第012話 加護の轟き
「冥土の土産に教えてやる。この『速度の証』は元々我らマラ家がテトラビアから持ってきた技術で開発した証だ。カイライ家に会社が買収されなければ、我らはずっとその威厳を保てた。だからその恨みだ!そこの人間も、共に消えろ!!!」
そのダン族の戦士は足のアンクレットを俺たちに見えるように見せつけながら、そう言い放つ。
……その瞬間、空には無数の光の槍が現れる。
ルーも付けていた、脚を強化するアンクレット。その名前は『速度の証』と言うらしい。
「アスラ、もう一度話し合おう。俺たちは分かり合えるはずだ。」
ガイが叫ぶ。
「……いや、もう終わりだ。俺は俺もろともこのテトラビアに光の槍を降らせる!!一緒に死のうじゃないか、ガイ!!」
「ごめんエマ、行ってくる。」
「……え?」
俺はエマに対してそう言い残し、アンクレットを足に取り付けアスラというらしい鳥人に向かって飛び込む。
ガイも、誰も死なせやしない……俺が今度は救って見せる。そう思いながら飛び込む。
超強化された脚力はジャンプ力も強化されていた。
「……届け!!」
俺は必死にアスラが槍を持つ右手に向かって飛び込む。
「馬鹿馬鹿しい、人間如きにその力は扱えん!!」
アスラは俺から離れるように飛びながら、槍をさらに力強く握り振り下ろした。
その瞬間、辺りは光に包まれる……
「……アクセス許可。破壊。データ、『殲滅の槍』」
俺とエマ、ガイを囲むようにバリアが張られる。ルーが槍を使った時もそうだった。また俺はフェイに助けられたように、誰かに助けられたんだ……
だが、その声と共に俺たちの目の前に現れたのは、母神器のハシラビトだった。
だが、その姿はどことなく母神器の時とは雰囲気が違った。
データのような、AIのようなそんな雰囲気を纏っている。あたりの空間も、デジタルのようなそんな感じに見える。
そのエルフは俺の頭上にまで迫っていた槍を全て破壊した。
「なんだ!?」
「バリア!?」
ガイとエマはそれぞれ突然現れた存在に困惑する。
「うわああ……」
俺は急にできたバリアに激突し、体勢を崩してそのまま地面へと落下する。
「……大丈夫か。」
ガイは俺をキャッチする。
「……ああ。助かった。ありがとうガイ。」
「勿論。それよりも……」
バリアの奥では、爆音と爆発が起こり、辺りの木々は折れ、吹き飛ばされた。
「……お前はハシラビトのエルフだな?助かった。」
彼女が来なければエマも俺も、アールも博士も、全員死んでいた。やはり、母神器の力は凄まじい。感謝しながらそう感心する。
「……アクセス許可。会話。データ、『シャングリラ女王:ヴィクトリア』」
「樹さん。無事で良かったです。」
そのデジタルデータのような姿をするエルフはそう言って微笑む。
「では、私はこれで。」
「……おい、待ってくれ!!」
俺の声は届かず……そう言い残し、エルフの少女は消えていく。
バリアは消え、空からはあの槍とアンクレットが落下してきた。
「……カラン」と音を鳴らし槍は階段を跳ねる。
それ以外空から落ちてくるものは無かった。
「……どういうことだ?助かった、のか?」
ガイは安心する。
「アスラ達は自分の使った槍によって自爆した。そういう事だろう……」
これもまた、母神器のエルフが導く運命だろうか。
「ガイさん。大丈夫?」
エマは顔色が悪そうなガイに寄り添って、そう励ます。
「……大丈夫だぜ。ちょっと悩んでいただけだ。」
無理もない。自分は悪いことをしていなかったのに、カイライという家の名前だけでレッテルを貼られ、全ての責任を求められる。それは大変なことだ。
「悪い……俺たちがカイライ家を追い詰めたせいで……」
「いいんだ。樹達は悪くない。助けてくれと言ったが、これは俺が受けるべき報いだ。寧ろ巻き込んですまない……」
ガイはどこか悲しそうな、言葉に表せない表情をしていた。
「……このアスラがつけていたアンクレット、もらってもいいか?」
「ああ。問題ない……よな?エマ。」
「うん。」
俺はエマの方を見つめて聞く。
「それじゃあもらって行くぜ。これがあれば俺でも戦える……はずだ。ありがとうな。」
ガイは手を振りながら、飛び去っていった。
「……これで良かったのかな……」
「ガイさんは私たちよりも強い!大丈夫だよ。きっと。」
俺とエマは、透き通るような青い空を見渡した。
差別は、様々に形を変えて残り続けるのかもしれない。
俺とエマは、ガイが残した槍を再びあの母神器の場所へと返しに来た。
「色々あったけど、ようやく一つ目が終わったね!」
「そうだな。……これで、エルフさん。お望み通り一つ目の守護神器を返したぞ。」
俺は槍を母神器の前の穴に刺す。
また、あのエルフと会えないだろうか。そう思い俺は右手で母神器『生命の木』に触れ、思いを込める。
その刹那俺たちは光に包まれ、再びあの空間へと来た。
