第015話 真実を私達に。
「並行世界ね……」
エマは口元に手を当てて考えながらそう呟いて、天井を見上げる。
その時、研究室の扉が勢い良く開く。
「教授、魔素と魔物、双極超新星についての卒業研究についてですが……おっと、すみません。お取り込み中でしたか。」
赤髪で整った顔つきで、いかにも優等生っぽい雰囲気の青年が、A4サイズの紙を持ちながら扉を開けて入ってきた。
「あ、さっき、質問していた人……」
……魔法と神器の違いに関して聞いてた学生だ。
「見ない顔ですけど……学生ですか?」
その青年は俺の方を見つめる。
「いえ、彼らは私の妹の知り合いで、神器研究の為にここに来たんですよ。」
「なるほど、神器に関する研究ですか。未だにそんな事を研究し続けてる時代遅れの人種、いたんですね。」
その青年は驚いた様子でそう言い放つ。
「ちょっと、そんな言い方しなくても良いじゃん!!」
エマはその青年の方に行き、至近距離で少年を睨んで威圧する。
「いえ、別に悪気があっていった訳ではなくて……」
少年は焦って手を振って言い訳する。
いや、それは無理があるだろ……
ふんっ、と腕を組んでエマは青年から目を逸らす。
「前エマもあんまり神器に対して興味ある人が居ないって確か言ってた気がするけど、実際そうなのか?」
俺は椅子に座るジェーンの方を見て言う。
「そうですね。神器に関する研究は、50年くらい前までは盛んでしたが、その技術力の高さによる再現性の無さ、謎はありますが情報がなさすぎるといった理由から廃れて、今では時代遅れの研究と言われていますね。まあ、私はメアリーの影響を受けて若干興味を持ってはいますが……」
「なるほど……」
そもそも扉以外の神器が一般的に使われていないという点も、その研究を遅らせている原因だろう。
「神器といえば、自分の故郷の言い伝えにこんな話がありますね。『その光、天を割き生きる物を滅ぼし、大地を再生す。』と。神器に関係してるかは分かりませんが。そんなことができるのは魔王か神器くらいしか考えられないので。」
滅ぼして、再生……?
「え?それどこの国の話?」
エマは食い気味でその青年に聞く。怒りはどこへ行ったんだ。
「グレートドーンの魔族なのに、それ知らないんですね。あなたの故郷と同じ世界の話ですよ。勿論、人間側ですけど。」
……なるほど。グレートドーンは魔族や魔物の国。だとしたらこいつは人間が住む国から来ている人ってことか。
「対立関係の魔族に情報あげるのもちょっとアレですが、まあここはテトラビアですしね。協定があるし、仕方がない。」
「ありがとう。その情報大切にするよ。」
「しっかし、グレートドーンの世界、複雑だな。」
「まあ、魔族は魔物と同じく魔素から生まれる知能を持った存在で、惑星テラリスに住む人間にとっては討伐対象です。ここテトラビアは和平協定と、魔物使役禁止が魔法統括システムによって定められているので人間と大差ないですけどね。」
「はーん。なるほどなぁ。」
俺は雑に返す。
「聞く気無いですね。」
「ちょっと情報の整理が追いつかなくてな……」
……情報としては有益だが、さっきの講義といい、情報量が多くてパンクしそうになる。
「もう良さそうなら、教授、お借りしても良いですか。」
「どうぞ〜。ありがとうございました。ジェーンさん!ほら、樹も!」
エマは俺の服を掴む。
「忙しい所お時間を頂きありがとうございます。」
「いえいえ、あんまり協力できた気はしませんが……またいつでも来て良いので!」
手を振るジェーンを背に、俺とエマは研究室を後にする。
「とりあえず、グレートドーンのある惑星テラリスに何かしらの神器がありそうな気がするし次の目的地ってことで決定かな!」
「そうだな。だがテラリスって言っても星だし、かなり調査しなきゃだめそうだな。ダガランみたいに簡単にはいかなさそうだ。」
俺とエマは大学のエントランスを歩きながら話す。
「その話、私にも教えてもらえますか?」
俺とエマの前に現れたのは、月下ハガ。学長だ。
エントランスの椅子に3人で腰掛け、俺とエマはここに来た理由とこれからテラリスに行くという事を話した。
「……なるほど。テラリスに神器があるのは本当です。その青年が言うことはあっていますね。」
「本当?じゃあテラリスで間違いないね!!行こう!!」
エマは徐に立ち上がる。
「そうだな。じゃあオーセントに帰還申請して……」
「待ちなさい。お二人に見せたいものがあります。」
俺とエマは固まる。
「見せたいもの……?」
そう言われ、俺とエマはハガについていく。
木々が生い茂り、全方位大学の校舎に囲まれている中庭、そこにある石の階段を俺とエマ、ハガは進んでいく。
「一体、どこに行くんですか?」
俺はハガの横顔を見ながら聞く。まっすぐ、先を見ている目をしていた。
「まあ、つけばわかる。」
階段は終わり、地上の光が届かなくなった。
「照明魔法。」
ハガはそう言い、光の玉が現れ暗い通路を照らす。
