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【完結】神の器の追跡者  作者: Ryha
第三章 愛の茉莉花
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第014話 魔素を魔法に。

 エマの声を聞いた途端、その剣士の魔族はレトーンの街を歩いて行く。


「知り合い?」


 俺はベンチに座ったまま手に持つジュースを飲みながら、立ったまま胸元に手を当てて感慨に耽るエマに対して聞く。


「いや、なんでもない……あまりにも綺麗な人だったから。」

「……なるほどねぇ」


 魔族は魔族に惹かれる。そりゃあそうか。


「そういえば普通に魔族、テトラビアにいるんだな。」


 俺はエマの飲み物も持って立ち上がる。


「……うん。前も話したけどグレートドーンっていう国とテトラビアは交流がある……このレトーンはグレートドーンの建築に大きく影響受けてるんだよね。」


 ……なるほど。エマの故郷は貧しいグレートグレンデっていう国、グレートドーンはそれなりに豊かな同族の国、どこか羨望の念があるのだろう。だからこそこの街の観光をしてから暗い表情をしていたわけだろう。


「て事は魔法大学もかなり影響受けてそうだな。」

「まあね……そろそろ12時半だし、行こっか!」


 俺はゴミ箱に空になった自分のゴミを捨て、エマと共に魔法大学へと向かった。



「想像以上に大きな建物、本当に城だな。」

「そうだね!」


 大学の建物に入った俺たちはその巨大で吹き抜けの校舎に圧倒されていた。


「お待ちしておりました樹さん、エマさん。話はジェーンから聞いています。私はこの大学の学長の月下ハガと申します。」


 左手には杖を持ち、学長を名乗る50代くらいの高貴な魔族がそこには居た。


「よろしくお願いします。」


 俺はその声に咄嗟に反応する。


「お願いします!」

「魔素学はあちらの講義室で行われますよ。」

「ありがとうございます!」

「頑張ってください。」


 俺とエマはそう言って、学長のハガに手を振り講義室に入る。


「……あの謎、あの人たちになら……」


 ……ハガは俺たちが居なくなった後、大学のエントランスで一人そう呟く。




「はい!それでは魔素学第3回目、始めます!」


 ジェーンは教壇に立ち、俺とエマの方にアイコンタクトを送り講義を始める。


「前回までの内容は、魔法とは魔素を練り上げて作る物、ということとその軽い実演でしたね。今回は根本的な魔素とはなんなのか、という内容に入っていきます。」


 ジェーンがそういうと、自動的に黒板の様な板が左右に動き出す。


「今回の内容はテストに出るから、しっかりメモをとってくださいね!」


 ジェーンはそう言って俺たちの方を向く。

 いや、俺とエマは今回特別受講になる訳だし……前回までも来てませんが……流石に冗談の視線だろう。


「魔素、それは素です。この世界、テトラビアのある宇宙は水素などの元素から成り立っています。それに対して魔素、それは隣接する外宇宙を構成する元素の総称になります。」


 ジェーンの裏にある板に自動的に文字や図が描かれていく。あれも魔法だろうか。


「レトーンじゃ一般常識な、多元宇宙論のお話です。この宇宙のすぐ横、その宇宙を構成する物質こそが魔素で、有名なグレートドーン等の国がその外宇宙の国家に当たります。」


 ……つまり、魔法が使える、使えないは宇宙によって違うということか。

 昨日曖昧なことしか解っていなかったエマも、その言葉を聞いて納得している様だった。


「余談なのでテストには出しませんが最新の研究では、外宇宙は無数に存在すると言われているので、同じ魔法が使える国として有名なグレートドーンとアズゲニア、それぞれが違う外宇宙に存在する可能性も示唆されていますね。」


 それはつまり、ダガランでさえ魔法が使えない外宇宙の国家の可能性もあるということだろう。

 魔法が使えないからといって、同じ宇宙でないとも限らない。


 この世界はそうやってできていたのか。


「知っての通り、テトラビアは母神器という神器によって魔法が使える空間になっています。」


 ……母神器の作り出す空間はこのテトラビア自体を外部から閉ざす空間となっている反面、空気成分を変えたり魔法も使える様にしていた、と。

 相当母神器の力はすごいらしい。



「で、魔法と魔素の関係に関してはこの魔素周期表を覚えてください。」


 ジェーンの後ろの板に、日本で見たことのある周期表に似たようなものが浮かび上がる。


「この族が火属性に関係する魔素、その横が水、土、風と、いわゆる四大属性になっています!」


 その周期表はジェーンがいうと同時にそれらしい色で縦列が塗られていく。


「そしてこの遷移魔素と呼ばれるこの部分、ここは主に無属性魔法エリアになります。」


 まるで遷移元素みたいだな。魔素が元素の代わりとしてグレートドーンとかが構成されているなら、魔素によって金属や土なども構成されているということになる。そう考えると興味深い。

