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【完結】神の器の追跡者  作者: Ryha
第三章 愛の茉莉花
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第017話 伝わる話、エマと魔

「惑星テラリスは4ヵ国がテトラビアと国交を持っています。魔族の国、グレートドーンで間違い無いですか?」

「うん!ありがとうカーラちゃん!」


 俺とエマはオーセントへと帰還し、グレートドーンに行こうとしていた。

 あの赤髪の青年が言っていたのはテラリスの人間の世界での発言だが、エマのことを思うと人間の世界には連れて行けない。勝手な考察ではあるが人間から魔族や魔物に対する怒りが強い世界で、魔族の方が案外人間を受け入れているのではないかと。そう言う考えで俺はグレートドーンに行くことにした。


「しかし、よかったのか?エマ。」

「ん?何が?」


 カーラと楽しそうに話すエマがこっちを振り返る。


「グレートドーンって、故郷のグレートグレンデがあるはずの場所だろ?それに、故郷と違って豊かだったとか。」

「そうだね、私も一度行った事があるけど、そこはグレートグレンデとは完全に別物。何があったのかは分からないけど、故郷が無いのは事実だし、それは悲しんでもどうにかできる問題じゃない。」


 ……前もそうだったが、やっぱり同じ答えだな。

 故郷に対して、しっかりケジメをつけれているのがエマ。でも俺はいまだにどこかしらで日本に、焦がれている。

 帰っても、家族や人から責められるのはわかっている筈なのに。


「それじゃあ、行くか!」

「うん!行ってきます!」


 俺とエマはカーラに手を振り、扉の先へと旅立つ。



 グレートドーン……もしこれが英語なら、偉大なる夜明けと言ったところだろうか。



 扉で飛んだ先は、グレートドーンのテトラビア街だった。

 その街の建築様式はレトーンの大学と同じ雰囲気を纏う。

 俺の服はグレートドーンに合わせて黒っぽく変化する。さすがヴァリアブル加工。


「ここ。グレートドーンのテトラビア街!魔法溢れる魔族の国。」


 ……アニメや漫画で見た、剣と魔法のファンタジー世界。


「ダガランとは比べものにならないくらい、幻想的で禍々しいな……」


 辺りには魔素と思われる7色に輝く光の粒子が飛んでいる。大地の、街の雰囲気も彩度も高く感じる。

 しかし魔族の国だからか、空は明るいが暗い雰囲気を醸し出している。


「まあ、同じ魔族の国とは言いつつ、ここに関しては本当に私も知らないから、情報収集から始めないとね!」

「……そうだな。」

「あ、足のアンクレットとナイフは常に装備しておいてね!樹は人間だから、襲われる可能性もあるし!」

「それに関しては勿論分かっている。大丈夫、襲われるつもりで来ているからな。」

「まあ、その速さと不死身があったら負けないか!!あははっ」


 エマは口元に拳を添え、笑いで体を上下に揺らす。


「まあ、不死も過信し過ぎはダメだってことはダガランで十分分かったしな、気をつけるよ。」


 ……実際、この不死というのは即死レベルの攻撃を受けても死なない。だけど回復までの時間は要する。つまり、体が動かない間に縛りつけられたりしたら、もうどうしようも無くなるし、それに槍のような瞬間的に蒸発するような攻撃を受けても本当に死なないのか、と言う点は疑問が残る。ルーが言っていたように、細胞レベルで全てが消え去った場合とか、回復が間に合わなければ死ぬのかも知れない。


「ピンチになったら、いつでも私を頼ってね!約束だよ!」

「勿論。頼りにしてるぜ、相棒!」


 俺とエマは笑って拳を交わす。



「お!華月のお嬢ちゃんじゃん!おーい!!」


 俺たちがテトラビア街を歩いていると、そう言って知らない男が近寄ってきた。


「え?」


 俺とエマはその魔族の男の方を向いて首を傾げる。


「え?あんた、華月家のリカさんだろ?そうだろ?懐かしいな〜俺だぜ!夜月カイト!」


 その男は俺たちの前にきてそう言い放つ。


「いやぁ……多分、人違いだと思うんですけど……私、月城エマって言いますし……」

「え?違ったのか?それはすまない。」


 その魔族の男はわかりやすく驚く。


「ていうか月城家……?四魔皇家が何でこんな、庶民の……テトラビア街にいるんだよ!!」

「……エマは訳ありなんだ。」


 俺は必死に庇う。


「……なるほど。月城家は異端児が多いことで有名だ。長男のユウは皇族の規定を破り婚約破棄、それにテトラビアにいくし……嬢ちゃんも大変なんだな……悪い。」


 その男はエマの肩を叩き、申し訳なさそうな顔をしながら立ち去ろうとする。


「……まって。私、記憶がないの。ここ、グレートドーンがどんな所なのか、それすら……」


 お、意外とエマ、演技派だな。記憶がないわけではないのに、上手く偽って情報収集しようとしてる……


「まあ四魔皇家の人の頼みとあれば……答えない理由は無い。て言うか、そこのお兄ちゃんは誰だ?」

「ああ、俺?」


 急に言われ、俺は咄嗟に反応する。


「俺は千歳 樹、エマの付き添いだと思ってくれればいい。」

「……なんだ。てっきりそう言う関係かと思っちゃったじゃん……」

「……?」


 俺とエマは見合って首を傾げる。


「まあいい、着いてきな。」



 俺たちは噴水前のベンチに腰掛ける。


「まず、何から知りたい?この国の常識からか?」

「……お願いします。」


 エマは畏まって言う。


「まずこの国の四魔皇家、これは月城、月下、月橋、月成家の4つ。この4家の誰かが魔王となり、この国は治められている。その下には13の月が付く名前の家があって、それがこの国の貴族だ。平民に月の名はいない。」

