
カイトは下を向く。
「……もしかして思い出したくなかった記憶だったか。ごめん。」
俺はその様子を察して咄嗟に謝る。
「いいんだ。これは俺とあいつの問題だ。なんで居なくなったのか、ずっとその答えを聞きたくて探している。嫌な記憶じゃない。」
カイトは手を振って俺の謝罪に対して反応する。
「……因みに、その日食の日はいつなの?」
「俺は宇宙に詳しくないし、グレートドーンの天文的な技術は遅れているから正確な日付はわからない。だけど少なくとも数日以内に、クレオール・ディザスターは起こる。それだけは確かだ。」
「……また会おう。」
そう言い残し、カイトは去っていった。
「国が5つ滅ぶほどの、大災害に、初代魔王が残した国宝……か。」
俺はまた、空を見上げながらどうしたものか。と言った感じに考える。
「まあでも、やるべきことはわかったし!魔王城に乗り込んで国宝を貰う!そう言う事でしょ!!」
エマは噴水前のベンチから立ち上がり、俺の方を向く。
「まあな。それしかない。ただ国宝を持ち出そうとする以上、一歩間違えるとクレオール・ディザスターの標的になりうるって言うことだけも覚えておかないとな。」
魔物の集団にリンチされる未来は流石に見たくない。
「……確かに……ならクレオール・ディザスターを乗り越えてから持ち帰る方がいいのかも……私達だけテトラビアに今逃げて、ここに住む人達を見殺しにするなんてできないよ……」
俺もベンチから立ち上がる。
「決まりだな。まずは魔王城に行って国宝の情報収集、そしてクレオール・ディザスターを乗り切る。友好関係を築いた上で国宝を貰う。それが理想だな。」
「うん!行こう!魔王城!!」
エマが指差す先、そこには巨大なお城があった。
テトラビア街の大通りをそのまま進むと魔王城の城下町に出る。その為、距離はあるがテトラビア街からでも魔王城はしっかり視認できた。
俺は、カイトから貰った本を流し読みしながら魔王城へと歩いて行く。
「ちょっと!歩きながら本読むのはやめな!」
……まあ、その通りだ。
「大丈夫大丈夫、グレートドーン、馬車とかも車も無いし、電柱だってないし、事故になんか……」
「ドン!」と音を立てて俺は何かにぶつかる。
「ああん?誰だゴラァ??ちゃんと前見て歩け。」
そこに居たのは、スキンヘッドにグレートドーン人の角を6本持つ、超強面で3メートルくらいあるんじゃ……というほどの男だった。
「……す、すみません。」
「ごめんなさい!!」
エマもこんな俺の為に謝ってくれる……
その男は俺に殴りかかろうとする。それを見て俺は咄嗟に頭を手で隠す
「お兄様、暴力はいけませんよ。」
その声とともに、その拳は止まる。
横にいる短い150cmくらいの身長で、角は7本、黒髪でところどころ赤色の毛が混じるようないかにも魔族っぽい女、妹が止めた。雰囲気は貴族と言った雰囲気……いや、もしかしたらそれよりも上なのかもしれない。
「……ちっ」
「……すみませんわ。私の兄が……」
「いえ、悪いのはぶつかったこっちだから……」
俺は深々と頭を下げて謝る。
その兄妹は王城の方へと、歩いて行った。
「読みながら歩くのはやめなよ!本当に!!」
「……わかった。ごめん。」
俺は本を閉じて手に持って、歩き始める。
「待て、お前たち。ここから先は魔王軍か貴族しか入れない。通行許可証を見せてもらおう。」
「ん?その本、それは魔王軍の訓練用書物、通行を許可する。」
……俺の本を見て、もう一人の門番がそう言った。
この本、本当に貰ってよかったものだったのだろうか。
「ギギギ……」と音が鳴りながら門が開く。
「ここから先が貴族の土地、って訳ね!」
「……そうだな。」
「緊張する……魔王、どんな人なんだろう。」
俺たちは貴族の領地を堂々と抜け、魔王城の門の前に来ていた。
