第092話 此の命の千歳樹
「……殺してはいない。瀕死にしただけだ。つまらないからな……」
クロノスはそう言って笑う。
私は辺りを見渡すとカーラが悲しんで泣いているのも見えた。
でも、今はそんな事を言っている場合じゃない。
私は樹の持っていた刀を握る。
「……樹、借りる。樹の敵は絶対に討つからそこで安静にしてて……」
きっと何も攻撃されなければいつか樹は回復する……そのくらいの状況だってことはわかった。
だから私はヒールをかけるだけかけて、樹を寝かせて立ち上がろうとする……
「……ま……て。」
立ち上がろうとした時、樹が喋った。
「無理しないで!!!」
「……ご……めん。え……ま。」
「喋らないで!!死んじゃう!!!!!」
「……俺……に…………あれ……を。」
その時だった。私と樹の元にウプシロンが降り立った。
その天使のような少女……本当はAIに、機械の体に知能を移した彼女は私と瀕死の樹の前に現れた。
「……ウプシロン!!一体なんの用なの!」
「私は樹を蘇生しに来た……それだけです。」
「……蘇生!?」
「ええ。死んではないけど……一つだけ、彼を完全復活させる方法があります。」
「……ほう。蘇生か。もう一度とは、少しは楽しませてくれるか。」
「ええ。そうね、エマがよければ、楽しいものは見せられるかもしれないわ。アルマ・クロノス……」
ウプシロンは私を越えてクロノスと話をする。
いつの間にかウプシロンは敬語じゃなくて彼女らしい言葉に変わっていた。その意図はわからないけど。
「……蘇生って……一体どうするの?」
「インガニウムを取り込むの。そうすれば、彼は母神器になれる。ハシラビトとしての存在にはなってしまうけれど、まだ死にはしない。」
……ウプシロンが言ったのはそれだった。
私が一番やって欲しくないと思っていた、それだった。
「……だめだよ!!そんなの絶対!!!!」
「……そう。なら終わりね、彼は死ぬ……因縁の力で彼は死ぬわ。」
「え?」
私は困惑する、だって、ただの瀕死にしか私には見えなかったから。
「……彼の命はクロノスによって生かされているだけ……彼に慈悲を与えて、少しでも楽しもうとしてる……それがアイツなのよ。昔から。」
……ウプシロンはそう言ってクロノスを批判する。
「……そうだな。今回の私の狙いは君とそこの樹だ。私はヴィクトリアとゲームをしているだけ……彼女が選ぶ君らは、君らの楽園を作れるのか……それを見守るためだけに私は君の相棒を生かしている……だから私はアルマードの誘いに乗った。アルマードが目指す楽園か、君たちの求める楽園か、はっきりさせようではないか。」
……狂ってる。戦争をただの遊びだとしか思っていないのが、クロノスなんだ。
アルマードの野望なんて、楽園じゃない。
そんなものに加担するなんて……神様なんて……そんな物なのか。
「……許さない!!!絶対に許さない!!!!」
私は神様の導きは絶対だと思っていた。
神様が私たちの事を見ていて、それで未来はきっとうまくいくって、そう思ってた。
でも、その感情は今ここで砕かれた。
私はクロノスに対してその刀で突撃していく。
「……デストロイファイア!!!」
私は刀にその力を込めながら突撃した。
けどその攻撃は彼の指一本で弾かれ、そしてオーセント全土の窓ガラスが割れるほどの衝撃波があたりを襲い、それで私は樹がいた場所くらいに飛ばされる。
その衝撃波はまるでテラリスを襲った別世界の樹が、乗っ取られて神の力を使われたときの樹の力そのものに似ていた。
「……なんの衝撃波だ!エマ!!!」
「ガイ……みんな!!」
その強烈すぎる衝撃波に気がつき、他の対処をしていたみんなが私の元へと駆けつけた。
「……排除する。」