いつも通りの、SFで見るようなワープゲートのような空間。そこにはまたあのエルフがいた。
「……また会いましたね。樹さん。エマさん。どうかされましたか?」
エルフは俺たちの方に歩み寄る。
「ああ、今回は感謝を言いにきたんだ。さっき俺たちを助けに来てくれたんだろ?」
……そのエルフは一体何のことだ?という雰囲気で疑問を浮かべる。
「何って、アスラが槍を使った時、バリアを張って俺たちを助けてくれたんだろ?」
「そうだよ!ありがとう!」
エマも感謝を述べる。
その時のエルフは間違いなくこの人だった。急に現れ、消えたが人違いなはずがない。
「……あーなるほど。恐らく、魔法統括システムが現れたんですね。」
そのエルフは少しの間考える表情を見せ、魔法統括システムと間違いなくそう言った。
「で、でも!その表情も声も姿も、全部貴方だったよ!!!」
エマは目を見開いて驚く。
「そうですね……詳しく話すと長くなります。」
そのエルフはそう言って間を置く。
「魔法統括システム、それは私の分身であり、私が嘗て作ったテトラビアの守護者です。」
そう言いながら、彼女が手を挙げると頭上にはテトラビアの地図と、さっき見たデジタルデータのようなエルフの少女がホログラムのように現れる。
地図にはオーセント、フルーブみたいな場所、北には廃墟のような物や湖、東には浮島のようなものなど、他にもさまざまな地形が描かれている。
全体図は、島のようだ。
……つまり、魔法統括システムは、このエルフの分身!?
「だから、お前と同じ姿を……」
「そうですね。ですが普段はこの様にテトラビア全土を光の粒子の様に飛び回っています。」
エルフのホログラムは光となり、島全体にバラける様子が映し出される。
「そして声や喋り方は彼女自身が望まなければ私と同じにはなりません。」
確かに「アクセス許可、会話」などとその少女は言っていた。
「……つまり、魔法統括システムは人の性質をコピーすることができるって言ったところか……」
「そういうことになります。本来、姿だけがあるシステムですから。」
そのエルフが手をおろすと同時にそのホログラムは光となって消える。
「てことは……貴方の名前はヴィクトリアっていうこと
!?」
エマは顎に手を当てて考えてから聞く。
「……そうですね、彼女が私を真似ていたのであればヴィクトリアと言いますよね。そうです。ヴィクトリア、それこそが私の名前です。」
ヴィクトリアは考えて、そう言った。
「確か女王とも言っていたな。つまり、ヴィクトリアは女王様なのか?」
俺も、エマと同じように記憶を辿って思い出して聞く。
「そうです。ですがこれ以上は控えさせてもらいます。」
……これ以上は聞いてはいけないみたいだ。
「もしかして、これで未来が変わるの?」
エマがヴィクトリアが未来を見えると言うことを思い出してそう聞く。
「そう言うことです……なのでここから先は、言えません。」
ヴィクトリアは後ろめたそうに言う。
「わかった。ありがとうヴィクトリア。また今度、次の神器を手に入れたらここに来るよ。」
「またね!!ヴィクトリアさん!!!」
俺たちはそう言ってヴィクトリアに別れを告げる。
「そうですね。貴方たちに、神器の加護があらんことを……」
……その刹那その空間は光に包まれる。
目を開けると、俺とエマは研究所の前にいた。
「あれ、今度は研究所の前に出たね!!」
……さっきは古城の前に出た。ヴィクトリアは俺たちを好きな場所へ返せると思われる。
「さっきはなんで古城前に出たんだろ……」
俺はボソッと呟く。
「まあ、それこそが神様の、いやヴィクトリアさんの導きなんじゃないかな。」
「あ!!エマちゃん、樹くん!!お帰りなさ〜い!!」
研究所の扉が開くと、そう言って博士がこっちによってきた。
「古城の方で爆発が見えたから心配しました〜。無事で良かったです。」
博士はかなり安心した声でそう言い、俺たちに抱きつく。
「近い近い!!苦しい!!」
エマは博士を離そうとする。俺もそれに乗って博士を離そうとする。
「いやいや、絶対に貴方たちは離さないです!!一生助手ですよ!!」
……いやいや、それとこれは別問題だけど。
そんなテトラビアの青空には、数多の光の粒子が輝いて見えた。
……俺たちは神器や歴史の、その一片を知ることができた気がした。
今回で「第二章 光が降り注ぐ日」は終わりとなります!
まだまだ続く二人の冒険を、楽しみにお待ち下さい!
【再度お願い】
ここまで読んで頂きありがとうございます。
現時点で良いのでページ下部↓【☆☆☆☆☆】から評価をつけてから他の小説や次話に進んでいただけると幸いです!
また同様に少しでも良いと思った方はページ下部から、是非ブックマーク登録もお願いします!
ブックマーク、評価は大変モチベーションの維持、向上に繋がります!数秒で出来ます!!
よろしくお願いします!!