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【完結】神の器の追跡者  作者: Ryha
第二章 光が降り注ぐ日
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第010話 神様の導き

 俺とエマは鏡に開いた渦の中へと帰って行く。

 俺は何かを忘れているような気がしたが、そのままテトラビアへと帰還した。


「……たっだいま~!!カーラちゃん!」


 エマは毎度同じように扉から出てくるんだな、と思いながらその言葉を聞く。


「お帰りなさい、エマさん。樹さん。……それがエマさんが言っていた槍ですね?」


 カーラは抱きつくエマを腕から下ろし、俺の槍を見てそう言う。


「そう!ダガランの新しい将軍から譲り受けてきた!これを今から元あった場所に返しに行きたいんだけど、カーラちゃん何か知ってる~?」


 カーラは腕を組んで考える。


「……うーん、そうですね。樹さん達がダガランに行っている間にアールという統括者から、樹さんがフルーブにあった神器『滅びの盃』で外来生命を滅ぼしたという話を聞きました。もしかしたら各都市に一つずつの神器があるという可能性はないですか?」

「確かに、真神器が5つあるって言うことは西の遺跡を研究してたら分かったし、フルーブには実際盃があった!テトラビアの都市は同じく5つだし、確かにそうかも!これも同じ要領でどこかの街にこの槍返す場所があるかもね!!」


 閃いたようにエマはいう。

 西の遺跡に5つの都市。……よく考えると俺テトラビアの土地、全然知っていないな。

 アールが言っていた感じだと扉も、盃もそれぞれ街の中心地にあった。この都市オーセントやフルーブが神器を守るようにできていたとするならその仮説は正解だろう。


「でもそれって真神器の話だよな、今回手に入れたこの槍は恐らく守護神器っていう名前だぞ。これが5つあるのならば同じ要領で返す場所があるのかも知れないが……」


 俺は槍を前に出してそう答える。


「確かに、この扉とかとは雰囲気も違うしね、持ち運びできるし……んーじゃあとりあえず博士に会いにいって、それから考えようか!でも3日間研究所にはいないんだっけ……」


 考古学を研究しているという博士、どんな人なんだろう。


「あまり役に立てなくてすみません……博士ならフルーブから先ほど帰られましたよ。」

「それじゃあ、研究所へ行こう!!」


 そうして俺たちは研究所で博士の意見を求めることになった。



「博士の研究所はオーセントの南端、古城の近くにある!ちょっとだけ歩くけどその槍を持って頑張ってね!」

「扉使えば直ぐじゃないのか?」


 槍は槍らしく、そこそこ重い。

 なぜ扉というそんな便利なものがあるのに使わないのか。歩く理由がわからない。


「帰還申請は優先されるけど、こっちから使うのは基本予約制!今からじゃ最短でも30分はかかるし、歩いたほうが早い!」


 テトラビアの扉はチート級な能力だ。神器それぞれで能力が違うと思われる為、結びの扉を使用したいと言う人はテトラビア全土から集まってくる。簡単にぽんぽんと使えるものでは無いのだろう。


「……なるほどな。そりゃあ便利なものは人気だし仕方ないか。」


 槍を持ちながら面倒そうに言いながら俺は歩む。



「そういえばオーセントもろくに観光してなかったけど、川とかあったんだな。」


 道の横には川が流れていた。


「そうだね、オーセントは扉を囲むように綺麗な円形の運河が3周通ってる感じ!川と川の距離は大体1キロくらいだから、研究所までは2キロと少しくらい!」


 2キロ以上この槍持って歩くのか、と思いながら足を進める。やはり重い。

 然し、オーセントは案外小さいみたいだ。都市の範囲は半径2キロの円形を想像すれば良いだろう。その規模感から、テトラビアの人口はそこまで多くはないのだろう。

 オーセントの形と運河はまるでアトランティス大陸の想像図のような見た目ということだ。



「そういえば、このテトラビアの名前の由来ってエマは知ってるの?」


 歩きながら、ふと思った疑問を投げかける。


「あ、そんな事すら知らなかったっけ……えーっと、テトラビアの名前の由来は『結びの扉』周りの祭壇横の水路が正方形の形をしてるからテトラで、ビアは扉が経由地点になるから経由という意味のviaから来てる!」


 テトラビアは扉があってこそ成り立っている国という訳だろう。


「なるほど。他の国同士をつなげる経由地点だからテトラビアだったのか。初知り。」



「……そういえばテトラビアもダガランと同じように、ただの国なんだよな。ダガランは同じ星に存在する別の国、ウーランっていう国とかつて戦争したって言ってたよな。この惑星にも他の国とかがあるのか?扉なんかがあれば技術的にも狙われてそうなものだけど……」


