第097話 私と志の斎戒
私が育てた、自分自身が……エマが居なくなった。
きっとテトラビアへと行ってしまった。
彼女はそれから私と同じように博士と出会って、樹と出会って、またここに戻って来る……のかな。頑張ってね……私。
そんなことを考えながら私は山小屋を出る。
「……ここももう、さようならだね……」
私が古代魔法……マテリアルコンストラクションで建築した山小屋ももう、要らなくなってしまった。長い様で、短かったこの生活。樹との生活の方が色々とあり過ぎて、この生活はあっという間に感じてしまった。
私はもう、一旦人間として過ごしながら、テトラビアに帰る方法を探すことに決めた。
その為に私は本当の聖女になってみようと、そう志した。この世界の人間の文化を知ることで何かしら帰る為のいい方法が見つかるかもしれない。
そう思ったから。
それに、メルトがこの世界からテトラビアに行けていた様に、テトラビアと交流がある国もあるはず。だからそう言うところがどうなっているのかも知る為……。
「……よし。頑張ろう!!」
6年前のあの事件以降、私にはある程度変な人……魔女、といったレッテルがついた……けど、今となってはもう気にしていない人も多い。
それに、ある意味彼らのそのレッテルを剥がす為にも人間の世界で役に立とう。そう、私は思って、聖女になる。
「……よろしくお願いします。」
よくわからないけど、白い髪の人間はこの世界テラリスだと聖なる力を受け取ったそういう存在として崇められる対象なのだそうだ。
だから私は教会のような宗教施設と関わりあるわけでも無いのに聖女、と言われていたらしい。まあ、魔女とも言われていたけど……
そのくらい曖昧な物ではあるのだろう。テトラビアもそんな気はした。
「……よろしくね。エマ……でしたね。」
「はい。」
私はそれから人間の世界を学んだ。
人間の世界の道徳も、何もかもを学んだ……つもり。
それは私にとって辛くもあり、楽しい時間でもあった。
けど、収穫もあった。
「……言い伝えがあります。『人々の願いの力集まりし所楽園への門開かれる』」
それが、その教会に伝わる言い伝えだった。
それを初めて聞いた時、私は確信した。
「……テトラビアへの……道……」
「何か言いましたか?」
「いえ。何も言っていません。」
「そうですか、魔法の練習に行きますよ。」
私はその先輩聖女……聖女のおばさんにそう言われ、連れられて行く。
テトラビアへの道はきっと、人々の願いなんだって、そう思う。
ある意味、私はずっと願っていた。あの頃の私はお母さん達に会いたいって、そう願っていて、テトラビアに辿り着いた。その結果自分が生まれる前に言って親には会った。
そう考えると、きっと願い続ければ樹がいるアルマードを倒した後のテトラビアにも、きっと帰れるって、そう思った。
……けど、決定的に違うもの。それはカーラが扉の魔法水を抜いたこと。それだけが気がかり……
あの扉を使うには、祭壇を使って魔法水を操作する必要がある。それを普通ならカーラのような神子が対応して扱う。それに対して扉に導かれし者……つまり過去の私とか、樹はきっとハシラビトのキーラが意図的に水を操作する形で呼び出されたんだと思う。
でも、今の扉の先にはきっと人なんていなくて、魔法水なんて入ってない状態って言うことが簡単に予想できる。だからこそ、導かれし者として行く時とは訳が違う……
願いっていう希望は見えたものの、そんなものは説話に過ぎない……言い伝えに過ぎないんだ。そんな希望の説話は机上の空論だと思う。
私はそう噛み締めて今日もまた聖女として過ごす。
聖女になって手に入れた人脈で他の土地……テトラビアと交流があった土地のことを聞いたら、7年前くらいから交流が無くなった……っていう情報を貰えた。7年前は丁度アルマードが攻めて来た時。つまりテトラビアが滅んでから交流は途絶えている。
