第098話 私と戦の際会
「……ど、どうして私の名前を?」
「……俺は樹だ。エマ……俺だよ。千歳樹……だよ。」
彼はそう言いながら仮面を外した。その顔は私の知っている樹、そのものだった。
「……樹、なの!?」
私は驚いて彼の顔を見つめる。
確かに、私が知っている樹そのもの。でも、ツノがあった。やっぱり魔族なんだ。
「……俺は千歳樹っていう人の記憶を持ってる魔族……月下イツキだ。」
「……え?え?え?」
私の頭はその発言でバグる……つまり、ミカちゃんみたいな、そう言う話……なのかな。
「前世の記憶……って言うこと?」
「分からない……」
でも、前グレートドーンに来た時は魔王は月橋ケルトさんだった。それに、シャガやレイカにイツキなんて家族がいた……としたら出会っていてもおかしく無い。で、前世の記憶だったら樹が生きている時にもいたことになる。
だって、樹が神器になってからまだ7年。その後に生まれたとしたら7歳にもなっていないはずだし、そもそも樹が死んで無いはず。神器としてまだ、生きているはずだから。
……ヴィクトリアはエネルギーを摂らないまま5000年生きた。それは元々のエルフの長寿があったから。となれば、不死じゃない樹でもまだ50年以上は神器の中で生きないとおかしい。
「……でも、どうしてこんな事を……?侵略なんて、どうしてやったの!」
私は当然の疑問を投げかける。だって、例え彼が私の知っている樹だったとしても、侵略なんてして許されるはずがない。
そんなの、絶対におかしい。
「……分からない。分からないんだ……ずっと俺はぼーっとしていたような、そんな気がするんだ……」
彼はそう言って下を向く……
なら、やっぱりこの指輪が……
見つめただけでなんか心臓部が変な風に感じたこの指輪……
「……もしかして、この指輪……これのせいって事はある?」
「……ん?なんだ、それ。」
反応的にビンゴ……
その魔王、イツキは私が持つその指輪を見つめる……
「この謎の指輪が、きっと貴方を凶暴化させてたんじゃ無いかって、そう思うの……」
「……確かに、そうかもしれない。俺はそんな指輪をつけた記憶なんてない……」
なら、きっと魔王軍か魔族の中に人間との関係悪化を狙う……魔王すら操る悪者が存在するって言うこと。
「……ごめん。」
「……ん?」
樹は急に謝る。
「いや、エマが……君が住んでた街、滅ぼしちゃったから……もしかしたら、君は死んでいたかもしれないし……」
「大丈夫大丈夫。確かに思い入れがない訳じゃないし、悲しくない訳じゃない……でも、操られていたなら仕方ない……失ったものに、過去に囚われててもだめ、なんでしょ?それに、私は強いんだから。知ってるでしょ?」
この集落での思い出は確かに私を成長させてくれた。
かけがえの無いものだった。それを潰されて悲しく無いわけがない。
でも、本当の敵は魔王じゃない。
だとしたら、そいつを……私は絶対に許さない。
私は今を生きるって。そう決めたから。
「……う、うん。そうだね。」
「……だからさ、私も魔族の元へ行くよ。君を操っていた黒幕、見つけ出してみんなを救いたいから。」
「え……でも。」
「……大丈夫。私にはこれがあるから。」
私は変化の証を使って魔族の姿へと変身する。
「……さ、行こう。私と一緒に。」
私はそう言って魔物によって倒されてその場に座っていた彼に手を差し伸べた。
ーーー
「……軍は先に帰しておいたから多分大丈夫だと思うけど、一応エマは怪しまれない様に振る舞ってね。」
「わかった!」
私はその街、グレートグレンデへとやって来た。
ここは永遠の地に比較的近い灼熱地帯にある。
鉞を抜いてから数年経ち、グレートドーンは滅んだ。灼熱地帯となってしまった……と言う影響以外にも、クロノスによる転移の災害……と言う影響も少なからずあると思う。
「……もしかして、イツキは未来から転移してきた?」
「……確かに……その可能性はあるかも知れない。」
それなら、生まれ変わりの可能性だってある。そうなれば話が変わってくる。
とは言うものの、私の心は一つだった。
樹が例え魔王になっていたとしても、魔族になっていたとしても、その魂が変わらないのならば私は一生貴方の側にいたい……それだけしかない。
……その為なら私は魔王の妃にだって、なってみせる。
私は魔王城で隠されながら、日々黒幕の正体を探し出そうと奮闘していた。
ーーー
グレートグレンデになって大きく変わった事がある。
それはまず月下イツキ……樹の生まれ変わりと思われる彼が魔王になっていると言うこと。
7年以上の月日があったとはいえ、彼になる理由が分からない。
グレートドーン時代、魔王継承権第一位は月城ユウ……第二位は月成ゲンム……第三位が月下シャガ……と続いていた。多分、レイカに関しては勇者侵攻がなければ恐らく二位だったんじゃないかな……と私は勝手に思ってる。この国の継承権に男も女も関係ないから。樹から話を聞く限り、ケルトさんの前はユウのお母さんだったそう……。
と言うことは……
「クロノスの転移によってきっとケルトさんが行方不明になって……ユウとリカは結婚して魔王を諦めて平民へ……そしてゲンムが残って、魔王になろうとした所で、何らかの理由で偶然にもイツキが現れてその権利を奪っていった……で、ゲンムがイツキにあの指輪を渡した……そう考えるのが自然かな。」
私は魔王城の書庫にある資料を見ながらそう独り言を呟く。
ゲンムの考え方は実際、危険だった。
「……力こそ全て!!って言う感じの思考だったし、本当に黒幕……って言う可能性ありそう〜……。」
この国……グレートグレンデを一般人を装いながら私が探し回ってもレイカもシャガもいなかった……きっと全く別のところに飛ばされてしまったと考えて間違いなさそうだった。
ストッパーだったレイカがいなくなっちゃて……暴走した、可能性がありそう。
「……おい、誰かいるのか?ゴラァ??」
私の元に、その彼はやってきた。
「……物音がした気がしたが、気のせいか……」
彼……月成ゲンムが怪しい……そう考えた私は彼の後をつけることにした。
「……なんなんだ、マジであの野郎……!!」
「……ゲンム様……落ち着いて下さい。」
「落ち着いてられるか!!俺は言ったぞ!!永遠の地を奪ってこいって……そう命令したはずだろ。見ただろ、お前も……」
「……は、はい。確かにあの指輪を使ってそう操ったはず……です。」
当たった。やっぱりゲンムこそが……黒幕だった。
私はその部屋の扉に隠れる。
「やっぱり、あのくらいのカケラじゃ混沌の力も発揮されないのカァ?たったの街一つなんかで満足するとかふざけてるだろアイツ……」
「……そう言うことでしょう、ね。」
「まあいい、もう一度あの指輪に対して魔法を使う……」
そう言って彼は手に持っている赤い石に対して魔法を唱え始めた……
その瞬間、私がポケットに入れていた指輪が光出した……
「やばっ……」
私は焦ってその場から逃げようとする……
「ンァ?なんだこの反応、お前、そこにいるんだろ??」
バレた……
まさか遠隔操作で操る為の操作をしてる……なんて思わなかった。
「……コソコソしてないででてこいゴラァ!!」
そう言って彼は私の隠れていた扉を勢いよく破壊した。
「……やっぱり貴方だったんだね……ゲンム!!!」
「……な、なぜ貴様がここにいる……月城エマ!!!!」
私は杖を握る……
その私とゲンムはまた、再会した。
……その様子をある人物は魔王城上空で見守っていた。