 俺はダガランの事を思い出して、疑問に思った事を素直に聞く。


「私は詳しくないけど、勿論同じ惑星の他の国とも交流してるとは思う!」


 他の国に直接歩いていけるなら、旅人として行ってみたい気持ちもあった。そこに守護神器がある可能性もある。


「でも、母神器が作り出す光の粒子のドームは物理移動を禁止にする物理的な壁になってるから、この国に直接足を使って乗り込むのは不可能だよ!私は北端まで行った事あったけど、景色は見えてもそこから先は行けなかった!だから、全て扉からしか無理な感じだと思う!」


 景色は見えるけどその先には行けない壁。

 まるでマインクラフトの世界の端や、オープンワールドゲームの端等と同じイメージだろうか。それが現実にあるわけだ。ますます謎が広がる。

 つまり母神器が意図的にテトラビアの交流先を扉からに限定させている。テトラビアは本当に規律の上で自由がある楽園、正にユートピアっていう感じだな。


「なるほど。つまりは目に見えるほどの範囲しかテトラビアの外界は見えないわけか。」

「まあ、テトラビアの外に出るならそもそも空気とかが変わってくるからペンダント必須だし、別にここが私にとっての楽園だしテトラビアの外には興味はないかな~!まあ、テトラビアの外に歴史を紐解く謎があるなら興味あるけど!周りの星から見たらテトラビアの全体像とかも見えるのかもね!」


 テトラビアも所詮は惑星の上にある国。宇宙から見れば小っぽけな国なのかも知れない。

 ただ、オーセントの規模感じゃ小さすぎる気もする。



「俺がいた地球からもこのテトラビアは見えたのかも知れないのか。テトラビアの見える星を見て、それを扉の先の惑星でも見て、ってやればその内惑星までは特定できそうな気がするけど。」


 俺は槍を持って歩きながら考える。


「それは多分、無理だね〜。星で分かる範囲は同じ銀河にないと難しいと思うし、扉が別宇宙に繋がってる可能性あるから……まあ、それを特定した所で神器の謎とかは解明できない気がするけど。」


 そもそも宇宙が違うとなれば、予測なんて不可能だ。そこまでの可能性があの扉にはあるのか……とんでもないな。


「まあ、神器を解明していけばいつか辿り着きそうな問題ではありそうだな。」

「確かにね。私は天文学的な部分に興味なかったけど、樹は案外ある感じ?」


 エマはこっちを振り向き、聞いてくる。


「うーん、微妙かも。子どもの頃から図鑑とかを見て宇宙はこんなにも広いのかとワクワクして、旅することができたらな~ってずっと考えていたくらいだな。」

「樹、案外旅が好きだよね!」


 足並みを揃えて歩きながら、満面の笑みで見つめるエマ。


「ああ。俺は元いた日本だと旅で生計を立ててたからな。」


 俺は虚ろな目でそう答える。


「へ~楽しそう!」


 そういえば、エマにも旅で生計を立ててたとかそういう過去の話を一切したことが無かった。

 テトラビアに来てからは日本に帰りたいという意志が強くて、過去の話に関しては盲目になっていた。


「まあ、いいことだらけじゃないさ……」


 俺の頭にあることが過り、足を止める。



 よく考えたら自分の親は未だあの世界で自分の帰りを待っているのかもしれない……

 しかし、帰ったらどうなるだろうか。

 俺をあの件で地獄の様に責めた親はそもそも俺を心配しているだろうか……?

 あれ……?そもそも何故俺は責められたんだ?何故俺はあそこまで親元から離れ、一人で生きる事を誓い、配信業を続ける事を決意したのだろうか。

 思い出せない……

 忘れちゃいけないはずなのに、全く思い出せない……どうしてだ……


「樹、大丈夫?顔色が悪いよ?」


 俺の顔を汗が、いや涙が垂れていく。


「ああ。ちょっと昔の事を思い出しちゃって……」

「そんなに嫌な事があったの……?」


 エマは俺の頭を撫でる。


「いや、別にそんな」


 俺はその手を弾くように退けようとする。


「そんなじゃない!」


 否定される。俺はその反応に驚きを感じる。


「樹が辛いなら、私もその辛さを受け入れるよ!」


 その目は真っ直ぐ、偽りのない目に見えた。


「でも、これは俺の問題であって、エマには関係ない……」


 俺はその眩しい目から目を背ける。


「何言ってるの!私達は相棒でしょ!!だから、全て話して……元気になろう!」


 エマはその魔族な見た目に反して聖女の様な雰囲気で俺を包み込む。



 俺とエマは近くにあった公園のベンチに腰掛ける。


「俺は、失って、人から責められることが怖いんだ……」

「詳しく覚えて無いんだけど、大切な人を俺は自分のせいで失って、身内からも世間からもそれを責められた事がある……それがトラウマなんだ。」

「なのに、そんな人たちがいる故郷に帰りたいの……?」


 当然の疑問だろう。


「その大切な人の為に、俺は生きなきゃ、その人の証を残さなきゃって、そう思ってるんだ……だから、何故か忘れてしまった自分が憎いんだ。」

「私も、独りで貧しかった魔族の私を拾って育ててくれた人間の事をこの世界にきて忘れちゃったんだ……でも、それはこの扉からの導きなんだって、そうやって思うようになったの。」