それに伴って、みんなを襲っていたソニアもついてきた。
「……邪魔だ。私の遊びを邪魔するな。」
そう言ってクロノスはそのソニア・タロースをまるで押しつぶされたペットボトルのように圧縮して滅ぼす……
「……な、味方じゃない、のですか……」
「……奴はもう、アルマードじゃないみたいね。」
メルトやレイカはその様子に困惑する。
「彼はクロノス……この世界の本当の神様だわ……みなさん、気をつけて。」
「……なるほど。それは興味深いですね、本当の神……ですか。」
リエはそう言いながら義手を調整する。
「ところで、樹は?」
「……あそこ……」
私はガイに聞かれて樹のことを指差して教える。
「……な!!瀕死じゃねえか……」
そう言って私たちは瀕死の樹の元へと寄っていく。
「……な……んだ。おま……え……ら。」
「息はあるみたいね。」
「……俺……に……インガ……ニウム……を……」
「インガニウム?彼はこう言ってるけど、何かあるの?神様。」
レイカはそうウプシロンに質問する。
「……インガニウムを取り込めば、彼は神器として復活する。そしてその時、初めて守護神器の呪いは解ける……インガニウムなら、私が異次元からでも呼び出せるし、どうにだってなる。」
「じゃあ、今すぐ蘇生させなさい!!!」
「……た……のむ。」
レイカ達はそう言ってウプシロンにインガニウムを要求する。
樹は確かに頼むと言っていた。
でも……
「……そんなの絶対だめだよ!!!」
その様子を見て私は反発する。
「……どうして。樹が死ぬんだぜ。」
ガイはそう、私に訴える。
「でも、だめ!!私は暴走する別世界の樹も見て来たし、それにもう樹は不死じゃない!!だから、神器になっても結局エネルギー不足で死んじゃう!!そんなの私は絶対に嫌!!!」
……それが、私の本音だった。
大好きな樹が、死んじゃう。
例え今生かしたとしても、ヴィクトリアのように結局は死んでしまう。神器にするなんて、その時の死をさらにひどいものにするだけ。
それに、その生かすためにも呪いだったり、他のエネルギーが必要……なら私は、樹をその方法で蘇生なんて出来ない。樹が、他の人の犠牲を必要に生かされるなんて……それはダメでしょ。
「他に方法があるかもしれないじゃん、まだ、早いよ……」
わかってる。他に方法なんてきっとない。クロノスが言えば今すぐにでも死ぬそんな状態……その状態なのに、私は理想ばっかり見てしまっている。
その時、私の顔は叩かれた。
「……辛いのはわかる。でも、今は現実を見ろ!!!樹が死にそうなんだ。なら、生かすのが正解だろ!!」
メルトだった……
過去で長い間冒険した、メルト……
彼は泣く私を叩いて容赦なくそう言い放つ。
「……でも……」
「……未来ばっかり見てないで、理想ばっかり追いかけないで、今。今の相棒に、向き合ってやれ。それが、樹とエマ……だろ?」
メルトは私にそう言った。
……そうなんだ。私は弱い。重要なところで決断できないし、樹の意思だって無視してしまっていた。
理想ばっかり追い求めて、他の生きる道……そんな未来を求めて、樹の意思を尊重しなかった……
きっと、私は……
その時だった。
「……なく……な。え……ま。俺……が……」
樹は私にそう言って、笑った。
「おい、本当に無理はするな、樹!!」
ガイは何度も樹の斬られた体から出る血を抑えながらそう言って止める。
そう、だよね。
私はみんなに助けられてばっかり……
私はわかってる。
樹がいない世界なんて……私は絶対に生きられない!!……私にとっての樹が大切な存在……
私はより一層泣いた。周りにみんながいるその場所で……
きっと私は、また失敗する。そんな時に彼がいないなんて……私には無理……
それ程に私は樹を愛しているから……!!