 ……横ではエマがうとうとしていた。まあ、難しい話ではあるか。


「前回までやっていた、魔法の実演、それはこの魔素同士を魔学反応させて魔法として使用していたことになります。下の方の魔素を練ろうとするにつれて大きなエネルギーが必要になったり放射線魔素と言う事だけは忘れずに覚えておきましょう。また、魔力は個人個人で異なり、魔力量によって限界があります。」


 そう言ってジェーンは一旦話をやめて黒板の様な板から教壇に戻る。


「はい、一旦メモを待ちます!質問があればどうぞ。これに関係してなくてもいいです〜!」


 そう言った直後、学生はそれぞれ魔法で見たものをそのまま写真のように手元の紙に具現化したりと、まるでスマホで講義内容の写真を撮るかのような光景が広がる……評価、成績、テスト、そのようなものが絡めばどんな人種や人々でも同じような振る舞いをするんだな。



「はい、そこの赤い髪の毛の君!」


 俺の前方右斜め前に座る人が一人、手を挙げる。

 赤髪で顔つきは18歳くらいに感じる、男のようだ。


「魔法は魔素で作られているとよく分かりました。それを聞くと個人的に気になるのはやはり扉の様な神器がどのように力を発揮しているのかと言うところです。魔法と神器の違いって先生は何だとお考えですか?」

「質問ありがとうございます。そうですね……」


 ジェーン教授はしばらく考え込む。


「私の考察としては宇宙が始まる時に発生した超莫大なエネルギーを持つ謎の元素、それこそが神器の源で、魔法とかの物理的・科学的な法則さえ捻じ曲げてしまっているのかなと考えています。根拠は、特にないですが……」


 笑って根拠が無いことを誤魔化す。


「なるほど、興味深いお話をありがとうございます。」


 ……赤毛の青年が指摘したように実際魔法がある意味科学的なものと言える魔素という粒子であるから、神器も科学的に証明できるものという考えはまさにその通りだと感じる。


「他に質問はないですかね〜?一旦消して、次の部分に入りますね。」


 そういうと黒板のような板に書かれていた内容は消え、ジェーンは次の内容を話し始めた。




 数十分後


「……これで今回の講義は終わります!」


 ジェーンがそう言うと学生は皆立ち上がって荷物をまとめ講義室を後にする。


「……起きろ、起きろ!!」

「……ふぇ……?」


 俺は寝ているエマの体を揺らして起こす。


「もう講義終わったぞ。すみません。ジェーンさん。」

「……ガタッ!」と分かりやすくエマは驚いて起きる。


 ジェーンも横まで来ていた。


「……ごめんなさい、折角の機会を寝ちゃって……」


 エマは申し訳なさそうな表情を見せる。

 ジェーンと過去に面識あったのに忘れていた理由も、だいたいこんな感じだったのだろう。

 興味ある神器とかに関しては積極的に知りたがるが、興味ない部分は本当に興味を示さない。

 ある意味そんな人間性が浮き彫りになる。


「まあいいでしょう。本当の学生だったらこうやって講義後も寝続けていたら欠席扱いにしますが、特別受講ですからね!」


 ジェーンはそんなエマの愚行も許してくれた。


「樹さん、エマさん。ここは次の講義が始まるので私の研究室に行きましょうか。」



 俺たちはジェーンの研究室へと足を運んだ。

 さっきの魔素周期表や薬品、魔法陣に関する何か、様々なものがその部屋には散らばっていた。


「ところで、今回の訪問理由って何でしたっけ……」


 ジェーンは研究室の自分の椅子に座って、俺たちの方を向く。


「テトラビアで、扉の巫女をしていたジェーン・ホールがいたと言うのをダガランと言う国で聞いたのでそれについてと、神器について情報がもらえないかと思ってきました!」


 エマが答える。


「……そうですか。」


 そのエマの回答を聞いて少しジェーンは考え込む。


「扉の巫女をしていた私か、同姓同名の人が居る記憶か記録が、ダガランに残っていた……そういうことですね?」

「はい。その巫女が、人を操ってダガランに槍の神器を持ち出させたと言ってました。」


 俺はダリについて簡単に説明する。


「なるほど……もしかしたら、並行世界の私と言う可能性もありますね。多元宇宙論の様に。」

「並行世界……ヴィクトリアが言っていたな……」


 ヴィクトリアは並行世界や未来を見てきたと言って、今の俺たちをここに導いた。それが本当なら、ジェーンの仮説は正しいだろう。


「そんな考え込まなくても、唯の仮説に過ぎませんよ……」


 ジェーンは俺が考える様子を見て、笑いながらそう気を遣う。


「いえ、貴重な考えありがとうございます。」


 お辞儀して感謝する。


「並行世界か……」


 エマは口元に手を当てて考えながらそう呟いて、天井を見上げる。


……宇宙、並行世界、未来、その存在は俺たちを何処に導くのだろうか。

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