 エマもまた、虚な表情でそう話す。


「人は成長しなきゃいけない。絶えず周りは変化するのに自分は過去に囚われて、家族を思って打ちひしがれて、誰かにそうやって助けてもらってて、年齢を重ねても私は貧しい子供のままだったから……」

「その人の事を忘れて、悲しく無いのか……?」

「悲しいよ。でも、このテトラビアが私とその人を引き離してくれたからこそ、それが私を成長させてくれたの。だから私は神器はその名の通り、神様だって思ってて、全てこれで良かったんだって、受け入れてる。樹の言った、守護神器をテトラビアに返すっていうのも全ては幸せへの導きなんだって、そう思うよ!」


 俺は過去に囚われ続け、俺自身を責めて、大切な物を失わない為にダガランでも戦いの決意をした。だが、ある意味それは弱さを肯定している。自分の内部にある弱さを糧に強さに変えた。それは強さじゃ無いんだ。

 でも、エマは違った。その運命こそが導きで過去に囚われず、未来を受け入れてこそ人は強くなれる、変われるとそう考えているんだ……


「……俺も大人になれるかな。」

「なれるよ!絶対。」


 エマが言う通り全てが神の導きで、ここで手に入れた経験が俺を変えるのならば、全て終わってからまた家族と会えば、何か違った結論に至れるのかも知れない。


「……ありがとう」


 俺とエマは再び研究所へと歩み始めた。




 テトラビア中心都市、オーセントの最南端に位置する研究所へとやってきた。

 エマが散々お金を溶かしている研究費を出す博士、ついに会えるのか。


「それじゃあ、いこっか!」


 そうして俺たちは研究所、というよりかはかなり大きめな屋敷の扉を開ける。


「博士、変な人だけど悪い人じゃないからね!」


 そう言われながら、薄暗く埃っぽい廊下を歩く。


「博士、ただいま!!」

「お帰りなさいエマちゃん、それに〜、新しい調査仲間の樹君かな、私がテトラビア随一の考古学者メアリー・ホールで〜す。よろしくお願いしま〜す。」

「よ、よろしくお願いします。」


 イメージと違いすぎた。もっとこう、知的な博士だと思っていた。

 博士、という威厳は感じられない、言ってしまえばアホっぽい見た目だ。どちらかというと漫画とかの保健室の先生のような優しさ、母性を感じるような女性だ。それこそ、エマに散財されてもなにも思わなさそうな雰囲気だ。博士は似合わないメガネを掛けていた。

 もっとゴツいおじさんとかを想像していた。


「あ~!またコーヒーこぼしてる!!それにこの部屋暗いし埃っぽすぎ!!掃除して!!」

「あわわ、すみません!!エマちゃん……」


 博士は萎縮している。まるであの元気なエマがお世話がかりをやっているかのような雰囲気だ。これが、エマの日常……


「勿論、あんたも私の相棒だから、手伝うよね?掃除!!」


 エマはこっちをニヤけながら箒とちりとりを突き出してみてくる。

 こいつ俺を助手にした理由、これがあったからだな。と思い知らされた。



 ーー数時間経った、


「いつもありがとうね!エマちゃん。それに手際いいね~樹君!」


 博士に褒められる。掃除を褒められても……


「いえ、元々一人で暮らしていたのでこのくらいは……」


 「……あはは」と愛想笑いをする。


「今後ともよろしくね!......えーっと、そういえば二人はダガランに行ってたんだっけ。」

「そう!この神器っぽい槍を持ち帰ってきたんだよ!」


 掃除の邪魔になると、部屋の隅に一旦おいていた槍を博士に見せる。


「これがその例の槍ですか。って重い!!」


 槍を博士に渡したら相当重そうな表情をされた。力がないのだろう。


「カーラから少し話は聞いてて、私も神器に関して考えてたんですよね。間違いなく、これは神器でしょうね。うーん、この槍の根本の形、どこかでみたことがあるような~……」

「博士、この槍が元々どこにあったのか、心当たりがあるのか?」


 俺は問い詰める。

「そんなにはっきりとは覚えてないけど、ここの近くの古城の石板に、この形と同じような絵が描かれていたような〜……」


 記憶が不確かで、腑抜けた感じの声で博士は言う。いや、これが元々の博士か。


「博士、ありがとうございます。じゃあエマ、古城へ行こう!」


 俺はエマの手を引き、古城へと向かって走り出した。


「……いや。槍忘れてますよ~~!!」


……その声は俺とエマがいなくなった後の広い研究所に虚しく響く。

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