「お願いします。ウプシロン……」
「……待ってました。」
「……樹を、救ってください!!」
私は泣きながらそう、願った。
その瞬間、樹がウプシロンから貰ったインガニウムを取り込んだ瞬間、彼はオーセントを飲み込むほどの巨大な樹へと変化した。
地割れなんて霞むほどの、存在に彼はなった。
その樹は結びの扉を呑み込むほどの巨大な幹に成長する……
私たちはその木の根の上にいた。
「……ありがとう。そしてごめんね……樹……」
私は木になった彼に触れてそう言う。
そして私は樹が持っていた刀を……
槍はガイが、鉞はレイカが、杖はリエが、盾はメルトがそれぞれ持って、アルマ・クロノスを迎え撃つ準備をした。
「……これで、全ての守護神器の呪いが無くなった……これで完成じゃ。」
マーガレットはそう言った。
「……これが君が望んだ姿じゃ……フェイド……」
マーガレットは樹に対して何か言った気もしたけど何を言っていたのかはわからなかった。
「……待った甲斐があったな……面白くなりそうだ。……さあ、その守護神器とやらの力を見せてみろ!!!」
クロノスはそう言って叫び、その樹の葉を揺らす。
「……それじゃあ、いくぜ!!!姉さん!!」
ガイはそう言いながら槍を振り、その場には100本以上の光の槍が降り注ぐ。
「……そんなものか。その力は。」
アルマードはそれを素早く刀で断ち切っていく。
「見えた!!ここね!!」
レイカはその鉞を振ってオーセントの家をクロノスめがけて吹っ飛ばす……
「……そんなもの無意味だ!!!」
アルマードがその家を斬ろうとした瞬間、その家には雷が落ちてそのまま空中に浮いているクロノスは感電する……
「……おのれ……貴様の仕業か!!」
「……なかなか制御が難しいですね、これ……」
「リエさん!!」
みんなの力があれば、勝てる……
樹のおかげで神器に制限がなくなった……だから勝てる……
「排除する……」
「……まだソニアがいたか!!」
そのビームは避けられないほどに早く私たちのところを襲う……
「……危ないですよ。気をつけてください。」
そのビームは一瞬のところでメルトのバリアによって守られ、そのまま吸収してそのエネルギーでビームを打ち返す……
「……エネルギーの他の使用方法もありそうですね……」
メルトはその盾を見つめてそう呟く。
「……まだです!!」
カーラが叫ぶ。
その場にはまだ、ソニアが残っていた。
きっとこの樹の変化の異常性を理解して、遠方に行っていたソニアが帰ってきた……だと思う。
その数、まだ10はいる。
「……チャージ開始……」
「……もう、クロノスとの戦闘に集中できませんね……」
メルトは愚痴をこぼしながらみんなを守る準備をする。
「うおらああああ!!!!!」
そう言いながら、その剣を持った知能神器、ソードのオーランはチャージしていたソニアを叩き潰す……
「ここは俺たちに任せな、君たち。」
「……オーランさん!!」
「……ですね、私も参戦します。オーラン。」
「助かるぜ、ソニア。」
「……もちろん私も行きます。ソニャニャン!」
「カーラ……」
カーラちゃんまで……
「皆さんを守りますよ!!」
そう言ってカーラ、ソニア博士、オーラン、フランは残りのソニア達を倒して、私たちの事を守っていく……
他にも、アールやジャック、他生きている統括者達も残党と戦いを繰り広げていた。
「ありがとう、みんな。」
私も戦わなきゃ。
私はクレオールの姿になって飛んでその刀に風を纏わせて斬りに行く。
炎だとリエの杖から出る水と相性が良くない……だから風で斬りに行く!!
「……きたか、因縁の刀!!」
「アルマードの体で健在するっていう因縁すら断ち切る!!!!!」
「やれるものならやってみろ!!月城エマ!!!!」
私の攻撃は当然のように弾かれる。
それでも、何度も何度も彼に斬りかかる。
「……無駄だ!!」
私はその彼の圧倒的な衝撃波によって飛ばされる。
「……危ないわね。もっとしっかりと受け身をとっておきなさい。」
レイカは笑う。私はレイカの浮かせた浮島に着陸した。
「……そうだね。ありがとう。」
私はそのまままたクロノスに対して突っ込んでいく。
「……少しは楽しませてくれたが、もう終わりだ!!」
私が斬ろうとした瞬間、クロノスは瞬間移動した。
「……さあ、終わりにしよう。」
クロノスはそう言うが、その後には何も起こらない……
その後、クロノスはその場で刀を振ったりして暴れる……
「……苦しんでいる、のか?」
「半分正解ですね、幻覚の空間に取り込んでおきました。」
「ウプシロン!!!!」
……やっぱり、その力最強すぎるって。
「今だエマ!!一緒に行こうぜ!!!」
「うん!」
私はガイが槍を出すと同時に飛び立つ。
「……暴れてもらっちゃ困るから、行動制限させてもらいます。」
メルトがそう言うとクロノスの周りにバリアができる……私からの一方行のみを通させるような、そんなバリアだった。
「……やっちゃいなさい、エマ!」
私と共にレイカの放つ自然物……そしてリエの水流も同時に私を囲うようにして、私は全ての守護神器の力と共に、クロノスめがけて突撃していく。
……みんな、ありがとう。
そんな私の刀には、みんなの力が乗っている気がした。
「……エマ。ありがとう。俺を神器にしてくれて……」
そんな樹の声も聞こえた気がした。
私はその声とともに、クロノスに直撃していった……
巨大な爆発がその場で起こった。巨大な樹の中でその爆発は起きて、樹は風で揺れる。
「……終わった、かな。」
私はみんなが揃うその根っこのところまで戻る。
そこではみんなが揃ってその爆発の様子を見ていた。
「……こっちも終わった。ソニアはもういないはずだ。」
……勝ったんだ……この戦争に!!!