これが例の照明魔法か。
しばらく進むと、今度は地上に繋がっていそうな階段があった。
「もうすぐです。」
「一体、何があるんだろうな。」
「そんな良いものじゃないですよ……」
ハガは俺たちに背中を向けながらそう言う。
「着きました。」
「……ここは……」
何やら古い建物と、木々が生い茂っており、太陽の光が暖かくさすその空間はどこか幻想的な雰囲気を醸し出す。
「魔法大学の旧校舎です。」
「旧校舎って、そんなの大学の外から見えなかったじゃない!」
エマは敬語なんて忘れてハガに訴える。
「魔法です。この旧校舎はレトーンの北数キロ先の山奥にあります。地下通路を歩いているうちにここに飛んだだけです。」
「……つまりワープ、そんなこと、魔法でできるのか?」
それができるなら神器なんていらないだろう。
「あの地下通路にかけられた古代魔法です。」
「古代魔法……ってことは、この校舎はそれほど前のものってこと?」
エマは崩れかかっている石作りの旧校舎に手を当てて聞く。
「そう。グレートドーンとテトラビアが国交を結んだ際に作られた、魔法大学の残骸です。」
「なんで校舎が変わったんだ?街からの遠さってことか?」
山奥にある意味がわからない。
「いえ、大学の書物によれば、この校舎は元々レトーンにありましたが、ある事をきっかけに崩壊し、立て直され、残骸はここに移動させられました。」
「ある事……」
「ある事って?」
「超新星です。ディザスターは、テラリスの魔物に起こる現象。突然凶暴化した魔物が街や村を襲う。それが、グレートドーンと国交を結んでからレトーンで起こりました。」
「確かさっき、赤髪の人がなんとかディザスターって言ってたな。」
俺は顎に手を当てて思い出し、呟く……
「それが原因となって、魔物の使役禁止協定が結ばれました。」
……なるほど。当たり前といえば当たり前か。
「それがざっと、4000年前の話です。」
「4000年!?」
俺とエマは同時に驚く。古すぎる。
「めっちゃ昔……」
「要素分析!」
エマは壁に手を当て、そう言った。魔法詠唱って案外適当なのかもしれない。思いが魔法になるのなら、詠唱はそれを補助するもの、と言ったところだろうか。
手元には魔法陣が現れる。
「分析しても、結果はその通りでしょう。」
「うん、分析魔法でも実際に4000年くらい前の物だって分かった……本当みたい。」
少ししてからエマは俺の方を向いてそういった。
「それで、見せたかった物って、これですか?」
俺はハガにそう聞く。
「いや違う。ついてきなさい。」
ハガはまた杖をつきながら歩き出す。
旧校舎の形は現代の校舎と全く同じらしい。本当に当時の石の部分が、そのまま残っているだけだ。
現代の校舎の中庭部分、さっき階段があった部分に到着した。
あたりは彼岸花が咲いている。
そんな俺たちの目の前には見覚えのある、光があった。
「え、こんなところに……」
エマは言葉を失う。
「そう。アレこそが『尊びの鏡』、テトラビアに残る真神器の一つです。」
「どうして魔法統括システムに縁がある訳でもない、学長がその在処を知っているんです?」
俺はハガの方を向く。
「無論。私こそがこの鏡の巫女だからです。」
「え?巫女って、カーラみたいな神器を扱う役職の……巫女っていうくらいだから女性だけかと思ってた……」
……50代くらいの男性が巫女だなんて、予想外過ぎた。
「この大学に伝わる神器に関する記録、全て話しましょう。」
ハガは鏡の前で、改まってネクタイを締め直し、こっちを向く。
「まず、巫女。それは巫女ではなく、神子と書きます。樹さんにはどう見えているか分かりませんが、巫女は本来の呼び方では無いのです。扉の神子は代々女性なので、その影響でしょう。」
ハガは手持ちの紙に手書きで文字を書く。
「……なるほど。」
「時代と共に言葉は変化して行くのです。それは、この真神器にしても同様、魔神器と……」
その刹那、俺たちの周りの空間は歪み、扉や盃、母神器の時と同じように謎の空間へと飛ばされた。
「なんだ?」
ハガは驚いて鏡の方を振り向く。
「またここか。一体今度は誰だ?」
「今度は鏡の人に会えるんだ!!」
エマはワクワクしている様子……
「神子、それ以上は言うな。」
鏡の方から声が聞こえる。また神器の方向から声がするだけか?と思っていると、巨大な体をした男が現れた。
その巨大な男はハガの胸元を掴み軽々と持ち上げる。
「お前は罪を犯した。俺との約束を忘れたか?」
「ゆ、許して……」
ハガは普段の雰囲気とは裏腹に弱そうな一面を見せる。
「離しなさい!!ハガさんは私たちの為を思って……」
エマはその巨大な男に対して対抗する。
「お前らには関係ない。これは俺とハガの問題だ。それに、魔法統括システムの、母の願いだ。」
その巨大な体を持つ男はハガを地面に叩きつける。
……その瞬間、俺とエマは旧校舎の鏡の前へと戻った。しかし、ハガが帰ってくることは無かった。