案外、誰にも気づかれる事なく通り抜けれた。
カイトのように貴族でも違う場所に行ってる人もいるだろうし、月城ユウのようにテトラビアに行っている人もいるのだろう。
「……これ、どうやったら魔王城に入れるんだ……?」
「……さあ。」
俺とエマは魔王城の前で止まっていた。
「おい、さっきの野郎じゃねえか。そこで何しとんだゴラァ??」
俺とエマの後ろには、さっきの強面の男と、その妹がいた。
「いや……ちょっと魔王に用事があって……」
「魔王様!!魔王さまな!!様をつけろ様を!!舐めとんのかゴラァ!!あ?」
……確かに……様を付けなかったのは不敬かもしれないが……何せ威圧が強すぎる。
「はぁ……お兄様、それが魔王位継承権を狙う男児の対応ですか……?」
その妹は呆れたように兄の事を見る。
「うるせぇ、魔王はな、力こそが全て!!この世の真理は力なんだよ!!」
その男は妹に対してそう吠える。
「でしたら……ここも鍛えてはいかがですか。」
その妹は手を前に出して握る。
……その瞬間、威勢があった兄は動きをとめ、苦しみ出す。
「クハァ……」という声とともに男の口から血が出る。
「心臓を握られたくらいで、死にそうになっているようでは、まだまだです。彼には届きません。」
……こっわ。
「えっ……」
エマも驚く。
「ごめんなさいね。申し遅れました、私は月成家のレイカ、この駄目兄はゲンムです。あなたがたは?」
レイカと名乗る魔族は兄をそのままにし、こっちに近寄ってくる。
「俺は千歳樹、こっちは……」
「月城エマです!」
「月城……エマ……見ない顔だけど、そんな人……歴史上にも現代にもいた記録は残ってないかしら。本当に貴方四魔皇家?」
レイカはエマの顔をマジマジと見ながら、そう言い放つ。
「……近いです……」
エマは顔を赤らめながら恥ずかしそうに距離を取ろうとする。
「……まあでもよくみると、あの人に似てるわね。それに、角は8本だし。」
「……角?」
俺が聞く。
「ええ。ツノはグレートドーンに置いて強さの象徴。最大で8本、最低で1本。基本的には魔力の強さを表して……って、貴方よく見たらただの人間じゃない。」
レイカは俺の方を見てそう言い直す。
「え?それはその……」
なんて返せばいいかわからず俺は言葉を詰まらせる。
「……やっぱり月城家は、変な趣味しているわね。まあいいわ、扉、開けてあげる。魔王様に用事があるんでしょ?それに四魔皇家の者とその関係者、入る権利は当然あるわ。」
レイカは苦しそうに腹部を抑える兄のゲンムを引っ張りながら、扉が開いた魔王城へと入る。
……2倍以上の巨体を軽々と引っ張るなんて。
「……レイカさん、敵対したらやばそうだね……」
「……ああ。気をつけよう。」
……俺とエマは魔王城へと踏み込んだ。
俺とエマは魔王城へと入る。
その魔王城は、正にレトーンの魔法学校。瓜二つだ。
「まさか、魔王城がこんなにも魔法学校と瓜二つだなんて。」
「あら、貴方たち知らないの?」
「ん?」
俺たちの前を歩くレイカが言う。
「この魔王城、初代魔王ファレノプシスがその古代魔法の力で建てた建物よ。」
「……つまり、魔法だから量産ができると。」
「そういうこと、私はテトラビアに行ったことがないから知らないけど、同じ建物があったっていう事はそっちでも初代魔王が建てたということで間違いないわね。」
「ついた。ここが魔王の間よ。」
重そうな扉をレイカが右手で開ける。左手は、いまだにゲンムを引っ張っている。
「ギィ……」と立て付けの悪そうな扉が開く。
……そこには、倒された大人数の魔族が。いや、魔王軍がいた。
「何があったのです?」
「レイカ様……仮面をつけたトラッカーと名乗る二人組に魔王様は襲撃され、国宝は……盗まれました……」
……魔王城は、何者かに襲われていた。