第十章特別編 前編 楽園の神
ある神は言った。
「私は永遠の概念。」
ある神は神を作り出した。
彼らは2人。
虚無の神 メナ
粒子の神 ガバーク
精神の神 ノイノベール
でも、この世界は最初から出来上がっていた。
「貴方達には役目があります。世界を作り、均衡を保つ役目です。」
それは事実に過ぎなかった。
ある神はある予言を残した。
転生の予言だ。
「私は私の作る、この世界で産まれます。その子が私の様にならないよう運命を変えましょう。」
ある神は知らなかった。
「神になる方法があります。私は知っています。名はクロノス、彼は後の世界で神になるでしょう。彼こそが、敵です。」
ある神は知っていた。
「この世界の外は、きっと無。ですが、逆にあなた達には下の世界に干渉する余地はありません。創世以後、この世界で共に歩みましょう。」
それがその2人の神に、あの神が残した最初の言葉。
* * * * *
「どうだ?これが永遠の神いや永遠の概念の全て。興味湧いたかい?ヴィクトリア。」
「今は亡きクロノスに討たれた、宇宙を作り出した本当の神……が作り出した最初の2神。彼らは、ファレノプシスや樹に……インガニウムに飲まれた生命に、乗り移った……と。」
共鳴反応は、上の世界からの干渉……ですか。
私はその黒い空間を歩きます。
目の前に居るのは、大きな目玉がついた紫色の怪物……
「自分の話はしないんですね。矛盾の神。いや、矛盾の概念さん。」
「……矛盾??身に覚えが無い。なんの事でしょう。」
その怪物、矛盾の概念はそうやって濁します。
* * *
この世界は、エヴァースのある世界の先。ずっと外側にある世界。
エヴァースのある宇宙をユニバースと呼ぶならば、グレートドーンのある宇宙のように、外宇宙を含めた呼び方はマルチバースと言えます。
そして平行世界。リリーと言う人がいた世界を含めると、大きなメタバースになります。
このメタバースを作り出した存在こそが、永遠の神。
マルチバースの世界に存在する命界とは異なり、ここはメタバースに存在する『認知の床』と言う場所。認知の床を超えた先には、ゼノバース……即ち私たちが一切理解できない、認知できない更なる存在。4次元が存在します。
そして本来この認知の床は4次元の存在が立つ場所であり、我々が認知できる場所ではないです。だからこそ、ここに踏み入れた3次元の存在は神と称されるが、常にゼノバース自体に飲み込まれる危険性を持ち合わせています。それこそが、概念という存在です。
矛盾の概念も……あの姿になるまでは私のよく知るあの人です。
エタナリングと呼ばれる上位の無限のエネルギーをもつ物質により作られたのがこのメタバースだと。それはあの矛盾の概念が知っていました。
永遠の神が世界を作り、役目を終えたエタナリングはこの願いを叶える物質インガニウムとしてこの世界を制御し続けています。
インガニウムに、システムの様に残された穴。バグ……神器という、バグ。
神器が神器として形があって成り立つのも全て、永遠の神がいたから。
私や彼、クロノスはそうやって永遠の神が生み出したメタバースの中で生まれ、その穴から神へと成り上がった存在です。
でも、私達は神ではありません。
* * *
「いい加減貴様も、認めるのだ。貴様こそが楽園の神であると。」
この世界は、歪んでいます。
この世界にきた人間は神と呼ばれ、その特性にあった神と成る権利を得ます。
それを認める事で、本当にその存在になれる。それこそが、この世界における神なのです。
「私は神ではありません。貴方も勿論、神ではないのです。」
私は彼に、そう反応する。
* * *
この世は全てが狂っている。
なぜ、私達はインガニウムの奴隷にあるのか、この認知の床の外ゼノバースへと脱出できずに彼の様になったり、下の世界に干渉してしまうのか。
それは全てこの世界が虚構であるからでえす。
この世界がこの様に何もない暗い空間なのも、全ては永遠の神という上の世界からの干渉者によって作られた、シミュレーションゲームの様な物であって、認知出来ないから。かもしれないのです。
自由意思や生物、心なんて言うものは全て電気信号や粒子の塊。
全ては、プログラムと何も変わりがない。
この世界は神でさえ、神という名に酔いしれ、快楽に囚われる奴隷である。
と。今なら、そう思えてきます。
この世に、完璧な物なんて存在しない。永遠に続く楽園なんて、存在しない。
それは永久機関が不可能な様に。
例え、インガニウムという歪みが存在していたとはいえ、完全にはならないと、私はそう思います。
* * *
「考え直さないか?いい加減に。」
……私は彼にそう言われる。
「絶対に、私は私を貫きます。例え世界が固定されていようと、変わらない崩壊の運命を、虚無へと帰る運命や、輪廻する運命。そんな物が確定していようと、私はそれに抗います!!」
私はそう言いながら、命界のときと同じ原理で、剣を作り出しました。彼を倒すための、剣です。
「……そう、か。なつ……かしいな。ヴィクトリア。」
私のその姿を見て、彼はそう言いました。
「!?まさか、記憶を??」
その異形の姿へと成り下がった彼は私との記憶を持っていないと、そう思い込んでいました。
「その意思は……変わってなかったか……5000年……いや、10億年……すまなかった。その手で私を、滅ぼしてくれ。手遅れに、なる前に。僕が、矛盾の概念に飲み込まれてしまう前に……!!」
急に現れた声は、彼の最後の願いでした。
私と共に過ごした気が遠くなる程の記憶。そして、この世界の運命に、ゼノバースの思惑に飲み込まれてしまった彼の、姿。
それを打ち滅ぼせる力があるとすれば、私。
「分かりました。」
私はそう言ってその抵抗しない彼の頭の上へ、剣を伸ばす。
「最後に、君の中に……よろしく頼む。全てが間違っていた。長い時の中で、ようやく分かったことだ。また魂となってどこかで会えたら、僕の事を先生と呼んでほしい。叶わない……願いかもしれないが。」
「きっと届きますよ、その願い。」
私はそうやって、アルマードの最後を見ました。
長い時の中で忘れ去っていた私の中に眠るニケの記憶。
それは確かに、鼓動したように思えました。
完璧な物なんて存在しない。それは分かっている。
私は今だって、楽園の神にはならない。それはこれからも永遠に。
私はこの世界でたった一人、この世界を最後まで見届ける義務がある。きっとそう思う。
亡き永遠の神……私が選んだ、あの子の意思のただ先で。
運命は、絶望だけじゃない。って、そう信じてる。
……私はいつまで経っても、神の器の追跡者。彼らの神で、彼らの仲間なのだから。