みんなそう思って喜んだ。
「……なかなか、楽しませてくれ、る……な。貴様ら、そしてクロノシィード……だが、残念だ我は滅んでおらん!!終わりだ!!!!!」
私は、確かに斬った。クロノスという存在を、断ち切った。
もちろんアルマード自体を物理的に切りもしたが、彼が乗っ取られるということすら断ち切った。
だからもう、きっとアルマードが生きていたとしても、クロノスはもう……死ぬはず。
そのはずだった。
「……さあ、滅べ!!!!!」
クロノスはそう言うと、私たちの目の前にはそれぞれに結びの扉と同じ渦が現れる……
「一体、何が起こっているんだ……」
「みんな、危険です。離れましょう!!」
でも、そんなメルトの声も届かずみんなどんどんその扉に吸い込まれていく。
「フハハハハ!!これで終わりだ!!全ての存在よ、私の力を見くびったな。最後にアルマードの望む世界にするために、消えてもらおう!!!!」
この地に存在する全ての反発する人々……それを別の場所や次元に送り込む……
それが、クロノスの最後の手段だった……
まるでヴィクトリアがアルマード達をそれぞれの次元に帰したように、みんな別々の場所へと飛んでしまった。
私はそれに飲み込まれてしまったんだ。
「……ごめん、樹……!!」
私は別世界へと、飛んでしまった。
* * *
「俺は……一体……」
「……ようやく起きましたね。」
俺の前に現れたのはキーラだった。
つまりここは、命界
「……樹、君は生きている。新たな母神器として、生きているんだ。」
ルースタ……
「……まあ、私の言い方はアレだったかもしれないけれど……無事、みんな守護神器を手に入れて、呪いなく使いこなせてるわ。」
フェリスタ……
「まさか、同じ存在になるとはな、ニンゲン……」
ディアボロス……いや、フェイドか。
その空間からは、みんながクロノスに戦いを挑む様子が見えた。
俺もそれを覗き込む。
「聞いてもいいか、ディアボロス……フェリスタ……」
「何?」
「……最初から、ヴィクトリアは知っていたのか。」
「……そうだな……お母さんは我らには結末を教えていた。その通りだ。」
ディアボロスはそう答える。
「だから、俺が神器になる前提で、この世界に呼んだ、と言うことか……」
「……」
キーラはそれを聞いて申し訳なさそうな、後ろめたそうな表情を見せる。
やっぱり、そうだったんだ。
「……どうして、俺なんだ……」
「それは……」
……それはやっぱり答えられないか。と思っていた。
「私から説明しましょう。」
その声は突然現れた。
「……ニケ!!」
「ニケさん……」
みんなニケを見て驚く。
俺だって驚く……ニケはアレスの……火星にある神器のハシラビトなんだから。
「それは貴方が私の血を色濃く引き継いでいるからです……」
ニケは突然そう言った。
「……な。俺はニケの、子孫だって言うのか?」
つまり、俺はソニアと同じようなものだって……いうことなのかもしれない。
「ええ。正確には私の遠い家系の……とはなりますが。エヴァースはまだ今後数億年かけて生命が進化していきます。その中で地中にあるこの場所と……私たちの血は地上で生まれる人と混ざり、いつしか人間というものがこの惑星、地球に生まれていく。そんな中で一際血が濃かった……つまり一番神に近い存在だったから、貴方をヴィクトリアは選んだのです……」
そういう、事なのか。
地球という存在、人間という存在。
それは全て、こうやって生まれたっていうのか……。
それはシュメールみたいな存在とか、確証はなくても宇宙人らしき痕跡はある……それこそが彼らだった、っていうことなのだろうか。
「なるほどな……」
「はい。」
「それで俺のやることは今後エマが建てる新たな国、テトラピアを守り続ける……と。それが使命だっていうわけか。この俺の……」
「そう、ですがまだやることがあります。」
ニケはそう言って俺の頭を触る。
「……なんだ。」
「私たちを、開放するのです。このままでは、アルマードには勝てません。クロノスは死に際にこのテトラビアから全ての敵対因子を別次元へと移す攻撃をします……となれば、残ったアルマードに対抗できるのは、私達しかいません。」
