第095話 命界中で
「ニャー……」
ニャー!?
「え?なになに?猫!?」
リリー……つまり別世界のエマ……猫耳と尻尾を持つ猫と魔族のクレオールの後ろにその黒猫はいた。その黒猫も紫色の目をしていた。
「……その子は?」
樹が聞く。
「私は華月リカ……この子の母親です!」
「……え、待って?」
「……ええ、エマの?」
私と樹はそれを聞いてまた驚く。
「うん。この鉞を抜きに行くときに偶然出会ってね、多分私の故郷がここで、ここで生まれたけどあの世界に行ったって言う事なんだと思う。」
「……な、なるほど……」
樹はずっと驚きっぱなしだった。
「……私も驚きです。まさか自分の子供の成長した姿を見るなんて……」
でしょうね……リカさん。しかも本当の子供って……
「……グレートグローン出身……っていう事だったんだね。」
私はそう呟く。
「そうだね!私は元々グレートグローン出身で、テトラビアに着いたらなくて、グレートドーンって言うところだったからね!」
「……え。」
私は二人に聴こえないほど小さな声で呟く。
「そうだな。俺も日本無かったし、っていう奴だったな。」
二人はそう言って笑い合っていた。
「……なんか並行世界って、そこまで違うんだ。」
「まあな。そもそもロストリアもそもそもはテトラビアじゃない未来、だからな。」
……そっか。
それに今目の前にいるケモミミのエマがケモミミな理由も、並行世界がそれほどに違うから、って言う事だった。
きっと私はグレートグレンデの時代に生まれて、過去のテトラビア、グレートドーン時代に移動した。
それに対して猫耳の、このリリーはグレートグローンの世界に生まれて、並行世界のテトラビアに移動した。
って言う事なんだ!
「ところで、クレオール・ディザスターはいつどこで起きるんだ?」
樹は思い出したかのように言う。
「あ、そうそう。もうすぐ起きるらしいよ!この世界は私が原因じゃなくて、蛇と龍のクレオールらしい!」
「……蛇と龍って、相当強そうじゃん!この世界の私達でどうにかなるの??」
私は心配する。あの樹もエマも、強いかと言われたら微妙な気がしていた。
「まあ、覚醒が起こるなら起こるだろうが……この世界だと人と魔族のクレオールだから、力が発揮されるかは分からんな……」
別世界の樹はそう考える。
「……見守りましょう。皆さんを。」
リカさんの言う通りだった。
私は見守ることにした。
ーーー
私達は魔王城の屋根上から様子を見守っていた。
奥の暗い森の方からそのドラゴンらしき影が近づいて来ていた。
「……聞いたか?エマ。」
「……ん?」「どうしたの??」
「ん?え、あ、えーっと、まあいいやどっちでもいいや。」
樹は私が二人いることに対して困惑する……
「この世界だと、ここグレートグローンに滅びの盃があるらしい……」
樹はそう言った。
ーーー
ある意味、予想通りの結果になった。
エマはクレオールとして自覚し、力に目覚めたけど結局私のように飛んだりはできないし、今後が心配な感じになってしまった。
樹はそれに対して滅びの盃を使用してクレオールを滅ぼして不死になった。そう、ここで不死になった。この一連の事件を通してこの世界の樹とエマはかなり距離が縮まった……みたい。
おかげで敵は滅ぼすことができ、この世界のクレオール・ディザスターは終わった。
けど、彼らにとっての経験はやっぱり少し足りない気もする……とは言うものの、今の私じゃどうしようも無かった。
未来は確定事項だから。この世界、この並行世界は銀河同盟による支配が進む世界。そう言う並行世界からアルマード達はやってくる。
断ち切れるとしたら彼らに刀を渡して、アルマードを滅ぼして未来を変えてもらうしかない……
だから私は今何をしたところできっと変わらないと考える。
「……さあ、行くか。」
「だね……!!」
「もう行きますか?お別れですね。」
「ごめんね!お母さん!!」
リリーはリカに対して手を合わせてする様にして謝る。
「大丈夫です。元気なことがわかっただけで、私は十分ですよ。」
リカはそう言って笑う。
「さて、早く来いよ。」
樹はその作り出したゲートの中でそう言う。
「……え?」
「約束だろ?連れて行くっていう。」
私は正直本当に連れて行ってくれると思っていなかった。
「いいの?ありがとう。」