予想はしていたけど、やっぱり帰ることは厳しそうだ。今この時のテトラビアは滅んでいるのだから。
……勿論ここにきた段階で直ぐにテトラビアに戻ると言う選択肢もあった……けど、だからと言ってクロノスが死に際にあの災害レベルの事を起こす……と言うのは変わらないし、きっと止められない。だから私は自分自身を育てることに決めた。それにきっと、そうしようとしても因果力によって行動は選べなかったんじゃないかって、今は思う。
ーーー
そんなある日だった。
私たちが住むその街は、魔王によって侵略された。魔王軍が攻めて来た。
「……どう、して……」
その街は火の海と化した。
魔族が、何の為に人の街を……襲うの……
今の私には分からなかった。
……魔族と人が手を取り合っていける世の中……そんなものがきっとできると思っていた。
魔族は悪い人たちじゃ無いから……きっと大丈夫だって。そう、私は信じてたのに……
その思いは……踏み躙られてしまった。
「……えっ……」
私は焼かれる建物の中に一人、燃えるあのおじさんの姿を見た。
「あなた!!早く消化しなさ!!!」
聖女のおばさんに私はそう急かされたと思ったら、そのおばさんは瓦礫に飲まれてしまった。
迷ってる時間はない。
「……ウォールレイン!!」
私はそう叫んで街を燃やす火を一発で消す。
マーガレットさんがあの時使ってた古代魔法……水の量が多すぎて寧ろ事故になる可能性があるかと思ったけど、躊躇っている暇なんて無かった。
「……やるな。何者だ一体。」
「……これはこっちのセリフ。一体どうしてこの街を襲いにきたの!!」
「……俺は月下イツキ。魔王だ。この星を征服してやる。」
……その魔王は、私の前に現れた。
その顔には、仮面をつけていた。
「……魔王様、食糧確保出来ました。」
「ご苦労。先に引いておけ。」
食べ物……?それほどまでに、魔族の食料がないって言うの……?
「食べ物とかがないから、奪うっていう訳ね……それなら私は、貴方を倒す!!!」
私は聖女としてもらった杖を握る……
「エクスプロージョン!!」
私はその杖を使って、古代魔法で巨大な爆発を起こす。
「……混沌の時!」
彼はその赤く光る指輪を使う。
その瞬間その爆発は私に向かって飛んできた。
「……ファストガード!!」
私は咄嗟に受け身を取る。
時間を止める、力……?
あの力。あの証を止めないと……私はそう思って行動する。
「さあ、もっと楽しませろ。」
「時を止める力……それに勝つのは……これしかない!」
私は髪飾りに触れてクレオールの力を発揮させる。
「みんな、お願い!!」
私はクレオール・ディザスターを起こした様に大量の魔物を召喚して使役する。
……特に、小物を沢山呼び出した。
「……くそっ数が多すぎる!!というか貴様!!聖女じゃないな!!?」
「……さあ、ね。」
私が呼び出した小さい魔物は彼を襲っていく。
魔物は味方。それが魔族の考え方。だからこそ下手に手出しは出来ない……
私が使役する魔物達は彼を倒した。
「……これで、終わりね。」
私は倒れた彼の指輪を持ち上げる。
「……これ、証……かな。」
その凶暴そうな見た目の指輪を私は見つめる……
「……グサッ。」その指輪を見つめると、私は心臓に何かが刺さるようなそんな痛みを一瞬感じた。
「……何これ。もしかして、これが魔王を凶暴化させた……物?」
「……ん、う〜ん……」
……起きた。
私が(魔物達が)ボコボコにしたそのイツキと言う魔王は……起きた。
「やっと起きたね。」
「ここは……って、エマ!?」
その魔王は私の名前を知っていた……
「……ど、どうして私の名前を?」
「……俺は樹だ。エマ……俺だよ。千歳樹……だよ。」
彼はそう言いながら仮面を外した。
……その顔は私の知っている樹、そのものだった。