「……なっ。」
エマも、みんなも、クロノスに勝っても、飛ばされてしまう……っていうのか。
「俺たちは飛ばされない。クロノスがその力を使った後ならな……」
「そういうことか。」
「頼みます。千歳樹……身勝手なのはわかっています。ですが、お母様が最後に残した私達の最後の仕事が、これだと考えています。」
キーラはそう言って手を前に出す。
「キーラ……」
「樹の力なら、きっとみんなを開放……すなわちハシラビトっていう存在じゃなくできるわ。死ぬわけじゃなくて、ハシラビトになる前の存在……普通の人に戻れるわ。」
「……でも、そんなことしたら……」
みんな死んじゃう……
「ニンゲン、其方の力で真神器も呪いはなくなっている……だからハシラビトはいらない……」
ディアボロスはそう伝える。
「……わかった。」
「……最後に我の力を、またやろう。」
ディアボロスはそう言って俺に触れる。
「……何を。」
「不死……な程に長寿にしただけだ。生命力を高める、と言ったところか。」
「……どういう意味だ。」
戻った、ということか。
「もとより我らは呪いとして他の存在よりエネルギーを奪い、生きたり、神器の力を発動させたりする。それに対して我の盃は種族自体の存在を奪う。だから我の呪いはその溢れすぎるエネルギーを分け与えること。」
そういうことか。
「……なら、呪いなんて最初からいらなかっただろ。」
「鋭いな、ニンゲン……だが我の力は母神器にしか分け与えられぬ。だから其方にはこうして力を授けれたが、拒んだヴィクトリアは介せなかった……そういう事だ。」
「……なるほど。」
俺を不死にするほどのエネルギーが盃の悪魔にあるなら、ハシラビトはみんな不死になれると思っていたのに、なっていなかった。
それはヴィクトリアを介さないとフェリスタやルースタ、キーラ達にエネルギーを授けれなかったから。それをヴィクトリアは拒み続けていた。自分がエネルギーを得てしまうのと、代償?があるらしいから。
ヴィクトリアがいなくなった今、俺がみんなを不死にすれば、ハシラビトとしては永遠に生きられる。でも、誰もいない今ハシラビトから彼らを解放しないとアルマードは倒せない。それはきっと顕在では全力を出せないから、と言ったところか。
「……だから、愛する人を帰ってくるまで待ち続けるんだな。千歳樹……」
ルースタはそういった。きっといつか来るエマの事を……俺に待ち続けろと、そういう事なんだ。それがこのディアボロスの願い……か。
ディアボロス……いや、フェイド。彼は最初から俺をこうさせるように、不死にさせたんだな……
「……さあ、そろそろだ。頼む。樹……」
「……わかった。」
俺は彼らを元の姿へと、戻した。
* * *
「一体何が……」
私は目を覚ました。
その時には誰もいなくなっていた。
「……ん?貴様……まだ残っていましたか。」
「……貴方はどっちですか。アルマードか、クロノスか。」
「僕はアルマード……クロノスは滅んだ様です……彼は最後に最適な世界を残してくれました。この世界を……私の理想郷を。」
くそ……もう、みんながいない。残っているのは私だけ、だったのに……
最後の最後で、最悪な敵だけが残っていたなんて……
「……まだ諦めちゃいけませんよ。ソニア……」
「……ニケ、さん!?」
「そうだわ。貴方のことはよく知らないけど、ここで諦めたら終わりね。」
その半分幽霊のような少女はそう言って杖を持ちながら私の肩を叩く。
「……加勢する。」
「……俺もだ。ルースタ。」
その男二人は仲良さそうにそれぞれ槍と鉞を持つ。
「戻ったか、フェイド。……相当お久しぶりだなぁ。」
「……俺のことを殺して、ディアボロスにさせる計画に加担させたこと、絶対に許さないが……久しぶりです。ルースタ。」
「……フェイドさん、久しぶりのその姿、大丈夫ですかね。」
その天使のような姿をしたメッシュの入った髪をしてる女性は盾を持ちながらそう言ってフェイドを煽る。
「……貴方達は、一体……」
「私たちはアルマードに嘗て負けた、シャングリラ時代の精鋭。貴方に加勢します。」
……ニケさん達はそう言った。