私はそのゲートに入った。
「……そういえば言うタイミングなくて逃してたけど、そっちが元いた世界、アルマード滅んだみたいだな。誰が滅ぼしたのかははっきりとわかっていないが。」
樹はそのゲートの中……命界を移動中にそう私に伝えた。
「……え?どうやってそれを知ったの?」
「……あの時、だ。」
……あの時、木の下でおでこを近づけられた時……かな。
「そんなことまで見れるんだね……ありがとう。安心した!」
やっぱり樹は勝ってた。私の想像通り彼は勝っていた。
「……帰る方法探すの大変だと思うけど頑張ってね……私。」
「ありがとう、リリー。」
「……さあ、ついたぞ。ここが君の世界のテラリスだ。」
ゲートが開いた。そこにはまだグレートドーンで起きた超新星爆発並みのエネルギーによる衝撃波……の影響が色濃く残る頃のテラリスだった。
「……ここが。」
「ええ。ここが私の、故郷です。」
「間違いなさそうだね!復興状況からして……」
間違いなく私達の世界だった。でも、もしかしたら数年後くらいかも知れない。この樹達も鉞探すのに手こずっていたみたいだからそんな気がする。
「……じゃあ、俺たちは行くか。」
「だね!」
「ありがとうございました。また、会いましょう!!」
「またね〜!!」
「またな。エマ……」
ありがとう、別世界の私達。
そうして彼らと別れた。
その草原には灰が降っていた。
「……やっぱり、少しだけ時間軸ズレてるみたい……かな。」
あの樹は時間移動はできないって言ってたけど……私と樹が鉞を抜いた直後のグレートドーンっぽいけど、何かおかしい気がする。
「……カサッ。」
私はその音を聞き逃さなかった。
私の近くの草からその音は鳴った様に聞こえた。
「……誰かいるの?」
……私は警戒しながらその場を見つめる。
そこに現れたのは、一人の魔族の少女……だった。
「……うわぁぁぁぁん!!」
泣き出した。
とても幼かった。五歳くらい、かも知れない……
「……よしよし……安心してね〜!!」
私はその子を泣き止ませようと頑張る。
「……ぐすっ……」
何とか、泣き止んだかな……
「……迷子なの?」
私は屈んでその子の目線になってそう問いかける。
「分かんない……」
「……そっか。」
こんなところで一人寂しく歩いていたら間違い無く魔物に襲われて死んじゃうな……
なら、やる事は一つしかないか。
親を探すか、探しても見つからなかったら代わりに育てるか……
「……名前はわかる?」
「……う、うん。っぐす……」
その子は涙を拭いながら私を見つめる。
「……エマ。月城エマ……それが、私の名前……です……」
その幼い子供は確かにそう言った。
「……!!」
私はそれを聞いて思い出した。
「なんだ。こう言う事だったんだ……リリーって。」
「……?」
私の独り言を聞いて、幼い私は頭を傾ける。
「何でもない。私はリリー。よろしくね!エマ……!!」
私はそう言って過去の自分を、私自身を抱きしめた。私を育てたのも、私がリリーって名乗ったのも、全てこうやって始まってたんだって分かった。
ーーー
それから、数年の時が経った。
やっぱりこの世界はあの別世界の樹が言う通り、私たちが鉞を抜いた少し後だった。
でもどうやらクロノスの力はテトラビアに止まっていなかったらしい。
テトラビアの生命体はほぼ全てがクロノスの力で飛ばされた。外宇宙のテラリスまで来ると流石にその影響は小さくなっていた……と思われるが、他の星々に住む生物に対してその影響は及んでいた。そして子供のエマはクロノスの力によって、数年後から此処に一人来てしまった。と言うことで間違い無いだろう。
グレートドーンがグレートグレンデと言う国名になったのも、そのクロノスによる災害が影響しているそう……ケルトさんやその他魔族も、調べた限りこの一年くらいでいなくなってしまったらしい。
私たちが気がついてなかっただけで、既にその災害の影響を受けて過去に飛んできた人と会っていたのかもしれないし、はたまた樹やアルマードの持つ刀のせいで未来が変わって今ここに、過去にこうして飛ばされるエマみたいなのが新たにできたのかもしれない。
それは正直、分からない。
「……想像以上だなぁ……アルマ・クロノス……」
……その影響は、あの地だけでは無かったということが分かった。