「……てことは、カイトさんは貴族っていうことね!」

「ああ。貴族兼、魔王軍部隊の隊長も勤めている。」

「隊長、ってことはトップレベルで強いんだな、あんた。」


 俺は軽く口にする……敬語の方が良かったか?と後から後悔する。


「いやいや、俺はそこまで強くない……この国で一番強いのは伝説の魔剣士とさえ言われる、月城ユウ。彼が一番だ。」


 カイトはわかりやすく謙遜する。


「その剣筋は人間の勇者すらも一撃で倒すほどの実力だって、この国じゃ有名だ。それに俺の剣は練習試合でも、あの人に当たったことはない……」

「……うわぁ……そんな人とは戦いたく無いねぇ……!」


 エマは緩そうにそう言う。


「まあ、同族なら剣を交えることもないだろうよ。そこの兄ちゃんなら知らないが……」

「そんな時があったら真っ先に帰ります……俺、強くないし。」

「ははは。確かにな。その見た目じゃあ、強そうには見えないな。」


 ストレートに貶してくる。いやまあ、実際何の能力も持たない人間だし、魔法の使い方も学んでないから勉強しなきゃだし……


「……まあその通りだ……」

「まあ、よかったらこれ持って行け。魔法と剣の解説書だ。魔王軍の訓練用の。」


 カイトから渡されたのはちょっと分厚めの本だった。

 開くと魔法の使い方や種類、剣の選び方や持ち方、魔王流剣術について書かれている……


「いいのか?こんな機密事項っぽい本をもらっても……」

「おう、月城家の付き添い人が弱くてどうするんだ。最低限、そんなナイフじゃなくて剣を扱えるようになっておいた方がいいだろ。嬢ちゃんを守る為にも。」


 確かに。


「ありがたく受け取っておくよ。お礼に何か……」

「礼なんか要らないよ。それより、早いうちにその本を読んでおけ。なんなら今すぐ頭に叩き込め。そうした方がいい。」

「……ん?なにか理由があるのか?」


 俺はその言葉に対して聞き返す。


「ん?」


 エマも同様に首を傾げてカイトの方を見る。


「もう直ぐ超新星がくる。」

「ディザスターか……魔物の凶暴化っていう……」

「ああ。ただのディザスターは数年に一度起こる。別名スタンピードとも言われる。凶暴化した魔物が住処を追われて人の街に行く現象だ。それは魔族には影響しない。多分、人のもつ聖なる力に惹かれているとかそんな所だろう。」


 ……レトーンでかつて起こったとされるディザスター。それはでも魔物の住処とは関係なさそうだ。


「……なら樹がここでこの本を習得する理由にはならないよね。」

「ああ。ただのディザスターは大きな力の方へ向くから、たった一人の人間がここにいたところで見向きもされない。大丈夫だ。」

「なら、関係ないな。」

「……だが、次に来るディザスターは、予言によると双極超新星(クレオール・ディザスター)だ。」


 ……あの赤髪の青年が言っていたやつだ。


「それだと、何が違うの?」

「クレオール・ディザスターは魔族も人間も、お構いなしに襲われる。そういう現象だ。」

「……な。魔族は魔物を使役できるんじゃないのか?」

「ああ。普通なら出来る。だがクレオール・ディザスターは無理だ。とてつもない力を持った知性魔物がトップに立ち、他の魔物を操って無差別攻撃をする。そのトップの魔物の事をクレオールと言うが、超強敵だ。これが起こると、大体国が5つは滅ぶ。」

「……5つ!?」


 俺とエマは驚く。規模がデカすぎる。なんなら、星レベルといっても過言じゃないだろう……


「だから、今のうちに身を守れるようにしておけと……」

「あ、あと基本的にディザスターが始まるとテトラビアとの国交は一時的に遮断される。前兆なしに始まるディザスターは誰も察知できないから、気づいた時にはテトラビアには逃げ込めないから、注意しろよな。」


「そっちの問題はそっちで片付けてくれ」や「魔物をテトラビアに引き入れたくない」、「難民は受け入れません。」と言った所だろうか。中々に非道な気もするが、合理的な判断ではあるように思われる。……テトラビアから来てる住民すら見捨てるのはちょっとおかしな話ではあるが……


「そんなの酷いじゃん!だって、テトラビアからこっちに仕事しに来ている人もいるわけでしょ?気がついたら家族のところに行けなくなっているなんて!!」

「それが決まりだからな。仕方ない……」


 ……決まりとはいえ、受け入れ難い事実ではある。



「そうだ、あと、クレオール・ディザスターにはこんな噂もある。大きな力に導かれるって言う噂だ。」

「……大きな力?」

「ああ。人間なら聖剣とかが、この国なら魔王城の国宝を狙いにくるっていう噂だ。何せ前回のクレオール・ディザスターは50年以上前だ。噂程度しか残っていない。」

「国宝……?」

「ああ。この国には、二つの国宝がある。テトラビアとの友好の印として受け取ったとされる、強大な力を持つ道具が……」


……グレートドーンの2つの国宝、それは目指すべきものか、否か。

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