私は、聖剣の王に絵が登場するニケのことはよく知っていた。
その他の人もきっと、ヴィクトリアさんの知り合い……なんだ。
「わかりました。一緒にアルマードを倒しましょう!!」
「……久しぶりです。貴方達……そしてフェイド。さあ、またあの時のように滅ぼしてあげましょう!!」
アルマードは飛びながら、私たちの前に立ちはだかる。
「さあ、行こう!!」
「感謝するぞ、樹!!この神器をこんなにも簡単に振れる時が来るなんてな。」
「あまり調子に乗るなよ。ルースタ!!」
「分かってる。隊長!」
彼らが発生させる光の槍や自然物はアルマードを追尾していく。
「……その程度で、僕に敵うと……」
「私の事も勿論、忘れちゃいけませんよ。」
私の腕から発射されるビームはその攻撃に夢中になるアルマードには簡単に当たった。
「……そんな攻撃!!」
アルマードは簡易的な結びの扉のゲートのようなものを作り出して彼を襲い続ける槍や私の遠距離攻撃を跳ね返してくる。
「……守ります。私がお母様に守られたように……」
その天使の姿の女性はそう言って跳ね返ってくるビームや槍からみんなを守る……
「……ガラスよ、触れ〜!!」
その幽霊の少女は杖を振ってガラスの雨を降らす……
「おいおい、やりすぎだぞ、フェリスタ……」
「……ごめんなさいね、フェイド〜」
フェリスタはそう言って若干煽る。
「……ガラスの、雨……懐かしいですね。」
その雨は確実に彼の心に響いている。
「よそ見したりしている場合じゃねぇよ!!」
ルースタやフェイド、みんなアルマードのことをリンチするほどに攻撃していく。
「……さあ、これで終わりです。貴方も行きましょう。」
私とニケが上がるのと同時に、みんなは降りてきてその守護神器を突き刺す。
「……さて、これで終わりかな。」
「……何をする気ですか、ニケ!!ソニア!!!!」
私はニケに連れられるままに高く飛び上がる。
「さあ、滅ぼしましょう。アルマードを……」
「わかりました。」
ニケは私に因縁の刀を手渡して、握らせて自身は手を添える。
「……小癪な真似を!!」
そう言ってアルマードはその因縁の刀を振るう……
「……おーおー、汚い爆発だねぇ……ルースタ……」
「……フェイドに言われたくはないです……」
「……な、何が起きている……」
アルマードは爆発に飲み込まれ、その刀は粉々になっていく……
「……そんな……バカな……!!」
「飛行能力は終わりだぜ、アルマード……それ結構せこいからな。」
「……その鉞、重力操れるとは思ったけどそこまでピンポイントに使えるのか……」
アルマードは鉞の力で落下する。
「おっと、逃しはしません。貴方は一生その渦の中です。ね、フェリスタ……」
「ですね。」
フェリスタが生み出した風の渦の中に、彼は閉じ込められそのまま物理的なバリアでアルマードは完全に囚われる。
「いっけぇ!!ニケ!ソニア!!!」
みんなの声援が私たち二人に届きました。
「……彼らはその神器をこの地に宿して、最大限力を発揮させた……」
「次は私たちの番、そうですね……ニケ。」
「はい。」
全てを、終わらせる!!!
「ニケええええええぇぇぇぇ!!!!!」
「……お別れです。アルマード先生。」
私とニケさんの持つ刀は彼を斬りました。
* * * * *
「……さすがですね。」
「……そう、だな。」
彼らはアルマードを……いやクロノスを滅ぼした。
全て終わった。
俺とヴィクトリアはその空間、宇宙の外の命界でその様子を見る。
俺は母神器のエネルギーとフェイド……滅びの盃の悪魔、ディアボロスからもらった無限のエネルギーでその命界にもアクセスできた。
「ありがとう。ヴィクトリア……」
「なんですか、急に……私は貴方を巻き込んだ、言わば加害者ですよ……」
「ああ。それは分かっている。でも俺はここにきたことも、神器になった事も後悔はしていない。だからありがとう。それだけだ。」
「……そう、ですか。それはよかったです。」
彼女は小さく微笑んだ。
こうして5000年以上に渡る、次元を越えた戦いは終わったのだった。
……この世界は上位存在に作られた、そんな空想なのかもしれない。『心』とは『神』とは一体なんだろう。